第100話 はじめての合成
《黒龍王の洞窟》へ向かう準備を始めた日の午後、私は宿の部屋で鞄の中身を一つずつ確認していた。
☆5《幻獣種召喚の本》は、オラクルに言われた通り簡単には取り出せない場所へしまってある。《人魚の旋律》も傷つかないよう布で包み、その隣には王様から預かった《合成の聖杯》を入れていた。
洞窟へ持っていく物を確認するだけのつもりだったのに、布に包まれた聖杯を見つけた途端、王様から聞いた「異なるものを一つへ合わせる」という言葉が頭に浮かんだ。
何を入れたら、何ができるんだろう。
どんなふうに合成されるんだろう。
気になり始めると、布を元へ戻す気にはなれなかった。
「ねえ、オラクル」
「駄目だ」
窓際で煙草を吸っていたオラクルが、こちらを見ることさえなく答えた。
「まだ何も言ってないよ!」
「《合成の聖杯》を両手で抱えて、そんな顔してりゃ分かる。どうせ一回くらい使ってみたいって言うつもりだろ」
「……何で分かったの?」
「お前が分かりやすすぎんだよ。それに王から、使い方が分からないうちは適当に試すなって言われたばっかりだろ」
「だから危ないものでは試さないよ。なくなっても困らない物を二つ選んで、ちゃんとみんなで見ながら試すの。それなら何か変なことが起きても、すぐやめられるでしょ?」
「始めたあとで止め方が分からなかったらどうすんだ」
「……そこまでは考えてなかった」
「ほら見ろ」
オラクルが呆れたように煙を吐いたところで、隣の部屋から赤、緑、黄色が入ってきた。どうやら私たちの声が聞こえていたらしく、黄色は《合成の聖杯》を見るなり目を輝かせた。
「合成するのでぷ!?」
「まだやるって決まってねえ」
「やるよ!」
「勝手に決めんな」
オラクルと同時に答えると、赤たちが笑った。
私は聖杯をテーブルの中央へ置き、改めてみんなを見る。
「本当に危なくない物だけにするから、一回だけ試してみようよ。王様だって絶対使うなとは言ってなかったし、何ができるのか少しでも分かれば、必要になったときに使えるかもしれないでしょ?」
オラクルはしばらく私を見ていたけれど、完全に止めても私が気にし続けると思ったのか、最後には大きくため息を吐いた。
「魔法が掛かってる物、爆発する物、毒、薬はなしだ。少しでも妙な反応が出たら離れる。それで一回だけなら好きにしろ」
「やった!」
「話聞いてたか? 一回だけだぞ」
「分かってるってば!」
許可が出た途端、黄色が床へ座り込み、道具袋の中身を次々と広げ始めた。小さな煙玉、曲がった釘、空の小瓶、古びたコイン、用途の分からない歯車、片方だけの手袋と続き、最後には大きな穴の開いた靴下まで出てくる。
私は思わず黄色を見る。
「何で穴の開いた靴下まで持ってるの?」
「いつか使えるかもしれないでぷ」
「どんなときに使うの?」
「それは使うときに考えるでぷ」
「じゃあ今いらないじゃん!」
「捨てた次の日に必要になるかもしれないでぷ。そうなったら後悔するでぷ」
「だったら黄色が履けばいいでしょ?」
「それは嫌でぷ」
「自分でも嫌なんじゃん!」
緑が笑いながら床に並んだ品を確認し、煙玉と小瓶を端へ除けた。
「最初は絶対に危なくなさそうな物がいいでぷ。煙玉は燃えるかもしれないでぷし、小瓶も割れたら危ないでぷ」
「それなら肉を入れるでぷ?」
赤が当然のように提案した。
見ると、いつもの骨付き肉を片手に持っている。
「それ、今食べてるやつでしょ?」
「これは食べる用でぷ。合成用は別にあるでぷ」
「肉を用途別に持ってるの!?」
赤は腰の袋を探り、小さな干し肉を一枚取り出した。
「保存用でぷ。少し硬いけど美味しいでぷから、合成したらもっと美味しくなるかもしれないでぷ」
「逆に食べられなくなるかもしれないよ?」
「それは困るでぷ……」
赤が急に真剣な顔になった。
