第157話 知識の都グライツ
丘の上から見えていたグライツ王国は、近づけば近づくほど大きくなっていった。
夕日を受けた城壁は左右の果てが見えないほど長く、その向こうには大小さまざまな塔が立ち並んでいる。中でも街の中央にそびえる白い建造物だけは別格で、城壁へ近づいても周囲の建物に隠れることなく、巨大な中央塔が空へ伸びていた。
世界一の大図書館。
まだ城門をくぐってさえいないのに、私は何度もそこへ目を向けてしまう。
「フール、前」
リリィに言われて視線を戻すと、危うく前を歩く旅人へぶつかるところだった。
「ごめん。だって、近づくほど大きくなるんだもん」
「建物が大きくなってるわけじゃないよ」
「分かってるよ!」
私たちの少し上では、メリーも大図書館と自分たちとの距離を何度も見比べている。
『でも本当に大きいよ! あれ全部、本が入ってるのかな?』
「全部だったら何冊あるんだろうね」
『一日で読める?』
「絶対無理だと思う」
『じゃあ二日!』
「そういう問題じゃないよ」
メリーはまだ世界一という言葉の意味を甘く見ているらしい。
フランも大図書館を見上げていたけれど、私やメリーとは少し表情が違った。楽しみだけではなく、これから自分の故郷やアルトについて調べることへの緊張が混じっているように見える。
私は何も言わず、フランの隣を歩いた。
城門前には長い列ができていた。
ただ、アデューやリベル王国で見たものとは雰囲気が違う。旅人や商人だけではなく、背丈ほどある筒を何本も背負った老人、紙束を抱えた若者、木箱を慎重に運ぶ人たちが並び、荷馬車にも本や巻物らしい荷物が目立っている。
中には透明な箱へ石の欠片を一つだけ入れ、二人掛かりで運んでいる人までいた。
「何あれ?」
私が見ていると、箱を持った男が隣の女性へ真剣な顔で言う。
「東部河川で発見された第三層の試料だ。絶対に傾けるなよ」
「分かってる。さっきから十二回言ってる」
「なら十三回目だ。傾けるな」
「ものすごく大事なんだね」
フランが苦笑した。
オラクルは煙草を咥えたまま、列に並ぶ人々を見回している。
「研究者が集まる国って話は本当らしいな」
「研究者って、みんなあんな感じなの?」
「俺に聞くな。ただ、ここで《変な学者》って言われてるメロウが普通じゃねえことだけは分かる」
街道で石一個を囲み、三百年前か五百年前かと言い争っていた三人を思い出す。
あの人たちより変。
少しだけ不安になった。
やがて私たちの順番が来た。
グライツの城門には複数の入口があり、旅人、商人、大型荷馬車、特別な荷物を運ぶ者で列が分けられている。
私たちは旅人用の受付へ向かった。
兵士は私たちを順番に確認する。
「五名でいいな?」
「五名だ」
オラクルが答えた。
フール、フラン、オラクル、リリィ、メリー。
今ここを旅している五人だ。
兵士も空中にいるメリーを当然のように一人として数え、そのまま滞在目的を尋ねた。
「王立大図書館を利用したい」
「研究か、仕事か、それとも人探し?」
「調べものと人探しだな」
「探している研究者の名前は?」
「メロウ」
その名前が出た瞬間、兵士の手がわずかに止まった。
ほんの一瞬だったけれど、リリィも気づいたらしい。隣で兵士の表情を注意深く見ている。
「メロウを知ってるの?」
私が尋ねると、兵士は少し困ったように笑った。
「知ってるというか……大図書館の関係者で、あの人を知らない奴は少ないと思うよ」
やっぱり有名らしい。
良い意味なのかは分からないけれど。
「今、大図書館にいる?」
「そこまでは俺には分からない。城門担当だからな。中へ入ったら図書館で直接聞いてくれ」
それ以上は分からなかった。
でも、一つ確かになった。
布団ゴブリンの情報は間違っていない。
メロウという人物は本当にグライツにいて、大図書館とも関係している。
それだけでも十分な成果だった。
受付を終え、私たち五人は城門をくぐった。
