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フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~  作者: ☆☆アダム☆☆


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第178話灼熱の川が示した氷の国

翌朝、火山へ向かう支度をしなかったのは、この集落へ来てから初めてだった。


窓の向こうには今日も巨大な火山が見えている。灰色の噴煙は朝日に照らされた空へ絶えず伸び、赤黒い山肌の一部には、夜が明けても消えない熱が薄く滲んでいるように見えた。


何日も続けて、私たちはあの山へ入った。


灰に埋もれた石道を見つけ、《赤き雫》と《獅子》の文字が残る壁画を調べ、地図にも載っていない道をさらに奥まで追った。その先では巨大な溶岩の川に阻まれ、北と南の両方から迂回路を探した。


縄。


橋。


水。


そしてメロウの《重力魔法》。


今の私たちが使える方法は、一つずつ実際に検討した。それでも、六人全員が安全に向こう岸へ渡る方法は見つからなかった。


だから今日は、火山へ行かない。


分かっていたことなのに、窓から山を眺めていると胸の奥が落ち着かなかった。向こう側に石造物があることを知り、《聖なるマップ》までそこを示しているから、昨日までより距離が遠く感じる。


「……行きたいな」


小さく呟いた直後、扉が叩かれた。


「フール、起きてる?」


リリィだった。


「起きてるよ」


扉を開けると、リリィはすでに身支度を終えていた。ただし火山へ入る格好ではなく、灰を防ぐ布も持っていない。


「メロウさんが下で待ってる。昨日言ってた氷蛇の資料、朝から全部広げてるよ」


「もう?」


「たぶん、私たちより早く起きてる」


昨日、私たちが寝るころにも談話室から魔法灯の光が漏れていた。


「ちゃんと寝たのかな」


「そこは私も気になってる」


二人で一階へ降りる。


談話室の扉を開けると、心配は半分当たっていた。


テーブルいっぱいに紙と本が広げられ、その中央でメロウが腕を組んでいる。タヌキの顔が付いたフードは今日も被っているものの、目の下には少し疲れが残っていた。


オラクル、フラン、メリーもすでに集まっている。


『フール、これ見て!』


メリーが一枚の紙を持ち上げた。


古い挿絵には、雪に覆われた山、その麓に広がる白い大地、凍結した湖らしきもの、そしてその上を這う細長い生物が描かれている。


昨日まで見続けていた火山とは、まるで正反対の景色だった。


「氷蛇?」


私が尋ねると、メロウが頷いた。


「そう呼ばれておるものの記録の一つじゃ。ただし、この絵が本当に幻獣種を描いたものとは限らんぞ」


「分かってる。普通の大きな蛇を見た人が《氷蛇》って呼んだだけかもしれないんでしょ?」


メロウが少し驚いた。


「……成長したのう」


「だから最近ずっと成長してるって言ってるじゃん!」


「自分で言うと台無しだぞ」


オラクルが笑う。


少しだけ空気が緩んだ。


でも、今日の調査は失敗できないような緊張があった。


スノーリア聖国は近くない。


行くと決めれば、今までとは違う装備を揃え、長い北方街道を移動する必要がある。時間も掛かるし、Bも必要になる。


それだけ掛けて《氷蛇の伝承はありました。でも火山攻略には使えませんでした》となれば、また最初から別の方法を探さなければならない。


もちろん、それでも無駄ではない。


でも今は、目的がある。


あの溶岩の川を越えたい。


メロウが三枚の資料を中央へ置いた。


「だから今日は、《氷蛇がどこにいるか》だけを調べるのではない。火山で実際に分かった条件から逆算して、必要な力を持つ可能性がある存在を絞る」


一枚目。


《湖面凍結》。


二枚目。


《地表凍結》。


三枚目。


《異常低温》。


「まず規模。小さな水たまりを凍らせる程度では意味がない。次に持続時間じゃ。表面だけ一瞬固めても、その下から溶岩の熱が供給されれば崩れる。そして最後に、人が渡れるだけの安定性が必要になる」