その横で黄色も道具袋を探り、木で作られた小さな笛を取り出した。飾りもなく、紐さえ付いていない簡単な笛だった。
「黄色はこれを出すでぷ。カジノの露店で一コインだったでぷ」
「なくなっても大丈夫?」
「一コインしたでぷ」
「だから、それは聞いたよ」
「一コインは大事でぷ。小さなお金を大切にできない者は、大きなお金も大切にできないでぷ」
オラクルが鼻で笑った。
「カジノで何千コインも賭けてた奴が言うと説得力ねえな」
「勝負のお金と普段のお金は別でぷ!」
黄色はしばらく笛を握って悩んでいたけれど、最終的には大きな決断でもしたような顔で私へ差し出した。
「使っていいでぷ。でも大事に合成するでぷよ」
「大事に合成ってどうするの?」
「優しく入れるでぷ」
「そこなの?」
結局、最初の実験に使うのは赤の干し肉と黄色の小さな笛に決まった。
私は《合成の聖杯》をテーブルの中央へ置き、まず干し肉を底へ入れた。続いて黄色から受け取った笛も、言われた通りなるべく優しく入れる。
コトン、と小さな音がして、二つの品が聖杯の底へ並んだ。
全員で覗き込む。
何も起こらない。
少し待ってみる。
やっぱり何も起こらない。
赤は肉を見つめ、黄色は笛を見つめ、緑は古代文字を確認している。メリーまで私の肩から身を乗り出していたけれど、聖杯の中では干し肉と笛が仲良く並んでいるだけだった。
「……もしかして、これで終わり?」
「何も合成されてないでぷ」
「何か合図が必要なのかな。緑、この文字読める?」
「読めないでぷ。古代文字の本があれば調べられるかもしれないでぷけど、今は分からないでぷ」
黄色が心配そうに聖杯を覗き込んだ。
「何も起きないなら、一コインの笛を返してほしいでぷ。まだ使えるでぷ」
「まだ失敗って決まってないよ。もう少しだけ――」
最後まで言い終わる前に、聖杯の中から音がした。
ボッ――!
鮮やかな青い炎が、干し肉と笛を包み込むように一気に立ち上がった。
「うわあっ!」
私は反射的に椅子を引き、赤たちも揃ってテーブルから離れた。オラクルはすぐに車椅子を動かして私たちより前へ出たけれど、青い炎は聖杯の外へ広がらず、テーブルへ燃え移る様子もなかった。
炎は普通の火より遥かに濃い青色をしている。
それなのに、少し離れた場所にいる私たちのところへ熱はほとんど届いてこない。
緑は驚きながらも、炎から目を離さなかった。
「青い炎でぷ……でも、テーブルも聖杯も燃えてないでぷ。普通の火とは違うでぷね」
「黄色の笛は燃えてるでぷ!」
黄色だけは別の意味で慌てていた。
「一コインが燃えてるでぷ! 黄色の一コインが青い炎に包まれてるでぷ!」
「燃えてるのは笛だってば!」
「黄色にとっては一コインと同じでぷ!」
「赤の肉も燃えてるでぷ……」
今度は赤まで悲しそうな顔をした。
「美味しく焼けるのでぷ?」
「今そこ気にする!?」
私たちが騒いでいる間にも、青い炎の中では変化が続いていた。
最初に干し肉の輪郭がゆっくり崩れ、茶色い光へ変わっていく。続いて木の笛も形を失い、薄黄色の光となって炎の中へ溶けた。
二つの光は別々に揺れながら聖杯の中央へ集まり、互いの周囲を回るように絡み合っていく。
その瞬間、縁に刻まれていた古代文字が青く輝いた。
「見て! 文字の色が変わった!」
私が指差すと、緑もすぐに気づいた。
さっきまでくすんだ銀色だった古代文字が一つずつ鮮やかな青へ変わり、二本の流れを表した紋様にも同じ光が走っている。別々の場所から進んできた青い光が中央で重なると、炎が一度だけ大きく膨らんだ。
その直後、青い炎は聖杯の中へ吸い込まれるように小さくなり、最後には何事もなかったように消えた。
部屋に静けさが戻った。
誰もすぐには聖杯へ近づかなかった。
さっきまで干し肉と笛が入っていたはずなのに、今は一つの物しか見えない。
私はオラクルを見る。