最初に驚いたのは、人の多さだった。
大通りは馬車が何台も並んで走れるほど広く、その両側へ石造りの建物がどこまでも続いている。夕方だというのに店はまだ開いており、商人、旅人、研究者、学生らしい若者たちが絶えず行き交っていた。
でも、ただの大都市ではない。
目につくもののほとんどが、どこかで《知ること》と繋がっている。
最初に見つけたのは古書店だった。
店先だけでも何百冊あるのか分からないほど本が積まれ、《絶版本買い取ります》《古代語資料高価買取》という札が下がっている。
その隣は地図専門店。さらに隣には羽根ペンとインクだけを扱う店があり、向かい側には《魔物骨格標本・鑑定》と大きく書かれた看板まで出ていた。
「骨まで売ってる……」
私が店先を覗くと、角や牙、骨、抜け殻のようなものが棚いっぱいに並んでいる。
メリーも私の横から覗いたものの、すぐに顔を引っ込めた。
『かわいくない』
「魔物図鑑見るって言ってたじゃん」
『絵と本物は違うよ!』
「それはそうかも」
少し進むと、ガラス越しに何人もの人が古びた壺を囲んでいる店まであった。
オラクルが看板を見る。
「遺物の鑑定屋だな。遺跡から出たもんの年代や価値を調べるんだろ」
「黒い欠片も、こういうところで調べるのかな」
口にした瞬間、石橋の景色が頭へ戻ってきた。
日の当たらない場所で青白く光った黒い欠片。大きく抉れた山腹。山側を見た途端、焦点を失った旅人。
さっきまでの高揚感が少しだけ薄れる。
リリィも同じものを思い出したらしい。
「兵士はグライツへ送るって言ってたよね。ここなら、あれが何なのか分かる人がいるかもしれない」
「うん」
それを確かめるためにも、ここまで来た。
大通りを進むほど、王立大図書館はさらに巨大になっていった。
けれど私は大図書館へ向かう道へ曲がろうとして、すぐオラクルに肩を掴まれた。
「まず宿だ」
「まだ何も言ってないよ!」
「身体が図書館のほう向いてんだよ」
「場所確認しようと思っただけ!」
「昨日、自分で順番守れるようになったって顔してただろ」
「顔で判断しないでよ!」
フランが笑う。
「でも宿が先でいいと思う。図書館に入ったら、フール絶対帰りたがらなくなるでしょ」
「そんなこと……」
否定しようとして止まった。
自信がない。
「ほら」
「だって世界一だよ?」
「だからこそ宿取ってから」
リリィまでオラクル側だった。
メリーだけは味方かと思ったら、
『私もご飯食べたい!』
「メリーまで!」
結局、五人で宿を探すことになった。
ただ、ここでもグライツらしい問題が待っていた。
最初の宿は満室。
二軒目も満室。
三軒目には空きがあったけれど、研究者向けの長期滞在部屋しか残っていなかった。
「一週間単位になります」
「一週間!?」
思わず声が出る。
宿の主人は慣れた様子だった。
「大図書館を使う方は長く滞在しますからね。短期の部屋はこの時期すぐ埋まるんですよ」
外へ出ると、オラクルが頭を掻いた。
「世界一の図書館、こういうところでも面倒だな」
「一週間借りる?」
「いくら掛かると思ってんだ」
『五千コインより高い?』
メリーが聞く。
「単位が違う」
「布団ゴブリンのせいでメリーのお金の基準がおかしくなってるよ」
四軒目で、ようやく二泊分の部屋が見つかった。
五人で泊まれるよう二部屋を取り、荷物を置いてから私とフランの怪我を確認する。右足にも痛みはなく、フランの右腕も悪化していなかった。
「じゃあ図書館!」
私が立ち上がると、オラクルがすぐ首を横へ振った。
「今日は場所と利用方法の確認だけだ。もう夕方だぞ」
「まだ開いてるかもしれないじゃん」
「閉館寸前に入って何調べんだよ。明日の朝から動いたほうがいい」
悔しいけれど正しい。
仕方なく今日は下見だけにする。
宿を出て大図書館へ向かおうとしたところで、メリーが突然別の方向へ飛んだ。
『フール! これ見て!』
「遠く行っちゃ駄目だって!」
慌てて追う。