昨日見た光景が頭に浮かんだ。


黒く固まった地面へ赤い溶岩が流れ込み、歩けそうに見えた場所が目の前で呑み込まれた。


「広い範囲を、六人が渡れる時間、ちゃんと固められる力……」


「そういうことじゃ」


ただ氷を出せるだけでは足りない。


私たちが探しているのは、それほど強い力だった。


資料を一枚ずつ確認する。


最初は《一夜で湖面が完全凍結》。


一見すれば条件に近い。


でも、その年は記録的な寒波が発生し、周辺の川も同じ時期に凍っていた。


「自然に凍った可能性が高い?」


「少なくとも幻獣種の仕業と判断する材料にはならん」


候補から外す。


次は《森の一部が白く凍結》。


ただし場所が曖昧で、残っているのは後世の写本だけ。


これも弱い。


さらに読む。


真冬ではない時期に、集落から森の入口まで広範囲の地面が一夜で凍結した記録。


別年代には、《白い息を吐く巨大な蛇》が目撃された直後、周辺の水路が凍結している。


さらに別の記録では、雪の季節ではないにもかかわらず山間部の岩肌が広範囲に凍り、その直前に《長い影》が確認されていた。


リリィが地図へ印を付けていく。


「三つとも近い」


場所はスノーリア聖国。


ただし、それだけでは決められなかった。


氷蛇と呼ばれた存在の記録は、ほかの地域にも残っている。


メロウは七つの候補を並べ、火山で判明した条件に合わないものを一つずつ外していった。


単なる目撃だけの地域。


小規模な凍結。


寒波と重なるもの。


出典そのものが追えない伝承。


最後に残ったのは二か所だった。


北西の高山地帯。


そしてスノーリア聖国。


「ここからどうする?」


私は二つの場所を見比べる。


「違いを探す」


リリィが答えた。


北西の高山地帯には大規模凍結の記録が二件ある。ただし、蛇状生物の目撃記録は残っていない。


一方、スノーリアには大規模凍結が三件。


巨大な蛇状生物の目撃が二件。


さらに――。


メロウが古い地図を広げた。


「これじゃ」


スノーリア聖国の中央部から少し離れた場所。


《鏡の底》。


別の年代には《凍れる地下宮》。


巨大な氷洞を示す記録だった。


目撃地点と凍結地点を地図へ重ねる。


完全に一点へ集まっているわけではない。


でも、その中心に近い場所へ氷洞がある。


北西の高山地帯には、この条件がない。


「スノーリアのほうが強い」


私は呟いた。


「現時点ではな」


メロウが答える。


「まだ現在も氷洞が存在するか確認せねばならん」


そこで調査は、本の中から現在へ移った。


オラクル、リリィ、メロウが集落へ出て、北方から来る商人や交易記録を当たる。


私とフラン、メリーは宿に残った。


待っている時間が妙に長かった。


もし《氷洞は崩落して消えた》と分かれば、今までの候補を考え直す必要がある。


《現在は完全封鎖》。


《記録された場所そのものが間違っていた》。


そんな答えだってあり得る。


私は何度も窓の外を見た。


「落ち着かない?」


フランに聞かれた。


「ちょっと」


「俺も」


「フランも?」


「ここまで絞ったのに、全部昔の話でしたって言われたら悔しいでしょ」


同じだった。


だから、ただ待たずに資料を整理した。


メリーは雪国の挿絵を眺めている。


『雪いっぱい』


「寒そうだね」


『ふわふわの帽子いる』


「まだ行くって決まってないよ」


『決まったらいる』


そこは譲らないらしい。


夕方近く。


談話室の扉が開いた。


私は反射的に立ち上がった。


オラクル。


リリィ。


メロウ。


三人とも戻ってきた。


「どうだった?」


「順番に話させろ」


「早く!」


「落ち着け」


無理だった。


リリィが新しい地図を広げる。


「まず、スノーリア聖国へ向かう街道は現在も使える。途中の宿場も残ってる」


一つ。


「それから?」


「古い氷洞も、今の地図に残ってた」


胸が大きく鳴った。


名称は変わっている。


現在の名前は、


《氷鏡の地下迷宮》。


古い《鏡の底》《凍れる地下宮》と位置がほぼ一致している。


さらに、入口付近には現在も人が入る。


ただし内部は非常に寒く、鏡のような氷壁によって方向感覚を失いやすい。深部まで入る者はほとんどいないらしい。


