第168話 古道の先へ
翌朝、私たちは水と保存食、縄、携帯用の魔法灯を揃え、グライツの北門を出た。
昨日までは何日も大図書館の机に向かっていたのに、今日は朝から山へ向かっている。メロウが三日前に北門を通り、現在の地図から消えた古道へ入った可能性が高いことまでは突き止めた。
古道の入口では、タヌキの顔が付いたフードと鳥の顔が付いた杖を思わせる装飾も見つかっている。
だから今日は、その先だ。
「まず採石場跡まで。そこから先は、道と時間を見て決めるよ」
歩きながらリリィが古い測量図を確認する。
「分かってる」
「本当に?」
「昨日、自分から帰ったじゃん」
『私も見てた!』
肩のメリーがすぐ味方してくれた。
「珍しくな」
オラクルの一言だけ余計だった。
北門から一時間ほど歩き、苔に覆われた古い石柱まで戻る。
昨日見つけた二つの装飾は、そのまま残っていた。場所を確認してから古道へ入り、リリィを先頭に森の奥へ進んでいく。
朝の光は頭上の枝葉に遮られ、街道にいたときより周囲が薄暗い。長い間ほとんど使われていない道には湿った落ち葉が重なり、木の根が土を押し上げている。何度か枝を避けなければならず、オラクルが通れる幅を確かめながら、全員で速度を合わせて進んだ。
途中、山側から土が流れ込んだらしく、道の半分ほどが崩れている場所に出た。
反対側は急な斜面になっている。
フランは崩れていない側を確認してから近くの太い木へ縄を回し、自分が先に向こう側へ渡った。
「一人ずつ。フール、足元だけ見すぎるなよ。身体まで斜面側に傾くから」
「分かった」
縄を両手で握り、壁側へ身体を寄せて進む。
靴の下から小石が一つ外れ、斜面を転がっていった。反射的に目で追いそうになったけれど、前にいるフランへ視線を戻す。
「そのまま。あと少し」
最後の一歩を越えたところで、ようやく息を吐いた。
メリーは飛んで簡単に渡ってきたくせに、私の肩へ戻るなり『できた!』と自分までやり遂げたような顔をしている。
「メリーは飛んだだけじゃん」
『応援したもん』
「応援は助かったけど」
そのあとリリィも渡り、全員が無事に崩れた場所を越えた。
オラクルは帰路でも同じ場所を通ることを確認し、測量図へ印を付ける。
「暗くなってから通りたくねえ場所が一つ増えたな。帰る時間は余裕見とくぞ」
誰も反対しなかった。
昨日、勢いのまま夕方から古道へ入らなくて本当によかったと思う。
そこから先は、道を歩くだけではなくなった。
リリィが何度も立ち止まる。
最初に見つけたのは、乾きかけた泥に残る靴底の一部だった。踵側だけで全体の形は分からないものの、そのすぐ横には細い棒を突いたような丸い窪みが残っている。
少し先でも同じ組み合わせが見つかった。
「足と杖?」
私が聞くと、リリィは二つの窪みの間隔を測った。
「可能性は高いね。杖みたいなものを右側で使いながら歩いてる。それに――」
道の端にある枝を示す。
細い繊維が一本引っ掛かっていた。
赤紫色。
昨日、古道の入口で見つけたものと同じような色だった。
「同じローブかな」
「まだ本人のものとは決めない。でも入口だけじゃなく、ここにも同じ色がある。それに足跡と杖らしい跡が古道の奥へ続いてる」
痕跡が一つずつ重なっていく。
さらに先では、平らな岩の表面だけ泥が付いていた。誰かが荷物を置いたらしく、その横には靴跡が何度も重なっている。
リリィはしゃがんだまま周囲を見回した。
「ここで休んだみたい。足跡が同じ場所に重なってるし、岩の泥も地面と似てる」
「重い荷物持ってたもんね」
メロウは縄や灯り、四日分の保存食まで買っている。
派手な老人が大きな荷物を背負い、この山道で一度腰を下ろしている姿が少しだけ想像できた。
でも、それを事実にはしない。
残っている痕跡だけを追う。
