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フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~  作者: ☆☆アダム☆☆


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第13話 空からの襲撃者

アデューへ続く街道を歩き始めてから、しばらくは何事も起こらなかった。


赤は先ほど話し合った役割が気に入ったらしく、腰の剣へ何度も手を置きながら先頭を歩いている。その少し後ろを私と黄色が進み、緑はいつもの本を抱えて周囲を見ながらついてくる。オラクルだけは決まった位置に留まらず、ときには先頭へ出て街道の先を眺め、ときには最後尾まで下がって私たちの後方を確認していた。


「オラクル、さっきから何してるの?」


「道を見てる」


「それは私も見てるよ」


私がそう返すと、オラクルは煙草を指で摘まみ、呆れたように街道の周囲を示した。


「前だけ見て歩くのを、道を見てるとは言わねえよ。足跡、人が通った跡、森や岩場の切れ目、何かあったときに逃げ込めそうな場所、それから使えそうな物。何か起きてから探すより、先に見といたほうが楽だからな」


言われて改めて周囲を見ると、私はほとんど街道の先しか気にしていなかった。


オラクルは煙草を咥えてのんびり歩いているように見えるのに、視線だけは絶えず動いている。仲間にした判断が正しかったのかはまだ分からないけれど、少なくとも自慢していた「周囲を見るのが得意」という話は嘘ではなさそうだった。


黄色も感心したのかと思ったら、オラクルではなく自分の金貨袋を確認している。


「黄色も周り見てね」


「見てるでぷ。特にオラクルを見てるでぷ」


「俺を魔物みたいに警戒すんな」


「お金を盗む魔物より危険でぷ」


「まだ言うのかよ」


赤と緑が笑い、私もつられて笑った。


五人で歩くことにはまだ慣れない。それでも、昨日まで四人だった旅の中へオラクルの声が混ざっていることには、少しずつ違和感がなくなってきていた。


◇


昼を過ぎるころには、街道の両側に広がっていた草原も少しずつ姿を変え始めた。


背の低い岩山が点々と現れ、乾いた風が吹くたび、腰ほどまで伸びた草が大きな波のように揺れている。街道を歩く旅人の姿も少なくなり、しばらく前に荷馬車とすれ違ってからは、私たち以外に人影も見えなくなっていた。


その風に混じって、甲高い鳴き声が聞こえた。


私は足を止め、赤たちも周囲を見回した。地上には何も見当たらなかったものの、二度目の鳴き声が響いた瞬間、オラクルが素早く顔を上げる。


「上だ!」


言われて空を見ると、青空を横切る大きな黒い影があった。


鳥に似ている。


けれど、普通の鳥とは大きさがまるで違った。翼を広げれば私の身長の何倍もあり、長く曲がった嘴と太い脚には、獲物を掴むための鋭い爪が並んでいる。


しかも一体ではない。


最初の影を追うように、岩山の向こうからさらに二体が姿を現した。三体はすぐには襲ってこず、私たちを中心に大きな円を描きながら高度を保っている。


「緑、知ってる?」


「待つでぷ。調べるでぷよ」


緑が本を開いた。


しかし、相手は待ってくれなかった。


一体が突然翼を畳み、高い空からこちらへ向かって急降下を始めた。最初は小さかった影が一瞬ごとに大きくなり、嘴や爪の形まで見えるようになる。


「調べるのはあとだ! 散れ!」


オラクルの声に反応し、私たちは街道の左右へ飛び退いた。


直後、巨大な鳥型の魔物が私のいた場所すれすれを通過し、伸ばされた爪が土を深く抉った。巻き上がった小石が脚へ当たり、私が振り返ったときには、魔物はもう翼を広げて空へ戻ろうとしている。