メリーが止まったのは、一軒の店の前だった。
巨大な本を模した看板が下がり、そこには《幻獣・精霊・希少魔物専門書店》と書かれている。
私とメリーは顔を見合わせた。
「……入る?」
『入る!』
即答だった。
オラクルが嫌そうな顔をする。
「図書館行くんじゃなかったのかよ」
「見るだけ!」
「その言葉、信用できねえんだよな」
それでも五人で店へ入った。
中は外から見たより狭かったものの、壁から天井近くまで本棚が伸び、魔物図鑑、精霊分類録、絶滅したとされる生物、各地の幻獣伝承などの本が隙間なく並んでいる。
メリーはすぐ絵の多い本を見つけた。
『フール! 人魚いる!』
「本当?」
開かれたページには、長い髪と魚の尾を持つ生き物の絵が描かれていた。
胸が少し高鳴る。
《幻獣種召喚の本》に記されている存在と、どこまで同じなのかは分からない。
それでも、ここなら何か見つかる。
そう思えた。
「幻獣種について調べてるんですか?」
突然、後ろから声を掛けられた。
振り返ると、白髪で片眼鏡を掛けた老人が立っていた。店主らしい。
「はい。詳しい人を探してて」
「誰を?」
「メロウっていう考古学者です」
老人の表情が変わった。
城門の兵士と同じだった。
名前を聞いただけで反応する。
リリィもすぐに老人の表情を観察している。
「メロウなら、うちにも何度か来ているよ」
「最近も?」
「ついこの前だ」
リリィが一歩前へ出る。
「何を探していたんですか?」
老人は少し考えてから、棚の奥へ視線を向けた。
「空に関する古い記録だよ。北部地方に残る伝承を随分調べていた。雲より上を移動する影だとか、空に現れる巨大な何かだとか……まあ、その手の話だ」
石橋で見た光景が、一瞬で頭へ蘇った。
でも老人はそこで話を切った。
「詳しいことは本人に聞くといい」
「大図書館にいるんですよね?」
「《いる》という言い方が正しいかは分からないね。メロウは大図書館に籍を置いているが、あの人が机に座って大人しく本を読んでいる時間はそう長くない」
嫌な予感がした。
「今は?」
「さあ。少なくとも昨日は見ていないよ」
リリィの目つきが変わる。
「最後にここへ来たのはいつですか?」
「五日前だったかな」
「そのとき、どこへ行くか言ってませんでした?」
「そこまでは聞いていない。ただ――」
老人は少し記憶を探るように目を細めた。
「北部山岳に関する資料を、随分気にしていた」
また、その言葉だった。
《北部山岳》。
街道で見た灰色の箱。
《北部山岳――調査資料・開封禁止》。
石橋で見た巨大な傷。
青白く光った黒い欠片。
そしてメロウ。
同じ言葉が何度も目の前へ現れる。
だからといって、すべてが繋がっているとはまだ言えない。
オラクルも私が何か言う前に釘を刺した。
「今は《メロウが北部山岳の資料を調べていた》ってところまでだ。それ以上は明日確かめるぞ」
「分かってる」
今度は素直に頷いた。
店を出るころには、街に魔法灯が灯り始めていた。
大通りの向こうには、白い大図書館が夜の中でもはっきり見えている。無数の窓から暖かな光が漏れ、巨大な建物そのものが夜の街へ浮かび上がっているようだった。
私たち五人は少しだけ足を止めた。
「明日、あそこに入るんだ」
私が言うと、メリーが隣へ浮かぶ。
『私は幻獣種の本と治す魔法!』
フランも大図書館を見上げた。
「俺はリザーメイトとアルト」
リリィは少し違う。
「私はメロウの足取りを追う」
オラクルは煙草を咥え直した。
「俺はTIMEだな」
探すものはそれぞれ違う。
私には両親の手掛かりもあるし、石橋で見た黒い欠片についても調べたい。
一日ですべて見つかるとは思わない。それでも、これまでの旅で増え続けてきた《分からない》を調べられる場所へ、ようやく辿り着いた。
