第3話 やるべきこととは
雄也が走りまわった広い庭で行われた、盛大な歓迎の宴。
その明くる日に、宴の主賓となった3人は大樹の部屋で過ごしていた。
すでに太陽が高く上がっており、規則正しい生活をしていれば二度目の食事を過ぎる時間だったが、それぞれの顔色はあまり良くない。
「昨日はお疲れ様でした」
勇者として担ぎ上げられ、人が集まる渦の中心となった大樹はその中でも一番酷く、疲労困憊といった様子で備え付けられたベッドに突っ伏している。
天井に届かんばかりの窓際にあるロングソファーにだらし無く座っている残りの2人は、少し気だるそうに訪問してきたエレアの姿を見ていた。
「私は夢を見ているんだ。その夢の中ではお姫様が部屋にやってくるアドベンチャーでな……」
「榊さーん。これは夢じゃないですよー」
「うー頭が痛いお……」
その様子を見て仕方なしと頬を緩ませたエレアは、背後にいた数人の付き人に視線を向ける。
すると、具体的な指示を出していないにも関わらず、給仕用カートからティーカップを取り出し、テーブルクロスを掛ける。
そして、椅子を引いてエレアを座らせると、お茶会の準備が完了していた。
「さ。こちらにいらして、温かい飲み物をお召し上がり下さい。大分楽になるはずです」
「うお……リアルメイドさんだ」
「私、この世界に生まれてよかった。今死んでも満足かもしれん……」
「いや、生まれてませんから。昨日全力で榊さん含め、おれと大樹と3人で召喚されましたから。とりあえず死なないで下さい」
「うーもう動きたくないお……」
三者三様に騒ぎながらも、グダグダと用意されたテーブルへついて、3人はティーカップを手にとった。
熱いので気をつけて下さいと注意をされながらそれを口に含むと、想像していたより飲みやすい温度で、じんわりと味わいが口の中で広がる。
「これはローズティーだな。こっちの世界でも紅茶はあるのか」
「紅茶……ですか?」
「そう、紅茶。とある葉を乾燥させて色々といじって発行させたのがお茶という。その時に出来た水色が……ほら、紅いだろう? そこから紅茶と言われている」
「なるほど。紅茶という名前があるのですね。とても興味深いですわ。これはずっと昔からこの城で栽培していたようで、わたくしも小さい頃からずっと飲んで育って来ましたの。これを飲んでいると落ち着きますわ」
「そうだな。ローズヒップにはビタミンが入ってるから美容や健康にも良くて、女性に親しまれる紅茶で有名だ」
「…………榊さんが饒舌になってる」
「多分、こーすけ先輩はリアルメイドの感動で饒舌になってると思うんだ」
元々何でそんな事を知ってるのか聞きたくなる程に、雑学の知識がある榊耕介。
いつまでもその雑学披露が続くと思われたが、それはすぐに終わりを見せた。
「ところで今、湯気の出てない水を何もないこの場所で沸かしたように見えたんだが……気のせいかな?」
「はい。この場所で沸かしましたわ」
「え? そうなの? …………どうやって?」
「火とか使ってなかったですよね? 携帯ガスコンロとかもなかったし……榊さんの見間違いですでにお湯だったんじゃ」
「あの……失礼ですが、からかっていらっしゃるんでしょうか?」
「へ? どうして僕らがからかうの?」
「いえ、どうやってお湯を沸かすのか、と聞かれましたので」
エレアの言葉に、要領を得ない大樹。
雄也は腕を組み、何かを考えている模様。
耕介は自分が尋ねたにも関わらず、その答えに興味がないような態度で紅茶を啜った。
「少なくても僕は、どうやってお湯を沸かしたのか、全然これっぽっちも分かりません」
その大樹の言葉に、エレアは面食らう。
まるで勇者であるあなたが言う台詞ですか、と言いたげにしているのが目を見て分かる大樹。
「えっと、ごめんなさい。本当です」
「そう……だったのですか。では僭越ながら、勇者様にお教えします。今、この者達は火の魔法を使ってお湯を温めたのです」