やがて木々の向こうに、灰色の岩壁が見えた。
自然の崖とは違う。
山肌が階段状に削られ、ところどころに真っ直ぐな切断跡が残っている。森を抜けると急に視界が開け、岩壁の前には草に覆われた広い平地があった。
「採石場跡だね」
リリィが測量図を確認した。
昔は大勢の人が働いていたのだろう。
今は崩れた木製支柱や錆びた金具が草の間から覗き、岩壁には人が掘ったらしい黒い穴がいくつも並んでいる。風が穴の中を抜けるたび、低い音が岩壁のどこかで響いた。
メリーが私の肩へ少し近づいた。
『ここ、寒い』
「森より風あるもんね」
それだけではない気もした。
人がいなくなった場所には、使われている道とは違う静けさがある。
私たちはいきなり坑道へ入らず、まず採石場の外側を調べた。
リリィが最初に見つけたのは、岩壁のくぼみに残る小さな焚き火跡だった。灰の上には雨で流れた筋があるものの、完全には崩れていない。その近くの平たい石だけ表面の埃が薄く、誰かが座ったような跡もあった。
さらに灰の脇には、小さく折られた紙片が一枚挟まっていた。
文字はない。
でも紙の端に、黒い粉が付いている。
「これ、何?」
リリィが匂いを確認し、オラクルが横から見る。
「地図を書くときに使う炭筆じゃねえか?」
私は昨日の地図工房を思い出した。
メロウは古い測量図を買っている。
ただし、炭筆を使う旅人がメロウだけとは限らない。
「これも一個追加だね」
リリィは紙片を見つけた場所だけ記録した。
決め手は、その少しあとに見つかった。
採石場の奥、岩壁の端に白い線が引かれている。
何本かの線を組み合わせた目印の下に、今でも使われている文字が残っていた。
《奥、旧坑道》
その下には右向きの矢印。
さらに、
《第三支柱先、崩落。左壁沿いに迂回》
と書かれている。
私は思わず文字へ顔を近づけた。
「崩れてる場所まで確認してる」
「少なくとも、これを書いた奴は中へ入ってるな」
オラクルが矢印の先を見る。
そこには他より少し狭い坑道が口を開けていた。
リリィは白い文字の端を確認したあと、昨日から記録してきた痕跡を順番に指で辿る。
「古道入口の装飾。赤紫色の繊維。杖らしい跡。休憩した痕跡。それにメロウが用意してた魔法灯と縄。全部別々なら決められないけど、同じ方向へ続いてる」
「じゃあ、メロウ?」
「本人の字を知らないから断定はしない。でも、追う理由としては十分だと思う」
それでいい。
今は本人だと決める必要はない。
この先に、私たちが探している人物へ繋がる可能性の高い痕跡がある。それだけで進む理由になる。
坑道の入口へ近づくと、外からでも中の空気が違うのが分かった。
ひんやりしている。
湿った石の匂いがする。
フランが入口の天井と左右の壁を確認し、小石を一つ奥へ転がした。
乾いた音が何度か響き、やがて聞こえなくなる。
「風がある。奥まで完全に塞がってはいない」
「魔法灯、使う?」
『使う!』
メリーが私より先に答えた。
オラクルが発光石を入れると、携帯用の魔法灯から淡い光が広がった。
暗闇の中から石壁と古い支柱が浮かび上がる。
地面には砕けた小石が散らばっている。
そして入口から数歩先に、はっきりと靴跡が残っていた。
リリィが魔法灯を低くする。
外よりずっと分かりやすい。
乾いた土の上に、一人分の靴跡が奥へ続いている。その右側には、一定の間隔で丸い窪みがあった。
古道で見つけたものと同じだ。
「同じ歩き方」
リリィが言った。
さらに数歩先では、右側の壁に細い擦過痕が残っていた。
地面からの高さはほぼ一定。
「杖をぶつけたのかな」
「あり得るね。外の跡と合わせれば、杖を右手側で使ってる人物がここへ入った可能性は高い」
胸の鼓動が少し速くなった。