大図書館の窓に灯る無数の明かりを見ていると、その一つ一つの向こうに本棚があり、私たちの知らない記録が眠っているように思える。期待しているからそう見えるだけかもしれないけれど、今まで訪れたどの場所よりも、ここには「知るためのもの」が集まっていることだけは間違いなかった。
「明日、何から調べる?」
フランが聞く。
「幻獣種!」
ほとんど考えずに答えると、オラクルが呆れたようにこちらを見た。
「その前に利用方法を聞くって言っただろ」
「それが終わったら!」
「それならいい」
「オラクルは?」
「まずTIMEだな。名前そのものが記録に残ってなくても、過去に似た連中がいなかったか調べる。ナナやシャイニーみてえな強さの奴らが昔から動いてるなら、何かしら残っててもおかしくねえ」
その名前を聞いて、少しだけ気持ちが引き締まった。
TIMEの四番と戦ったときに現れたシャイニー。私たちが今より強くならなければならないと、嫌でも思い知らされた相手の一人だ。
強さだけを見て怖がっていても仕方がない。
何者なのか。
いつからいるのか。
どうして動いているのか。
分かることがあるなら、知っておいたほうがいい。
「フランはリザーメイトから?」
「うん。でも、いきなりアルトの名前を探すより、先に国の記録を見たい」
フランは大図書館を見ながら答えた。
「リザーメイトがどんな国だったのか、いつまであったのか、何が起きたのか。そこが分からないまま名前だけ探しても、見つけたものが何なのか判断できないと思うから」
以前よりずっと落ち着いた考え方だった。
アルトかもしれない人物がグラティスで私たちを襲った可能性がある。大きな剣を持っていたという共通点もあるけれど、まだ本人だと決まったわけではない。
だからこそ、フランも急いで答えを作ろうとはしていないのだと思う。
「じゃあ私も手伝う」
「フールは幻獣種あるでしょ」
「両方やる」
「両親のこともあるよ?」
「三つやる」
「黒い欠片は?」
リリィが横から加える。
「……四つ」
オラクルがため息をついた。
「だから一日で全部やろうとすんな」
「分かってるよ!」
『私も手伝う!』
メリーが元気よく飛んでくる。
「メリーは何を?」
『絵がある本探す!』
「それは助かる……のかな」
『助かるよ!』
本人がそう言うなら任せてみよう。
リリィは大図書館では資料を読むだけでなく、メロウの足取りを追うと言っている。今日の専門書店で聞いた話だけでも、メロウが五日前にはグライツにいて、北部山岳と空に関する記録を調べていたことが分かった。
「リリィは明日、どうやってメロウを探すの?」
尋ねると、少し考えてから答えた。
「まず受付で本人がいるか聞く。それでいなかったら、研究室みたいな場所があるか確認する。あとは最近借りた本とか、よく使う場所とか……教えてもらえる範囲で聞いてみる」
「教えてくれなかったら?」
「別の人に聞く。今日の本屋さんみたいに、メロウを知ってる人は多そうだから」
足跡がなくても、人が動けば何かが残る。
リリィが言っていた意味が少し分かってきた。
「じゃあ決まりだな」
オラクルが大図書館から視線を外す。
「今日は宿へ戻る。飯食って、明日の朝一でここへ来るぞ」
「もうちょっと見ててもいい?」
「建物は逃げねえよ」
「五分」
「駄目だ」
「三分」
「何の交渉だよ」
「じゃあ一分!」
オラクルは無言で歩き始めた。
「待ってよ!」
私たちも後を追う。
メリーだけは名残惜しそうに大図書館を何度も振り返っていた。
『明日だからね!』
誰に言っているのか分からない。
「図書館に約束してるの?」
『うん!』
「返事してないよ?」
『聞いてるかもしれないじゃん』
グライツなら、本当に図書館そのものが返事をする魔道具くらいありそうな気がしてきた。
宿へ戻る途中、夕食を取るため小さな食堂へ入った。
ここでも壁には本棚があり、料理が来るまで本を読んでいる客がいる。隣のテーブルでは二人の学生らしい人が紙を広げ、食事にも手を付けず何かの計算を続けていた。
「ご飯冷めるよ」
