↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

第5話 気まぐれな再会

初めて魔法が使えてから、数日後。


「やっと安定してランプが点くようになったお……」

「お疲れー。これで全員ランプを点けられるようになったね」


両手を投げ出し、倒れ込むようにベッドに体を預ける大樹。

雄也は少し離れた場所にある椅子に通常とは逆方向で座り、背もたれに顎を乗せて手を叩く。


「てか、地味にこれ難しいよね?」

「確かになぁ。魔法使いが時間をかけて集中しないとでかい魔法が使えない気持ちが分かった。古代魔法使うのに詠唱かかり過ぎ、遅すぎ使えねーって貶してきた魔女っ子達に謝りたい気分だわ」


雄也はベッドの横に置かれたランタンの方へと手の平を向け、『消えろ』と念じながら、宙を掴み手を払う。すると、大樹が点けたランタンの火が消え、煙だけが細く立ち上った。

その様子を見届けて一つ頷く雄也。

再び払った手をランタンに向けて、ランタンに火が付いているイメージをしながら『燃えろ』と強く念じると、ランタンの中にある蝋に小さな火が灯って揺らめいた。

その様子を横目で見ながら、大樹はため息を一つつく。


「雄也はRPG好きだもんねー。僕は全然そういうのやらないから分からないけど」

「RPGはいいよー。大樹はもう少し頭を使うべきだ。ですよね、榊さん?」


背後にいる耕介に顎を上げ、首を捻って問いかける。だが、耕介の反応はない。

いくら今日が休みとはいえ、元の世界とは違って規則正しい生活をしている3人。

そんな中でも昼ご飯時まで寝ていた耕介が、まだ日の暮れていない今の時間に寝てるとは思えず、どうしたのだろうと背後にいる耕介へと体ごと振り返った。


「榊さん? どうしたんですか?」


ソファーで仰向けになり組んだ手を枕にして、天井を見つめながら動かない耕介。


「榊さん?」

「ん? おー何?」


声をかけられた事に今気が付いたようで、耕介は呆けた顔をして雄也に応えた。


「悪い。考えこんでた」

「何を考えてたんですか?」

「あーイメージ力で魔法が使えるなら、もう上級魔法とか使えるんじゃないかなって、な」

「うーん……どうなんでしょうねー」

「そんでさ、あれ、やってみたいんだよね。右手に火を、左手に冷気を、ってやる消滅の呪文」

「あーはいはい! ありましたね! おれは傘を持って居合の構えで何とかスラッシュとか昔よくやりましたわー!」

「だよねー! やるよねー!! 男のロマンだよねー。というわけで物は試しだ。やってみよう」

「せめて何かあったらマズイんで、外でやりましょうよ」

「そうだな。いきなり出来ちゃったら何か消滅させかねないし。ほら、行くぞ大塚君」

「ほーい」


3人は部屋を出て、庭先に向かった。だが、その数十分後──。


「ダメ。無理。っていうか火を右手に、冷気を左手にって熱い、冷たいだけじゃ想像つかん。イメージって言われても全然イメージ湧かない」


まずはやってみようと思い、始めたが30回を超えた頃、耕介は早々に諦めて投げ出した。


「榊さんって仕組みを理解して使う理系の頭してますからねー」

「そして、そもそも攻撃魔法を覚えていない事に気が付いた」

「まー確かに、今は最低限生活する上で必要な魔法しか教えられていませんからねー」

「あはは、こーすけ先輩抜けてるー」

「常日頃から抜けている君にだけは言われたくないぞ、大塚君」


日が高くなる前は運動をし、昼食をとった後はひたすら魔法を実践する日々。

まだ一週間と経っていない中で、すでに課された宿題をその場で実践してしまう耕介は、習う魔法に飽きを見せ、こうして新しいことが出来ないのかを考えていた。

ちなみに昨日にやろうと言ったのは、某マンガの代名詞と言っても過言ではない技。

両手首をくっつけ、左腰にまで手を落とし、気合を込めてから、『波』という言葉と共に手を前に突き出す技。

いざやってみるも、失敗に終わった。

これは単なる技で、純粋な気合いや生体エネルギーが必要なんだ、つまりあれは魔法ではないのだ、と耕介が分析していたのは昨日の話。


「そもそも、戦闘用の魔法とか想像できん。この世界には魔物がワンサカいるんだろう? ストラが言っていたように、その魔物が燃える様をリアルに想像して実行に移すのか?」