「…………まほう?」
「マジかよ。やっぱり……」
「はい。他にも冷やす水の魔法など生活を支える魔法は多様にあります」
「へー魔法かー便利だなー」
「え? いやいやいや。なに、こーすけ先輩落ち着き払ってるんですか!? 魔法ですよ!? ま・ほ・う!」
「バカ言え。魔法ごときで俺が驚くもんか。美女にスク水着せて、指に絆創膏ベタベタに貼って、手作り弁当と包丁持って家に押しかけてくるくらいすれば嬉し恥ずかしドキドキイベントかと驚くが」
「うわぁ……榊さんそれは……」
「もちろん、声はタミハスな」
「ダメだ。この人終わってる」
2人は耕介の言葉に呆れて、頭を抱えた。
「それよりも、だ。古室君は今やっぱりと答えたが、心当たりでもあったのかな?」
「はい。えーっと、捕まる前にちょっと騎士みたいな人達に追いかけられたんですけど、その時に白装束のおじーさんと遭遇しまして、そこでちょっと……」
「ちょっと?」
大樹の先を促す言葉に、雄也は少し頭を掻いて続ける。
「言葉にするのが少し難しいんですけど、何もないはずなのに、何かに抑えつけられたと言いますか。地面に倒れて、いくら力を入れて立ち上がろうとしても全然ダメでした」
「それは、地の魔法使いであるダルド様ですわね」
「あー確かにそんな名前で呼ばれてた気がします」
「あ、あの時の不審者って雄也だったのかー!」
合点が行ったという風に、大樹は手を打った。
「なんか僕がこっちの世界に来た時、白装束の人達に囲まれてたんだけど、多分そこにいた内の一人だよ。その時、エレア様も一緒にいたんだよ」
「ちなみに古室君が追われてた時、俺は上から観察してた」
「えー! そうだったんですか!? 助けて下さいよ!!」
「情報収集でそんな暇はなかった。情報は大事だからな。君の行動も、中々に有益だったよ」
「その後、すぐに捕まって合流しましたけどね」
「ぐっ……それよりも、だ。その雄也に使った魔法というのはどんなものだったんだ?」
「あ、はい。使用された魔法は恐らく『グラビ』だと思われます。重力を操って対象の動きを封じる土の中級派生魔法ですわ」
「中級って……上級とか最上級とかあるのかな?」
大樹は少し身を乗り出し、興奮気味にエレアの言葉に目を輝かせながら食いつく。
「上級は世界でも使える人が数人と聞き及んでいます。それ以上は耳にしたことがありません。ちなみにダルド様も上級魔法が使える方の一人です」
「そっかー。ね、エレア様も魔法使えるの?」
「あの、勇者様。先程も気になったのですが、様などと付けずに、どうか呼び捨てでお呼び下さい」
「えっと、呼び捨てはちょっと。うーん……なら、エレアさん、じゃダメかな?」
「勇者様がそう呼ばれるのであれば異存はありません」
「出来れば、その『勇者様』ってのもやめて欲しいんだけど」
「ですが……」
そんな、付き合って間もない二人が呼び方を決めるような初々しいやり取りを、まるで三文芝居を見ているかのように無感情で鑑賞している二人は小声で話す。
「おい。止めさせろ。目の毒だ」
「大樹って女慣れしてないから、ちょっとチヤホヤされるとデレデレしますよね」
「…………ちょっと待て古室君。君のその口調はまるで女慣れしていると言わんばかりの言い方だな」
「色々な声優さんに名前呼ばれてますから。最初は恥ずかしくて悶えていましたけど、今はもう主人公の気持ちになってテキストを音読して、声優さんと喋ってますね。声優さんと喋るのは緊張しますけど、リアルの女と喋るのに緊張だなんてするだけ無駄です」
「……君もやっぱりレベル高いな」
「AI作ろうとしている榊さんには負けますよ」
そんな実りのない話をしながら、再び目の前の二人に意識を戻す。
「エレアさんの魔法見せてほしいなー」
「その、私は初歩の魔法しか使えませんのでお見せするのは恥ずかしいですわ」
「そこをなんとか! ね? みんなも見たいよね?」
