第一話 「春眠暁ヲ覚ズ」
何度―この空へ―を伸―す
幾―伸ば――とも―きはしない――うの―
そ―――かの者は手を伸ば―のだ――
―――、この蒼天を堕とす為に
――???――
崩れゆく建物。響き渡る悲鳴。無残にも飛び散っている人だったもの。。
見渡す限りそこには屍しかなく、他にあるのは崩壊ばかりだ。
瓦礫には幾つもの死体が転がっており、生あるものはこの現状に絶望するばかりだ。
ここはどこだろう。わからない。
来た事がない場所だ。
でも不思議と目の前の地獄絵図を見ても動揺はしなかった。何故こんなにも落ち着いていられるのだろう。
普通ならば発狂してもおかしくない状況なのに何故かものすごく冷静でいられる。それはおかしいのだろうか。誰もが狂っている世界で冷静でいることは、もはや狂っているのではないだろうか。
目の前に広がる絶望。誰もが狂っている。わからないままただただ叫んでいる者。動けなくなりただ震えて今でも消えかけている生にしがみつく者。
ふと、顔を上げる。
そこにはこの目に映る絶望に不釣り合いなぐらい綺麗で膨大な空があった。まるで全てを見下してるかのような。
一体何が起こったというのだ。
ただ、冷静にそう考えることしかできなかった。
一人の青年が目に映る。
この広がる絶望の中にあった異質なその青年を見る。
生あるものはこの現状に絶望しているのに、この青年はなにかまた別のものに絶望し、悲しんでいるように思えた。
そんなことを思いながら青年を凝視していると、青年と目があった。
…!
知っている。
どこかで、この青年に会ったことが会っただろうか?
わからない、だけど知っている。
今思えばこの状況も何処となく知っている。
何故知っているのかもわからない。何故いままで思い出せなっかたのかもわからない。
一体いつこの景色を見たのだろうか?わからない、思い出せない。
一体いつ、この青年に会ったのだろう。
これ程までに絶望に染まった景色を、人々を忘れることなどあるのだろうか。
ならば、何故忘れていたのだろう。
それすらもわからない。
思い出せない。
ここはどこだろうか――。
青年はこちらに気付き、体をこちらへと向ける。
女性のように細く、けれど適度に鍛え上げられた体。
全てを飲み込むかのように昏く、鮮明に彩られた漆黒の髪。
触れることさえ戸惑ってしまうほど美しい処女雪のような肌。
この二色のみで形成されたのを引き立てるかの様に服もまた黒い。
立っている姿でさえ芸術品でも見ているかのよう。
純白と漆黒の二色のみで形成されている、圧倒的なまでもの美の暴力だ。
全てを見透かした様な目をしていた。
だけどどこか切なそうで、まるで世界に絶望でもしてしまったかのような。
いや、そうなのだろう。
彼はもう世界に絶望してしまったのだろう。
彼の眼には希望という光が宿っていないのだから。
そう、それはとても切ないことで――
悲しいことで――
だけど、その切なさでさえ彼を引き立て、さらに人智を超えた美しさを創っているよう。
どれほどの哀しみを味わえばそれほどの絶望に身を包むことになるのだろう。
それはきっと誰にも分らないのだろう。
その青年はなにかを抱えていた。
人だ。人を抱えていた。
否…死体という方が正しいのかもしれない。
なにがあったのかはわからない。
だが、彼にとってその人物はとても偉大で、とても愛おしかった人だという事は第三者の目でもわかるほど、その青年には悲しみが溢れていた。
抱きしめ方、その人に向ける視線さえとてもやさしいものなのだから。
その悲しみもすぐに怒りへと変わる。
怒りの先は彼の前にいる集団。なんの組織かはわからない。
彼が1人で戦っていたとすればすごいものだ。
なぜならばその集団はかなりの人数がいる。目に映るだけでも、おそらく五十は越えているだろう。
けれど、ほとんどの者が屍へ姿を変えているのだ。
この惨事も彼のてによって引き起こされたのかもしれない。
すると、その青年は優しく微笑み、こちらを見る。それはとても切なそうで――
とても愛おしそうで――
とても――
そんな貴方が私は――
突如芽生えた訳の分からない感情。
なんだ?今のは、一体なにを。
だけど、時は待ってはくれない。
青年は今にでも消えそうな擦れた声で言う。
「――――――」
…!
まただ。いつも聞こえない。
…?
