第20話 予兆
「ただいま戻りました。陛下」
一行が謁見の間へと戻ると、すでにライザス王以下の面々が揃っていた。
ストラが膝をつき、頭を下げるのを見て、大樹たちも慌てて頭を下げる。
「よくぞ戻った。して、成果は?」
「はい。こちらが、この大陸を守護する水の大精霊、ウンディーネ様にあらせられます」
紹介を受けたウンディーネは、一瞬だけライザスを値踏みするように目を細め、すぐに頬を緩めて腰を折った。
「お初にお目にかかります。わたしはウンディーネ。マスターと契約をした今、これからは彼らと行動を共にします」
「おぉ! 私はアクアヴェネラルを統治するライザス・アストル・ヴェネラルと申します。かの大精霊にお会いできたことを感謝します。勇者殿──ひいては私たちをお導きください」
「……もちろんです」
ライザスは声を弾ませ、喜びを口元に表して大樹の方へと向きやる。
「よくぞ試練を成し遂げてくれた勇者殿。この調子で他の精霊も味方につけ、世界に平和をもたらすことを期待しているぞ!」
「えっ、あっ、はい!」
ライザスの言葉につい、思わず、反射的に頷いてしまう大樹。
大樹の特性を理解している二人は、特に不都合がないようで黙っていた。
「勇者殿の功績を讃えると同時に、ウンディーネ殿を歓迎する宴を用意してある。早速────」
「? お待ちください。国王」
────だが、それを由としない者が一人いた。
大樹と雄也はビクッと肩を震わせ、互いに目を合わせる。
二人の間で瞬時に意思が疎通し、同時に頷くと雄也が口を開いた。
「……ウンディーネ、とりあえずこの場では黙っててくれないか」
「いえ、そういうわけにはいきません」
「話がせっかく穏やかに纏まりそうなんだから、余計なことをしないでくれ、と言ってるんだけど」
「余計なことではありません。わたしの主は誰か、ハッキリさせる必要があります」
そんなやり取りをしているウンディーネと雄也。
一歩後ろにいる耕介は、顔を背けながら笑いを堪えている。
ストラは柔和な笑顔こそ崩してはいないが、冷や汗をかいていた。
「一体どうしたのだ?」
「…………さ、さぁ?」
もはや大樹にはしらを切るしか道はない。
だが────
「国王よ。わたしは勇者ではなく……こちらのユウヤをマスターと認めました。そこだけは勘違いしないでいただきたい」
これ以上何を言っても平行線を辿ると感じたウンディーネは、雄也からライザスへと向き直り、威勢よく主張した。
雄也は溜息を吐き、大樹は身を縮めてみせる。
「………………今、なんと?」
「わたしは、ここにいるコムロユウヤと契約をした。勇者とではない」
「…………」
ウンディーネが言い放った言葉を吟味し、ライザスは大樹の方へと視線を向ける。
が、そんな無言のプレッシャーから逃げるように、大樹は俯きながら視線を逸らしていた。
「…………どういう事か説明をしてもらおうか」
先ほどの上機嫌な表情が吹っ飛び、眉間に皺を寄せたライザスが威圧するように全員に問いかけた。
◇ ◇
「いやーそれにしても、さっきはウンディーネさんのおかげで助かりましたね!」
「そもそも、大塚君がウンディーネさんと契約をしていれば、こんなことにはならなかったのにな……」
「ぐっ……」
窮地に追い詰められた大樹は、手元のグラスを口につけて一気に煽る。
そして耕介は、会場の中心にいる人物へと視線を投げた。
見る限りの人、人、人。
城内にあるパーティー会場には、綺羅びやかな服を着た貴族ばかりで溢れかえっている。
そんな人だかりから離れた静かな外のテラスに、大樹と耕介は避難していた。
精霊との契約者と水の大精霊。
耕介の言うとおり、雄也とウンディーネが今晩の主役である。
2人を取り巻くように、貴族たちが詰め寄り、雄也は苦笑いを浮かべて対応していた。
「大変そうだなー貴族の相手も」
だが、彼こそ1人でウンディーネに立ち向かい、力を認められた今回における最大の功労者なのは間違いない。
この世界でどれだけ凄いことを成し遂げたのかは、ここにいる王族や貴族の歓迎ムードから容易に想像できる
そして、雄也の傍らに佇むウンディーネ。
彼女は雄也以上に、多くの注目を浴びている。