大樹の言葉に、軽く2人は頷く。
「見せるような魔法なら、そんな大げさなやつじゃない方がむしろいいと思う」
「多少は興味がないわけでもない」
「本当に魔法の無い世界から来られたのですね……分かりました。では先ほど従者が使った『ヒート』を緩めにですが使います」
エレアはそう言うと、右手を開いて前に差し出した。
3人はつられるようにしてそれに視線を向け、エレアはそれを確認すると、静かに目を閉じる。
静かに見守られる中、エレアは小さなその口を動かして『ヒート』と呟いた。
すると、見てからに素材が良いだろう白いロンググローブに覆われたエレアの手、その開いた手の上方が微かに揺らめくのが視認できた。
「ゆっくりと触れるように手を近づけてもらえますか」
目を開いたエレアが言うと、3人は恐る恐る手を伸ばす。
エレアの手ではなくその上方、空気が揺らめいた場所へと近付けていく。
そして揺らめきに手が触れた時、明らかな温度の違いを感じた。
「ほんとだ。なんかここだけ温かい」
「今は調節をしているので、少し温かめです」
「かなり熱くも出来るのか?」
「では、少しだけ温度を上げていきます。熱いと感じましたら手を引いて下さい」
そう言うと、エレアは自分の手の平に視線を向ける。
するとすぐに、3人は確かに温かいから熱いへと変わるのを感じた。
少しして、大樹の微妙な身動ぎを見ていたエレアは、集中を解いて以上ですと魔法の使用を終わらせた。
「これが簡単な火の魔法、『ヒート』です。物を温めたりする日常的に料理などで使われる魔法ですわ」
今し方熱くなっていた場所に手を伸ばすと、他の空気と混じり合ったようで微かにぬるくなった空気がそこにあるだけだった。
「魔法って……本当にあるんだね」
「まさか生きてる内に見れるとは思わなかったわ」
「日常的に使われない魔法、ってのもありそうだが……そこはどうなのだ?」
大樹と雄也が感動の余韻に浸ってる中、耕介は改まって尋ねる。すると、エレアは少しばかり俯き、目を伏せて、呟いた。
「はい。耕介様が仰った日常的に使われない──攻撃や争い事に使われる魔法も……あります」
そしてすぐに顔を上げ、エレアは居住まいを正して一礼した。
「話がだいぶ逸れてしまいました。実は今日私がこちらに伺いましたのは、今の件を含めてこれから勇者様──もとい、大樹様にして頂きたい事をお伝えする為です」
◇ ◇
付き人が紅茶を入れ直して小休止をした後、エレアが口火を切った。
「勇者様である大樹様には、悪王と呼ばれる存在を打ち倒して、この世界を均衡の取れた状態にしていただきたいのです」
「うん、それは分かるよ。僕もラスボス倒さないと帰れないと思うし」
「そうなの? 初めて聞いたけど、帰れるの?」
「勇者様そういう言い方はないんじゃないのー? ちょっと冷たくなーいー?」
「……こーすけ先輩、こっちの世界に来てからほんと饒舌になりましたよね」
「向こうの世界じゃなかった事がたくさんあって、色々と楽しんでるからな」
「あの、話を進めてもよろしいでしょうか?」
「あ、ごめんなさい。どうぞ」
コホン、と軽く咳払いをするとエレアは説明を続ける。
「異世界の方を招き入れたのは何分初めての事で、いざ召喚に成功したこちらとしても戸惑っていたのですが、まずは勇者様には力をつけて頂きたいと思っています」
「なるほどね。召喚って以前にもあったのか?」
「大昔に召喚に成功したという文献は残っていますのであったと思います。ですが、私達にとっては何もかもが初めてのことなので、どうしたらいいか考え倦ねているのです」
「ふーん? 召喚しようと思い立った理由は?」
「最近、魔物の力が強くなってきていまして、防戦になる事が多くなってきたのです。ですのでその情勢をひっくり返すためにお力を借りようかと」
「今まではどうしていたんだ?」