ここまで来て、初めて《追いつけるかもしれない》と思った。
「入ろう」
今度は誰にも止められなかった。
ただし、フランがすぐ先頭へ立つ。
「俺が前。リリィは痕跡を見るなら俺の後ろ。フールとメリーはその次。オラクルは後ろを頼む」
「分かった」
坑道へ入る。
数歩進んだだけで外の光が弱くなり、魔法灯の淡い光が頼りになった。
壁には昔の採掘跡が幾筋も残り、一定間隔で木製の支柱が天井を支えている。けれど、その木は黒ずみ、表面が割れているものも多い。
一つ目の支柱。
二つ目。
そして三つ目。
白い文字にあった《第三支柱先》。
フランが止まった。
「ここから慎重に」
魔法灯を少し前へ向ける。
その先で坑道が崩れていた。
完全に塞がってはいない。
天井から落ちた岩と土砂が中央へ積み上がり、右側はほとんど通れなくなっている。左壁との間だけ、人一人が通れそうな隙間が残っていた。
《左壁沿いに迂回》
白い文字と一致する。
「誰か通ってる」
リリィが足元を指した。
土砂の左端に、新しい擦れ跡がある。岩の表面に付いていた古い埃が一部分だけ落ち、その下には靴跡も残っていた。
さらに壁際には、短い赤紫色の糸。
ここまで来ると、昨日から続いてきた痕跡が一本の線に見えてくる。
「メロウ、ここ通ったんだ……」
私は小さく呟いた。
その瞬間だった。
ぱらっ、と上から細かな砂が落ちた。
全員が止まる。
さっきまでとは空気が変わった。
フランが片手を上げ、私たちを動かないよう制した。
「喋らないで」
声まで低い。
魔法灯の光を上へ向ける。
崩落部分の天井には何本もの亀裂が走っていた。そこへ斜めに引っ掛かった岩があり、その下を古い支柱の残骸が辛うじて支えている。
もう一度、細かな砂が落ちた。
今度はさっきより多い。
メリーが私の肩で身体を固くした。
私は息を呑み、足を動かさない。
怖い。
でも、何が危険なのか分からないまま動くほうがもっと怖かった。
フランは天井を見たまま、ゆっくり左壁へ視線を移した。
「リリィ。足跡、どこまで続いてる?」
リリィも声を落とす。
「左壁沿い。崩れたところの向こうまである」
つまり、誰かは通過している。
でも三日前に通れたからといって、今も安全とは限らない。
オラクルが後ろから坑道の入口側を見る。
「戻れるうちに戻る選択もあるぞ」
誰もすぐには答えなかった。
目の前には、メロウへ続く可能性が高い足跡がある。
その一方で、頭上には今も砂を落としている亀裂がある。
私は進みたい。
ここまで追ってきたのだから、この先を見たい。
でも、その気持ちだけで決めてはいけないことも、今は分かっている。
「フラン、通れる?」
私が聞いた。
フランはすぐに答えず、足元と天井、左壁の隙間を順番に確認した。
「俺一人なら行ける。でも全員を通すなら、先にあの岩が動かないか確かめたい。触るのは危ないから、別の方法で」
足元から小石を一つ拾い、崩落箇所の手前へ軽く投げた。
岩に当たる。
小さな音。
何も起きない。
もう一つ。
少し奥へ。
今度は土砂へ当たり、ぱらぱらと小石が落ちた。
その直後。
天井から、拳ほどの石が一つ落ちた。
私たちの数歩前へぶつかり、乾いた音を立てて割れる。
メリーが私の髪を強く掴んだ。
誰も進まなかった。
今ので十分だった。
「今日はここまでだ」
オラクルが言う。
私は目の前の足跡を見た。
崩落箇所の向こうへ続いている。
あと少し。
本当に、あと少しに見える。
それでも私は頷いた。
「うん。戻ろう」
自分の口から言えた。
フランがすぐ振り返る。
「ゆっくり。一人ずつじゃなく、間を空けすぎないで戻ろう。走らないで」
来た道を戻る。
誰も走らない。けれど背後から小石が転がる音が聞こえるたび、身体が勝手に急ごうとする。