「つまり、昔の記録だけじゃない」


私が言う。


「現在まで場所が残ってる」


「そうじゃ」


メロウが頷いた。


これで条件が重なった。


複数年代の大規模凍結。


巨大な蛇状生物の目撃。


その中心に近い古い氷洞。


そして、その氷洞は現在も《氷鏡の地下迷宮》として存在している。


「わしはスノーリアへ行く価値があると判断する」


メロウが言った。


今度は誰も急いで結論を出したわけではない。


調べた。


比較した。


候補を削った。


現在の情報まで確認した。


その結果として、スノーリアが残った。


だから私も迷わなかった。


「私も行きたい」


フランも頷く。


「俺も」


「賛成」


リリィが続く。


メリーは両手を上げた。


『雪!』


「目的そこじゃないからね」


『分かってるよ!』


最後にオラクルが地図を畳んだ。


「なら次は金と装備だ」


「金?」


私が聞く。


「何だその顔。旅は無料じゃねえぞ」


言われて、自分たちの残金を確認する。


宿代。


食事。


火山用の装備。


水。


縄。


何日も調査を続けたことで、Bはかなり減っていた。


さらにこれから必要になるのは、防寒具、雪道用の靴、保存食、北方街道の宿代、スノーリアへ入ってからの滞在費。


オラクルが紙へ必要額を書き出していく。


数字が増える。


私は途中から嫌な予感がしていた。


「……足りない?」


「足りねえ」


即答だった。


「どのくらい?」


「お前が聞いたら増えるわけじゃねえ」


「でも行かないと!」


「だから作るんだよ」


「Bを?」


「そうだ」


オラクルは私たちの荷物を見る。


旅の途中で手に入れたもの。


使い切っていない素材。


予備品。


今後使う予定のないもの。


「必要なものまで売るなよ。今後使わねえものを選んで街で売る。グライツ方面へ戻れば、素材を買い取る店も多い」


私は鞄の中身を思い出す。


売れるもの。


残すもの。


間違えたら取り返せない。


「☆2とかは?」


「何でも売ればいいって話じゃねえ」


即座に止められた。


危なかった。


そこで、私は別のことを思いついた。


メロウを見る。


メロウもこちらを見た。


「……何じゃ」


「メロウさん」


「嫌な予感がするのう」


「B貸して」


数秒、静かになった。


メリーが続いた。


『私もお願い!』


フランも少し考える。


「俺からも頼める?」


リリィまで、


「旅費分だけでも」


と言った。


オラクルはタバコを咥えたまま何も言わない。


メロウの顔が、少しずつ赤くなった。


「お前さんら――!」


鳥の杖が持ち上がる。


「わしが旅へ加わった途端、財布扱いするでないわッ!」


声が宿中へ響いた。


「ちょっと借りるだけだよ!」


「五人同時に《ちょっと》と言うな!」


『返すよ!』


「精霊に収入があるのか!」


『フールが返す!』


「勝手に私にしないで!」


「元はお前さんが言い出したんじゃろうが!」


フランが笑いを堪えている。


リリィも顔を逸らしていた。


オラクルだけは平然としている。


「で、貸さねえのか?」


「お前まで乗るな!」


「いや、俺は最初から売って作るつもりだ」


「なら黙っとれ!」


久しぶりに、全員で大声を出して笑った。


でも、メロウが怒ったことで逆に決まった。


Bは借りない。


自分たちで作る。


「明日、街へ戻るぞ」


オラクルが言った。


「不要な素材と道具を選別して売る。そこで防寒具と北方用の装備を揃える」


メロウも怒りながら荷物を確認する。


「わしの資料を売るなよ!」


「誰も売らないよ」


「鍋は?」


私が聞く。


「売らん!」


「二個ある?」


「……一個じゃ」


そこは守っていた。


翌日に向け、荷物の選別を始める。


ここからは失敗できない。


売ってしまったものは簡単には戻らない。


逆に、不要なものを全部残せば荷物が増え、雪道で自分たちを苦しめる。


火山で使った灰避けの予備布、余った補修材料、採取した火山岩のうちメロウが研究用に残す必要がないもの。さらに旅の途中で増えた道具を一つずつ床へ並べ、売るもの、残すもの、判断を保留するものへ分けていく。