「……近づいていい?」
「少し待て」
オラクルがしばらく様子を確認し、炎が戻らないことを確かめてから頷いた。
私はゆっくりテーブルへ近づき、聖杯の底を覗き込んだ。
そこにあったのは笛だった。
少なくとも、形だけなら。
「……何これ」
木製だった笛は、焼いた肉みたいな茶色へ変わっていた。表面には脂身を思わせる白い筋まで走り、触ってみると木より少し柔らかい。しかも鼻へ近づけなくても分かるほど、ほんのり肉の匂いが漂っている。
赤の目が一瞬で輝いた。
「肉でぷ!」
「形は笛だよ!」
「肉の笛でぷ!」
「そんな物、今まで聞いたことないよ!」
黄色も私の手元へ顔を近づけ、元の笛がどこかに残っていないか確かめるように何度も眺めた。
「黄色の笛が肉になったでぷ……一コインが肉になったでぷ……」
「だから一コインそのものじゃないってば!」
緑は笑いを堪えながらも、出来上がった笛を真剣に観察している。
「形は笛のままでぷ。でも色も匂いも干し肉に近いでぷね。ちゃんと二つの特徴が残ってるでぷ」
「じゃあ合成は成功したってことかな」
「まだ分からないでぷ。笛なら、音が鳴るか確かめたほうがいいでぷ」
メリーも私の肩から笛を指差した。
『吹く』
私は手の中の笛を見た。
肉の匂いがする。
「……これ、口につけるの?」
「フールちゃんが合成したのでぷ」
黄色が当然のように答えた。
「作った人が責任を取るでぷ」
「私だけで作ったわけじゃないでしょ!」
「赤は食べてもいいでぷ」
「もっと駄目!」
仕方なく覚悟を決め、笛を口元へ運んだ。
少しだけ肉の匂いが強くなる。
私はできるだけ考えないようにして息を吹き込んだ。
プヒィィィィィィ――。
何とも言えない情けない音が、部屋いっぱいに響いた。
全員が黙った。
私も笛を口から離したまま、しばらく何も言えなかった。
やがてオラクルが真顔で口を開く。
「古代の力を使って作った結果が、今の音か」
「私に言わないでよ!」
赤が堪えきれずに笑い始め、緑まで本で口元を隠して肩を震わせている。
黄色だけは笑わなかった。
「一コインが……プヒィになったでぷ……」
「だから一コインから離れて!」
私たちが騒いでいると、廊下の向こうから急に何匹もの足音が聞こえてきた。
ドタドタと近づいてきた音に全員が扉を見ると、今度は開いていた窓から一羽の鳥が飛び込んできた。その後ろから二羽、三羽と続き、さらに廊下からは王宮で飼われているらしい小さな犬まで走り込んでくる。
「何で!?」
私が驚いていると、廊下からゴブリンまで顔を出した。
「何か、すごく美味しそうな肉の匂いがするでぷ!」
私は手に持った笛を見る。
オラクルも同じものを見る。
赤、緑、黄色まで一斉に笛へ視線を集めた。
「……これ?」
試しにもう一度だけ吹いてみる。
プヒィィィ――。
犬が一斉に尻尾を振り、鳥たちも私の周囲へ集まってきた。廊下にいたゴブリンまで鼻を動かしながら、さっきより一歩近づいてくる。
オラクルはしばらくその光景を眺め、やがて呆れたように煙を吐いた。
「どうやら吹くと肉の匂いを撒き散らす笛になったみてえだな。干し肉の特徴と笛の特徴が、本当にそのまま合わさってやがる」
「そんな合わさり方するの!?」
「実際してるだろ」
黄色の目が輝いた。
「売れるでぷ! 猟師さんとか食べ物屋さんに売れるかもしれないでぷ!」
同時に赤も目を輝かせる。
「食べられるでぷ!」
「売らないし食べない!」
私は二匹から守るように《肉の笛》を胸元へ引き寄せた。
「これは取っておくの。初めて《合成の聖杯》で作った物なんだから、記念にする!」
「古代のアイテムで最初に作った物が肉の笛か」
オラクルが笑う。
「歴史に残るかもしれねえな」
「そんな歴史の残り方は嫌だよ!」
笑いながらテーブルへ目を戻すと、《合成の聖杯》に刻まれた古代文字は少しずつ元の銀色へ戻り始めていた。
