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新訳/ひめまおっ!?~さらわれたお姫様が魔王になって、世界を幸せにするために奮闘する物語~  作者: クグツ。(創作処かいらい工房)
第二章 東の魔王国を救おう!~正しい力、血濡れの勝利宣言「真なる闘いとは自分に負けないことです。より高く、より美しく舞い踊りましょう」
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第二十声「残念ながら、ただの小娘ではございませんので」

 食べかけの硬いパンに真横からナイフを入れて開き、乾燥果物ドライフルーツを幾つか並べる。仕上げに蜂蜜をとろりと回し掛けると即席のフルーツサンドが完成する。


 ルインは感激に声を震わせて、両手をぶんぶんと振り回した。

 魔女は「行儀が悪い」と王女を窘めてから色々と諦めたように溜息を吐いた。


「こんなごちそうはアイセンブルグでも食べたことがありません!」小さな口で大きなパンにかぶりつくも、どう見ても小鳥が啄んでいるようにしか思えない。まるで啄木鳥キツツキの様だ。


「乾燥果物はデモナリアでの一般保存食です。この国は季節によって気候が目まぐるしく変化する。寒い時期に備えて食料を備蓄するのは幼子でさえ怠りはしません」

「なるほど! またひとつ賢くなりましたわ」

「結構なことです」


 あれだけの大立ち回りをやらかしておいて。正確にはやらかそうとして未遂に終わったものの、明日には更なる大嵐を巻き起こす段取りまで整えるだなんて。


 厨房の棚の隅に僅かに残った乾燥果物。随分と日が経っていたのか青い斑点が幾つかみられる。蜂蜜も半ば以上が固形と化したものを水で溶いたもの。いわゆる残り物だ。

 貧しい国柄であれば食べられるだけで感謝するのは常ではある。王の娘として我儘放題に育ち、母国を思うまま掌握していた小娘が目を輝かせて頬張るものではないだろう。


「王族の口には合わないでしょう?」

「いいえいいえ! とても甘くて、食べ応えがあって、わたくしは好きですわ!」噛み切れなかった乾燥果物をそのまま口内へ啜り、モグモグと咀嚼する。


 啄木鳥の次は栗鼠リスか。

 精神的に振り回されて、度肝を抜かれて、呆気にとられる。

 一々この王女の言動に驚いていては心が擦り減り疲労するだけだと、遅蒔きながら魔女は気付いた。

 珍妙な動物でも観察しているとでも考えれば、多少なりとも気は楽になるというものだ。


「コーディニアスさんも召し上がりますか?」半分ほどになったフルーツサンドを差し出されるも、魔女は頭を振った。


「今は食欲がありませんので」

「わたくしの食べさしがお気に召さないとか?」

「それは……」考えるふりをしてから「それもありますね」と自然と言葉が零れた。

「信を置ける家族以外と食を共にしたくはありません」

「なるほど、道理ですね!」


 気を悪くした風もなく王女は杯からぬるい水を上品に呷った。

「あなたの侍女はさぞ気苦労が絶えなかったでしょうね」

「アサンが気苦労ですか? まさかまさか」


 自信たっぷりに笑む。暗殺機会の日までとは言え、こんな爆裂王女の身の回りの世話を四六時中させられるなど、魔女では身がと保たないだろう。王女と侍女にはそれなりの絆はあった故に、そうではなかったのかと治療中の様子を顧みるが、


「アイセンブルグの大半の方々に気苦労を掛けて回りましたからね! アサンもですが一番はばあやか、フリザニスの叔父様でしょうね!」


 性質のよろしくないことに自覚は大いにあるようだ。


「あなたの母国には結局良かったように思えてきました」

 代わりに貧乏くじを引かされたのはデモナリア魔王国だと、暗に告げるが王女に堪えた様子はない。

「かもしれませんね」郷愁の情でも沸いているのか、厨房の窓より遠くの空を目指していた。

 

