第11話 明かされていく世界
なんとか復興の目処が立った頃、魔物から町を救うために派遣された6人は、数多くの騎士達を残してサリアーラの町を発った。
すでに数時間は馬車で揺られており、日が高く登り、柔らかな風が吹き、平和を感じさせる自然の中にいる。
雄也と大樹と耕介は、今まで経験した事のない、サバイバル生活をラキアに教わりながら、サリアーラの人々とこの一週間クタクタになるまで復興作業を手伝った。
そして昨晩は、夜通しで感謝の宴なるものを開いてもらい、それまでの疲れなんて忘れたかのように、朝方まで思い切り騒いでいた。
その中でも特に騒いでいた大樹と耕介は、今はぐっすりと馬車の中で船を漕いでいる。
サリアーラに向かった時とは打って変わって、穏やかな時間が流れていた。
そんな道すがら、雄也は復興途中で耕介に告げられた言葉を思い出していた。
昌人は本当に死んだのか、という疑問。
耕介の言葉に呆気にとられたが、確かに言われてみれば、そうなのかもしれない。
雄也は二叉の槍に貫かれたボロボロになった学生服を見つけただけ。言ってしまえばそれだけ。
昌人の死体を見たわけでも、死に際を見守っていたわけでもない。
そう考えれば生きているんじゃないか、そう思ったところで、その先を制された。
雄也自分が出した答え──みんなを守りたい。その結論を出した以上、昌人の生死に振り回されるのは良くない。そう釘を差されたのだ。
さすが2つ上の先輩だけであって、自分のようにブレたりせず、しっかりしていると感心した。
そんな数日前の事を回想しながら、流れていく景色をぼんやりと眺める。
一週間前と今とで、自分の中で何かが大きく変わってしまったのを感じる。
この世界が元の世界とは違うと、散々言われて、魔法を目の当たりにして分かっていたことだった。
それでも、サリアーラの町に来るまでは、ファンタジーの世界を体験しているという、どこか他人事のようで、一種のゲーム感覚で過ごしていた。
だが、今はその考えを改め、この世界のルールに従い、この世界が現実だという考え方が根を張り、その上でしっかり生き抜こうと考え始めている。
生きるということ。死ぬということ。
町を壊され、生きる人が殺され、その元凶になった魔物を狩る。
一連の流れで甦る、悲惨な光景。体から離れた腕、肉の焼ける匂い、そして嫌でも人外だと認識してしまう魔物の姿。
その光景を思い出すと、吐き気こそもうしなくなったが、すぐに気分が悪くなる。
次にそれを目にした時、自分は冷静になれるのだろうか。そんな自問するが、答えは出ない。
決めたり、思ったりするだけでは、人は強くなれない。それを雄也はよく知っている。
他でもない、前の世界で嫌というほど思い知っていたから。
────前の世界、か。
雄也は自嘲気味に口を歪める。
それは、確かに今この世界を現実だと受け止めている事に他ならない。
自分だけの役目を持てるなら、それを全うしよう。自分で決めたことなら尚更やっていこう。
耕介が忠告したように、ダルドが言ったように……誰かの生死に囚われて、自分の命を軽んじる事だけは絶対にやめ、懸命に生きよう。
どこかのゲームかアニメかで聞いた、護衛は対象を守れて2流。対象と自分を守れてやっと1流、という言葉がふと頭をよぎる。
別に仲間を護衛する訳ではないが、自分の身近にいる人達を守る、という意味では同じだろう。
もし、この先生きて昌人に会えたなら、その時は仲間を守れる自分を見てもらおう。
昌人がかつて自分にしてきたように。
雄也は心の中で誓いを立て、静かに馬車に揺られている2人に質問を投じた。
「Aランクモンスターを倒せるまで、どれくらいかかりますかね?」
「随分と唐突ですね……そうですね……ダルド様はどう見られますか?」