思っていたより難しかった。


「これ売れる?」


私は黒い火山岩を一つ持ち上げた。


オラクルが見る。


「その辺に転がってる石を誰が買うんだ」


「でも火山の石だよ?」


「ここ火山の麓だぞ」


言われてみれば、わざわざ私から買う必要がない。


隣でメロウが鼻で笑った。


「物の価値は珍しさだけでは決まらん。どこで、どの状態で、何の目的に使えるかまで――」


「じゃあメロウさんの荷物で売れるものある?」


「わしのものは全部必要じゃ!」


「一個くらいあるでしょ」


「ない!」


即答だった。


オラクルがメロウの荷物を見る。


「同じような小槌三本あるぞ」


「用途が違う!」


「どう違う」


「大きさが違う!」


「用途じゃねえだろ」


「違うわ!」


この二人に任せると、準備だけで夜が明けそうだった。


リリィはもっと現実的だった。


「これは?」


取り出したのは、火山へ入る前に多めに買った補修用の金具だった。


結局使わなかったものがいくつか残っている。


「未使用なら売れると思う」


オラクルが答える。


「買った額より安くはなるけどな」


「じゃあ売る」


リリィが迷わず売却側へ置いた。


フランも自分の荷物を確認する。


予備の布。


使っていない古い鞘の留め具。


交換して余った革紐。


一つ一つは大したBにならないかもしれない。


でも、必要のないものを抱えて雪国へ行くよりはいい。


私も鞄の中を確認した。


《聖なるマップ》。


絶対に売らない。


《幻獣種召喚の本》。


もちろん売らない。


旅の途中で手に入れた大切なものや、これから必要になる可能性が高いものも残す。


ただ、全部を《いつか使うかもしれない》で残していたら何も減らない。


「難しい……」


私は床へ座り込んだ。


オラクルがこちらを見る。


「金を作るってのはそういうことだ。売ってから必要だったって気づいても遅いからな」


「オラクル、いつもこんなの考えてたの?」


「誰かが考えねえと、お前が全部使うだろ」


「全部は使わないよ!」


『お菓子』


メリーが言った。


「それは必要!」


「ほらな」


言い返せなかった。


笑いながらも、私はもう一度荷物を見る。


旅を続けるにはBがいる。


宿へ泊まる。


食べる。


装備を買う。


壊れたものを直す。


今までも当たり前にやってきたことなのに、今回は必要額が大きいから急に現実として見えてきた。


火山から雪国へ行く。


言葉にすれば簡単だけれど、身体一つで景色だけが切り替わるわけではない。


そこへ行けるように、自分たちで準備しなければならない。


「これも冒険なんだね」


私が言うと、フランが笑った。


「荷物整理が?」


「うん。だって、これやらないと次の場所へ行けないじゃん」


メロウが珍しく真面目に頷いた。


「その通りじゃ。遺跡へ入ることだけが調査ではない。そこまで辿り着くための準備も含めて調査じゃぞ」


「じゃあメロウさんも売れるもの出して」


「それとこれは別じゃ!」


結局そこは譲らなかった。


夜になるころには、売却候補が一つの袋へまとまった。


大金になるようなものではない。


でもオラクルの計算では、グライツ方面の街で適正に売れれば、現在の所持Bと合わせて最低限の防寒装備を揃えられる可能性があるらしい。


「最低限?」


私が聞き返す。


「ああ。全員分の防寒具、雪道用の足回り、保存食。それから宿代をある程度残す」


「帽子は?」


メリーが聞く。


「防寒具に入る」


『耳付きは?』


「値段次第」


『大事なのに!』


「見た目より凍えないことのほうが大事だ」


メリーがものすごく不満そうだった。


私は小声で言う。


「安かったら探そう」


『本当?』


「うん」


「聞こえてるぞ」


オラクルに見つかった。


「安かったらだよ!」


「その条件なら好きにしろ」


許可が出た。


メリーが嬉しそうに飛び回る。


その姿を見ながら、私は少しだけ先の旅を想像した。


雪。


氷。


白い山。


《氷鏡の地下迷宮》。


そして、そこにいるかもしれない氷蛇。


火山とは何もかも違う。