「これまで魔物はいましたが、この大陸……水を象徴するアクアヴェネラルには、Cランクギルドでも倒せるレベルの魔物しかいませんでした」
「ギルドってなに?」
「頼みごとを管理する場所みたいなもんかな。依頼をこなして報酬を貰う。RPGとかにはよくあるお金を稼ぐ場所だよ」
「魔物を倒したらお金が手に入るんじゃないの?」
「さすがに魔物はお金を持っていませんわ。でも魔物の素材は売買できます。そういった意味ではお金を持っているのかもしれませんね」
大樹の言葉をちょっとしたジョークだと勘違いしたエレアは口元を緩めるが、すぐにその表情に影を落とす。
「しかし、最近はBランクはおろか、ごく稀にAランクの怪物も出てくる始末で、倒せなくはないのですが、一匹相手をするのにこちらもかなりの痛手を負います。元凶である悪王を倒せばこの状況が終わり、前のように戻ると思っているのですが……このままではジリ貧です」
「その悪王って奴を倒せば、戻る確証は?」
「これも過去の文献からの予測です。以前に勇者様を召喚した時も、世界の危機だったそうです」
「今回の件に酷似している、と。前に戻るって、魔物がいる世界だけどいいのか?」
「ギルドなどで働いている方々は戦いがなければ生きていけませんから。誰かに出来ない事を誰かに頼む。そうやって持ちつ持たれつで国や、経済はバランスを取って来ていたのです」
「なるほど。上手く共存出来ていたのか。その強い魔物も元々は違う土地にいたんだろ?」
「はい。今申し上げました通り、AランクやBランクはとある大陸に生息する怪物が大多数です。その怪物を倒す依頼はもちろん同ランクでしか受領出来ませんが、AランクやBランクの戦士はそこまで多いわけではありません。高いランクほど危険度は上がり、高ランクの依頼で命をなくす方も多くいらっしゃいます。ですが資源がとても希少なので依頼も無くならないのが現状です。そして、そういう手に余る怪物が今こちらの大陸に一歩踏み込んできているのです」
そこまで一気に捲し立てたエレアは、一息付いてティーカップに口をつけた。
エレアの話を聞いて、固まる大樹。
雄也は「無理。いや、無理。もうほんと、無理」という言葉が胸内で渦巻いているんだなーと思い、自分に関係ない出来事だが応援はしていると視線でエールを送った。
「昔の危機を救った異世界の勇者様は、私達にはない強大な力を持ってその災厄を絶ち切った、と伝わっています。ですから、大樹様にもそのような潜在能力を秘めている、と私達は考えています。それも、Aクラスの怪物など物ともしない力が」
大樹は茫然自失といったようで、窓の外、高く広がる青い空を見上げて哀愁を漂わせている。
一方で、耕介は顎に手を当てて考えこむと、右手を顔の高さに上げた。
「いくつか質問していいかな?」
「はい。どうぞ」
「大昔に召喚された勇者は一人だったのかな?」
「そう聞いております。ただ最後、悪王を打ち倒したのは4人と語り継がれております。勇者様と剣士様、そして賢者様の2人です」
「なるほど。オーソドックスなバランスを考えてのメンバーだな。勇者以外はこの世界の人間で間違いないかな?」
耕介の物言いに、エレアは不可解そうに少しだけ眉をしかめ、そうです、と答える。
「あ、気にしたなら謝る。すまん。この世界の人達だけでどうにかできない問題なのかと思って。それで、世界の命運を担う戦いが4人って話だけど、ちょっと少なすぎないか? 普通はもう大部隊で強襲してもいいはずなんだが」
「それは……すみません。言い伝え以外の昔の事は分かりません」
「つまり、4人が世界を救った事実のみがあり、過程は残っていないと」
「そう……ですね。答えられずに申し訳ありません」
悲痛な面持ちをしているエレアを見て、さすがに探究心を削がれたのか耕介は話題を変えてみる事にする。
「そういえば、今回ここに来てるのは3人で、その中の一人が勇者。それなら他の召喚された者は何どうすればいいんだ?」