「どんなに腕が良くとも、半年はかかるじゃろ。じゃが、お主らは魔法の覚え方が驚異的に早いからのう。特にユウヤは剣の素質もあるよう。どちらに重きを置くかにもよるが、早ければ二月くらいかあるいは……ってところじゃろ」
「二月……長いですね」
「なに、懸命に日々鍛錬に勤しめば月日なぞあっという間に過ぎるわい」
ゆったりと笑うダルドに、少しだけ不安そうにするストラ。ラキアは馬車の御者と共に馬を引いている。
雄也は伊を決したように、居住まいを正して、2人に向き合った。
「Aランクモンスターを圧倒した時の魔法。あれは上級魔法という事ですよね? 上級魔法を習得するまでに、何をどうすればいいか教えていただけないでしょうか?」
ダルドとストラは顔を見合わせ、軽く頷いてから再び雄也に向き直った。
「本気、なんですよね?」
雄也は静かに頷く。
その瞳に宿る意思が堅いと判断した2人は静かに心を決めた。
「そろそろ色々と話さねばいけない頃合いなんじゃろうな」
「そうですね。ですがその前に、全員に関わることでもありますから、2人が起きてからにしましょうか」
「……そうですね。みんなに関わること、ですから」
「少しコムロ様もお休みください。お2人が起きたら起こしますから」
「分かりました」
ダルドとストラの意味深な言葉に、雄也は多少疑問を抱いたが、勿体ぶるわけではなさそうだと判断して、言われるままに休む事にする。
横になって目を閉じると、規則正しく揺れる馬車がゆりかごのように心地よく、知らずに溜まっていた疲労も手伝って、雄也の意識は静かに微睡んでいった────。
「ほら。雄也! 起きなってば!」
「ん……?」
雄也が目を覚ますと、目の前に大樹の顔が迫っていた。
「いつまで寝てるのさー! もうお城に着いたよ!」
「大塚君も今の今まで寝てたけどな」
「こーすけ先輩、そういう事は言ってはいけません」
「言う方がお約束だろう」
「そんな事言う人、嫌いです!」
目の前でワイワイとやっている2人をボーっと見つめながら、少しずつ現実を認識していく。
「そうだ、おれはあのまま……」
「ずいぶんとぐっすり寝てたようだ。ここに着いてすぐ、ラキアと師匠とストラ先生は謁見しにいったよ」
雄也の心をまるで読んだかのように、3人の居場所を伝える耕介。
「僕達はどこへ行けばいいんでしょうかね?」
「聞いてなかったのか。3人に続いて後で玉座の間に来るようにって言われていただろう」
「そうでしたっけ?」
「と、とにかく行けばいいんですよね? 王様を待たせるのも気が引けるので急ぎましょう」
雄也は立ち上がると、2人と共に玉座の間へと向かった。
「僕、あそこ雰囲気怖いから嫌い」
勇者なら何度も訪れることになるだろう場所に、大樹は愚痴る。
「緊張感が段違いですよね! そう思いませんか? こーすけ先輩」
「そうか? 別に気にしたことないが」
「大樹なんてあの時、王女様に手を引かれて登場したじゃないか。何を不満がる必要があるんだ?」
「そういえば、あれから鬼畜なルートは進めてるのか?」
「してないですよ!! っていうか、ほぼ四六時中一緒にいるじゃないですか!」
「ダメですよ、榊さん。大樹はヘタレなんですから」
「そうか。大塚君はダメだなー」
「…………うぐぅ」
「なんだ、たい焼きご所望か?」
「その前に王様に挨拶しないとな」
「みなさん! よくぞご無事で!」
玉座の間の少し手前、ワイワイと騒ぎながら歩いていると、少しだけ懐かしく思える声が3人の耳に届いた。
「エレア様!」
「…………お帰りなさいませ、勇者様。そして、ユウヤさんにコウスケさん」
「ただいま戻りました……?」
「右に同じく」
「た、ただいま……エレアさん……」
「はいっ、お帰りなさいませ、ダイキさん」
「…………?」
ふと立ち止まり、首を傾げた耕介に、雄也はどうしたのかと尋ねる。
「いや、エレアさんの呼び方が変わってる気がしてな?」
「あ、その……申し訳ありません。馴れ馴れしくし過ぎたでしょうか?」
