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新訳/ひめまおっ!?~さらわれたお姫様が魔王になって、世界を幸せにするために奮闘する物語~  作者: クグツ。(創作処かいらい工房)
第一章 氷の母国と親友を救おう!~黄金の円環、破壊の姫と剣の魔王「変わっていたのはわたくしも同じ。演じるのならば自由なるわたくしを」
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第九声「わたくしはまだ負けを認めておりませんが?」

 巨鳥を飛び立たせて、剣の魔王は王女の寝室を仰ぎ見た。 

 逆光を浴びる小さな影が堂々と彼を見ていた。

 さて、勇気ある王女はいかに雪原へと降り立つのかと、心を躍らせる。  

 シーツをロープ代わりに垂らすのはお約束だが、遥かに長さが足りるまい。寝台に乗ったままで飛び出して来ようにも、侍女が横たわったままだ。 あるいは傘でも差したままでふわりふわりと降下するのだろうか。

 どれも否だ。王女は何を身に着けることもなく、身一つで飛び降りた。


「常識範囲内の非常識さだ! しかしどうする、小さな姫君よ?」雪原に墜ちて人型の穴が空いたでは済むはずがない。よもや投身自死を選ぶとも思えない。羽織ったガウンで風を受けるような素振りもない。不完全な力の行使すらしていない。


「オジさまぁぁぁぁぁっ!」  甲高い絶叫とともに、魔王のいる雪原が大きく波打って、小高い丘を形成した。大きく、更に大きく山となる雪原。雪は割れて、さすがの魔王も、窮地に現れた巨鳥の脚を掴んで空へと逃れた。


 まさにその瞬間。巨大な雪山が跳躍する。

 落下王女との距離を併せて、まるで背に乗せるように。雪と氷に塗れて長く白い毛が振り乱される。ルインネイスは毛を掴んで衝撃に備えた。

 地鳴りと言うよりは地震。衝撃音が暗い天、黄金の円環の下に鳴り響いた。王女を受け止め背に乗せた生物は身震いをして、毛だらけの本性を露わにする。


「ご紹介いたします。アイセンブルグが大いなる守護者にして、わたくしのもう一人の幼なじみです」

「まったく飽きさせないな姫君! 氷竜をも従えるか!」

「オジさまは言わばわたくしの騎士です。決して誰にも遅れは取りませんことよ」

「であろう。竜殺しなど、それこそ協会の勇者でもなければ叶わない。つまりは、俺が相手にするのは氷竜を従えた竜殺しというわけか」

「臆されましたか、魔王様?」

「面白い!」


 片手で脚を掴んだまま、魔王は黒い剣を生んだ。中央に赤い筋の浮かぶ禍々しくも高貴なる刃。急降下の勢いのまま、風よりも速く迫る。

 氷竜も吹雪を吐き出して迎撃するが、黒剣の薙ぎ払いは吹雪をも両断した。が、氷竜の吐息ブレスも息が長い。巻き起こる吹雪に敵わず、巨鳥が再度空へと舞いあがった。


古竜エルダーの威力は言うまでもないが、よくもここまで懐かせたものだ」

 大きく旋回して様子を伺う。吹雪吐息ブリザードがこないのは王女の入れ智恵であろう。 「巨鳥ロック、氷竜をかき回してやれ。おそらくは無視されるだろうが、目の前をチョロチョロしながら全力で回避していろ」 主人の言葉に巨鳥は鳴き返す。


