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新訳/ひめまおっ!?~さらわれたお姫様が魔王になって、世界を幸せにするために奮闘する物語~  作者: クグツ。(創作処かいらい工房)
第二章 東の魔王国を救おう!~正しい力、血濡れの勝利宣言「真なる闘いとは自分に負けないことです。より高く、より美しく舞い踊りましょう」
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第十六声「示威行為にまでは至らないか」

 日が沈む前に、王城の各所に松明の明りが灯された。急ぎではない作業は中断されて、従事者は明日への引き継ぎもそこそこに各々の塒に戻る。


 王城の上階。執務室にて魔王は労働者を、そして城下の大森林を見下ろした。

 目を凝らすと森林の集落の灯りさえ感じられる。


 姿形は人間のそれとはかけ離れているが、そこには命の営みがあった。


 漆黒の双眸は森を越え、西へ延びる大陸へ、更には魔王国の境界線へと到達するも瞬きすらない。


「もしかすると明日にでも境界線より世界連合の軍隊が攻め入ってくるやもしれませんな」

「フィロか」

「はい。ガイコツ顔のフィロ」にございます」

「お前の術式だけを感知するのは容易ではないな。いつ寝首をかかれるかと不安で眠れなくなる」

「ほほほ、剣の魔王ともあろう御方が戯れを。儂のような老い耄れ、抜刀のついでに両断できましょうものを」

「馬鹿を言え。賢人フィロソムを両断するなど、夢のまた夢だ」


 漆黒の美丈夫は愉快そうに笑みを浮かべると、部屋の隅に出現した長衣ローブの老人は恭しく礼の姿勢を取る。


「賢人ですか。その呼称よびなもそろそろ委譲せねばなりますまいな。儂にはもう無用の長物」

「どこが? 未だにデモナリアに置いてお前を超える術者はいない」

「時代は変わります。先代国王が外様の御身をデモナリアの元首に選んだように」

「ただ不運だっただけだ。先代にとっても、俺にとってもな」

「で、ありましょうな」


 長衣の老人は足を引きずるようにと、主へと歩み寄る。火が地平線に沈む最後の一瞬に、その異貌が暴かれる。痩せこけた肉と皮膚。骨と血管の形を克明に浮き彫りにする。黄土色の貌はまるで髑髏ドクロだ。


 長杖スタッフは術式の補助を行うとともに、彼の歩行をも助けるものだ。握る力も、最早赤子よりはましなほど。涸れ果てた砂漠のような手の甲を魔王はそっと取った。


「龍呪毒がまた進行しているな。なぜ言わなかった?」

「老い耄れよりは、若い世代を優先するのが道理でしょう?」

 それに、とフィロソムは付け加える。

「どの道、治癒の術はありませんしの」

「賢人ともあろう者が早計だな。あの王女が本物の勇者の力を持っていたとして、使いこなしさえすれば見込みはあるだろう?」


「龍の呪いを侮ってはいけません。この毒はそれほど単純ではない」

「龍呪毒が寄生するのは肉体ではなく魂。その最奥にある個人の存在証明だと言うのだろう。存在を徐々に蝕み腐らせ、やがてそれは肉体をも変貌させるのだと」


 誰でもない。国一番の知恵者である賢人フィロソムが口を酸っぱくして伝えた分析・仮説を魔王が間違うはずがない。


「俺はまだこの毒を楽観視しているというのか?」

「その通りにございます」

「聞こう。理由を話してくれ!」


 咳き込む老賢人は体重を長杖に預けつつも、魔王が勧めた椅子を固辞する。

「毒であり呪いでもあるコレなる正体は蝕みとは異なる変容、おそらくは逆行でしょう。儂の存在証明は薄くて弱い。御身は厚くて強い」

「個人差があるのは以前にも言っていたな」

「病にも似たところがありますかな。儂らのような凡人ではおそらくこの変容に耐えられないのでしょう」

「変容と口走っていたが、これは最後には一体どうなると言うのだ?」

「どこまでどうなるかは憶測が過ぎる故に答えは出ていません。今少し情報も要り様でな」

「憶測でも妄想でも構わん。フィロソム、俺とお前の間柄だ!」

「ほほほ、ご厚意は悪くはないですな」


 髑髏の顔が緩んだ。不気味ではあるが何年も見慣れた表情に魔王は嫌悪感など抱かない。

 陽が完全に落ちた。暗い室内には沈黙が満ちる。


「このままではいづれ……」


 コンコン。扉が控えめに叩く音。「わたしです」魔女コーディニアスが入室許可を求めていた。


「ここまでにしましょう。些か結論を急いてしまいましたからな」

「巧く逃れたつもりだろうが、這う這うの体ではすぐに終局つみだぞ」

「剣技ひとつで支配権を勝ち取った御身から逃れようとは考えたこともありませんな。儂は常に白旗を担いでおるのでな」

「根っからの魔術師め」皮肉を口にしてから、魔王は扉外に「入れ」と告げる。




「失礼致します」帽子を取り、完璧な礼をとる魔女は思わぬ訪問者に意表を突かれることになる。


「お師匠様!?」

「昼ぶりよなコーディ。あまり眉間に皺を寄せておると儂のような異貌かおになるぞ」

「ご冗談を」

「相も変わらぬ気苦労性よの」老賢人は孫でも愛でるように、魔女の月髪を撫でやった。賢者から頭を撫でられるというのは、知識を継承するに等しい行為。そんなことは百も承知だと、魔女は恥ずかしそうな、どこか嬉しそうな、魔王の御前での子ども扱いへの抵抗心が混ざり、顔を複雑に赤らめた。

  