思わず言うと、二人とも同時にこちらを見た。
「あ」
自分たちの料理を見て、ようやく気づいたらしい。
「本当にこういう人多いんだね」
フランが小声で笑う。
「メロウも飯忘れるタイプだったりして」
オラクルが言う。
「ありそう」
リリィまで同意した。
布団ゴブリンが《変な学者》と呼び、城門の兵士も専門書店の老人も名前を知っていた人物。
まだ会っていないのに、少しずつメロウの輪郭だけが見えてくる。
研究に夢中になる人。
大図書館に籍を置きながら、じっとしていない人。
幻の生き物や古い魔物を調べ、最近は北部山岳と空に関する記録を追っていた人。
そして、もしかすると二体目の幻獣種について何か知っている人。
「会えるといいね」
フランが言った。
「うん」
私は頷いた。
「でも、今日の本屋さんの言い方だと、普通に図書館で待ってる感じじゃなさそう」
「そこが問題だな」
オラクルも同じことを考えていた。
「まず明日確認だ。いなきゃ、どこ行ったか探す。それだけだろ」
言葉にすると簡単だった。
でも、そのくらいでいいのかもしれない。
まだ起きていないことまで心配しても仕方がない。
夕食を終えて宿へ戻り、明日のために荷物を整理した。
《幻獣種召喚の本》は忘れないよう鞄の取り出しやすい場所へ入れる。
その横には《冒険アルバム》。
さらに、石橋で見たものを書いた記録。
黒い欠片。
青白い発光。
山腹の巨大な傷。
メリーが感じた、普通の魔法とは違う違和感。
私は記録を一度読み返してから、丁寧に畳んだ。
「フール」
ベッドへ座っていたフランがこちらを見る。
「何?」
「《聖なるマップ》は?」
「あ」
忘れていた。
鞄から取り出して広げる。
旅を始めたころより、地図にはずっと多くの場所が刻まれている。
私たちが歩いた道。
訪れた国。
出会った場所。
その一つ一つが繋がり、今いるグライツまで道が続いていた。
「ここだ」
指先で現在地を確認する。
グライツ王国。
本当に来た。
布団ゴブリンから名前を聞いたときには、まだどんな場所なのかも知らなかった。
今はその国の宿にいる。
「冒険アルバムも見る?」
フランが聞く。
「うん」
開いてみる。
旅の途中で増えてきた記録やカードを見ると、ここまで本当に色々あったことを思い出す。
全部が両親へ直接繋がっているわけではない。
遠回りだった場所もある。
でも、無駄だったとは思わない。
その旅があったから、今の仲間がいる。
フラン。
オラクル。
リリィ。
メリー。
そして今、世界一の大図書館まで来た。
『私も見る!』
メリーが飛んできて、冒険アルバムの横へ降りる。
「メリーもちゃんといるよ」
『どこ?』
「今までの冒険の中」
『カードは?』
「それは……」
メリーが覗き込む。
三人で冒険アルバムを見ていると、リリィまでこちらへ来た。
「何見てるの?」
「今までの旅」
「明日早いんじゃなかった?」
「ちょっとだけ!」
少し離れたところから、オラクルが呆れた声を出す。
「夜更かしすんなよ」
「分かってる!」
そう答えながら、もう一度アルバムへ目を落とした。
明日、大図書館で何が見つかるのかは分からない。
何も見つからないかもしれない。
メロウにもすぐ会えないかもしれない。
それでも、ここまで歩いてきた道が消えるわけではない。
私は《聖なるマップ》と《冒険アルバム》を閉じ、最後に《幻獣種召喚の本》へ手を置いた。
二体目の幻獣種。
ずっと探してきた次の手掛かり。
もしかすると明日、その正体へ少しだけ近づける。
窓の外を見ると、グライツの夜景の向こうに大図書館の中央塔が見えた。
無数の窓にはまだ明かりが灯っている。
あの中に何があるのだろう。
私たちが探している答えは、本当に眠っているのだろうか。
胸の奥が少しだけ高鳴った。
今夜は怖くて眠れないわけではない。
楽しみで、なかなか眠れそうになかった。
明日。
私たちはついに――世界一の大図書館へ入る。




