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新訳/ひめまおっ!?~さらわれたお姫様が魔王になって、世界を幸せにするために奮闘する物語~  作者: クグツ。(創作処かいらい工房)
第二章 東の魔王国を救おう!~正しい力、血濡れの勝利宣言「真なる闘いとは自分に負けないことです。より高く、より美しく舞い踊りましょう」
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第二十三声「相手よりも先に、己に負けるわけには行きませんからね!」

「力とは正しきものである。真に正しき力は、常に敗北を退ける。己をより高い勝利へと導いてくれるであろう」


 紅い筋が脈動する黒剣を高く掲げて、魔王エンドレイは唱えた。



「正しき力の儀を始めるにあたっての開会宣言のようなものだ」こういうことは必要だろう? 魔王は自虐的な笑みを浮かべつつ、剣を虚空に仕舞う。


 芝居じみた魔王の宣言とは裏腹に、地下の円形闘技場の観覧席は総て、デモナリアの住人らが埋め尽くす。老若男女。国の維持や警備に必要な人員以外は余すことなく集まってきているのではないかと思うほどの盛況ぶり。

 史上最強と謳われる元首の言葉に、熱狂的な歓声が空気を揺らしていた。


「鬱屈されていたからな。こういう催しは受け入れられる」

「やや戦意を煽るようなことにはなっていませんでしょうか?」

「否定はできないな。前王の代までは国内外に対しての喧伝行為としても用いられたとか」


 体をほぐすように伸びをするルインを見やってから魔王は呟く。


「姫君がお相手なのだ。きっと楽しいものにしてくれるのだろう?」

「さぁ、どうでしょうね?」

「君にしては珍しく歯切れが悪いな」

「昨夜は色々とありましたからね」

「概要はコーディニアスから聞いている。ジェオンが夢魔のロブエルを害したのだと」

「わたくしも表面的にだけは伺っています。動揺がないと言えば嘘になりますね」

「延期しても、放棄しても構わないが?」


 魔王は武舞台の対岸に目をやるも、そこには今一人の戦士の姿もない。


「わたくしにできることは既にありませんわ」目じりを擦りながら、欠伸をかみ殺す。入念な柔軟体操で体を温める。


「なによりお相手様は絶対に来られるでしょうから、気の抜けた対応をするわけにはまいりません」

「姫君は真っ直ぐでいて、強いな」

「相手よりも先に、己に負けるわけには行きませんからね!」


 なるべく綺麗に洗濯したお仕着せ。色鮮やかなドレスの一部を首に巻くことで僅かなれども煌びやかに。長い銀髪を梳かして編み込んで、頭頂にて留めることで激しい動きにおいても邪魔になることはない。


 左手にはお気に入りの銀扇のみ。息を整え、精神を集中させる。


体調コンディションは良くなさそうだが?」

「それを言い訳にはしませんよ。お相手様の比ではないでしょうからね」



 銀扇を幾度も振るう。ルインは体の感覚を微調整してから一旦、得物を懐に収めた。


「行って参りますわ」

「君の信念、そして正しき力を楽しみにしている」


 ルインは頷くと一歩一歩、地面を踏みしめて闘技場の中央へと足を運ぶ。

 小さな姫の、異国の挑戦者の、お仕着せを纏った謎の小娘への多様な歓声が巻き起こる。


 平時であれば、昨夜以前であればニヘラニヘラと両手を上げて、歓声に応じていたのであろうが、顔つきは王女然と凛々しい。ドレスこそ着ていないものの、立ち居振る舞いは外交式典でも十二分に通用するほどに洗練されていた。


 ルインはスカートの端を軽く持ち上げ挨拶をした。緊張はしていない。舞台の上にも、大勢の視線にも慣れている。舞いでも音楽でも執務でも交渉でも闘いであっても、技術分野ジャンルが違うだけで根幹は同じ。


 決意は些かもぶれていない。意思は固く、決意も揺るぐことはない。

 それでも気掛かりはあった。

 