「えーそんなの出来ないお……動物虐待とかにならないのかな?」

「ならないだろうけど、この世界の人間ではないおれ達には魔物を……その、殺すって抵抗ある、と思う。警備してる騎士も剣とか持ってたし、剣を使って……ってのもありますよね」

「んーなら、魔物を殺さずに悪王を倒すってのは?」

「倒すの定義が分からないからな。勇者である大塚君が悪王を消滅させなければこの世界を救えない、そして私たちは元の世界に帰れないのかもしれない」

「となると……もういっその事、どうせ手を汚すだろう大樹に全部魔物を押し付けますか」

「いや、その理屈はおかしい。っていうか僕だけ戦うとか嫌だお!」

「まー大塚君は真っ先に逃げ出しそうだからな。その心配には及ばないだろう」

「トラブル回避には自信があります」

「大樹、ほら、自分でキリッとか言いなよ」

「ま、無駄話は置いといて、ここを出て、魔物と戦って旅をするには死なないだけじゃない覚悟が必要なのかもしれないな」

「他に覚悟が必要なのですか?」

「命の奪い合い、ですか」


雄也の言葉に沈黙が訪れる。

魔法が使えて、魔物が出て、世界を救う。そんなゲームのような世界。ゲームや小説でしか知らない世界。

それがいざ目の前にある現実となると、平和な世界で死とはあまり関わらない世界に生きてきた3人は言葉を飲み込むしかない。

今は訓練や勉強と称してこのヴェネラルの城にいるが、ここを出て自分達で歩いて世界を回る、その時は必ず来る。しかもそれはそう遠くない。


空を見上げる雄也。それに倣って、2人も顔を上げた。

白い雲があり、蒼やオレンジに染まる空があり、心地の良い風があり、踏みしめる土がある。

上を見あげれば、今まで暮らしていた世界と何ら違わない、もうすぐ日が暮れる世界。

だが、見た目は同じでも、確かに違う場所に──今はいる。

平和な籠から放り出され、命の奪い合いが日常の野蛮な世界に。


「兄者と松永さんと神近先輩……本当に、この世界にいるのかな?」

「────あ!」

「どうした?」

「僕……この世界に来る前に、光の精霊に会ったんだよね」

「は!?」

「大塚君……なんでそういう事を今思い出すんだ……」

「忘れてた。テヘッ」

「テヘッ……じゃねーよ! 榊さん以上に抜けてるだろ! 抜けすぎだろ!!」

「で、会ってなんかあったのか? 何か言ってたか?」

「えーっと……悪王が復活するから世界を救って欲しいって」

「それはもう知ってるというか、それをしないと帰れないんだろ?」

「今は帰れないって言ってたはずだから……多分?」

「他には?」

「んー……あ、光の聖域に、光の精霊がいないって」


大樹の言葉に、雄也が固まる。


「榊さん。これって予想以上にまずいのでは?」

「光の聖域なんて、もろ重要な訪問場所なのに……そこに精霊がいない、のか。だが、大塚君が会ったのは光の精霊なのだろう? そいつは今どこに行ったんだ?」

「さぁ?」

「大樹……お前、ほんといい加減にしとけ?」

「だってこんな事になるなんて全然思わないじゃん!」