 言葉が過ぎたか? なにを気を遣う必要がある。この娘はただの道具、使い捨てても構わないものだ。魔女は言い聞かせた。


「コーディニアスさんは勇者の母なんて妄言を信じておいでですか?」

「さあ。聖国が母体の清浄協会の信ずる理念などわたしには考慮する余地もありませんね」

「ですよね。同感です」

 皮肉や煽りをすんなり同意するから調子が崩される。

 ここで黙ると負けのような気がして、魔女は続けることにした。


「大古の昔に聖龍がいたとして、それを祀り、信仰する一派がいたとして、歴史の中で教義が歪曲される。それはある意味自然な成り行きです」

 人の欲望や暴力性に果てはないのだと、彼女は実感している。

「儀式としての司祭や巫女が必要なのはわかる。人心掌握手段として“勇者”などという偶像を用立てる意味もなくはない」

「不可解なことは、そんなにオイシイ偶像をどうしてほぼ無関係なわたくしに押しつけてきたのか?ですわね」

「……はい」もう溜息すらも億劫となった。


「彼らの立場であるならば、協会騎士を“聖龍の勇者”として祀り上げることが論理的で、彼らの利にも適っている」

「わたくしに勇者の母役を押しつけることでそれ以上の利が得られるのでしょうかね? あちらの教皇陛下がわたくしをご所望であるとか?」

「それほど無謀……無思慮ではないでしょうね」

「コーディニアスさん、言い直せていませんでしたよ?」

「発言の撤回が必要な箇所がありましたか?」


 むぅ!今度は唇を尖らせてジト目での抗議を軽く無視する。案外にスッキリするものだと、魔女の心は何割かの軽やかさを取り戻す。


「あちらの意図は現状不明のまま。情報のない状態で考えを進めると大きな穴に嵌るもの」

「それドクロおじ様も仰っていましたよ」

「あの方は賢人フィロソム様。デモナリアの最高魔術師にしてわたしの師です。妙な仇名で呼ばないで下さい!」

寸胴兜サレット体型と呼ばれたわたくしの気持ちはどうなりますか?」

「なにも間違っていない事実なので受け止めればよろしいのでは?」

「コーディニアスはボンッキュッボンだから関係ないと思っていますね? なんなら見下しておいでですね?」

「いいえまさか。憐憫で涙を禁じ得ないほどに慮っています」

「そういうのは真顔で言う台詞ではないのでは?」

「それこそあなただけには言われたくありません!」


 キョトンと小首をかしげる様が癇に障る。

 知能は高いし洞察力も理解力もある。頭の回転は速いし、同時にあらを探して的確に突いてくるところなど獣人幹部と似ている。

 ただし、この王女の場合は痛いところを“突く”のではなく「痛くないですか?」と心配そうに“撫で回す”節がある。

 涼しい顔で、さも当然のように。


 魔女には、そこが我慢ならなかった。彼女に出来ないことを次々にこなしていく暴走重戦車のような小娘の存在が。


 すぐに熱くなる癖が直っていないと師に笑われそうだと、魔女は頭を冷やした。呼吸を整える。


「話が反れましたね。現状で確実な事象があるとすればあなたです」

「わたくしですね」

「あなたの内側には何らかの特別な力が宿っています。自覚はしているのでしょう?」

「嗜む程度には」大きくパンを齧り、口の周りをぺろりと舐めた。


「フラウバルクリム、聖龍の遣わす勇者の御力とやらがあるにはあるのでしょうが、どうにも使い勝手がよくありませんね」

「アイセンブルグにての発現はわたしも確認しました。身体能力の異常拡張。痛痒への耐性強化。おそらく治癒力・回復力なども向上しているのでしょうね」


 凄腕の暗殺者と、発育不足の王女。まともな近接戦闘では論じるまでもない。それがまともに渡り合えるまでに強靭化されていたのだ。強烈な打撃は一度身に受けるだけでも致命傷。立ち上がるどころか、話もままならないだろう。


「ただの小娘であったなら四度は絶命していたでしょうね」

「残念ながら、ただの小娘ではございませんので」


 まったくだ。口には出さなかったが、隣の小娘はじっとりとした眼差しを向ける。魔女は気付かない振りをした。


「それに、最後に起こしたあなたの行為わざ。あれは」

 銀扇で風を送っただけの軽い動作。

 あれは明らかに、魔術の域すら超えた不合理で非常識な所業であった。


「なにを考えて、あんな行為わざをしてみせたのですか?」

「特段、何も考えてはいませんでしたよ。強いて理由づけるのなら知っていたからでしょうか?」

「知っていた?」

「ええ」

「あんな悪辣で無慈悲な術技を、あなたのような能天気な破壊者が知っていたですって!?」信じられない! 魔女はこの世の終わりのような軽蔑の視線で王女を見下ろす。


「コーディニアスさんはしばしばお口がお悪くなりますね」軽口を叩いてから、ルインは何となく掌を開閉を眺める。


「時折にお腹の奥から波がくることがありました。何かが重い波紋のように拡がってきて、わたくしの身を引き裂こうと突き動かします」

「魔術における波動の過受容体質です。魔術現象の源となる存在。輝粒子と呼びますが、それを特に受け取りやすい体質の者もいます」


 コーディニアス自身も過受容体質に分類される身だと師に教わっていた。太陽や月の位置関係次第では気分が悪く、体調不良にも苛まれる。



「魔術師は存在証明に輝粒子を巡らせて術式を構築します。しかし、あの時のあなたは輝粒子を“死”として撃ち出した」

「少し必死でしたから、害意を押し隠す分別が疎かになっていましたね」


 王女の深蒼の双瞳に魔女は息を飲んだ。

 ぶっ飛んだ言動と憎らしいまでの愛嬌を振り撒いてはいるが、この娘の本質は異なる。小国が大公、叔父のフリザニスが付きつけたように“破壊者こわすもの”だ。


「術技は行使者の存在証明を介して、輝粒子を現象として置き換える術技です。精霊術であれば初源の四龍を、魔術であれば次源の三龍。協会の言う法術は第三源の力を使いこなせるのだと聞きますが、あなたの業はどれにも当てはまらない」

「もとより協会の方々が語り継いでおられるだけの物語ファンタジーですからね。そんなこともありますよ」

「その物語ファンタジーの中心とやらは随分と破天荒に過ぎます」

主人公ヒロインは常に読み手を魅了せしめるものですよコーディニアスさん!」


 パンを振り回す自称・主人公ヒロインに対して溜息は尽きない。


「とにかく、あなたの力の源流が解明されない限りは不用意な暴走はお控え願いたいものですね」

「魔王様はむしろ歓迎な雰囲気でしたけど。明日の催しについて。なんと言いましたか?」

「正しき力の儀です」

「そう、それです! そこをぜひ詳しく!」


 好奇心の塊となったパンくず塗れの王女に、どこから説明したものかと記憶を探っていた。

今年はもう夜勤ないのでバランス崩れはなさそうです!

がんばります!

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