私は聖杯を持ち上げず、近くから変化を観察する。
「さっきは青い炎が出て、文字も青くなったよね。もしかして、合成が成功すると青色になるのかな?」
緑も聖杯を覗き込みながら頷いた。
「その可能性はあるでぷ。二つの物が光になって一つへ重なったとき、古代文字も青くなったでぷから、合成そのものと関係しているのは間違いなさそうでぷ」
「じゃあ、青い炎が出たら成功?」
「一回だけじゃ、そこまでは決められねえな」
オラクルがすぐに口を挟んだ。
「青い炎が合成開始の合図なのか、成功したときだけ出るのか、それとも入れた物によって炎の色が変わるのかも分からねえ。古代文字が青くなった理由だって同じだ。今回分かったのは、干し肉と笛を入れたら青い炎が出て、二つの特徴を持った一つの物ができた。それだけだと思っとけ」
「そっか。じゃあ、今のところは『青くなったら成功かもしれない』くらいだね」
「それならいい」
私は《合成の聖杯》を眺めながら、さっきの光景を頭の中でもう一度思い返した。
二つの物がそれぞれ別の光へ変わり、青い炎の中で一つに重なった。古代文字の色まで変わったあと、炎が消えるとまったく別の物が残されていた。
少なくとも、王様から聞いた「異なるものを一つへ合わせる力」が本当だったことは確かだ。
ただ、完成したものが――。
私は手の中の笛を見る。
「何で肉笛なんだろう……」
「干し肉と笛を入れたからでぷ」
緑が答えた。
「それは分かってるよ! もうちょっとこう、すごい物になると思うじゃん。古代のアイテムなんだよ?」
「十分すごいだろ。吹いただけで鳥と犬とゴブリンまで寄ってきたんだぞ」
オラクルが窓の周りを指差す。
そこにはまだ数羽の鳥が残っていて、私の手にある笛をじっと見ている。犬も足元から離れず、期待するような顔で尻尾を振り続けていた。
「……確かに普通の笛ではないけど」
「狩りに使えるかもしれないでぷ!」
黄色が興奮気味に言った。
「肉の匂いで魔物をおびき寄せれば便利でぷ。それなら一コインよりずっと高く売れるかもしれないでぷ!」
「売らないって言ったでしょ!」
「じゃあ貸すでぷ。一回十コインでぷ!」
「急に商売始めないで!」
赤も負けじと手を伸ばしてくる。
「食べたらもっとすごい効果があるかもしれないでぷ」
「試さないよ!」
「一口だけでぷ」
「一口食べたら笛に穴が増えるでしょ!」
「穴が増えたら音も変わるかもしれないでぷ」
「それはただ壊れてるだけ!」
私が笛を頭上へ持ち上げると、赤が背伸びをして追いかけ、黄色まで「売らないなら調べるだけでぷ」と反対側から手を伸ばしてくる。
右足がまだ治りきっていない私は逃げることもできず、椅子に座ったまま二匹から笛を守るしかない。
「緑、助けて!」
「赤、黄色、フールちゃんはまだ怪我人でぷ。暴れちゃ駄目でぷ」
緑が二匹の服を後ろから掴んでくれた。
「離すでぷ! 赤は味見するだけでぷ!」
「黄色は値段を調べるだけでぷ!」
「二匹とも目的が違うのに協力しないでよ!」
オラクルは助けるどころか、車椅子の背もたれへ身体を預けて笑っていた。
「笑ってないで止めてよ!」
「いいじゃねえか。古代の秘宝を使って作った記念すべき第一号だ。味と値段くらい調べても」
「オラクルまでそっち側なの!?」
『メリーも吹く』
「メリーまで!?」
肩の近くを飛んでいたメリーが両手を伸ばす。
食べたい赤。
売りたい黄色。
吹きたいメリー。
止めようとしている緑。
面白がっているオラクル。
私は《肉の笛》を両手で守りながら、どうしてこんなことになったのか分からなくなってきた。
「もう! これは私が預かるから!」
鞄を開き、《肉の笛》を奥へしまう。
赤と黄色が揃って残念そうな顔をした。
「肉が……」
「一コインが……」
「二人とも諦めて!」