が、彼女に声をかける人は皆無だった。
耕介は少し考えて、おおよその察しを付ける。
そもそも、精霊は人の目には見えない存在だ。
その中でも、文献上や契約者でしかその存在を確認できない、言わば伝説とも謳われてもおかしくない『大精霊』が姿を見せているのだ。
目算で200人以上はいる中でも、声をかけるには至らない貴族が多いのは、やはり興味本位で一目見るだけといった、身なりだけの人が多いからだろう。
「どこの世界でも、貴族は所詮貴族なんだなー」
「え? 何を当たり前のこと言ってるんですか? 貴族だから貴族なんですよ?」
「……あー、うん。そうだな」
野望にまみれた貴族っていうのは物語やゲームの中だけなんだなーなどと考えながら、耕介もグラスを傾ける。
「早く元の世界へ戻りたいですねー」
「…………そうだな」
広間に背を向け、夜空を仰ぎながら、大樹の言葉にやや遅れて相槌を打つ。
だが、それは自発的な肯定ではなく、相手の意見を尊重するための肯定だった。
「元の世界、ね」
自分が呟いた言葉に対して、思ってた以上に感慨がない事に気が付いた。
この世界にやってきて、どれくらいの月日が経ったのだろう。
前の世界では味わえなかった、刺激的な毎日。
『魔法』という概念があるこの世界は、今の耕介にとって飛び出すおもちゃ箱のようだ。
果たして積極的に帰る理由はあるのか……。
そこまで考えて、耕介は頭を振った。
今すぐに帰れるわけでもない。
もとより今は、選択肢がないのだ。
選べる時が来るとすれば、それは悪王とやらを倒した後だろう。
今はもっとこの世界を堪能しようと結論付けて、再びグラスに口をつけた。
「次はソイルメントへ行くんでしたっけ?」
「そうだな。アクアヴェネラルよりはランクが下の大陸だから安心しろとは言われたが……」
「楽になりますよね! 今度こそ僕が契約をとってみせますよ!」
「私としてはフレイタニアに行ってもいいと思ってるんだがなー」
「はぁっ!? こーすけ先輩、自殺願望でもあるんですか!?」
「いずれは行かなきゃならない場所だろう。それに今ではウンディーネさんもついている」
「それは、そうですけど……」
「覚えてるか? 大精霊と契約をすれば上級魔法が使える。つまり、A級の魔物も怖くない」
「S級とかがいたらどうするんですか!?」
「今言ったろ。いずれはやらなきゃいけないんだ。ゲーム的に言えば、高難易度ほど経験値が溜まりやすいだろ? 効率的に考えれば、フレイタニアも選択肢に入れていいと思う」
ゲームでは効率性を重視する耕介のスタイルが、現実にも適用されていて大樹は冷や汗をかく。
「ど、どうせやるならもっと精霊を仲間にしてからにしませんか!? ゲームならまだしも全滅とか出来ないんですよ!?」
「ふむ……確かにな」
「そ、それにほら、先に強いところに行って経験値上げるのはいいですけど、ソイルメントにも必ず行かなきゃならないんですよ? 作業ゲーってこーすけ先輩あまり好きじゃないですよね!」
普段はあれやこれやと言い訳がましい大樹だが、逆を言えば相手を踏みとどませる為の理由を並び立てることができる。
「やらなきゃいけない簡単なものを後々に残すと、やる気がでなくなりますよね!?」
「……そうだな。まずはソイルメントを攻略するか」
「そうですよ! 絶対にそうした方がいいですって! …………ふー……」
一先ずの危機を乗り切った大樹は溜息を付くが、結局のところ問題を先送りしたことには気付いていない。
「何にせよ、まずはDランクに上がることが目下の課題か」
「Dランクに上がれば、渡航許可が降りるんですよね?」
「そうだが……よく覚えていたな?」
「任せてくださいよ! …………あの、僕馬鹿にされてます?」
「さーな」
そんなやり取りをしていると、会場内の声がやたらハッキリと聞こえた。
会場の方へ視線を向けると、よく見慣れた女性が見慣れないドレスを着こなして、テラスの扉に手をかけている。
そして後ろに2人の男を引き連れ、2人のいる場所へと近付いてきた。
結婚式で着るような華やかなパーティードレスに身を包んだエレアは、物語に出てくるようなお姫様のようで、近くに来るまでのほんの数メートル、大樹は彼女から目が離せなかった。