 昨夜の光景が脳裏を埋め尽くす……埋め尽くされるのルインは無理矢理に思考の端に追いやって、武舞台の対岸を真剣な眼差しで見据えていた。


「どうなりますことやら」冷や汗が頬を伝う。恐怖とは違う種類の戦慄が背筋を震わせた。


「お待ちしておりましたわ。ジェオンさん」


 獅子の貌の獣人は静かに喉を唸らせただけだ。眼光はお仕着せの小娘に向かっているものの、ルインを視ているわけではない。虚空でも見据えるように感情の色を隠していた。

 一見無表情で無感情にもとれる獣人の佇まいに、ルインは息を飲んだ。

 

 獣人は嘲ることも、皮肉を言うでもなく、元首へのみ首を垂れる。

 様子がおかしいのは一目瞭然。

 しかし魔王が掛ける言葉などはない。

 こと、ここに至っては力のみで語る場だ。

 信念であろうと、暴虐であろうとも、勝利した者が正しき力。正しき力こそが勝利するのだから。


「双方とも、正しき力を証明するために宣誓を」


 ルインは薄い胸の、心臓の位置に掌を当てる。獣人も似たような姿勢だ。


「結構。では存分に語るが良い!」


 ひと際大きな魔王の宣言句によって、武舞台には大歓声が投げかけられた。声の大嵐。熱狂と期待。感情の発露。それは悪くはないほどに高揚をもたらす糧となる。


「随分とお行儀が良くなられましたのね」ルインは再び欠伸を噛み殺した。見栄えを気にしたというよりは、現状いまのジェオンから目を離すわけにはいかないからだ。


 様子見の為の挑発など意に介していない。静かに喉を鳴らしながらも、獣人は立ち尽くす。まるで処刑を待つ大罪人のごとく。


「ジェオンさんらしくありませんわね。そんなに殊勝で、そんなに無防備で。闘うおつもりがないのですか? それともわたくしに臆しましたか?」


 少し強めの言葉攻めにも反応しない。それでは主導権が握れないし、相手の出方も絞れない。それほどまでに衝撃的であったのだ。昨夜の出来事が。


「ロブエルちゃんは一命を取り留めましたわよ。いまもコーディニアスさんが側についておられます」


 ピクリと、獣人の眼が初めてルインを視る。


「おおよそ腑に落ちない展開なので、わたくしも判断しかねています。事実と虚偽と真実と現実の」

「…………黙れ」

「ジェオンさんの供述と現場の様子はおかしな点ばかりですわ。ジェオンさんはロブエルちゃんに危害を加えたということ。劇薬にてお顔を焼いたことも」

「黙れ」

「ロブエルちゃんには抵抗したような跡も、逃げようとした様子もありませんでした。傷口も一定の力で付けたというより、強すぎたものを急激に抑えたような印象です。狙った場所は急所の近くですが、もしも楽しむための害意であるならば急所など狙わないでしょう?」


 獣人ははっきりと小さな王女を睨み付ける。

 煽っていることは知れていた。随分とわかりやすい挑発。平時であるならば、乗ることはない。決して乗らない。


「小娘、だぁまぁれぇぇぇっ!!」


 頭が、思考が追いつかない。感情が先行し過ぎて、その速度に精神が軋む。冷静に思考するだけで記憶と感触が蘇って吐き気を催す。耐えきれない悔恨が容赦なく襲い掛かるのだ。


 故に、獣人は本能に身を委ねた。

 とめどなく湧き上がる闘争本能。攻撃欲求と憤怒。

 それらは本来、別の方向に向けられるべきものたちだったが、ちょうど良い。知ったかぶりでお節介で、何もかもを掌の上で踊らせようとする生意気な小娘を引き裂く。それで少しは気が紛れるのかもしれない。


 償いは適わない。取り返しなどつかないのだから。

 できることは罰を受けることのみ。

 簡単だ。それはいつでも受けることができるのだから。 

最低でも週一投稿がんばります!

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