第二話 「世界を焼いた男」
モクレンは後ろから掛けられた声に振り返る。振り返らなかった方がよかったのかもしれない。いや、振り返るべきではなかった。
後ろからモクレンに声を掛けた人物はモクレンが振り返るとモクレンに近づいてくる。
女性とは言わないまでも中性的で綺麗に整った顔をしている。その立ち振る舞い、鮮やかな髪も、彼がどこかの貴族みたいだ。この時代に貴族などいないのだが。
変わった点といえば前髪の一束だけ髪を青く染めているぐらいだ。全く意味が分からない。
意味がわからなかったが、そもそもこの人物は初めて会った時から意味がわからなかったのである。だから、気にする必要などないのである。
その青年は優しく微笑み、どこか優雅に。
「やあ、モクレン君じゃないか。昼食でもとりにいくのかい?」
コレだ…。
いつの時代の貴族の喋り方なんだ。この喋り方も気に入らないが、この男の意味のわからなさはなにも喋り方だけに留まらないのだ。
これがこの男…『夜村 石蕗』なのだ。
「よう…夜村か。そうだけど」
素っ気なく返事をする。
これ以上喋るなという意味を込めて。
だが、後悔した。俺は忘れていたのだ、この男の性格の図太さを――
「よかったら僕もご一緒しても構わないかい?」
笑顔で言う。
何故、わざわざそんな笑顔で言う必要があるのか。
「いや…俺ら購買に行くから付いてこなくていいよ。」
流石にこたえただろう。なかなかド直球に言ったぞ!
「付いてくるな」と、流石に通じたと思いながら俺は夜村から背を向け立ち去ろうと歩みだした時だった。
「流石はモクレンくん、ボクが無駄足にならない様に配慮までしてくれるとは、ありがとう。だけど遠慮は要らないよ。モクレンくん、ボクも購買に行こう。」
…。
なん…だと…?
遠慮?こいつはバカなのか?否だった、バカだ。
なにを言ってるんだこの男は何故こちらの意図を汲んでくれないのだ!
この男、夜村という男は初めて会った時から何故か春間 木蓮に付きまとうのだ。
その理由はわかっていない。
けれど、この流れも毎日の様にしていた為、もはや恒例行事と言えよう。なので夜村が付いてくる事は誰も触れないのだ。ヒイラギに至っては「またかよ」と言っているぐらいだ。気に入らない。
購買に着くと早速ヒイラギと御飯を買い、近くの机に座る事にした。
やっぱり、焼きそばパンは売れきりだった。
大体予想はついていた…というより、いつものことなのでヒイラギもがっかりはしていなかったが。こいつは食べれたらなんでもいいんじゃないのだろうか。
「そういえば、いよいよ明日だな!」
ヒイラギがまるで遠足を楽しみにしている子供の様に話す。
「ああ、魔法適性の事だね。」
夜村がそれに答える。
そう…春間 木蓮が普通じゃない理由。魔法である。
この世界には魔法というものがある。
「でもすごいよなー」
咄嗟にそう思った。
「なにが?」
「ん?いや…魔法って100年より前には無かったんだろう。」
そう魔法というのは100年程前に発見された未知の力の事である。
今のこの現代において魔法とは科学と同等に社会へ、人類へ貢献してくれているものであり、もはや、当たり前のものだ。
「確かに…ボクも凄いと思うよ。見つけた人は本当にすごい。」
今では普通に使っている魔法だが、これが無かった時代にどうやって魔法というものを発見したかは気になるものであるし、凄い事でもある。けれど…。
「でも…魔法を見つけただけで終わっていたらよかったのにね。」
夜村がどこか遠くを見ながらそう呟く。
そう、魔法を見つけただけでは終わらなかったのだ。
魔法を発見したのはまだ十代の青年だったと言われている。だが、その青年はその未知の力を振るい人々に牙を剥けたのだ。
人々を殺め…国を焼き…世界を崩壊寸前にまで追いやったと聞く、たった一人の青年の手によって。
未だにかつて世界中に爪痕を残したこの大事件の事は語られている。
「世界を崩壊寸前ってどうやったんだろうな。」
少し興味が出てきたので歴史が好きな夜村に聞いてみる事にしたのだ。授業中に居眠りをすることが多いモクレンは何かと夜村に勉強など歴史を教えてもらうことが多い。夜村のことは苦手だが。
「ボクも詳しくは知らないんだよ。なにせ今の技術を超越した力を持っていたとしか考えられないからね。」
「今の技術がそんな昔の技術に負けるの?」
技術というものは日々成長していくものではないのだろうか?それがひと昔前の技術に負けるのだろうか。
「ボクもわからないんだよ。ロストテクノロジーとしか。」
確かに100年もの前の真実の出来事など到底わかるはずもなく、残っている本などにも本当の事が書いているかさえわからないのだから。
たった一人で世界を相手にしたと言うのがそもそも胡散臭いというものである。当時でも人口は七十億はいたはず、たった一人で、それを相手にしたというのだろうか。
「でもさ、それに勝った英雄って何者なんだよ」
100年前に起こった悲劇――
通称「史上最悪の大事件」
魔法を発見したその青年はその力を使い、国を世界を蹂躙し絶望へと追い込んだ。
だが、そこに英雄『水月 アヤメ』が現れ悪魔と呼ばれた青年を封印したと言われている。
そして、その後に水月 アヤメがこれ以上魔法という力を悪用するものが現れない様にと造った学校がこの魔法学校なのだ。
今思えば一つ疑問がある。
「どうして殺さなかったんだろう。」
考えていた事がつい言葉に出てしまったみたいだ。それに気付いた夜村が答える。
「まだよくは分かっていないのだけど、一説によると殺せなっかたから封印したっていう説もあるんだよ。」
「殺せなかった…そんなに強っかたとか?」
「本当かはわからないけど、魔法を発見した青年は不死身だったと言われているんだ。」
…!