フランは何度も後ろを確認しながら速度を合わせ、リリィは魔法灯を低く構えて足元を照らしていた。私は肩のメリーが落ちないよう片手を添え、もう片方の手で壁との距離を確かめながら進む。
あと少しで第三支柱を越える。
そう思ったところで、背後から低い音が響いた。
岩と岩が擦れたような、重い音だった。
全員の身体が固まる。
「止まらないで。そのまま」
フランの声は小さかったけれど、はっきり聞こえた。
振り返りたくなった。
何が動いたのか確かめたい。
でも今見る必要はない。
私は前だけを見て歩いた。
数歩進んだ直後、さっきまで私たちが立っていた方向から石が落ちる音が続けて響き、細かな砂埃が魔法灯の光の中まで流れてきた。
メリーが私の髪を強く掴む。
『フール……』
「大丈夫。戻るよ」
自分にも言い聞かせながら進み、第三支柱を越えた。
それでもフランは速度を上げない。古い坑道で慌てて走れば、別の場所を崩したり、転んだりするかもしれないからだ。
入口の外光が見えたとき、ようやく胸の奥に溜まっていた息を吐けた。
一人ずつ坑道を出る。
最後にフランが外へ出ると、オラクルがすぐ人数を確認した。
五人いる。
誰も怪我をしていない。
そこまで確かめてから、私たちは坑道入口から十分に離れた。
「……怖かった」
声に出すと、急に足から力が抜けそうになった。
『私も』
メリーが肩から降り、胸元へしがみつく。
「でも、ちゃんと戻れた」
『うん』
私は小さな身体を両手で包んだ。
進みたかった。
あの崩落の向こうには足跡が続いていたし、ここまで残っていた痕跡がメロウのものなら、本人へかなり近づいている。
それでも、戻った。
今はそれでよかったと思う。
フランは少し休んだあと、もう一度坑道の入口近くまで戻った。ただし中へは入らず、外から天井や岩壁を確認する。
「フラン?」
「入口は大丈夫そう。でも奥は駄目だ。さっきの音で崩落部分が少し動いたと思う」
リリィも坑道の外から魔法灯を向けた。
第三支柱までは見えない。
当然、その先の足跡もここからでは確認できなかった。
「三日前は通れたのかな」
私が尋ねると、リリィは少し考えた。
「足跡が崩落の向こうまで続いてたから、誰かが通ったのは確かだと思う。ただ、そのあと崩れ方が変わった可能性もあるよ」
「メロウが通ったあとに?」
「それもまだ分からない。昨日かもしれないし、さっき少し動いたことで危険になったのかもしれない」
オラクルが古い測量図を広げた。
「問題は、あそこを無理に抜ける必要があるかだ」
その言葉で、全員が地図へ集まる。
古い採石場跡。
いくつかの旧坑道。
私たちが入ったのは、その中の一つだけだった。
「別の入口?」
私は地図を覗き込んだ。
「可能性はある」
オラクルが坑道を示す線を追う。
「採石場なんだから、掘った穴が全部独立してるとは限らねえ。中で繋がってたなら、別の坑道から崩落の向こう側へ回れるかもしれない」
「でも、この地図かなり古いよ」
リリィが言う。
「ああ。だから今も繋がってるとは思うな。ただ、崩れかけた場所を正面から突破するより調べる価値はある」
私は周囲を見回した。
岩壁には複数の黒い坑道が口を開けている。
さっきまでは、メロウらしい足跡が入っていた一つしか見ていなかった。
でも目的は、メロウと同じ場所を一歩ずつ踏むことではない。
メロウへ追いつくことだ。
「ほかの坑道を調べよう」
言ってから空を見る。
太陽はまだ高いものの、ここまで戻る時間も必要になる。
オラクルも同じことを考えたらしい。
「今日は入口の確認までだ。中へ入るのは次だぞ」
「分かってる」
「本当に?」
「さっき戻ったでしょ!」
「確認しただけだ」
フランが笑った。
さっきまで坑道の中にいたときとは違う笑い方だった。
私たちは残っている時間で採石場跡を調べた。