「それは、当然こちらの我侭で巻き込んでしまうのですから、我が国が衣食住の保証は致しますわ!」
「ほほーそれはありがたい。だが、見ての通り大塚くんは名前に大きいという字が2つも入っているにも関わらず、気は小さいときたもんだ。優秀な戦士と賢者2人がお供についた所で勇者の役目を果たすとは到底思えない」
「こーすけ先輩! その言い方は、さすがに僕の心が痛いです!」
「じゃー一人で」「嫌です! 無理です! 無謀です!!」
「そういう事だ。なので、ここは小室君を鍛えて優秀な戦士にして、護衛でもやらせてやって欲しい」
「え? ここでおれに振るんですか!?」
「大丈夫だ。なぜなら、異世界召喚された人間は全員、特別な才能を持つはずだからだ!」
「その理論は榊さんにも当てはまりますよね? なら榊さんも来てくださいよ!」
「え? 嫌だよ。衣食住保証されてるし」
サラっと言いのける耕介。その態度に2人は開いた口がふさがらない。
「冗談だ。だが、私がどうするかは次の問いかけで決まる。エレアさん、でいいかな?」
「あ、はい!」
結構話していても、呼び方も決まっていなかったなと耕介は一つ確認すると、今までにない真剣な眼差しで問いかけた。
「勇者でない私達も、魔法が使えるのか?」
◇ ◇
日もだいぶ傾いてきた頃。
『今日はここまでにしましょう。後ほど、食事が出来次第お呼びしますので、それまではくつろいでお過ごし下さい』
そう言われた時、まだ起きてからまともなご飯を食べていない事に気付いた3人。
その後の会話で、この世界には時間という概念がない事を知り、さすがの耕介もそれに驚き、気がつけば、エレアが退室してから暗くなるまで、3人は会話すること無く思い思いに過ごしていた。
大樹はベッドに横になり、雄也はソファーに身を投げて天井を見つめ、耕介はお茶会の終わった机を見つめていた。
「僕達、これからどうなるんだろう」
ポツリと漏らした大樹の一言に、視線を動かすこと無く雄也は答える。
「とりあえずご飯食べて、風呂に入って、寝る。じゃないの?」
「そうじゃなくて…………元の世界に帰るまで、だよ」
その言葉に雄也も黙り込み、場が静かになる。
どうやってきたのか、どうやって帰るのか。そして、この世界について何も分からない。時間すら目印にならない。何も知らない事がここまで不安を駆り立てる物だとは思わなかった1年生の2人は、不安そうに年上である耕介に助けを求めるように視線を向けた。
椅子に膝を立てて座り、机を見ながら何かを思案している耕介。
雄也は何を考えているのかが気になり、ソファーから体を起こすと声をかけた。
「そういえば榊さんは色々聞いていましたが……今、何を考えているんですか?」
「ん? あぁ、とりあえず情報がないと何もないからな。ついでに、この世界が異世界なのかゲームの中なのか頭ん中で検証してた」
「え? 異世界じゃないんですか?」
「異世界……だとは思うが、どうもシックリこない。なんていうか、悪王ってラスボスはなぜ一気に攻めてこない? とか、話を聞いてるとAランクの怪物を一体一体倒しているようにも思えた。そいつらはなぜ群れで行動しない? とか、この世界について疑問がいくつか出てくる。そして……」
「そして?」
「大塚君の前でこういう事を言うのは憚れるが、勇者はその後どうなったかという話が一切ないのが気になる」
「え? 異世界に帰ったんでしょ?」
「そう考えるのが妥当だとは思うが……確かめる術も持たない。そもそも、ラスボスとの戦いを4人に普通任せるか? 力がないなんて言っていたが、囮役にするなりやり方はいくらでもあるだろう? ちょっと話がきな臭くなってきてる気がするんだよな。本当にその勇者は帰れたのか?」
「や、やめてくださいよ。僕はラスボス倒せば無事に元の世界に帰れるって思ってるんですから!」
「根拠は?」
「ゲームの世界じゃそうだからです!」
