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フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~  作者: ☆☆アダム☆☆


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第108話 四人になった帰り道

フランが仲間に加わったからといって、黒龍王の洞窟が急に安全になったわけではない。


むしろ帰り道には、《肉の笛》で引き離した五匹の黒い竜が残っている可能性が高い。黒龍王との戦いを終えたフランも左肩と右手を負傷しているし、私の右足も歩き続ければ少しずつ重くなっている。目的だった☆2《黒龍王の爪》まで手に入った以上、ここから必要なのは新しい宝を探すことではなく、全員で無事に洞窟を出ることだった。


「じゃあ、行こうか。フランも怪我してるんだから無茶しないでね」


私がそう言うと、フランは少し呆れた顔で右足を見た。


「それ、君が言うの?」


「私はさっき無茶しないって決めたもん」


「決めただけで、まだ一度も証明してないだろ」


「するよ! これから!」


オラクルが隣でタバコの煙を吐きながら笑った。


「いいぞフラン。加入して早々よく分かってんじゃねえか。こいつは口で大丈夫って言い始めたときが一番危ねえからな」


「オラクル、余計なこと教えないでよ!」


「重要な情報共有だ」


メリーまで『重要』と頷いたので、私はこれ以上反論するのを諦めた。


帰りはフランが先頭を歩くことになった。私たちが通ってきた道を《聖なるマップ》で確認し、私が方向を伝えながら、フランが曲がり角や岩陰を先に確かめていく。黒龍王を倒せるほど強いからといって警戒を怠ることはなく、むしろ戦闘が終わってからのほうが慎重に周囲を見ているようだった。


塞がれていた古道へ戻る途中、私は歩きながらフランへTIMEについて知っていることを少しずつ説明した。


黒い服と時計の紋章。


左手の甲に刻まれた番号。


番号によって立場が違うらしいこと。


そして、同じTIMEでも使う力や戦い方がまるで違うこと。


フランは途中で質問を挟みながら、一つ一つ頭へ入れているようだった。


「顔は分かる?」


「全員は分からないよ。私たちが実際に会った人もいるけど、まだ分からない人のほうが多いと思う」


「目的は?」


「それも分からない。珍しい物を探してるみたいだけど、何のために集めてるのかまでは知らないんだ」


フランは少し考え込み、腰の短剣へ手を添えた。


「俺が今まで追ってきた情報とも似てる。TIMEは金だけを狙ってるわけじゃない。価値のある物でも無視することがあるのに、特定の物には異常なくらい執着するって話を何度か聞いた」


「じゃあ、やっぱり何か集めてるんだね」


「たぶん。でも、それが故郷を滅ぼしたこととどう繋がるのかは分からない」


フランの声が少しだけ低くなった。


私はそれ以上聞かなかった。


故郷を失った理由を知りたいからTIMEを追っているのに、その答えはまだどこにもない。無理に聞いたところで、フラン自身にも話せることはないのだと思った。


代わりに私は、自分の旅について話した。


両親を探していることはさっき伝えたけれど、それだけではない。おばあちゃんから受け取った《聖なるマップ》を頼りに世界を巡り、その途中で色々な人や魔物と出会ってきたこと。赤、緑、黄色の三兄弟が今はゴブリン王国に残り、それぞれ強くなるため頑張っていることも話した。