「いやいやいや! 全然いいよ! 問題ない! そうですよね? 2人とも」
「別に何でもいい」
「ま、そうだな。城下町で飯を食べた仲だしな」
「そうだ、後で知枝先輩の所にも顔を出しましょう!」
「それはいい案ですね。ぜひ、ご一緒させてください」
「その前に早く大広間に行かないと。待たせてるんだろ? 王様」
雄也の言葉に今何をしているのかを思い出した3人は、足早に玉座の間へと向かった。
◇ ◇
王様との謁見を終えて夕食を辞退した3人は、その帰りの足で魔法を教わる部屋へと向かった。
向かう途中でエレアと別れ、雄也の先導に従ってその部屋の扉を開けると、そこにはダルドとストラが真剣な面持ちで3人の来訪を待っていたようだった。
「それでは何から話しましょうか」
3人が椅子に座ったことを確認してから、ストラはゆっくりと口を開いた。
「Aランクモンスターを討伐するには、どうすればいいですか?」
「この前も満足に答えが聞けなかった事について聞きたい。Aランクを倒すには上級魔法が必要だと言っていたが、ラキアは斧で攻撃していた。物理攻撃はどの程度有効なんだ?」
「あれ以上の魔法攻撃とか怖くてイメージできないんですけど……」
三者三様、と言った風に3人同時に発言したことで、ストラは乾いた笑いを漏らした。
「一つ一つお答えしましょう。勇者様とコムロ様の話しは最後に回しましょう。まずはサカキ様の質問からお答えします」
ストラは毅然とした態度でそう言うと、ダルドを一瞥して続けた。
「ラキアさんが先のモンスターに物理攻撃出来たのは、武器とエンチャントによるものです」
「エンチャント?」
「確か属性付与だっけか?」
「はい。皆さんにお教えした通り、この世界には4つの属性が存在します。その全ての属性において武器に属性を付けることが可能なのです」
「その属性を付けて攻撃すれば効くのか?」
「いえ、もう一つの要因は武器です。皆さんはあの大斧に触れたことはありますか?」
「僕持たせてもらったー! なんか見た目と違って、すげー軽かったお」
「おれは触っていませんね」
「私もだ」
3人の回答に静かに頷くストラは、再び話を進める。
「あの武器は、金属をも噛み砕く星の龍と謳われている、SSSクラスモンスターの牙を加工して作られた、特注の武器なのです」
その言葉に、3人は口を開け、驚愕の視線をストラに向けた。
「「「ト、トリプルエス……だと……!?」」」
3人同時に仲良くハモリ、対してストラは重々しく頷く。
「はい。一般的に出回っている武器では、各属性の付与に耐え切れず、壊れてしまいます。土属性は比較的Aランクモンスターの素材で出来た武器でも属性付与出来ますが、次第に水、風、火という順番で付与する難易度が上がっていきます。もちろん、その効果も比例していきます」
「ちょ、ちょっと待った。モンスターのランクっていくつまであるんだ?」
「現在確認出来るだけで、4Sまであります」
その言葉に、再び絶句する3人。
「知枝先輩って確か4S持ってたよね?」
「携帯電話じゃないぞ、大塚君。しっかり気を持て」
「あの、Aランクがいるだけで、都市一つ滅ぼせるんですよね?」
「一般的に言われているレベルでは、そうなりますね」
「4Sって……つまり?」
「宇宙が滅びる?」
結構焦り顔で呟いた大樹の言葉に、ダルドが愉快そうに破顔する。
「あくまでも、ランクは分かり易いように付けているだけじゃよ。そもそもAランク以上の魔物はこの大陸には来ない。なぜか、の」
「その理由は?」
「さーの。魔物に聞くのが一番ええの」
つまりは知らないという事。
そうなると次なる疑問も出てくる。
「この大陸って事は、他の大陸にはいるんですか?」
「はい。以前言ったと思いますが、この世界にはその属性にちなんだ大陸が存在します。
水を象徴する大陸、アクアヴェネラル。
