嘘を欺く課題と玉藻好美への接触
「嘘を見抜く?心理学か、表情や動作に関する知識か、それとも両方を組み合わせたものか?」
「どちらでもない」清野凛は首を振った。「三歳の頃、突然人が嘘をついているかどうかを判断できるようになったの」
「……」
「信じられない?こんな非現実的なこと、他人に信じてもらうつもりもない。ただその時から、嘘つきを心から嫌うようになり、自分自身には絶対にそんなことをしてはならないと戒めている」
「そんなこと、というのは嘘をつくこと?」
「当然よ」
面白いことになった。渡辺徹は好奇心から問いかけた。「私のこと、好き?」
清野凛は頭を痛めるように額に手を当てた。「君は魚の記憶か?さっき嘘つきが嫌いだと言ったばかりでしょ。君は一度も嘘をつかない人物なのか、それとも自分自身が人間ではないと罵っているの?」
「悪かった。男子特有の好奇心だと思ってくれ。女性が永遠に嘘をつかないと言うのを聞いたら、誰しも興味を引かれるだろう」渡辺徹は言った。「だが、この世に嘘をつかない人間など存在しないわ」
「だから私は自分以外の人間全員が嫌いなの」清野凛はためらいもなく答えた。
東京の太陽が次第に西に傾き、一群のカラスが遠くから飛来し、神川塾の校舎上空を掠めた。少女の冷ややかな顔には、冗談の面影は微塵もない。
渡辺徹は心の底から少女の言葉を信じた。彼女が本当に誠実で、一度も嘘をついたことがない人間だと。
この感覚は不思議な由来だ。渡辺徹は自分が彼女の九の魅力に惑わされ、こんな荒唐無稽な話を信じ込んでいるのではないかと疑った。
人間が嘘をつかないわけがない。あり得ない。人間である以上嘘をつく、それに嘘をつかなくてはならない場面だってある。
「質問は終わり」清野凛は単行本をめくった。「正式部員として、残っていても構わないが、静かにしていなさい」
「わかった」
部活の教室は静まり返った。渡辺徹は金属が激しく衝突する鋭い音を仄かに聞いた。金属製のバットがボールに命中する音だ。
野球部の練習が始まったのだ。
渡辺徹は少女のことを脇に置き、教科書を取り出して勉強しているふりをした。
新着メールがあります】
開く。
臨時イベント:ゲーム時間四月二十六日十六時三分、あなたの前にあらゆる嘘を見抜くと自称する少女が現れる。
イベント内容:相手を一度だけ成功裏に欺く。
イベント期間:一週間
イベント報酬:読心術/百万ポイント
読心術?
これは日常系のゲームのはずなのに、なぜこんな超能力の交換オプションが存在するのか。モール内の能力はいずれも人間が学習によって習得可能なものばかりだ。
渡辺徹は再度附則を開いた。
臨時イベントに関する条項は目を通したものの、記憶には残っていない。参加しなくても一切罰則がないことだけは覚えていた。
……
250:本ゲームはプレイヤーに対して臨時イベントを含め一切の罰則を課さない。
251:臨時イベントで出現する特殊報酬は当該イベント限定であり、モールではリフレッシュされない。
252:臨時イベントの難易度は一律ではなく、危険度も不確定である。原則としてプレイヤーの積極的な参加を奨励するとともに、慎重な対応を促す。
253:ゲーム運営の基本精神に基づき、臨時イベントの報酬は難易度係数と比例する。
254:臨時イベントには達成困難な課題が存在するが、絶対的に達成不可能な課題はない。
255:プレイヤーがゲーム内および臨時イベントにおいて、誘拐、脅迫、買収、色仕掛け、薬物使用などを含むあらゆる違法行為を行った場合、本ゲームは一切関与せず、結果は全てプレイヤー自身が負う。
……
おおよそこのような内容だ。
今回のイベントは、常軌を逸した百万ポイントの報酬から見て、ほぼ達成不可能な部類に属することは明らかだ。
渡辺徹は読心術に強く惹かれるものの、達成への期待は抱いていない。
ただこのことから、清野凛があらゆる嘘を見抜く能力を持つ事実が裏付けられたのではないか。すべての嘘とまではいかなくても、誰もが容易に欺けるような相手ではないことは確かだろう。