でも、ただ新しい場所へ遊びに行くわけではない。


私たちには戻る場所がある。


溶岩の向こう側。


《聖なるマップ》が示した石造物。


ラルメリオンと《紅蓮の雫》へ繋がるかもしれない痕跡。


その続きを見るために、氷の力を探しに行く。


「絶対見つけたいな」


思わず呟いた。


フランが聞いていた。


「氷蛇?」


「うん。でも……」


少し考える。


「見つけるだけじゃ駄目なんだよね」


「そうだね」


「もし本当にいたとしても、私たちが《火山渡りたいから力貸して》って言って終わりじゃない」


「たぶんね」


フランも同じことを考えているようだった。


幻獣種。


まだ私たちは、その六体がどういう存在なのか全部を知らない。


人間と同じように話せるのか。


何を望んでいるのか。


どうして姿を隠すように伝承の中へ残っているのか。


「会えたら、ちゃんと話したい」


私は言った。


「そのあとで頼む」


「うん」


それがいい。


必要だから探す。


でも、必要だから利用するだけにはしたくない。


翌朝。


私たちは麓の集落を離れた。


何日も滞在した場所だった。


最初に来た日は、火山の大きさに圧倒された。


そこから《紅蓮の雫》の話を聞き、《炎の獅子ラルメリオン》という名前を知った。


山へ入り、壁画を見つけ、石道を追い、向こう岸の石造物まで辿り着いた。


そして最後に、届かなかった。


集落の出口で、私は一度だけ振り返った。


火山は今日も噴煙を上げている。


「フール」


オラクルに呼ばれる。


「うん。今行く」


でも、その前にもう一度だけ火山を見る。


「また来るからね」


今度は小さな声ではなかった。


誰かに聞かれてもいい。


私自身が忘れないために言った。


メリーが肩の上から火山へ手を振る。


『次は向こう行こうねー!』


「声大きいよ」


『フールも言ったじゃん!』


フランが笑い、リリィも火山を振り返る。


メロウは何も言わなかった。


ただ、鳥の顔が付いた杖を一度だけ火山へ向け、それから前を向いた。


六人で歩き始める。


まずは街へ戻り、不要なものを売ってBを作る。


防寒具を揃える。


北方への旅に必要なものを買う。


スノーリアまでの街道を確認する。


やることは多い。


でも、もう行き先には迷っていない。


昼を過ぎたころ、火山は少しずつ遠ざかり始めた。


赤黒かった地面に草が増え、灰の匂いも薄れていく。何日も身体へまとわりついていた熱が、少しずつ普通の秋の空気へ変わっていった。


景色が変わるたび、火山編が本当に終わっていくようで少し寂しい。


でも終わりではない。


途中だ。


夕方、次の宿場へ着くころには、火山の噴煙も遠くの空に細く見えるだけになっていた。


宿へ入る前、オラクルが言った。


「明日は朝から街まで進む。着いたら売却と買い物だ。時間掛かるぞ」


「何で?」


「六人分だぞ。それに値段見ずに買う奴がいる」


私を見る。


「何で私見るの?」


「心当たりないのか?」


「……ちょっとある」


『帽子!』


「メリーもだろ」


二人まとめて注意された。


メロウが横から笑う。


「金の管理は猫に任せておけばよい」


オラクルが振り返る。


「爺さん、お前の買い物も俺が見るからな」


「なぜじゃ!」


「調査道具とか言って余計なもん買うだろ」


「必要なものしか買わん!」


「鍋三つ持ってこようとした奴が言うな」


メロウが黙った。


私たちは笑いながら宿へ入った。


明日から、本格的な準備が始まる。


火山で使っていたものを売り、雪国で必要なものへ替える。


そうして少しずつ、旅そのものを次の土地へ合わせていく。


私は宿の扉が閉まる直前、遠くに見える火山を最後に一度だけ見た。


次にあそこへ戻るとき、私たちは今とは違っている。


新しい土地を歩き、新しいものを知り、もしかしたら新しい仲間にも出会っているかもしれない。


そのときこそ、あの灼熱の川を越える。


そのための第一歩は、意外なくらい現実的だった。


まずは明日。


街で、旅に必要なBを作るところからだ。

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