土を象徴する大陸、ソイルメント。
風を象徴する大陸、ウィンダミリス。
火を象徴する大陸、フレイタニア。以上4つの大きな大陸があります」
「確か、それぞれの大陸に治めている大国があるんですよね? 4人のお抱え魔法使いがいるとか」
「そうじゃ。アクアヴェネラルには人間の四柱が。ソイルメントにはドワーフの四塊が。ウィンダミリスにはエルフの四彩が。フレイタニアには混血種の四陽がそれぞれおる」
「そしてやはり土、水、風、火の大陸の順番で魔物の強さが違うんです」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。色々聞きたい事がある!!」
耕介はストラとダルドの発言を、待ったと手を突き出して制する。
「他の大陸には人間はいないのか!?」
「そうですね……少数はどこにでもいますが、その土地を治める種族という意味では人間はこの水の大陸のみです」
「ドワーフってあれですか。小さい人ですか? 身長が30cmくらいのホビット族みたいな?」
大樹は少しワクワクしたように、ストラに質問する。
「いえ、確かにドワーフ族は私達に比べて背は低いですが、そこまで小さくはありません」
「エルフはやっぱり耳がとんがっていて、金髪ですか?」
雄也はまさか、と訝しんで言葉を投げる。
「そうですね。コムロ様の想像通りです」
「火の大陸の混血種というのはどういう事だ?」
耕介は淡々と、まるで素材を吟味するように一つ一つ訊ねる。
「意味合い通りの種族です。人と似て、中身の違う亜人や、ハーフエルフ、ハーフドワーフや獣人。行き場のなくなった様々な種族が集まる……ギルド大国です」
「ギルド大国というのは、言葉の通りでいいのか?」
「はい。名が示す通り、ギルド商会がそのまま国になったと考えればいいでしょう。先程も申し上げた通り、強い魔物が跋扈しているのはフレイタニアのみです。彼らはそこの魔物を狩り、その素材を各方面へと流通させて生活しています。ラキアさんはここで随分揉まれたようですね」
「てことは、ある程度実力がないと……?」
「はい。すぐに魔物にやられてしまうでしょう」
その言葉に、3人は息を呑んだ。
「火の大陸で召喚されてたら、来てすぐにエキスパートモードだったね」
「……そうなると、Sランクが普通にいるのはフレイタニアっていう大陸だけだと考えていいのか?」
「はい。フレイタニアはサリアーラの町からちょうど北の方にあります。今回サリアーラを襲った魔物は、恐らくフレイタニアから来たのでしょう」
「そんな事、頻繁にあるんですか?」
「いえ、頻繁にはありません。考えられるのは、縄張りを増やすためなのか、それとも──」
「縄張りを追い出された、か」
顎に手を当てながら考えていた雄也の言葉に、ストラは強く頷いた。
「そうですね。もしかしたら更に強力な魔物がフレイタニアに出現したのかもしれません」
「これ、悪王ってどれだけ強いか分からないですね。無理ゲーな気がしてきました」
「そしたら、帰れずにこの世界で死ぬか?」
「救わないと世界終わる。戦ってもどれだけ強いか分からない。あれ? これ詰んでね?」
「これから強くなればいいんだろう。話が思い切り脱線したな。それで、Aランクモンスターに攻撃するには、上級魔法か、属性付与した物理攻撃しかないってことなのか?」
「あとは弱点を突くことが出来れば、中級魔法でも、流通している武器でも効き目はありますが……」
「何か問題でも?」
「弱点を攻撃しても、大抵は無力化出来ず怒らせてしまうので、上級魔法で片付けた方が効率的です。ラキアさんならその技量も十分にあるので、エンチャントなしでも対応できますが、Sランク以下の人には荷が重いでしょう」
「ラキアってどれくらいの強さなんだ……?」
「確か、サリアーラに向かった時にはS級ハンターって言ってたような……?」