「あー…………冷静に考えて、光の精霊がいなくなって~とか言われて、何の疑いもなく信じているおれがいる」

「あれ? でも確かあの時の精霊って……悪王が復活したら世界が崩壊するって言ってたけど……今って復活したのかな?」

「明日ストラさんに聞いてみよう」

「それで、他には何か言ってたのか?」

「えーっと……ちょっと待って下さいね…………あ、そうだそうだ」

「今度は何!?」

「まぁ落ち着きたまえ。古室君」

「あの視聴覚室で見た光に手をかざした人は、みんなこっちに召喚されてるって」


今度こそ、2人は大樹の言葉に絶句した。


「会ってすぐ、とまでは言わないが、そういう情報は早く言おうな。大塚君。もうこっちに来て二週間くらいになるぞ」

「ダメだ。怒るとか叫ぶ気力がなくなった」

「えっと……ごめん」

「だが、捜索をお願いしていて正解だったな。他には何か言ってたのか覚えているか?」

「後は呪文みたいなのを言っただけですね。父と母がどーのって」

「んー……勇者になるための儀式か?」

「多分そうでしょうね」

「まぁいい。他に情報がなければ、これでやるべき事は本当に決まったな。早く力をつけて、旅にでも出て、残りの3人を見つけてやらないとな」

「ですね」


3人は改めて、決意する。

帰るために。まずは友人を見つけて合流する。その為に、魔法や戦う技術を身に付けようと。

そんな前向きの空気を壊すように、大樹の腹が鳴った。


「えっと、ほら、腹が減っては戦が出来ぬって言いますよね?」


あはは、と大樹は乾いた笑いを漏らす。

耕介と雄也は互いに視線をぶつけると、ため息をついた。




          ◇          ◇




「上級魔法を使いたい?」

「はい。手っ取り早く。ほら、早く世界救ったほうがいいですよね?」

「うーん……そうなんですが……」


耕介の明け透けな言葉に、返答を濁すストラ。

その態度に疑問を感じた雄也は、遠慮がちに尋ねる。


「おれ達じゃ明確なイメージが出来ないから無理……ですかね?」


魔法がない世界から来たのは、授業をやっている今を見れば明白。

争いがない場所から来たのは、体つきや昼前の実践訓練を見れば明白。

いくらイメージする力が強くても『現実化させるための説得力』がなければ上級魔法が使えないのではないか? 昨日耕介はそう分析した。


『例えば、漫画で見たことがないか? 想像したものを物質化する時、何でも切れる剣は作れるか否か、という話だ。答えは否。なぜならば、現実において有り得ない、人間の想像の限界を超えたものだからだ。何でも切れる剣を見たことがあるか? そもそも、そんな剣があると思うか? つまり、想像をしても頭のどこかで無理だと思ってしまい、説得力に欠けるんだ。

 魔法で考えてみよう。映画の中で見た、ゲームの中で見たと思うかもしれない。だが、映画で見たものは大抵映像処理、コンピュータグラフィックスだ。ゲームなんて言わずもがな、だ。物を温めたり火を点けたりする元の世界でもやっていた事とは訳が違うんだよ』