「三匹とも本当に語尾に『でぷ』って付けるの?」


「付けるよ。赤も緑も黄色も全部」


「三匹とも?」


「うん。今度会ったら分かるよ」


「それはちょっと楽しみかも」


「でしょ?」


話しながら歩いていると、来るときには不気味にしか見えなかった古い壁画が再び現れた。


王冠のような角を持つ黒龍王。


それを崇める人々。


最後には炎の中で倒れている大勢の人間。


私は足を止め、壁画と鞄へ固定した☆2《黒龍王の爪》を交互に見た。


「結局、昔ここで何があったのかは分からなかったね」


「黒龍王を倒しただけじゃ、壁画の意味までは分からないからな」


オラクルが答えると、フランも壁画を見上げた。


「俺がこの洞窟へ来たときも、こっちの道は塞がれてた。黒龍王が奥にいるってことは別の痕跡を追って分かったけど、こんな壁画があるのは知らなかったよ」


「じゃあ、フランも別の道から黒龍王のところまで行ったの?」


「ああ。崖みたいな場所を降りた。帰りもそこを登るつもりだったけど、こっちから出られるなら助かる」


私は改めて《聖なるマップ》を開いた。


私たちが歩いた道だけでなく、黒龍王の空洞まで一本の線で繋がっている。まだ真っ白な部分もかなり残っているけれど、今日これ以上調べる必要はない。


「また来ることがあったら、そのとき調べればいいよね」


「そういうことだ。珍しくまともな判断じゃねえか」


「だから私だってちゃんと考えてるってば!」


そんな話をしながら、自分たちで広げた岩壁の穴まで戻った。


行きは三人で苦労してオラクルの車椅子を通した場所だったけれど、今度はフランがいる。前輪側をフランが持ち上げ、私が後ろから押そうとすると、すぐに止められた。


「フールは押さなくていいよ」


「でも一人じゃ重いでしょ?」


「黒龍王の爪を持とうとして落としかけた人は、右足を休ませてて」


「それとこれとは別だよ!」


「別じゃない。メリー、後ろを見ててもらえる?」


『任せて』


あっという間に役割を取られてしまった。


フランは車椅子の前側を持ち上げ、オラクル自身が両輪を操作する。私は結局、横から荷物が岩へ引っ掛からないよう見ているだけでよかった。


「おいフール。こいつ便利だぞ」


穴を抜けたオラクルが嬉しそうに言った。


「人を荷物運びみたいに言うなよ」


「黒龍王倒せて車椅子まで持ち上げられるなら十分優秀だ」


「褒められてる気がしないな……」


二人のやり取りを聞きながら、私は少し笑った。


赤たちが王国へ残ったあと、旅の人数が減ったことを何度も寂しく感じていた。でも、誰かの代わりとしてフランが入ったわけではない。赤には赤の、緑には緑の、黄色には黄色の役割があって、フランにはフランにしかできないことがある。