「ラキアさんのギルドライセンスはSSのはずです」
「もうあいつがラスボス倒しにいけよ」
「パワーインフレもう嫌です」
「おれも不安になってきた……。でも大樹は4Sどころか、5Sがあっても倒せる力があるんだろ?」
「え? 僕に!? ムリムリムリムリムリムリ!!」
「上級魔法を覚えればいけるんじゃないか?」
「そうですね。私もギルドライセンスは取っていませんが、SS相手の経験はありますので、戦えないこともありません」
「なるほど。なら、その上級魔法習得方法は?」
耕介の核心をつく質問に、雄也はいよいよと唾を飲み込む。
「はい。それは……大精霊と契約することです」
雄也は真剣な目でストラの瞳を見る。
耕介はなーんだと、拍子抜けしたように体を背もたれに預ける。
大樹は頬を引き攣らせて固まっていた。
「大精霊って……大樹が契約して行かないといけない、あれ?」
「そうです。勇者様に大精霊と契約して頂き、四大精霊を昇華した光の根源精霊を呼び出して頂き、悪王を葬り去る。これが大昔より今に残る言い伝えです」
「なるほど。だから召喚される前、大塚君が光の精霊と会ったのだな。本当に選ばれし者じゃないか」
「僕は選ばれたくありませんでした!」
「大精霊と契約すれば上級魔法を使える、と」
「はい。ですが、契約は1人1精霊までしか出来ません。それが掟です。しかし、勇者様だけは例外なのです。1人で4大精霊と契約できる唯一の人。額にその紋章を持つ、その人だけが世界を救えると言われています」
「なるほど。だから1人1属性の上級魔法しか使えないのか」
「というか、額の設定とかあったなー。今思い出したわ」
「そうですね。あれ以来見てないですしね。すっかり忘れていましたわ」
「みんなー酷いですよー!」
「大樹さ、自分が一番忘れてただろ? ん? 正直に言ってみ?」
「…………忘れていませんでした」
迫る雄也の視線に応えられず、顔を背ける大樹。
「とにかく、大精霊と契約すればAクラスモンスターは怖くなくなる、と」
「そうですね。勇者様の質問である、イメージが出来ないというのは問題解消されます。中級までは自分の魔力を消費して自分が思い描いた魔法を発動させますが、上級魔法は自分の魔力を消費して精霊が魔法を使う、言わば精霊術と言うものです。こういう魔法を使いたい、その指示さえ間違えなければ、あとは精霊が魔法を発動します」
「なるほど、簡単な話ですね! それなら僕にもできそうだ!」
「さすが勇者様! では私達は自室にいるので、契約してきてくださいねー」
「こーすけ先輩は僕に恨みでもあるのですか!?」
「いやいや、やる気だったのでつい、な」
3人のやり取りを見ていたダルドは、大丈夫かのとボソッと呟く。
「ん? 何がだ? 師匠」
「いや、の。これは精霊と契約した者しか知らない事なんじゃが」
「いやいや、それを私達に言うのはダメでしょうが」
耕介のツッコミを意に介さずに、ダルドは話を続ける。
「契約者というのは上限人数が決まっておるでな。それぞれの国に各属性を担う契約者が一人ずつしかおらんのじゃ。勇者は例外じゃろうが、他の者も契約できるのかと思っての」
「って言っちゃったよ。って、え? なにそれ。つまり、大塚君が契約したら私達は契約出来ないかもしれない、と? そういう事?」
「うむ。ワシら、各大陸に存在する4人の契約者は、魔物から大陸を守る守護者の役目を任されておる故、大精霊との契約を破棄できぬ。そこら辺は分からんが……まぁ何とかなるじゃろ」
結構重大な問題をサラリと投下して、肝心な部分はそのまま放り出して笑うダルド。
「え? それってどうすればいいの?」
「問題無いだろ。いざとなれば大塚君がAランク以上全部を相手にすればいいんだし」
「もう、ほんと、そろそろ、泣いていいですか?」
「どちらにしても、何とか考えないといけない問題なのかも」