考えを放棄したような顔をしていた大樹の為に、大樹の好きな漫画に例えて耕介が説明してくれた昨日の夜。

それは言わば、ここにいる異世界へと来てしまった命の奪い合いを経験をしていない3人には、攻撃魔法が使えないのではないかという疑問の結論だった。


「いえ、無理ではないですが……勇者様とその友人様にはある程度力を付けていただかないと……」

「でも、悠長にやっていられないでしょう?」

「それはそうなのですが……」

「あの、ストラ先生。お願いがあります」

「なんでしょうか、ユウヤ様」

「魔物を倒す様子を、おれ達に見学させて下さい」

「それは……構わないのですが、何をそんなに焦っておられるのですか?」

「むしろ、ストラ先生は焦らなくていいんですか? この世界が崩壊する危機だというのに」

「それは…………いえ、何でもありません。分かりました。では明日、実地訓練と致します。本日はこれまでにして、明日の為にゆっくりと休んで下さい。少し遠出をします」

「ありがとうございます!」

「あ、そうだ。ストラ先生、ちょっと疑問なんですけど、いいですか?」

「はい、なんでしょう?」


教室を出ていこうとするストラを引き止める雄也。

不思議そうにストラは帰ろうとしていた足を引き返した。


「悪王は今、復活したんですか? それとも、これから復活するんですか?」

「それは……すみません。私たちには分からないのです。今分かることは各国の領土に、今までにない程魔物が押し寄せている、というだけなのです」

「てことは、悪王がいない可能性もある、と?」

「分かりませんが……過去の文献からは、悪王が出現した時と状況が酷似しているようなので……」

「悪王が復活していると考えていい、と」

「曖昧な答えで申し訳ありません」

「いえ、ちょっと疑問に思っただけなので大丈夫です」

「他に何かありますでしょうか? お答えできる範囲でならお答えしますが」

「いや、大丈夫。ストラ先生ありがとな」

「分かりました。では、また明日に」


礼儀正しく一礼をしていくと、ストラは振り返ること無く教室を後にする。

その背中を見送ると、耕介は額に手を当てて何かを考え始め、雄也と大樹はいよいよ始まる明日の実地訓練を想像して、体を強張らせていた。




          ◇          ◇




休むと言われても、緊張で休むことができない3人はやはり、大樹に充てがわれた部屋にいた。

一番広いこの部屋で、それぞれが自分の居場所を作り、思い思いに時間を潰すのが恒例になっている。

大樹はベッドで。

雄也は椅子で。

耕介はソファーで。

そんな時間を過ごしていると、エレアが茶菓子と紅茶を持って訪れ、リラックスしながらお茶会をするのも、毎日の恒例になっていた。

お茶会と言っても、元にいた世界やこの世界の事などを話題にして、主に大樹とエレアが喋り、耕介が補足し、雄也が頷くのがほとんどであったが。

そして、今日も元いた世界の話をしてお茶会をしていたのだが、大樹はポツリと思いついた言葉を口にした。


「そういえば……城下町とか行ってみたいよね」

「確かに、この世界の食べ物とかもっと見てみたいですね。城の料理って宮廷料理みたいな感じで堅苦しい感じもしますからね」

「僕もさんせー!」

「では護衛のものを付けましょう」

「いや、いいよ。大丈夫」

「ですが──」「この国は護衛が必要な程に治安が悪いのか?」

「いえ、そういう訳ではないのですが……」

「なら、決まりだ」

「では、せめて私が同行します」

「いや、お姫様が城内から出ちゃ……」

「大丈夫です。いつもやっていますから」


「「「…………は?」」」


そういったお姫様は、片目を瞑ってお茶目に笑みを零した。



『城門を出て真っ直ぐ、3つ目の橋を渡って、右に曲がった先にある噴水でお待ち下さい』


そう言い残してエレアは部屋を出ていった。

3人は夕飯を外で食べる事と、城下町を見て回りたい旨を給仕の人や部屋の外にいた警備の人に伝え、城門へと向かう。


「何だかんだ城の外に出たことなかったよね」

「どんな場所なんだろう」

「なんだ、見てないのか? 俺は最初の時に城の向こう側まで見たぞ」

「最初から城の中にいましたので」