「あの無法王女の千にひとつほどの適当さでもあれば、お主も生き易くなろうに。のう、主君殿よ?」

「だな」


「なっ!?」それが魔女をからかうための方便であることなど明白なのに、コーディニアスはお転婆姫の言動を反芻して、沸々と怒りをたぎらせる。


「折角ですが、それはご遠慮いたします! あのような無思慮かつ後先考えない場当たりな行動はわたしの性質とは大きく異なります!」

「ほうほう、この賢才魔女をこうまで苛立てようとは、流石は勇者の血筋よの」髑髏の老賢人は遠慮なく、楽しげな声を上げた。


 魔女は憮然としながら、室内の洋灯に火を灯し始める。ぼそぼそと短節詠唱を行うと、火が生まれるのだ。室内の洋灯は四つ。生まれた日も四つ同時だ。


「それで、あの姫君はどうしている?」

「衣装殿へご案内したところ、大規模な清掃をするのだと聞き分けず、仕方なく了承いたしました。それと、夢魔一人と虎獣魔……を手名付けて、やりたい放題です!」

「あの白角種ホワイトホーンを手名付けてくれたのなら御の字よな。護衛を割かなくても済む」

「姫君に護衛など必要かな? 四分程とは言え、剣の魔王と渡り合ったのだぞ?」

「ほうほう! それは是非に拝見しとうものでしたな!」

「あんな小娘、魔王様が本気を出せば数秒で地に伏すことでしょう」


 嫌いな女の話しで盛り上がる主君と師匠に魔女は冷や水を浴びせてみる。


「姫君も本気だとは言い難かったがな。そもそも勇者の力とやらも不安定なのか、とても制御できている風でもなかったしな。それに途中からは完全に運動でもしているように遊んでいた。この俺を前にな」

「末恐ろしい娘子ですな」

「大したことなどありません!」


 珍しく声を荒げる様子が可愛らしく、賢人は少し乱暴に金色の髪を撫で回す。


「コーディよ、始まりの獣はどこへ行く?」

「……始まりの獣は獲物を狩りて、二つの大河を渡ります」

「大河を守護する番人への供物はなんとする?」

「獲物の尾を捧げます」

「ではもう片方の番人にはどうする?」

「獲物の肉を捧げます」

「ほうほう。しかして大河を渡り、先で待つ女神の天秤には何を捧げる?」

「身と尊厳を」

「最後に残ったものは如何に?」

「知識と記憶です」

「なるほどの。コーディ、お主は変わらんな」


 魔女は帽子を目深に被って、拗ねたように俯いてしまう。


「魔術師の問答か? おもしろいな」

「心構えの再認や、己が欲望を浮き彫りにするためのものでしてな。十二の設問を自由に組み合わせて、感情や目的を調整するもの。今のは最も基本的な問いですな」

「その心はどう出たのだ?」

「最後に残ったものが知識と記憶。要はこの娘は根っからの勉強好きじゃて。今少し本質を視ることができれば次代の賢者には最も相応じゃろうて」

「と言う事らしいぞ、コーディニアス」


 魔女は畏まって、「身に余る光栄です」深く身を折った。


「それで他には?」

 魔王が次を促す。お遊びはなしにしての仕事の時間だ。


「国境沿いへの変化は軽微。内々に人員や物資が増えてきてはおります」

「示威行為にまでは至らないか」

「やはりあの娘を連れてきたことが事態を悪化させたものと……」

「結果は変わらんよ。早いか遅いかの差異だけだ」


 魔王の同意が得られなかったが魔女は表情にも出さない。それくらいの感情制御はできるが、隣に師がいることで、より一層根性の密度を薄めていた。


「その内にわかるさ。手詰まりの俺たちにとって、あの姫君が希望たる所以がな」

「希望……ですか?」


 信頼に足る主君と偉大なる師の考えがおかしいと感じたことはない。

 しかし、あの小娘が魔王国にとって希望たり得るようにも思えない。

 初見から言うこと、やること、成すことの総てが気に入らない。


「怖れながら」魔女は声を張り上げて言葉を紡ぐ「我ら臣下はいつでもデモナリアのために身を賭すことができます。ご命令さえ下されば、わたしはいつでも」

「それは駄目だと以前にも言ったはずだぞ、コーディニアス」

「以前とはすでに状況が異なります! 世界連合の動きは完全に我が国の制圧を目的とするものです。早急に行動を起こさねば!」

「俺たちが行動を起こせば、連中に大義名分をくれてやることになる。情報操作と国交封鎖での兵糧攻めで国力は疲弊している。龍呪毒けがれは毒でしかないが、代わりに得た強靭な肉体や異能が抑止力の一部を担ってくれている。時間は確かに差し迫っている。可能な限りの備えもある。お前は冷静に状況を分析してくれていればいい」


 魔王様は甘すぎます……心の中で、消え入るように呟いて、魔女は拳を握る。


「俺が甘いと、そう思っているんだなコーディニアス?」

「ふぁ!?」


 漆黒の美丈夫の手が、頬に触れる。剣を振り慣れた硬くて大きな、褐色の掌に魔女は動揺で震えそうになる。


「これでも為政者として考えていはいるよ。妙手は妙手、奇策は奇策ではあるがな。だからもう少し信じてくれ。俺にはお前の助言が必要だ」


 答えなど「はい」以外には存在しない。揺さぶられた感情の波紋が涙を溢れさせた。止める術はない。

 すぐ隣で見守っていたはずの老賢人は音ひとつなく、入室と同様に闇に溶け込んでいく。

ペース落ちてます(;>_<;)

自覚してます。

週一投稿くらいになるかもしれませんが、がんばりますね!

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