「そうですね……これはもう、行って確かめるしかありませんね」
「行くってどこに?」
「以前話したと思います」
ストラは全員の顔を見回し、答えた。
「水の大精霊がいらっしゃる場所────水の庭園です」
◇ ◇
「一回顔出しただけかと思ったら、そんな事になってたのーお疲れさまー」
色々と更新された新情報をツマミに、大樹、雄也、耕介、エレアは先の約束の通り、知枝のいる城下町の店に来ていた。
そして、知枝を交えた5人で席を囲み、この一週間で起こった出来事を説明していた。
「みなさんが無事で、本当に良かったですわ」
「……ってかさ、この世界危険すぎでしょ」
「こーすけ先輩。今思ったんですけど、これってエレアさんに聞かせちゃっていいんですか?」
「いいんじゃないか? ここは情報屋のようだし。私達が言わなくても、どうせ後で色々と知るはずだ。だろう?」
「はい、そうですね」
エレアはニコッと笑い、目の前に置かれたグラスを持ち上げて、ストローを口に含む。
「ん? エレアって誰? 彼女ってノーレさんだよね?」
知枝の言葉に、ストローを口にしていたエレアは時が止まったように静止した。
あまりにも自然な流れで口にした大樹は、しまった、と後悔したが、時にはすでに遅く、場が静寂に包まれていた。
慌てて隣にいた雄也に目を向ける。我関せずといったように、肘をついてこちらを見向きもしていない。
続けて、雄也の向かい──大樹の右前に座る耕介に目を向ける。しかし、目の前に置かれた皿を処理するのに手一杯ですと言わんばかりに、皿に視線を落として、懸命に咀嚼していた。
2人は完全に見限ったようで、恐る恐る正面にいるエレアに視線を向けると────ストローを咥えたまま、死んだ魚のような目をしている。
大樹は冷や汗をかきながらも、雄也の逆隣に座る知枝に顔を向け、満面の笑みで答えた。
「えっと? エレア……? なんて、言ったっけ?」
「言った。間違いなく。わたしが聞き間違えたとかこれっぽっちも思えない程にハッキリ、クッキリ、口にした」
震える声で裏声を混ぜつつ、発言を無かったかのように努めるも、知枝は聞き流す気はさらさらないようで、きっぱりと大樹の発言を切り捨てた。
笑顔のままどうしようと思考を巡らせる大樹。
「それに、榊先輩もここが情報屋だって。いったい、何の話?」
「ぶっ!」
続け様に耕介が標的になり、咽て口に含んでいた食べ物を吐き出しそうになるが、手で口を抑えて最悪の事態を回避する。
飲み込んでから、マズイと思い雄也に助けを求めるも、完全に明後日の方向──というより、壁に顔を向いていた。
大樹と視線を合わせた耕介。互いからともなく頷き────
「すまん」
「ごめんなさい」
頭を下げた。
「ふぅ。ここまで来たら仕方ありません。チエさん。こちらに来ていただいてよろしいでしょうか?」
「? はい」
エレアは少しだけ腰をずらして耕介の方に寄り、通路側のスペースを空ける。知枝は誘われるまま、そこに腰を下ろした。
エレアが耳打ちして数秒後、「マジ!?」と言葉を漏らす知枝。
その内容は、想像するまでもないだろう。その後30秒もしない内に、知枝の耳元からエレアが離れると、よろしくお願いしますね、とエレアが微笑んだ。
「やっと色々納得したわ。ここに来た時も、わたしを見つけに来たっていう感じじゃなかったし。っていうか、他にもわたしに隠してることないでしょーね?」
知枝は元の席、大樹の隣に腰を落ち着けると、男3人を一睨みする。
「ないですね」
「ないと思います」
「ないな」
まるで口裏を合わせたかのようにきっぱりと答える3人。
本当に相談や口裏を合わせた訳ではないが、この一週間程にあった出来事の中で、一つの事柄だけは、口を閉ざそうと各々で決めていたのだ。
今はその考えが偶然にも一致したに過ぎない。例えすぐ後に、エレアの耳に入ろうとも、わざわざ今この場で言う必要がないと3人は考えていた。