「最初から警備の騎士に追われていましたので」

「まー行けば分かるさ」


そんなやり取りをしながら歩くと、すぐに城門が見えてくる。

外に出る旨を伝えると、帰ってくる目安の星の位置を言われ、敬礼を背に3人は城の外へと足を踏み出した。


「うわーすげー」

「え? これなんかあのヨーロッパにある国に似てません!?」

「大塚君ならそう言うだろうと思っていたよ。私も同じ感想を持った」


3人の目の前に広がるのは、城から伸びる坂道と横に沿っている川の数々。

坂は意外と傾斜があり、スラッと真っ直ぐに伸びる道の向こうの街並みは少し下の方に見える。

少し先に見える建物は殆どが同じ高さで、ここから見れば段々畑のように階段状になっていた。

その建物の間に、少し盛り上がったような橋が数メートル置きにあり、その下に流れる川の多さを見ると、まさに水の王国に相応しいような風景。

そうしてこの街並みが山のような地形の上にあり、城の内部から水が流れ出る様子を見て、城がこの山の頂に建っているのだと知った。


「なんか……ほんとにファンタジーの世界だな」

「そうだねーなんか感動したお」

「とりあえず姫さまの言われた場所に行きますか」


3人は歩き出すと言われた通り、3つ目の橋を渡った所で右の道に入る。

夕暮れ時特有のオレンジの光が川を映し、白を基調とした建物をオレンジ色に染めていく街並み。

そんな建物の間にある、緩やかな下り坂を5分ほど歩いたところで、その場所が顔を出した。

円になった噴水と、その円を十字に通る2つの川。上流から流れる水は穏やかで、小さな子供が数人、噴水の横で笑っていた。


「おー凄い……公園みたいな場所だねー」

「ここは……兄者が来たら絶対喜ぶ。そして、ここでバニラアイスを絶対に食べる」

「確かに、九条君ならやるな。間違いないな」



ここにはいない昌人を引き合いに出して笑っていると、不意に背後から声をかけられた。


「申し訳ありません、お待たせしました」

「あぁ。ひめ……さ……あれ? えっと、どちらさま?」


耕介が振り返りざまに見たのは、エレアかとおもいきや、見たことのない人。

元の世界で言うところの、帽子を深く被り、ゆったりとした白のパーカーを着て、下はベージュの綿パンを履いているその人は、その場でくるりと回ってみせた。


「私です。エレアです。ふふっやっぱり私の変装もまだまだいけますね」


そう言って帽子を取ると、そこには長い金色の髪を束ね上げたエレアの満足気な笑顔があった。


「まるで男にしか見えんな」

「エレアさんとっても可愛いです!」

「ふふっ、ありがとうございます」


耕介と大樹の言葉に、音符でも飛ばしてそうに機嫌を良くするエレア。


「夕御飯でしたら、私が案内致しますわ。美味しいお店を知ってますの」


軽くステップを踏むように歩き出すエレアを見て、3人は不思議に思う。


「エレアさんってあんなキャラだったっけ?」

「最初は結構堅かったイメージだったんですけどねー。慣れてくるとあんな感じなのかも?」

「なんかすっかり友達気分だな。別に気にしないが」


「何をしてるんですかー? 置いていっちゃいますよー?」


足を止めてると少し距離が空いてることに気付いたエレアが、振り返り声を上げて3人を呼ぶ。


「お姫様って……確かお忍びですよね?」

「結構目立ってるよな。あれ変装意味あるのか?」

「あー女ってコスプレ願望あったりしますよね。それじゃないですか? この服を着てる時は違う私、みたいな?」

「雄也って時々、女の子に対して冷たい意見を言うよね」

「そうか? 別に普通だけど」


なんて話をしつつ、エレアに追いつき、自然と前にエレアと大樹、後ろに耕介と雄也と歩くようになる。


「どんなお店なんだろーちょっとワクワクするなー」

「大樹さんのお口に合うと思いますよ、とっても良い人がお店をやってて、料理もとても美味しいんです!」

「ほーそれは楽しみだ」

「気楽に食べられるなら、何でもいいですね」

「なんだかエレアさん楽しそうだねー?」

「はい、結構久々のお忍びなので、嬉しいです」

「結構こういう事やるのか?」

「はい。公務が無くて、時間が出来た時にこっそりと」

「バレたことはないのか?」