そうやって旅の仲間が増えたり離れたりしながら、私はお父さんとお母さんへ近づいていくのかもしれない。


分岐へ近づいたところで、それまで前を歩いていたフランが突然右手を上げた。


「止まって」


声の調子が変わった。


私はすぐに口を閉じ、杖をついたまま動きを止めた。オラクルも車椅子の車輪を押さえ、メリーは私の肩から静かに飛び上がる。


フランはしゃがみ込み、石床へ指先を触れた。


「振動がある。何か来る」


「どっちから?」


「正面。数は……一匹じゃない」


その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がした。


しばらく待つと、私にも聞こえてきた。


ガリ……ガリ……。


硬い鉤爪が岩を擦る、聞き覚えのある音。


暗闇の向こうで二つの赤い光が浮かび、その横でも別の目が開いた。さらに奥で三つ、四つ、五つと同じ光が現れる。


「……《肉の笛》、もう食べ終わっちゃったみたい」


「五匹って、さっき言ってた奴ら?」


フランが短剣へ手を掛ける。


「うん。炎を吐くから気をつけて。胸の赤い筋が強く光って、それが首から喉まで上がったら来るよ」


フランは五匹の動きを見ながら、私の説明に短く頷いた。


「分かった。それだけ知ってれば十分だ」


最前列の一匹が低く唸り、身体を地面すれすれまで沈めた。それに合わせるように残る四匹も左右へ広がり、狭い通路の中で私たちを包むように位置を変えていく。


さっき私たち三人が襲われたときと同じ動きだった。


私は杖を握り、メリーも両手へ魔力を集め始める。


ところが、フランは短剣を抜きながら私たちの前へ出た。


「フールたちは下がってて。右足を悪化させる必要はない」


「でも五匹いるよ。黒龍王と戦ったばかりで、フランだって怪我してるでしょ?」


「だから早く終わらせる」


五匹の竜が同時に地面を蹴った。


最初の一匹が正面から飛びかかり、二匹が左右へ散る。残る二匹は少し後ろに位置を取り、前の三匹が逃げ道を塞いでから攻撃するつもりらしい。


フランは真正面の一匹へ向かわなかった。


右側の岩壁へ踏み込み、突き出した岩を蹴って身体を斜め上へ跳ね上げる。最前列の鉤爪が足元を通過した直後、その背中へ着地した。


竜が振り落とそうと身体を捻るより早く、フランは翼の付け根へ短剣の柄を叩き込む。


甲高い鳴き声を上げた竜の前脚が崩れ、右側から迫っていた二匹目の進路へ倒れ込んだ。


二匹の身体がぶつかり、狭い通路の右半分が塞がれる。


「一匹を壁にした……」


私が呟いたときには、フランはもうその場にいなかった。


倒れた竜の背中を蹴って前へ飛び、後方にいた三匹目との距離を一気に詰めている。


その竜の胸を走る赤い筋が強く輝いた。


「フラン、炎が来る!」


「見えてる!」


普通なら距離を取るところなのに、フランはさらに前へ出た。


竜の胸から首へ赤い光が昇り、口が開く。


炎が噴き出す直前、フランは腰を沈めて短剣を下から振り上げた。刃で喉を裂くのではなく、峰に近い部分を顎へ叩きつけ、顔そのものを上へ跳ね上げる。


直後に放たれた炎はフランではなく、天井へ向かった。


ゴォォォォッ!!


赤い炎が頭上を走り、天井に溜まっていた水分を一瞬で蒸発させる。大量の白い蒸気が狭い通路へ落ち、フランと五匹の姿をまとめて飲み込んだ。


「見えない!」


『フール、動かないで』


メリーに言われ、私はその場に留まった。


視界がなくなっても、音は聞こえる。


鉤爪が石を削る音。


短剣が鱗へ触れる硬質な音。


竜の鳴き声。


それらが数秒間続いたあと、蒸気の中から一匹の竜が飛び出してきた。


私は反射的に身構えたけれど、こちらへ襲ってきたわけではなかった。地面を横向きに滑り、私たちの数メートル手前で止まる。


気を失っている。


続いて二匹目も倒れた状態で転がってきた。


白い蒸気が少しずつ薄れていく。


その向こうで、フランは残る三匹の間に立っていた。


一匹が左から噛みつこうと頭を振る。


フランは大きく逃げず、半歩だけ後ろへ下がった。


牙が目の前を通過する。


空振りした竜の頭が伸びきった瞬間、フランはその横へ身体を滑り込ませ、短剣の柄を顎の付け根へ叩き込んだ。


竜の身体が横へ流れる。


そこへ別の一匹が突進してきた。


フランは二匹の間から抜け、直前まで自分がいた場所へ二頭を誘導する。


避けられなくなった二匹が正面から激突した。


鈍い音が響き、両方の動きが止まる。


最後の一匹だけが距離を取った。


胸が赤く光る。


もう一度炎を吐くつもりだ。


フランは短剣を構えたものの、さっき黒龍王の炎を吸収したときのような光はほとんど残っていない。


私は思わず叫んだ。


「フラン、剣に炎を吸わせるの?」


「必要ないよ」


フランは最後の一匹へ向かって走った。


炎の予兆を見ているから、吐き出される瞬間が分かっている。


竜が首を伸ばす。


その瞬間、フランは真正面から横へ切り返した。


炎がフランの左側を通過する。


熱気で服の裾が大きく揺れたけれど、身体には触れていない。


竜が炎を吐き終え、次の息を吸おうと口を開いた。


その一瞬に懐へ入り込み、フランは短剣を逆手に持ち替えると、刃ではなく柄頭を首の付け根へ打ち込んだ。


竜の脚から力が抜ける。


そのまま石床へ倒れ込んだ。


静かになった。


五匹とも動かない。


でも、血はほとんど流れていなかった。


フランは一匹ずつ呼吸を確認してから短剣を鞘へ戻した。


「大丈夫。死んでない」


「殺さなかったんだね」


「こいつらは自分たちの棲み処へ入ってきた俺たちを追い払おうとしただけだろ。帰る途中なのに、わざわざ殺す理由はないよ」


私は倒れている五匹とフランを交互に見た。


黒龍王を倒したときの強さとは違うものを見た気がした。


倒せるから倒すわけではない。


必要なところだけ攻撃し、動けなくなればそこで止める。


「フランって、強いんだね」


「黒龍王を倒したあとに言う?」


「さっきとは違う意味で」


フランは少し不思議そうな顔をしたけれど、私はそれ以上説明しなかった。


第108話 四人になった帰り道(続き)


一緒に旅をすることを決めたばかりだったけれど、フランがどういう人なのか、少しだけ分かった気がした。


敵だと思えば迷わず短剣を向けるし、黒龍王のような相手には命を懸けて戦う。それでも、倒せるという理由だけで相手の命まで奪うわけではない。さっき私たちへ向けた殺気を、私が年下の女の子だと分かった瞬間に消したことも含めて、フランの中には自分なりの線引きがあるのだと思う。