「こんばんは、ダイキさん、コウスケさん」
「こんばんは、エレアさん」
「お姫様のいる場所はこっちでない気がするが?」
「こちらの方が、是非とも勇者様にお目通りをお願いしたいと申されましたので」
ふっと柔らかい笑みを浮かべながら、説明するエレア。
口調こそ外向けの堅苦しい言葉遣いだが、いつもの無邪気な顔を見せている。
後ろにいる2人の男は、紹介されるのを待つよう静かに佇んでいた。
「ご紹介しますわ。ヴェネラル王国の公爵、ターレント公と風の契約者、ヨーデル様です」
エレアは後ろの2人が見えるように一歩横にずれた。
そこには、派手な紫色の貴族服を着衣した老爺と、同じく濃い紫を下地にしたローブを羽織っている男が、更に一歩後ろに付き添っていた。
エレアの紹介を受けて、貴族服の男が一歩前に出ると、気品溢れる優雅な目礼をやって見せた。
それ見た2人は、公爵というよりもこれはセバスチャンだわ、と内心で呟いた。
「お初にお目にかかります、勇者殿。私はシャレンヌ・ターレント・ヴェネラルと申します。
ヴェネラル王国から東方にありますターレント領の領主を任されている身でございます。以後お見知りおきを。
以前の歓待パーティーでは、ご尊顔を拝見できず非常に心苦しく思っていましたが、今この時言葉を交わせたことを嬉しく思います」
ハリや艶をなくし、痩せ顔に刻み込まれた無数の皺と白髪は、確実に60歳を超えているであろう印象を2人に与える。
だが、2人を値踏みするように向ける目は、未だ衰えを知らないというようにギラついていた。
ターレントは、口元に僅かな笑みを浮かべて手を差しだす。
2人は一瞬戸惑いエレアへ視線を向けるが、笑顔で頷かれたので、軽い会釈と共にターレントに応えた。
柔らかな笑みを携えながら、一歩下がると、ターレントの後ろに佇んでいた線の細い男性が一歩前に進み出た。
「お初にお目にかかります。勇者様。私のことは気軽にヨーデル、とお呼びください」
細めで背の高いその男は、軽薄そうに見える外見を裏切らず、左手で円を描くように仰々しい礼を見せた。
まるでピエロがサーカスを見に来たお客にするような、どこかわざとらしい大げさなお辞儀に、2人は頬を引きつらせる。
そして同時に、コイツとは気が合わない、いやみったらしい奴だろうと判断を下した。
「風の契約者というと、『四柱』の1人ってことか」
「私としては、そんな大層な名前を頂いて恐縮するばかりなんですが、ね」
両手を広げて、やれやれといったポーズをするヨーデル。
その態度を見て、2人が笑顔のまま器用に眉をひそめる。
伊達に3人と長い時間を過ごしていないエレアは、2人の微細な変化にすぐに気が付き、慌てて話題の転換を図った。
「そ、そういえばダイキさんが召喚された時、ヨーデル様もいたんですよ! 覚えていますか?」
「え!? そうなの??」
「そうですね。空気の淀んだあの薄暗い牢獄で、私はあなたがこの世界に来る瞬間を目撃していました。
あの時は全身白のフードとマントで隠れていたので、誰が誰だか分からなかったでしょうが、確かに私はあの場にいた内の1人ですよ」
「そういえば大塚君が召喚された時のことを聞いていなかったな。小室君は広場にある噴水から出現したようだったが、君はどこで出現したんだ? 薄暗い牢獄ってところか?」
大樹は、自分が体験した過去の出来事を思い返そうと宙に視線を向けた。
「えーっと……場所は忘れちゃいましたけど、とりあえずこの城のどこかにある部屋で、周りが石で敷き詰められてて、扉が一つしかなくて……なんか薄暗くて、悪魔召喚儀式でもするような場所? ですかね?」
「なるほど。聞く分では確かに牢獄のようだな。召喚された大塚君は『残念! 実は悪魔だったんだ!』と言わんばかりだ」
「僕は勇者ですよ!」
「そうですとも。オオツカ様は勇者であらせられる。額の紋章が何よりも雄弁に物語っております」
「ですよね! ターレントさんは話が分かりますね!」
「恐縮でございます」
「そうですとも。今がどうであれ、この先途方もなくお強くなる方ですとも。それこそ、私よりも……ね」
「…………」