「そんなわけで、おれはこれから今まで以上に本気で修行に打ち込みます。ありがたい事にラキアさんに筋が良いと言われているので、剣術の方に力を入れていこうかと」
「まぁ、ラキア様が!?」
「雄也は薙刀部のエースだったもんね! 頑張って!」
話題を大きく変えるために、これからの意気込みを宣言した雄也に乗っかり、エレアが賞賛の声を上げると、皿に乗るスライス状に切られた燻製肉を次々と口に運びながら、大樹がエールを送る。
これは最近お馴染みとなったヴェネウルフの肉らしく、知枝を救った森に行って取ってくるこの店のイチオシメニューだと言う事を、3人は先程知った。
言われてから最初は口に運ぶのに戸惑っていた3人だったが、一番気にしそうな知枝がパクパクと口の中に放り込んでいく姿を見てからは、何の遺恨もなく食べれるようになった。
「私は魔法について色々見聞を広めたいところではあるな。やりたい事もあるし」
「やりたい事、ですか?」
「こーすけ先輩、また何かやらかすんですか?」
「また、とは失礼だな大塚君。君ほどやらかしてはいないだろう。少し師匠に頼んで魔法学について勉強するだけさ」
「あぁ、そういえば弟子入りするって言ってた時に、面白いこと思いついたって言ってましたね。もしかして、それですか?」
「さすが古室君。察しがいいな」
「コウスケさんは、ダルド様に弟子入りしたのですか?」
「まぁ、色々やりたい事がありまして」
「ダルド様はこの国一の知識人でもあります。きっとコウスケさんのやりたい事の助けになりますわ!」
「なんかみんな別人みたい。何かあったの?」
「あーいや……ちょっとサリアーラに行った時に、色々ありまして」
言葉を濁す雄也。知枝はそれ以上の事は突っ込まず、「ふーん」と一言呟いてから、話題を大樹に向けた。
「で、大樹君は何するの?」
「えっ?」
「えっ?」
知枝の言葉に、大樹はまるで思いがけない質問をされたように、目を見開いて知枝を凝視する。
勇者と言われている大樹も、2人に倣って当然何かをするものだと思っての質問なのは、その場にいた他の4人には分かっていたのだが、大樹のりアクションが全てを物語っていた。
大樹以外の4人は揃ってため息をつき、大樹は慌てふためいた。
「いや、ほら、まだどうすればいいか分からないことばかりだし! 何て言うか、僕が勇者とか話が途方もなさすぎてどうすればいいのか分からないと言いますか──」
「分かった分かった。大樹は俺と一緒に、剣術の稽古しようなー」
「それがいいと思う」
「では、今まで通りにわたくしがお昼のお弁当をお持ちいたしますわ!」
「キタコレ! お願いするお!」
「…………なるほどねー。まぁ、そうなりますよねー」
知枝は意味深に呟きながら、そっかそっかと頷く。
「何かあるんですか?」
「ん? なーんにも。それより、大樹君は勇者なんでしょ? いっそのこと、雄也君は剣術を習って戦士、榊先輩は魔法を習って魔法使いってバランスよくパーティー作っちゃえば?」
「って事は、知枝先輩が僧侶を担ってくれるんですよね?」
「んー……わたしはまだほら、どうするか分からないからさ。昌人君か健治先輩を探したほうがきっと早いと思うよー?」
その言葉に、男3人は一瞬表情に影を落とし、その影を打ち消すように笑った。
「そうですねー兄者か松永さんを探してみます!」
「その前に、水の大精霊と契約だな。大塚君、しっかり頼むぞ」
「えぇっ!?」
知枝は呆れながらも、隣に座っていた大樹の脇腹を肘で突付く。
「大樹君、がっかりさせないでね?」
「え? う、うん、頑張るお……」
「ねーみんな聞いたー? 大樹君頑張るってー!」
「そうかそうか、良かった良かった」
「大樹、言ったからにはやれよ?」
「うう……みんな酷いお……」
サメザメと悲しむ大樹を正面に捉えながら、エレアは苦笑いを浮かべていた。




