第11話 信用できない新しい仲間
《幻獣種召喚の本》の話が終わり、私は《聖なるマップ》を畳んで鞄へ戻した。
今は名前しか分からない以上、考え続けても仕方がない。また地図に表示されたときに調べればいい。そう思って歩き出そうとしたところで、オラクルが煙草を咥えたまま私たちを眺めていることに気づいた。
「なに?」
「いや、お前らと一緒にいたら面白そうだと思ってな。その地図、《幻獣種召喚の本》なんて珍しいもんの名前を出したんだろ? この先もついていけば、普通に暮らしてるだけじゃお目にかかれねえ物が見つかるかもしれねえ」
オラクルは煙草を指で摘まみ、楽しそうに笑った。
「俺も一緒に行くか」
私たち四人は、ほとんど同時に顔をしかめた。
「嫌だよ」
「嫌でぷ」
「俺も嫌でぷ」
黄色に至っては金貨袋を守るように腹を抱え、オラクルから一歩離れた。
「俺のお金を盗った奴とは絶対に嫌でぷ!」
あまりにも綺麗に拒否が重なり、オラクルの笑顔が僅かに固まった。
「お前ら、もう少し悩めよ」
「ついさっき黄色のお金を盗んだ人だよ? 返したからって、盗んだことまでなくなるわけじゃないでしょ」
「一枚も抜いてねえだろ」
「そういう問題じゃないよ」
黄色も激しく頷いた。
「一緒に寝たら、朝には俺のお金が全部なくなってそうでぷ!」
「そこまでしねえよ」
「信用できないでぷ!」
オラクルは呆れたように煙を吐いたものの、同行を諦める様子はなかった。赤も明らかに歓迎しておらず、緑も警戒したままオラクルを見ている。
するとオラクルは、少し真面目な顔になった。
「じゃあ逆に聞くけどな。お前ら、この世界のことをどれだけ知ってる?」
誰もすぐには答えられなかった。
「アルセウスへ来たのも初めてで、地図に出るものの意味も分からねえ。そのうえ、ほとんど手掛かりのない両親を探してるんだろ? だったら情報を持ってる奴が一人くらいいたほうがいい」
オラクルは自分の胸を親指で指した。
「俺はアルセウスで生まれて育った。旅人や商人、盗人、賞金稼ぎとも話すし、珍しい物がどこで見つかったとか、どこの国で何が起きたとか、そういう話も入ってくる。何でも知ってるとは言わねえが、お前らだけで歩き回るよりは役に立つぞ」
言い方は気に入らないけれど、否定はできなかった。
私たちはここまで、分からないことがあるたびに三匹や村の人たちへ尋ねながら進んできた。両親を探すなら、なおさら情報を集められる人がいたほうがいい。
ただ、それだけで黄色が納得するはずもなかった。
「でも、お金を盗むでぷ」
「まだ言うのかよ」
「一番大事なところでぷ!」
「だったら、お前が好きそうな話もしてやる。金の稼ぎ方も教えられるぞ」
黄色の耳が、ぴくりと動いた。
「……お金?」
反応があまりにも分かりやすく、私は思わず黄色を見た。
オラクルはそのまま続ける。
「QUESTだけが稼ぐ方法じゃねえ。魔物の素材にも相場があるし、街によって値段も違う。ある場所で安い物を別の場所へ持っていけば高く売れることもあるし、情報そのものが金になる場合もある。旅するなら、知ってて損はねえぞ」
黄色は完全に聞き入っていた。
「……いっぱい稼げるのでぷ?」
「やり方次第だな」
「黄色、もう心動いてるでしょ」
「お金の知識は大事でぷ!」
「さっき盗まれたばっかりなのに……」
黄色は金貨袋とオラクルを交互に見ながら悩み始めた。
赤はまだ納得していないらしく、オラクルを睨んだ。
「俺は嫌でぷ。フールちゃんに変なことしたら許さないでぷ」
「しねえよ」
緑も慎重に口を開いた。
「情報を持ってるのは役に立つと思うでぷ。でも、役に立つことと信用できることは別でぷよ」
「今すぐ信用しろとは言ってねえよ。役に立つかどうか見てから決めりゃいい。俺も、お前らについていけば珍しいもんが見つかるかもしれねえからな」
「やっぱりそこが目的なんだ……」
「そりゃそうだ。《幻獣種召喚の本》なんて聞いて、興味を持つなってほうが無理だろ」
隠す気すらないらしい。
でも、親切なふりをして別の目的を隠されるより、そのほうが分かりやすかった。
私は三匹を見た。赤はまだ嫌そうで、緑は必要性を認めながらも警戒している。黄色は金の稼ぎ方に惹かれつつ、盗まれた記憶との間で揺れていた。
私もオラクルを信用しているわけではない。それでも、今の私たちに情報が足りないことは事実だった。両親へつながる可能性を少しでも増やせるなら、最初から拒絶するより、実際に役に立つのか見てから判断しても遅くない。
「……みんなはどう思う?」
最初に答えたのは黄色だった。
「もうお金を盗まないなら……一緒でもいいでぷ」
「そこなんだ」
「一番大事でぷ!」
緑も少し考えてから頷いた。
「俺も情報が必要なのは本当だと思うでぷ。でも、何でもオラクルの言うことを信じるのは駄目でぷよ」
「うん。それは私も同じ」
最後に赤を見ると、赤はしばらくオラクルを睨んだあと、渋々頷いた。
「フールちゃんがお父さんとお母さんを見つけるために必要ならいいでぷ。でも、また何か盗んだら追い出すでぷ」
「ずいぶん歓迎されてねえな」
「自業自得だよ」
オラクルは肩を竦めた。
三匹の意見も聞けた。
だったら、あとは私が決めるだけだった。
「……分かった。オラクル、一緒に来てもいいよ」
「話が分かるじゃねえか」
「ただし条件があるからね」
私は人差し指を立てた。
「黄色のお金を盗まない。私たちの荷物も勝手に取らない。珍しい物を見つけても一人で持っていかない。それから、危ないことを知ってるならちゃんと教える。この四つは絶対」
「注文多いな」
「嫌なら来なくていいよ」
オラクルは煙草を一度吸い、少し考えるふりをしてから肩を竦めた。
「分かった。それでいい」
黄色はそれでも心配らしく、「寝てる間も駄目でぷ。落としたお金を見つけても勝手に自分のものにしちゃ駄目でぷ」と追加した。
「落としたお前が悪くねえか?」
「駄目でぷ!」
「……分かったよ」
ようやく話がまとまり、私はオラクルへ手を差し出した。
「じゃあ、これからよろしくね」
オラクルは差し出された手を一瞬見たあと、煙草を反対の手へ持ち替えて握り返した。
「ああ。珍しいもんを見つけたら、ちゃんと俺にも見せろよ」
「そこは『両親探しを手伝う』って言うところじゃないの?」
「それもやる」
「ついでみたいに言わないでよ」
赤と緑が笑い、黄色だけは最後まで金貨袋を守るように抱えていた。
こうして、私たちの旅に新しい仲間が加わった。
煙草を咥えた盗人、オラクル。
まだ信用できるとは言えない。それでも、情報を集める力と金を稼ぐ知識は、両親を探しながら旅を続ける私たちに必要なものだった。
最初から信頼して仲間になったわけではない。
今はただ、同じ道を歩いてみる。
オラクルが本当に仲間と呼べる人なのかは、その先で分かるはずだった。