「速い……!」


グラスウルフとはまるで違った。


地面を走る相手なら、少なくともどこから襲ってくるのかは分かった。でも今度の敵は頭上を自由に移動し、前後左右のどこからでも攻撃してくる。


赤はすぐに剣を抜いたものの、頭上を旋回する三体を見て困ったように眉を寄せた。


「これじゃ剣が届かないでぷ!」


「飛んでるときに斬ろうとするな。攻撃するときは向こうから降りてくる」


オラクルは三体から目を離さないまま、赤には接近した瞬間だけ狙うよう指示すると、今度は緑へ顔を向けた。


「魔法は上まで届くか?」


「届くでぷ。でも、あんなに速く飛ばれたら狙えないでぷよ。俺の魔法じゃ追いつかないでぷ」


「だったら追いかけるな。あいつらは攻撃するときだけ軌道が決まる。こっちへ降りてくる場所を狙って、先に魔法を置いとけ」


緑は一瞬だけ目を丸くしたものの、すぐに意味を理解して本を構え直した。


私は黄色を見る。


「黄色は一匹だけ見ないで、三体全部を見てて。どれかが動いたら教えて!」


「分かったでぷ!」


私自身も三体の位置を確認した。


一体は正面上空。


一体は右。


もう一体は私たちの左後方を回っている。


誰か一人だけが目の前の敵に集中すれば、別の方向から襲われる。


TIMEとの戦いでも、グラスウルフとの戦いでも、周囲を見失った瞬間が一番危なかった。


今度は同じ失敗をしない。


「右から来るでぷ! 赤のほうでぷ!」


黄色の声が響いた。


右上を旋回していた一体が翼を畳み、赤へ向かって急降下している。


赤は剣を握ったまま逃げずに待ち構えた。


「まだ動くな。もう少し引きつけろ」


オラクルの声に、赤は剣を構えたまま耐える。


魔物との距離が一気に縮まり、嘴や爪がはっきり見えるところまで迫った。


「今だ!」


赤は真正面から受け止めず、身体を左へずらしながら剣を横へ振った。刃が翼の端を掠め、数枚の羽根が宙へ散る。


傷ついた魔物は甲高い声を上げ、高度を戻そうと翼を広げた。


その進行方向には、すでに緑の魔法が飛んでいた。


白い光は完全には命中しなかったものの、翼のすぐ近くを通過する。魔物が反射的に身体を捻ったことで飛行姿勢が崩れ、地面近くまで一気に高度を失った。


「落ちてくるでぷ!」


黄色が足元の石を拾った。


私は魔物へ投げるのだと思ったけれど、黄色が狙ったのは少し離れた岩だった。


石がぶつかり、乾いた音が響く。


魔物が反射的にそちらへ顔を向けた。


「今ならいけるでぷ!」


その一瞬の隙に赤が距離を詰めた。


まだ完全には治っていない右肩へ負担を掛けすぎないよう身体ごと踏み込み、低い位置まで落ちてきた魔物の脚へ剣の腹を叩き込む。


魔物は体勢を立て直せず、そのまま地面へ転がった。


「一体落ちた!」


思わずそちらへ意識を向けた瞬間、腕を強く掴まれた。


オラクルだった。


身体を横へ引かれた直後、私が立っていた場所を二体目の魔物が凄まじい速度で通過する。爪が空を切る音を聞き、私は倒れた一体ばかり見ていたことに気づいた。


「一匹に集中すんな。まだ二匹いる!」


「……ありがとう!」


赤も倒れた魔物へ追撃しようとしていたが、オラクルの声を聞いてすぐに足を止めた。


私たちは再び互いの位置を確認し、頭上へ視線を戻した。


残った二体は、今度は私たちを挟むように左右へ大きく分かれて旋回している。


赤は私の右前、緑は後方、黄色は左側。私は三匹の中央寄りに残り、オラクルだけが周囲を見回しながら街道の端へ移動していった。


「オラクル、どこ行くの?」


「使えそうなもんがある」


街道脇の低木には、旅人が捨てたらしい古い布が引っかかっていた。


オラクルはそれを引き剥がすと、近くに落ちていた長い枝へ素早く巻きつけた。


「何するの?」


「こいつらが何を狙ってるか試す」


そう答えた直後、残った一体が高度を下げ始めた。


オラクルは長い枝を両手で持ち、巻きつけた布を大きく振った。風を受けた布がばさばさと広がり、街道脇で派手に動く。


魔物の顔がそちらへ向いた。


私たちではなく、最も大きく動いている布を獲物と判断したらしく、途中で軌道を変えてオラクルへ向かってくる。


「緑、来るぞ!」


「もう狙ってるでぷ!」


緑は飛んでいる魔物を追いかけず、布へ向かって降りてくる軌道の先へ白い光を放った。


魔物のほうから、その光の中へ飛び込む。


今度は真正面から命中した。


白い光を胸元へ受けた魔物の身体が空中で大きく揺れ、翼の動きが止まる。そのまま地面へ落下すると、赤がすぐに駆け寄り、起き上がろうとする正面へ剣を構えた。


残った一体は降りてこなかった。


上空を何度か旋回しながら、地面へ落ちた二体と私たちを見比べている。


赤も追いかけることはせず、剣を構えたまま様子を見た。


やがて最後の魔物は大きく翼を打ち、岩山の向こうへ飛び去っていった。


「逃げたなら終わりでぷ。追わないでぷよ」


赤が自分からそう言って剣を下ろしたので、私は少し嬉しくなった。


少し前なら、赤は逃げる相手まで追いかけようとしていた。


「うん。それでいいよ」


それでも私たちはすぐには気を抜かず、最後の一体が戻ってこないことを確認した。緑が本を閉じて「もう大丈夫そうでぷ」と言ったところで、ようやく全員が構えを解いた。


私は大きく息を吐いた。


「空を飛ぶ相手って、すごく戦いにくいね。こっちから攻撃できる時間がほとんどなかった」


赤も剣を鞘へ戻しながら、「降りてこないと何もできないでぷ」と不満そうに答えた。


「だから、降りてくる理由を作ればいいんだよ」


オラクルは枝から古い布を外しながら平然と言った。


私はその姿を見て、少しだけ感心した。


「……本当に役に立ったね」


「だろ? もっと褒めてもいいぞ」


「一回役に立っただけで、その顔する?」


「昨日まで財布泥棒扱いだったんだから、それくらい許せ」


すると黄色が即座に「財布泥棒なのは変わらないでぷ」と返し、オラクルが「お前はいつまで言うつもりだ」と言い返した。


三匹が笑い、私もつられて笑った。


加入したばかりなのに、オラクルはもう自分が得意だと言っていたことを実際に見せてくれた。


敵だけを見るのではなく、周囲を見て使える物を探し、相手の動きを利用する。黄色も三体の位置を見ながら隙を作り、赤と緑はその合図を使って攻撃した。


昨日までとは少し違う、五人での戦いだった。


まだ完璧な連携とは言えない。


それでも、初めて一緒に戦った相手としては悪くなかったと思う。


私は倒れた二体の魔物を見ながら、ようやく完全に肩の力を抜いた。


アデューへの道は、まだ続いている。


でも、オラクルが加わった五人なら、昨日までとは違う進み方ができそうだった。

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