「いい子だ。では、接近戦といこうか姫君よ!」

 またの急降下。

 氷竜も吹雪吐息ブリザードで応戦。

 先の展開と異なるのは、降下中に魔王が飛び降りたことだ。狙いは氷竜の、背にいる小さな王女。

 氷竜も身を捩るが、魔王の背に生まれた黒翼が彼を自在に運ぶ。

 左手に銀扇、右手には抜き放たれた小剣。両得物を十字交差させ、黒剣の一撃を緩衝防御。

 剣の魔王と呼ばれる男の膂力と勢いは、容易に王女を吹き飛ばした。


 巨鳥も主の言いつけを守り、氷竜の意識を散らすことに尽力する。顔ばかりを狙い、常に視界を遮り続ける。吹雪吐息ブリザードが来る前に上昇で回避。

 これで実質は、一対一だ。


「年頃のか弱い乙女に、なんと重い剣撃を下さいますことやら」口の中の雪を吐き出しながら、ルインネイスは髪を整える。  


「氷竜を従えるようなか弱さか。アイセンブルグも実に大変な国だと言えるな。大公あたりの苦労が知れるというものだ」

「あちらの叔父様には、まあ、ご苦労をかけていたようですね」

「姫君は本来、破壊者こわすものだ。どれだけ巧く構築しようと壊してしまう。君の所為ではなく、生まれ持った資質のようなものだ」

「魔王様はやはり冷静なお方ですわね」

「今しがた邂逅したばかりなのにか?」

「ええ。わたくしがあなたの力とお立場であれば、鬱屈した現状を打破しようとして色々としでかしていたでしょうね」

「人など完全ではない。自らが出来得ることでしか解決を図ることはできないほどにな」

「ええ。現状いまはそれが剣というだけのことですわね!」

「その通りだ!」


 黒い剣が大きく振るわれるのを、いなして、流す。  

 本気であれば王女など容易く両断されている。単調ならざる魔王の技量にルインネイスは全身の冷たさをも忘れて、心を燃やしていた。


「受けるばかりでは芸がないな。実技の方は口だけか?」

「まさか。わたくしはこちらも大得意です!」


 子供の用に目を輝かせる。大げさな立ち回りで魔王の剣撃をかい潜っていたせいで新雪が踏み荒らされる。

 だからこそ、王女は駆け出した。

 踏み固まった箇所であれば、それなりの軌道はとれる。

 剣を避け流しながら、閉じた銀扇で打撃を繰り出す。狙うのは相手の利き腕だ。ただ一撃では何の効果もないが、剣線を読み、癖を読み、二度、三度を同じ個所に繰り出した。


「賢しい戦術だな。嫌いではないぞ!」

「まだまだこれからですわ!」


 魔王は剣速をつり上げた。単純に倍ほどは異なるが、ルインネイスはなんら変わらずに回避を続けた。すでに癖を見抜いて、軌道を読み切っている故だ。  

 さらに、小剣と銀扇での攻防速度が速まる。手加減をしていたと言うよりは、やっと体が温まってきたのだ。

 黒剣を捌いていた小剣が、いつの間にか銀扇と入れ替わる。左右の得物が変化したことで、ルインネイスの動きが総て反転したようなものだ。 剣の魔王が動きを掴んでいたとしても、王女の動きが少し速い。


「これならどうだ?」

 背部の黒翼が幾度かはばたいたことで突風が巻き起こり、強風の壁を作り出す。雪や氷も混じって吹雪の壁を形成した。


「そんな使い方もできますのね! わたくしも欲しいです!」

「翼とは本来において風を掴むためのものだからな。本領と言うものだ」

「あらあら魔王様、それを仰るならば、吹雪はオジさまの本分ですわよ!」

 魔王の背後よりの猛吹雪。気が付いたときには、翼が強風に煽られて、凍りついていた。


「いかがですか?」

「氷竜を忘れていたわけではないんだがな」

「罠を張るのは女の嗜みですわ」

「嗜みで罠を張られては敵わんよ」

 魔王が黒翼を一旦解除したことで凍結は解ける。


「ならば趣向を変えようか!」魔王が黒剣の赤い中央を撫でると、刀身全体が真紅に明滅を繰り返す。

「君の本質が破壊者こわすものだとすれば、俺のは焼却者もやすものだ。何もかもを焼き尽くす。例え極寒の大地であろうがな!」  

 

 紅剣を大地に突き立てる。刹那を遅れて、膨大な熱と蒸気が噴出し、総ての視界を奪い去ってしまう。雪原の一部は融け落ちて剥き出しの地面が程よく温い泥沼へと変貌する。


「なんと凄まじい。これが噂に聞く温泉というものでしょうか!」  

 冷え切った足裏、全身が熱を取り戻したことで王女の雪肌も赤みを取り戻す。


「喜ぶのは構わないが、これで氷竜の吐息は使えまい。姫君においても目隠し同然だ」

「確かにお声だけでは居場所までを特定できませんわね。でも」


 剣が迫ることで蒸気の流れが変わる。ほとんど野生の勘に等しい。僅かな変化を見逃さずに、ルインは一撃に備えて十字防御の姿勢を取った!  

 黒剣は受け止めるに至ったが、それは予想以上に軽く、そのまま地面に転がってしまう。  

 王女がいぶかしさに思いを巡らせるより早く、小さな体は美丈夫の小脇に抱えられていた。


「俺の勝ちだな」

「わたくしはまだ負けを認めておりませんが?」

「ほう。ではどうする、小さな姫君よ?」魔王は可笑しそうにルインネイスの鼻をつまんでみる。 「ふわぁ~やめれくらはい! へんらこえひはひはふ!」

「捕虜は大人しく従うものではないか?」

 手足をじたばたさせて王女は抗議の声を上げていた!


「もっと、もっと物語的どらまちっくな結末をお願いします! こんな子供をあやすような攫われかたは断固拒否します! 舌を噛みちぎりますよ!」  

 涙目で睨み付ける王女。

 魔王は「やれやれ」とルインネイスを解放した。


「わかった。仕切り直しだ。ちょうど観覧客ギャラリーも増えてきたことでもあるしな」

「ですわね! 燃えてきますわ!」  

 王宮中の窓という窓に明かりが灯る。多くの人影が王女と魔王の戦いを見守っているのだ。


「しかし、さっさと幕を引くぞ。部下を巻き込むのは本意ではないだろう?」

「ええ、勿論ですわ! わたくしが勝手幕を引かせて頂きます!」

「面白い!」


 魔王が黒翼にて宙を舞う。

 王女も負けじと氷竜の背に乗り、吐息を連射。  

 紅い熱剣が万年雪を蒸気に変えては、終に王女も不完全な力を噴出して空中の魔王に迫る。


 剣戟が響く。

 真剣なる交錯。  

 なれど命の取り合いではなく、意地の張り合い。  

 もしくは演武。  

 互いの技量を確かめ合い、楽しむためのじゃれ合いだ。

 ルインネイスの聖なる勇者の力は高まり、一時的に魔王とも互角のやり取りを許容させたが、最後はあっけなく力尽きる。


「とんだ茶番だな」やはり魔王は可笑しそうに笑っていた。  

 再度、王女を小脇に抱えると、巨鳥の背に身を預ける。

 捨て台詞でも言うべきかと魔王は考じ、結局は 「ルインネイス王女は頂いていくぞ! この小国には過ぎた宝であるしな。このデモナリアが有効活用させてもらうことにする」


 王女を取り返さんと雪崩れ込む兵士たちを嘲笑うように、魔王は巨鳥と共に黄金の円環に向かい、闇に消え行った。

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