古い測量図には、現在地周辺に四本の坑道が記されている。そのうち一本は入口そのものが大きな岩で塞がれていた。もう一本は内部へ数歩進んだところで水が溜まり、その先が見えない。
三本目は入口が半分ほど草に覆われていた。
フランが周囲の枝をどける。
「ここは入れそうだ」
リリィが測量図を見る。
「地図だと、途中でさっきの坑道の方向へ曲がってる」
「繋がってる?」
「昔はね。今もそうかは分からない」
また一つ、次に調べられる場所が見つかった。
でも、それだけではなかった。
リリィが入口付近へ魔法灯を向けたとき、地面の端に細い傷が見えた。
何か硬いものを引きずったような跡。
その横には靴跡が一つだけ残っている。
「これ……新しくない?」
私が尋ねる。
リリィはしゃがみ、周囲の土と見比べた。
「最初の坑道ほどはっきりしてない。でも、古い採石場の傷じゃないと思う」
さらに壁際を確認する。
そこには白い粉が少し付いていた。
最初の坑道の外に残されていた《奥、旧坑道》という印と同じような白だった。
「文字は?」
「ない。でも――」
リリィが魔法灯を少し上へ向ける。
岩壁に一本だけ、短い白線が引かれていた。
矢印にも文字にも見えない。
ただの一本線。
それでも自然に付いたものには見えなかった。
オラクルが腕を組む。
「最初の坑道に目印を書いた奴が、こっちも確認した可能性はあるな」
「メロウが?」
「可能性だ」
いつもの言葉。
でも今回は、その言葉が嫌ではなかった。
可能性があるなら追える。
「じゃあ明日は、こっちから?」
私が聞くと、リリィはすぐには答えず、二つの坑道と測量図を見比べた。
「うん。ただし、最初から奥へ進むんじゃなくて、入口から順番に状態を確認する。さっきみたいに崩れてる可能性もあるから」
フランも頷く。
「支柱と天井を見ながら進もう。危なかったら戻る。それで別の道を探せばいい」
その判断に、もう反対する人はいなかった。
私たちは見つけた痕跡と坑道の位置を記録し、帰る準備を始めた。
最後にもう一度、最初に入った坑道を見る。
あの暗闇の奥には、足跡が続いていた。
杖を突いたような跡もあった。
崩落箇所を越えた先へ、確かに誰かが進んでいる。
その人物がメロウなら、私たちはかなり近くまで来ている。
でも近いからこそ、焦って追う必要はない。
危険な道へ無理に入って怪我をすれば、追跡そのものが終わってしまう。
私は鞄を背負い直した。
「行こう。暗くなる前に帰らないと」
『今日はフールがいっぱい帰ろうって言う』
メリーが不思議そうに私を見る。
「私だって学ぶんだから」
「明日も覚えてりゃ成長だな」
「オラクル!」
声を上げると、採石場の岩壁に私の声が反響した。
慌てて口を閉じる。
その様子を見て、フランとリリィが笑った。
私たちは古道を戻り始めた。
帰り道でも崩れた場所を慎重に越え、昨日見つけた石柱が見えたころには、空が少しずつ夕方の色へ変わっていた。
大図書館では、消えた第三箱を追ってリベル王国という次の場所へ辿り着いた。
今度は本棚の外へ出て、メロウ本人の足跡を追い、古道の先にある採石場跡まで来た。
そしてそこで初めて、追跡を続けるだけでは越えられない問題にぶつかった。
崩落した旧坑道。
三日前には誰かがその先へ進んでいる。
でも今は、同じ場所をそのまま通ることができない。
だから別の道を探す。
私は歩きながら、少しだけ嬉しくなった。
分からないから止まるのではない。
進めないから終わるのでもない。
一つの道が駄目なら、残された痕跡と地図を使って別の道を探せばいい。
明日は、採石場に残されたもう一つの坑道から始める。
その道がどこへ続いているのかは、まだ分からない。
それでも、メロウの足跡は途切れていなかった。