自分以外の人間全てを嫌うということ。もし本当なら、どのような感覚なのだろう。
渡辺徹は自分の周囲が嫌いな人間だらけになる光景を想像してみた。うーん、田舎で一生畑仕事をしていた方がよほど快適だ。
下校時間、渡辺徹は部屋の引き戸を閉める際、思わず真剣に本を読む清野凛の姿を一瞥した。
名門の出自に、美貌と知性を兼ね備えていながら、精神病とも言えるほどの頑固なこだわりを抱えている。
残念だ。
人間観察部を後にした渡辺徹は、まず斎藤恵介と合流し、グラウンドで汗だくになっている国井修を待ち、三人で近くのファミレスへ向かった。
バヴァーコと名付けられたこの店は新宿大通りの一角に位置し、近隣の生徒たちが頻繁に訪れる場所だ。
神川塾のほか、周辺には大学付属女子校と一般塾がそれぞれ一校ずつあり、三校は合同でさまざまなイベントを開催することが多い。
三人が到着した頃、ファミレスには既に多くの客が入っていた。家族連れで食事を楽しむ人々もいるが、大半は三校の制服を着た生徒たちで集団で食事をしている。
店には各種和食定食から洋風ステーキ、各国の麺類まで揃っており、品揃えは非常に豊富だ。その上、価格が安いだけでなく、一度料理を注文すればドリンクバーが飲み放題になる。
渡辺徹はそばを、斎藤恵介はラーメンを注文した。国井修は食量が多く、ラーメンに加えてステーキとフライドポテトを頼んだ。
食べ始めて間もなく、斎藤恵介が言った。「渡辺、清野凛と二人きりの部屋、どうだった?」
「ん???」国井修は口いっぱいに麺を頬張り、不明瞭な声を発した。
男子の話題はいつもこういったことに尽きる。
渡辺徹は少量のそばをすくい、スープにくぐらせてから口に吸い込んだ。味は平凡で、田舎の母が手打ちした麺のようなコシはない。
一口の麺を飲み込んでから、彼は好奇心を寄せる二人に答えた。「嫌われていたよ」
「何かやらかしたのか?」斎藤恵介は驚いた。
「人間として当たり前のことをしただけだ」
「うーん」国井修はやっと食べ物を飲み込んだ。「手を出したのか?死ぬ気か?清野凛に手を出すなんて」
渡辺徹は弁明しようとした瞬間、ドリンクバーの辺りに見覚えのある姿を見つけた。
「ドリンクを汲みに行く」彼はコップを持って立ち上がった。
「俺のも頼む」国井修は一気に炭酸飲料を飲み干し、コップを渡した。
渡辺徹は二つのコップを持ち、列の最後尾に並んだ。
前に並んでいたのは女子塾の生徒で、モデルのように整ったヒップに細い腰を持ち、並んでいる退屈さを紛らわすため、髪を指に巻きつけて遊んでいた。
「玉藻さん、ここで食事なの?」
活気のないものの自然で柔らかく、非常に美しい声の挨拶に、玉藻好美は思わず振り返った。
整った顔立ちの非常に格好いい少年がいた。相手も神川塾の制服を着ている。制服を着ていなくても、玉藻好美は彼を知っていた。
神川塾で有名なイケメンにして優等生、田舎から来た貧乏人。
玉藻好美は貧乏人が嫌いだが、相手の美貌は気に入っているため、魅力的な笑顔を浮かべた。
「偶然ね、渡辺くん」
渡辺徹は嬉しそうに言った。「自己紹介しようと思ってたんだ。玉藻さんが俺のことを知らないんじゃないかと心配で」
玉藻好美は校則違反で透明ネイルを塗った小さな手を、色っぽい唇の前に当てた。「ありえないわ。渡辺くんは神川の大イケメンで、女子の間で話題になっているもの」
「そうなのか?玉藻さんも男子の間では同じくらい話題だよ」
「え?本当?どんな風に話題になっているの?」
異性にどう評価されているかは、誰しもが好奇心を抱くものだ。特に容貌に自信のある者はなおさら。渡辺徹は目の前の玉藻好美を見ながらそう思った。
清野凛を除けば。彼女は嫌いな人間たちの評価を気にする時間も考えもないだろう。
この時、前の客がドリンクを汲み終えて立ち去った。渡辺徹は声を潜め、普段より倍美しい声で囁いた。
「みんな話題にしているのさ。玉藻さんなら金で養える、ただ一ヶ月いくらかかるのか分からないって」