「ありません! こう見えて、抜け道も変装もバッチリ手を抜きませんから!」

「やっぱりなんかキャラが違うおー」

「あ……申し訳ありません。つい、はしゃいでしまいまして……」

「いや、別にいいんじゃないか? 私たちは気にしないし」

「ありがとうございます」


そんな他愛ない話をしていると、目的地にすぐ到着した。


「到着でーす!」


同じ建物に入り口が2つあり、3人は一番手前にある扉を見る。


「ここが……ん? 宿屋?」

「そちらの入り口は宿屋ですね。あちら側に入り口があります」


そう言うとエレアは小走りに扉前を通り過ぎて、建物の角際にある地下へと続く階段前で立ち止まる。


「皆さんこちらへどうぞ」


先頭を歩くエレアに続き、石畳の階段を降りていく。

夕暮れ時に灯るのだろう、階段の脇にあるランプの灯りが小さく揺れる。

最初に扉前に降り立ったエレアは、威勢よく扉を開けて、こんばんはーと言いながら中に入っていった。

言われるままに、3人とも店の中に入る。


奥行きがあるその店は、入ってすぐ左に7人ほど座れるカウンター席があり、右側には4人で座れる席が5つほど並んでいる。

外と比べ少し薄暗い感じのする部屋だが、不思議と懐かしさがあり、城の中とは違ってまるで『大事にされている空間』だという印象がある。

カウンターや手前の席に座る人達をすり抜けて、エレアが一番奥のテーブル席に腰を落ち着けると、ニコニコとした笑顔で3人が席につくのを待っている。

その様子を微笑ましく思いながら、3人は続いて腰を掛けた。

全員が座ると、一人の女性がカウンターから顔を出した。


「いらっしゃい。ノーレ。おや? 新しいお友達かい?」

「こんばんは、おばちゃん。ええっと……」

「はい。今日はどうしてもここに案内したいという事だったので、お邪魔させて頂きました」


少し伺うように3人に視線を向けるエレアだったが、雄也が咄嗟に機転を利かせて話を繋げる。


「そうかいそうかい。ノーレはいつもカウンター席に座るからね、ボックス席使える日が来てよかったねー」

「えへへー」


エレアは3人の前では見せたことのない顔で破顔する。

少し恰幅はいいが、優しそうで少し皺のある笑顔をエレアに向けると、ゆっくりしていきなとカウンターの奥へと引っ込んでいった。


「あれ? オーダー取ってくれないのかな? いつも聞いてくれるんだけど……」

「食べるものが決まったら呼べばいいんじゃないか?」

「ユウヤ様、ありがとうございます」


それは咄嗟に話を合わせたことへの礼なのか、友人として扱ってくれた礼なのか。


「あーうん」


その答えの受け取りを濁すように、メガネを弄りながら雄也は頷いた。


「メニューは……」

「あ、エレアさんが決めてくれたやつでいいや。オススメでよろ」

「僕もエレアさんの勧めてくれる奴なら何でもいいお!」

「ユウヤ様は……」

「みんなと同じでいいです」

「分かりました。すみませーん!」


エレアが手を上げ、一人の従業員を呼ぶ。


「はーい!」


カウンターの奥から、鈴が鳴るような、明るく少しアニメ口調っぽい声に、3人の背筋がゾクッと震えた。

反射的に見てはいけないものを見まいとする3人はすぐに、顔を下げて机の木目をジッと見つめる。


「ご注文お決まりですかー?」


明るく、アニメ口調っぽい、間延びしたような声の主がテーブルの前に立つと、その手に持つオーダーを書くであろう手帳と、万年筆のような羽ペンを床に落とした。


「み、みんな……なんでここに」


その声は、今喋っていた、明るく、アニメ口調っぽい、間延びしたような撫で声の主とは思えない、3人にとって良く聞き慣れたもの。

その声で、ようやく視線を上げると────。


「あ、これは──別にコスプレって訳じゃなくて………………」


成績学年一位。

振ってきた男は数知れずのクールビューティ。

その実態は、ブルマとスパッツ論争を熱く繰り広げられるほどのオタク。


「別に何着たっていいじゃない。悪い?」


そんな彼ら3人の友人である神近知枝が、西洋のメイド姿で逆ギレしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。