不死身。まさか…人類の夢とまで言われているのに。
それに、封印といえば、ソレは完全に復活フラグだ。
ともかく、過去の出来事なので恐らく噂が一人歩きしたのだろう。不死身なんてものは今の魔法学でもわかっていないし、実現できていないオカルトだ。
などと考えていると何か気になる視線を感じた。
「うわっ!びっくりした。なんでこっちをずっと見てるんだよ。」
ヒイラギがモクレンのほうをずっと見ていたのだ。無言で…。軽く恐怖だ。トラウマになると思った。
「おれ難しい話わかんねぇよ!」
全くこれだから脳筋は…
「全くこれだから脳筋は…」
「いや!言葉にでてる!思った事、言葉にでてるからな!」
おっと俺とした事が言葉に出ていたみたいだ。ヒイラギに指摘されてから気が付く。
「悪い…まあ、とりあえず食おうぜ。」
適当なフォローで済ましておく。
俺は袋を開けて中に入ってあるパンを取り出しながら前に夜村に言われた話を思い出す。
神来椿。
十代という若さで魔法を発見して、それを改良。誰にでも扱えるようにして、魔法学を設立した。今の魔法学があるのは神来椿のおかげなのだ。
けれど、彼はその力を使い世界に牙をむいたのだ。本当に魔法というものはすごいが使い方を間違えれば悪にだってなるのだ。
「まあでもよー、明日の魔法適性で自分の魔法がわかるんだろう。楽しみだなー。」
「そうだね、明日の魔法適性で魔力値と適性魔法がわかるからね。」
魔法というのは誰でも使えるというわけではない。
魔力という魔法を出す為に必要な力を持って生まれた者にしか使えないのだ。
この魔力というのも量がありその量も人それぞればらつきがあるのだ。
その魔力の量の事を魔力値と呼ぶ、簡単に言えばゲームで言うところのMPみたいなものである。
魔力値というのは生まれた時に決まっており元々もって生まれた魔力値以上の数値にはどんな努力をしてもならないのだ。というよりも努力のしようがないのだ。
そしてもう一つが適性魔法である。
魔法というのはいくつか種類があり、かといって全ての魔法を使える訳ではない。稀に全ての魔法を使える天才もいるのだが。
この適正魔法というのにも生まれた時から決まっており、あとから使える種類が増えるなどということはない。
明日の「魔法適正」ではその適正魔法と魔力値を調べて、ようやく自分の魔法のステータスが分かるのだ。
この学校に入ったものの、魔力がある、と言われただけなのでどんな魔法が使えるかまだ分かっていないのだ。
だから、まだ魔法も使っていないのだ。何が魔法学校か。でも、明日の魔法適正を受ければようやく魔法の授業も受けれるようになり、魔法も使えるようになる。
そう考えるとやはり、楽しみになる。
昼食を食べ終えたが、まだ時間があるので物知りな夜村にいろいろ聞いてみよう。
授業を寝ていたので、実は魔法の事をあまりよく知らないのだ。
魔法解説
【灯り/ライト】
創作者:神来椿 創作年:1982年(日本)
第二位階 白魔法
小さな灯りを点ける。
――火ではなく、灯りを点けるこの魔法は魔法学の根本を変えた――