鞄の口をしっかり閉じると、ようやく騒ぎが収まった。
私は大きく息を吐き、《合成の聖杯》へ視線を戻す。
古代文字から青い光は完全に消え、最初に見たときと同じくすんだ銀色へ戻っていた。青い炎があれほど勢いよく燃えていたのに、聖杯そのものには焦げた跡一つない。
「もう一回やってみたら、青が成功の色か分かるんじゃない?」
何気なく言った瞬間、オラクルの目が細くなった。
「一回だけって約束だったな」
「……覚えてた?」
「当たり前だ」
「もう一回だけなら――」
「駄目だ」
「まだ最後まで言ってないよ!」
「聞かなくても分かる」
オラクルは煙草を灰皿へ押しつけながら、今度は少し真面目な表情で聖杯を見た。
「今回はたまたま干し肉と安物の笛だったから笑って済んだ。でも次も同じとは限らねえ。何を入れたら何が起きるか分からない以上、遊び半分で何度も使うもんじゃねえだろ」
それを言われると反論できなかった。
青い炎に熱がなかったから安心していたけれど、別の物を入れたときも同じとは限らない。もっと大きな炎が出るかもしれないし、危険な物が完成する可能性だってある。
「……分かった。今日はもうやらない」
「今日は、じゃなくて、次に使うときはちゃんと考えてからにしろ」
「はーい」
「返事が軽い」
「ちゃんと分かってるってば」
私は王様から一緒に渡された布を広げ、《合成の聖杯》を丁寧に包んだ。
赤たちも、もう一度使えとは言わなかった。さすがの黄色も、何ができるか分からない古代のアイテムへ自分の大事な物を次々放り込むほど無茶ではないらしい。
ただし、黄色は床へ広げた道具を片づけながら、何度も私の鞄を見ていた。
「何?」
「肉笛が売れたら、元の笛代一コインは黄色の取り分でぷ」
「まだ諦めてなかったの!?」
「元手を出したのは黄色でぷ」
「干し肉は赤が出したでぷ!」
「じゃあ売れたら赤にも分けるでぷ」
「赤はお金より肉でほしいでぷ」
「勝手に売る前提で話を進めないでよ!」
緑がとうとう声を上げて笑った。
メリーもその横で『プヒィ』と笛の音を真似している。
それを聞いた赤まで笑い始め、黄色は「笑うところじゃないでぷ」と真剣な顔で抗議していた。
私はそんな三匹を見ながら、ふと笑い声が止まりそうになった。
赤たちとこうして騒げるのも、あと少しなんだ。
三匹はゴブリン王国に残る。
私の右足が旅へ戻れるところまで治れば、私はオラクルとメリーと一緒に《黒龍王の洞窟》へ向かう。
昨日まではそのことを考えるたびに寂しさばかりが先に来たけれど、今は少し違った。
別れる前に、こんな馬鹿みたいな思い出が一つ増えた。
いつかまた三匹と会ったとき、《合成の聖杯》で最初に作った物が《肉の笛》だったと話せば、きっと今日と同じように笑える。
「これ、絶対なくさないからね」
私が鞄を抱きながら言うと、黄色がすぐ反応した。
「売らないのでぷ?」
「売らない!」
赤も残念そうにする。
「食べないのでぷ?」
「食べない!」
メリーが期待した顔で私を見る。
『吹く?』
「それは……たまになら吹いてもいいかな」
『プヒィ』
「そう、それ」
また笑いが起きた。
古代から伝わる《合成の聖杯》。
二つの物を一つへ合わせる不思議な力があることも、青い炎とともに古代文字の色が変わることも分かったけれど、それが本当に《成功》を示す反応なのかまではまだ分からない。
分からないなら、今はそれでいい。
必要なときが来たら、そのときまた確かめればいい。
私は布に包んだ《合成の聖杯》を鞄の奥へしまい、その隣に入っている《肉の笛》を思い出して小さく笑った。
まさか王様から託された古代のアイテムで、最初に作るものがこんな変な笛になるとは思わなかった。
それでも――。
「合成って、ちょっと楽しいかも」
「その感想が一番不安だ」
オラクルの返事に、部屋はもう一度笑いに包まれた。