何故聞こえないのが分かったのだろう。
また?前にも見たのだろうか。
何度もこの光景を見たのだろうか。何故か聞こえないのが分かっていたのだ。
どうしてわかっていたのかもわからない。
だけど、なぜか感覚でわかるのだ。まるで何度も見たことがあるかのように。
――ああ、もう終わるんだ。
この時もまた何故かこの景色がもう終わるのかがわかる。
だんだんと意識が遠のいていくのがわかる。
瞼が重くなっていく。闇がすべてを包み込んでくる。
何か忘れてはいけない事を忘れている気がする。
これは過去の記憶なのだろうか。
それとも未来の記憶なのだろうか。
一体誰の記憶なのだろうか。
――わからない。
だけどいつもの様に目を覚ませば忘れてしまうのだ。忘れたくない。
いつも同じ夢を見る。
まるで忘れてはいけないと言われているかの様に。
意識が薄れていく。
だんだんと。
そして、闇がすべてを飲み込むのだ。
***********
目を覚ます、すごく眠い。
なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。でも、思い出せない。
忘れてはいけなかったような、そんな思いがあったような、そんな夢だった。
でも、まあ忘れるということ別段重要な夢でもなかったのだろう。
そう考えなければ気になって仕方がないというものだ。
そんな事を考え窓を見る。
暖かさが伝わってくる。熱すぎないちょうどいい暖かさだ。
眠気を継続させる暖かさだ。微かに肌を撫でるかのように通り過ぎていく風に桜が飛ばされていく。
春の太陽は何故こんなにも優しいのだろう。まるでまだ寝ていてもいいよと、言わんばかりの気持ち良さなのだ。
「春眠暁ヲ覚ズ」とはよく言ったものだ。
そんな理屈じみた屁理屈…いわば言い訳を考えていた。
誰に訴えているわけもないのだが…。
『春間 木蓮』。
日本に住むごく平凡に生き、ごく平凡を愛する高校一年生だ。
こういう何気ない日常が好きだ。だから、普通なのが嫌だとかは特にはない。
まあ、ある一点は普通ではないのだけれど。そのある一点は、また今度でいいだろう。
おそらくすぐにでもわかることになるのだろうから。
そんなことよりも、太陽さんも寝てていいと言っているのだから二度寝としゃれこむとしよう。
バシッ!
「いてぇっ!」
突如発生した綺麗な音に驚き、突如感じた後頭部の痛みでなにが起こったのか把握した。
「まだ寝てんのかよ…」
そう呆れながら、でもどこか楽しげに話す今起きた痛みの原因がいた。
その青年は短髪でとても爽やかそうだが、髪の色が金髪な故に不良と思われて生徒多数から距離を置かれているというかわいそうな男『川崎 柊』。
覚えにくい名前をしている。人の事は言えないが。
だけど、こう…木蓮だと難しいがカタカナでモクレンだとわかりやすい気もする。
今はそんなことはどうでもいいのだ。
それよりもまず、このバカ野郎に言わなければいけないことがあるからだ。
「バカ野郎!急に叩くんじゃねぇよ!」
はっきりいって叩かれた怒りよりも二度寝しようとした瞬間に起こされた怒りの方が大きい。
世間では八つ当たりなどというらしいがそんなこと知ったこったない。
この馬鹿野郎にはあとで二度寝のなんたるかを説明してやらねばならん。
「まあまあそんな怒んなって!そんな事よりさ、メシいこうぜ」
全くこの男はいつもこれだ。
自分がどれほどの過ちを犯したか全く分かっていない。
そんな事よりメシだと…!
全く…これだから能天気野郎はきら――
…
……
…待てよ、メシと言ったな。
昼になったのか。
学校に来てからは元気だったのだが、教室に入り席に着くと突如として謎の睡魔に襲われ眠りについたのだ。
確かにそう考えると我ながらによく寝たもんだと思う。
ヒイラギはそれを起こしてくれた。
結果的には起こしてくれたのだから叩いた事にこれ以上はなにも言わないでおこう。
というのも言い訳で、後から冷静に考えてみると自分の方が悪いと分かったのでそういう事にした。
社会というのはそういうものなのだ。
社会の社の文字も知らない入学したての高校一年生なのだが。
食堂へと向かう。
ヒイラギと俺はいつも弁当を作ってくれる親も、可愛い彼女もいないので持ってきていないのだ。
ちょっと悲しくなってきた。
この学校の食堂は化学兵器でも作っているのかと思うほど不味いのだ。入学してすぐにヒイラギと俺はその化学兵器の餌食となり、二度と食べない事を誓ったのだ。
それでか食堂は比較的に人が少ないのだ。
食堂の中にある売店で食い物を買い、食堂で食べるのだ。
「今日はお前の好きな焼きそばパンあるかな?」
「どうだろな。ありゃ人気だかんな。」
ヒイラギの好物である焼きそばパンは人気が高く早くいかないとすぐになくなってしまうのだ。
ほとんど俺の寝過ぎのせいで売り切れになっているのだが。
俺が弱いのではなく、睡魔が強すぎるのだ。
「ヒイラギ、どうして先に焼きそばパン買ってこないんだ?俺と一緒だと売り切れちまうだろ」
「別にかまわねぇよ。どうせモクレンも行くんなら一緒に行った方がお得じゃーねぇか」
なんの得かはわからないが、逆に損をしている気もするのだがそんなことは言わない。ヒイラギはいいやつだ。
いつも俺のせいで焼きそばパンが無くなっていても文句の一つも言われたことがない。
初めて声をかけられたのもヒイラギだった。
入学式の日に知り合いがいない俺に突っかかってきたんだった。最初は不良に絡まれたのかと思い、かなり焦ったものだ。
でも、しゃべってみて、あれ?こいついいやつじゃね?と、なって仲良くなったというわけだが。
不器用な男である。
「やあ、モクレン君。」
後ろから声が掛かり、声の主の方を見やる。
一人の学生が立っていた。
魔法解説
【種火/ファイア】
創作者:不明 創作年:不明
第一位階 自然魔法
小さな火を生み出す。
比較的簡単な魔法。
――その火は今にも消えてしまいそうなか弱いものだが、何にでもなれる力をもっている――