言葉の端々に、何か歯に物が引っかかったような含みを持たせているのはわざとなのだろうか。
実際、勇者と呼ばれている大塚大樹は、勇者らしい勇者的な行動を取っていない。
なので、ケンカを売られているか判断が難しい。
そんなところで、エレアが話を分断するように会話を打ち切った。
「で、ではターレント公、王様への報告があったと聞きましたので参りましょうか!」
「そうですな」
「では、御機嫌よう。皆様」
「お、お疲れ様です」
「では、また後程お会いしましょう」
パーティーの本陣へと戻っていく3人の背中を眺めながら、大樹はポツリと呟く。
「アレ、嫌いです」
「同感だ。ナルシスト入ってるだろうアレは」
「なんていうか、あれですね。背中に虫唾が走りました。今も流し目しながら『御機嫌よう、皆様』ですよ? うわっ!」
「世の中色々な人間がいるもんだ。出来る事なら関わりたくないが……四柱である以上、何かしら今後も縁がありそうな気がする」
「うげー」
そんな取り留めのないやり取りをしていると、ふと人垣の方が騒がしくなっていた事に気が付いた。
「何かあったのか?」
「さー?」
呑気にグラスを傾けながら成り行きを見守っていると、ゆっくりと人垣が割れていき、その隙間から慌てたようにウンディーネが姿を現わした。
「なんか……怖い顔してるんですか?」
「……目が据わっているな。大塚君、何をやらかしたんだ」
「何もしていませんよ! 言いがかりです! ずっと横にいたじゃないですか!」
「そうだっけか?」
喚く大樹に、聞き流す耕介。
そうこうしている間に、ウンディーネは肩を怒らせながら大樹達の元へやってきた。
「今の2人、何かされたりしましたか?」
「今の奴って……ターレントさんとヨーデルさんですか?」
「そう。特に紫の服を着た老人」
ウンディーネは国王へと挨拶しにいった2人の背中へ、厳しい視線を向けている。
その表情は忌々しげと言わんばかりで、2人の背筋に汗が滲んだ。
「ターレントさんですか? ……良い人でしたよ?」
「良い人かどうかは分からんが……少なくても紳士的な態度ではあったな」
「……何かあったんですか?」
「……どうも良くない雰囲気を纏っていました」
「雰囲気、ですか?」
「いえ、気のせいならいいのです。それよりもマスターが毒づいてましたよ。逃げるなって」
「いやー僕はこの前アレを味わったから遠慮したいなーって」
「さっきと意見が変わってるな……。私はあんな人混みに揉まれるのはごめん願いたい」
「何を呑気なことを……これからもっと大変になりますよ。それでは、わたしはマスターのもとへ戻ります」
ウンディーネが踵を返して戻るのを見送る2人。
だがバルコニーから一歩出た瞬間、何かを感じ取ったように耳がピクッと跳ね、ウンディーネが驚きの表情で振り返った。
「なんだ? 忘れ物か?」
「何か後ろに…………へっ?」
ウンディーネに釣られるようにして振り返った大樹は、あまりにもマヌケな声を上げた。
その様子を気にした耕介も振り返ってみると、あまりにも突然の出来事に目を丸くした。
「なんだ……あれ」
遥か遠くで出現したそれを見て、耕介は呆然と呟く。
「光……?」
そこには────夜の闇が広がる世界の中、遥か遠くの地で一本の線が生えていた。
まるで夜の帳を切り裂くように、それは一直線に空へと立ち上り、一際まばゆい光を放っている。
現地で見たのなら、半径10メートル以上はある光の柱になっているだろう。
すぐに落ち着きを取り戻し、冷静になった耕介は状況把握に務める。
「……大規模な魔法……か? Aランクモンスターでもいたのか?」
遠くからでも見えるその現象は、上級魔法を見た時のエフェクトに似ていた。
「そんなのが近くにいたら、こんなパーティーとかしてる場合じゃないですよね……」
「分からないぞ? いきなりポップしたのかもしれん」
「ポップってゲームじゃないんですから……。そうなると、戦えるのは……えっと、火の人しか残ってないですよね? ストラさんもダルドさんも……ヨーデルさんもここにいますし」
「あーなんだっけ。 火の人の名前忘れたわ」
「同じく」
「そもそも上級魔法使えるのがもう一人増えて、4人もこの場にいるんだからここは安全だろうさ」