「感心してるところ悪いが、さっさと行くぞ。こいつらが起きて二回戦になったら面倒だからな」


オラクルの言葉で我に返り、私たちは倒れている五匹を避けて先へ進んだ。


フランが先頭で周囲を警戒し、その後ろを私とメリー、最後にオラクルが続く。来るときには暗闇の中で何度も立ち止まり、分岐を見つけるたびに正しい道か確かめていたけれど、帰りは壁へ残した白い印と《聖なるマップ》の両方がある。迷う心配が減っただけでも、気持ちはずいぶん楽だった。


ただし、私の右足だけは少しずつ重くなっていた。


痛みが戻ったわけではない。長い時間歩いた疲れが溜まり、杖をつく回数が増えているだけだったので、みんなに心配を掛けないよう歩幅を少し小さくして進んだ。


しばらくすると、前を歩いていたフランが突然止まった。


「フール」


「なに?」


「さっきから歩き方変わってるよ」


一瞬、何のことか分からないふりをしようかと思ったけれど、フランは私の右足を見ていた。


「……ちょっと疲れただけだよ。痛くはないから大丈夫」


「だったら休もう」


「でも出口までそんなに遠くないよ?」


「遠くないなら、なおさらここで悪化させる必要ないだろ」


オラクルまで後ろから頷いた。


「こいつの言う通りだ。十分休んでから出ろ」


「二人とも過保護じゃない?」


「今日だけで何回『大丈夫』って言ったか数えてやろうか?」


それを言われると弱かった。


結局、比較的乾いている壁際で休むことになり、私は岩へ腰を下ろして右足を伸ばした。メリーも私の膝へ座り、心配そうに足を覗き込んでいる。


フランは少し離れた場所で周囲を警戒しながら、自分の左肩へ巻いていた布を締め直していた。


「フランも休んだら?」


「休んでるよ。立ってるだけ」


「それ、休んでるって言わないよ」


「君にだけは言われたくないな」


また言い返せなくなった。


オラクルが面白そうに笑っている。


「相性いいじゃねえか。俺が何回言っても聞かねえことを、こいつなら止められそうだ」


「だから私を止める係を作らないで!」


声を上げたせいで、洞窟の奥へ自分の声が何度も反響していく。


慌てて口を閉じた。


しばらく全員で耳を澄ませたけれど、幸い何かが近づいてくる気配はなかった。


「……静かにしよう」


「お前が言うな」


オラクルに小声で返され、メリーが膝の上で笑った。


十分ほど休んでから再び歩き始めると、右足の重さはかなり楽になっていた。フランもそれを確認してから先頭へ戻り、今度は私の歩く速度に合わせて少しゆっくり進んでくれた。


洞窟の入口へ近づくにつれて、少しずつ空気が変わっていった。


湿った岩と獣の臭いが薄れ、代わりに土と草の匂いが混ざり始める。冷たい風も奥からではなく正面から流れてくるようになり、やがて暗闇の向こうに小さな白い光が見えた。


「あっ……出口!」


思わず歩く速度を上げかけたところで、すぐ前から手が伸びてきた。


フランだった。


「走らない」


「まだ走ってないよ!」


「今、走ろうとしただろ」


「ちょっとだけ速く歩こうとしただけ!」


「その『ちょっとだけ』が危ないんだって」


後ろからオラクルの笑い声が聞こえる。


「いいぞフラン。その調子で見張っとけ。俺の仕事が一個減った」


「だから勝手に仕事にしないでよ!」


さっきまで命の危険がある洞窟を歩いていたとは思えないやり取りをしながら、私たちはようやく入口まで戻った。


外へ一歩出た瞬間、眩しさに目を細める。


曇り空だった。


それでも何時間も暗い洞窟にいた目には、雲を通した太陽の光さえ眩しく感じられる。しばらく何度も瞬きをしていると、冷たい風が赤いツインテールを揺らし、草の匂いを運んできた。