「そう。だからここはゲームなのか、ゲームじゃない本物の異世界なのか……って考えてるんだよねー」
「何が違うんですか?」
「ゲームなら死んでも教会で生き返る。異世界なら死んだらそれまで」
「「…………」」
「ま、あくまで悪い例えだけどな」
耕介の言葉に、2人は予想以上にヤバイ事態に陥っていると、今更ながらに実感した。
「ど、ど、どうすれば!?」
「焦るなって。とりあえず出来る事をしていこう。生き残る為に必要な訓練を真面目に受ける、まずはそこからだ。大塚君はいざとなればAランクも余裕で倒せる力があるんだ。この中で一番生還する確立が高い」
「榊さん冷静ですね。なんかやっぱり頼れる先輩って感じですね。ちょっと尊敬しますわ」
「ん、まー退屈しなさそうだし。魔法も習得できるって話しならコイツも使える機会があるだろうしな」
言いながら椅子の下から取り出したのは、黒いリュックサック。
2人はそれを見つめ、数秒固まった。
その見覚えのあるリュックサックからノートPCを取り出した耕介は、ニヤリと口を歪ませた。
「「いつの間に!?」」
「命の次に大事なものだからな。いつでも背中に背負ってる。だからこっちの世界に一緒に飛ばされたんだろう。捕まった時は壊されるか心配だったが、解放されてからはご丁寧に部屋に置いてあった」
「なんだろう、これを見ていると何でも出来そうな気がしてきた!」
見慣れた物がそこにあるという安心感が大樹に生まれる。そして、つい軽口を叩いてしまうが耕介はバツの悪そうな顔をした。
「だが、1つだけ問題がある」
「電気、ですか?」
「流石は古室君。正解だ。部屋を見渡してくれ」
耕介の言葉に、2人は部屋を見渡す。
大樹が横になっているキングサイズはあるベッドに、広いバルコニーと隔てる足元から天井まであるガラスの窓。その横に2メートルはあるソファ。足元には何かの模様が描かれている絨毯。耕介の座っている椅子や机は木製。天井を見ればきらびやかな装飾がされている。
壁には絵画が数枚掛かっていて、ドラマに出てきそうな屋敷の客室を思わせる部屋だった。
「豪華な客室だとは思う。だが、ここに電化製品が1つもない。昨日はパーティー以降の記憶はないが……夜はそこにあるランタンを使うんだろう。もちろん魔法を使って、な」
「ほんとだ……」
「全然気が付かなかった」
大樹はベッドの横にあるガラス瓶のようなものをマジマジと見て手に取った。
予想以上の観察力に2人は脱帽、といった風にで耕介を見る。
「というわけで、私には電気が必要だ。なので電気を発明するエジソンに、私はなる」
「どこかで聞いた台詞ですね。一応聞いておきたいんですが、魔法が使えなかったらこーすけ先輩は……?」
「税金で食べていける無職って、最早無敵って感じだよな」
「魔法使えてよかったー」
「そんな事よりも……気になることがある」
「? なんですか?」
「恐らくだが、ナガさんと九条君と神近君もこの世界に来ていると思うぞ」
「…………はい?」「…………え?」
「あの場にいた全員が今回この世界に来ていると考えるのが妥当だと思うが。まぁ、死ぬような事にはならないだろうから、そこまで心配はしていないが、早く合流するに越したことはないだろう。この世界について分からないことが多すぎるからな」
「……確かに松永さんと兄者は殺しても死ななそうですからね。むしろトラブルメーカーの気があるのでいない方が良いかもしれませんね」
「知枝先輩も意外と強かだから大丈夫だと思うお!」
「……大樹。それ、絶対神近先輩本人に言うなよ?」
「え? うん。分かった」
「とりあえず榊さんの言った通り、当面は修行して、エレア様に他の3人の捜索も頼んでみよう」
雄也の言葉に大樹はさんせーいと手を挙げると、その後夕食の呼びかけが来るまでの間、どんな魔法があると便利か、耕介がいつも以上に饒舌なのはどうしてか、などという雑談をして過ごした。