「ここは安全て、あの周辺に住んでる人達は……」
「貴族様は自分達だけが助かればそれでいいってテンプレな考え方をしてたら?」
「……いるんですか」
「少なくても、正面立って民を守りそうな奴なんて貴族は見かけないな。さっきのターレント公と王様くらいか……?」
そんなことを口にしている内に、立ち上る光に変化が起こった。
まるで殻を破るように光柱がひび割れていき、そこから染み出すように紫色へと変わり────
二人が呆然と見守る中、宵闇の暗さと同調するように、その輝きは緩やかに消えていった。
◇ ◇
パーティーもつつがなく終わり、すっかり夜も更けた頃。
大樹、雄也、耕介の3人は、いつも通りに大樹の部屋に集まっていた。
満身創痍状態の雄也はベッドに身を放り投げ、耕介は変わらずソファに寝転がり、自分のベッドを取られた大樹は椅子に座りながらも四肢を投げ出すようにだらけきっていた。
「今日は……本当に、疲れた」
「おつかれー」
「今日のMVPは間違い無く小室くんだ。誇っていいぞ」
「……どーも」
力無く答える雄也。その声色からは嬉しさの欠片も感じられない。
大樹は苦笑し、視線を窓の外へ向けた。
「そういえば、結局なんだったんですかね? あれ」
「さーな」
「……何? あれって」
「雄也は見てなかった? パーティーの時に遠くで光の柱が立ってたんだよね」
「……パーティーで貴族相手にして……そんな、外見る余裕とか、あるわけないから……」
「確かにそうだな」
「そういえば、ウンディーネさんは真っ先に気が付いたみたいだけど、何か知って──」
大樹は声をかけようとして、その言葉を引っ込めた。
そして恐る恐る、ドアの方へと振り返る。
人魚族のような美しい女性の外見をした、ウンディーネ。
彼女はさも当たり前のように大樹の部屋に入り、今の今まで声を発せず佇んでいた。
最初は椅子に座るよう勧めようとしていたが、あまりにもウンディーネが真剣な眼差しで何かを考えようとしていたため、誰も声をかけずにいたのだ。
……そしてウンディーネは未だ、眉間に皺を寄せている。
「ウンディーネさん。さっきの現象に心当たりはありますか?」
だが、耕介はそんなウンディーネに臆することなく質問を飛ばした。
「……えっ?」
ウンディーネはハッとした表情をしてから、耕介、大樹へと視線を向ける。
「さっきの光。何か心当たりありますか?」
再度尋ねる耕介に、ウンディーネは頭を振って答えた。
「いえ、大規模な魔力が運用されたことくらいしか分かりません」
「あれは上級魔法みたいだったが?」
「……分かりません。自分の属性における上級魔法は感知できますが、他の属性は魔力素が動いているようにしか感じられませんので……」
「なるほど。少なくても水では無い上級魔法が放たれたと」
「…………そう、ですね。あるいは……いえ、きっとそうでしょう」
答えるウンディーネの表情は暗い。
「気にすることないと思いますよ。この世界の出来事をいちいち考えてたら、頭が禿げ上がります。どんな魔法があるかなんて、全く分からないんですから」
「雄也はもともと坊主だから大丈夫だね!」
「うーん……小室君の言うとおり、なんだがな……」
歯切れの悪い耕介の口ぶりに、雄也が起き上がって耕介を見やる。
やはり耕介は、未だ納得のいっていない表情をしていた。
「そんなに気になるんですか?」
「いや……何となくだが、良くないことが起こるような気がしてな」
「この世界に来た以上にですか!?」
「…………。そんなに気になるなら、明日神近先輩の所に行ってみますか?」
「そうか、あそこは情報屋だったな」
「エレアさんに頼めば、きっと分かりますよ」
「そうと決まれば、今日はもう寝るとしよう」
「そうしましょうか。それじゃ、自分の部屋戻るわ。おやすみ、大樹」
「いい夢見ろよー」
「おやすみなさい。ダイキ」
明日の行動を決めた雄也と耕介は、おもむろに立ち上がり、欠伸をしながら部屋を出て行った。
1人部屋に残された大樹は、ポツリと呟く。
「…………扱いが段々と酷くなっているのは気のせいですかね? もっと、こう……ね?」
しかし、その呟きに答える人は、誰もいなかった。