私は胸いっぱいに外の空気を吸い込んだ。


「出られたぁ……!」


緊張が一気に抜け、入口近くの平たい岩へ腰を下ろした。


メリーも肩から降りると、そのまま私の膝へ寝転がる。


『疲れた』


「私も。洞窟って歩いてるだけでもこんなに疲れるんだね」


オラクルも車椅子の背もたれへ身体を預け、大きく伸びをした。


「☆2《黒龍王の爪》は手に入った。三人とも無事に出てきたうえ、帰りには一人増えて四人になった。十分すぎる成果だろ」


「一人増えたって、俺を拾い物みたいに言うなよ」


フランが苦笑する。


私は鞄へ固定してある《黒龍王の爪》へ触れた。


黒龍王の爪は布越しでも硬く、ずっしりと重い。


洞窟へ入る前は、☆付きアイテムを一つ探して帰るだけのつもりだった。


まさか五匹の竜に追われ、《肉の笛》を失い、古い壁画を見つけ、黒龍王の戦いを目撃して、新しい仲間まで増えるなんて思ってもいなかった。


「ねえ、フラン」


「ん?」


「さっきはTIMEの情報が欲しいから一緒に来るって言ってたけど、これからすぐTIMEを探しに行くの?」


フランは少し考えてから首を横へ振った。


「手掛かりもないのに動いても仕方ないよ。今までそれで何度も空振りしてる。それより君たちと行動しながら、TIMEが現れた場所や目的を一つずつ調べたい」


「じゃあ、次の目的地も一緒でいいんだね」


「そのつもり。ただ、俺もTIMEの情報を見つけたら共有する。俺だけ情報をもらうつもりはないよ」


オラクルがその言葉に満足そうに頷いた。


「話が早くて助かるぜ。情報ってのは一方通行じゃ価値がねえからな」


私は《聖なるマップ》を取り出し、膝の上へ広げた。


洞窟へ入る前には空白だった内部の道が、今ではかなり細かく描かれている。黒龍王と出会った巨大な空洞も追加され、そこにあった☆印だけは消えていた。


代わりに地図の端へ、新しい文字が浮かんでいる。


《☆2 黒龍王の爪 取得》


「ちゃんと記録されてる」


フランが横から地図を覗き込んだ。


「本当に不思議な地図だな。これで両親を探してるの?」


「うん。でも、どこにいるか直接書いてあるわけじゃないんだ。だから色んな場所へ行って、手掛かりを探してる」


「そっか」


フランはそれ以上、地図について深く聞かなかった。


私はそのことが少し嬉しかった。


出会ったばかりなのに何もかも信用することはできないし、フランだって私たちへ話していないことがあると思う。それでも、必要以上に踏み込まず、一緒に旅をしながら少しずつ知っていけばいい。


私たちはしばらく洞窟の外で身体を休めた。


帰る準備を始めたところで、オラクルが荷物へ固定した黒龍王の爪を叩く。


「で、こいつはどうすんだ?」


「持って帰るよ?」


「そうじゃねえ。さっきからお前、聖杯に入れたくて仕方ねえ顔してんぞ」


「分かるの!?」


「分かるわ。目が完全にガチャ引く前の奴になってる」


フランが首を傾げる。


「《合成の聖杯》って、さっき言ってた《肉の笛》を作った物だよね?」


「そう! 古代のアイテムなんだけど、二つの物を入れると一つに合成できるの。青い炎が出て、出来上がる物によって最後に炎の色が変わるみたいなんだ」


「それで黒龍王の爪を入れるの?」


「入れてみたい!」


「相手に何を入れるか決めてからにしろよ」


オラクルが呆れたように言った。


私は鞄の中身を思い浮かべた。


干し肉。


回復薬。


ロープ。


安い日用品。


どれも☆2《黒龍王の爪》と組み合わせるには、もったいない気がする。


「今回は我慢する。ちゃんと良さそうな物を見つけてから試す」


オラクルが目を丸くした。


「お前が我慢した……?」


「そんなに驚くこと!?」


「いや、洞窟に入る前より成長したなと思ってな」


「私だって学習するよ!」


フランとメリーが同時に笑った。


私は少しだけ頬を膨らませながら立ち上がった。


右足の状態を確かめる。


疲れはあるけれど、痛みはない。


洞窟へ入ったときは三人だった。


今は四人。


私とオラクルとメリー。


そして、十五歳の剣士フランアーデル。


フランがTIMEを追う理由と、私が両親を探す理由は違う。それでも今は同じ道を進み、お互いが持っていない手掛かりを探すことができる。


その先に何が待っているのかは、まだ分からない。


私は《聖なるマップ》を丁寧に畳んで鞄へしまい、みんなの顔を見た。


「じゃあ、行こう。次の場所へ!」


黒龍王の洞窟を背にして、私たちは四人で歩き始めた。


新しい仲間と、☆2《黒龍王の爪》を加えた旅が、ここからまた動き出した。

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