第五話 最後の悠真
昼休み。
教室はいつも通りのざわめきに包まれていた。
神崎悠真は窓際の席で、ぼんやりと外を見ていた。
ここ数日続いている違和感は、まだ消えていない。
むしろ“形を持たないまま増えている”。
「なあ悠真」
突然、玲司がスマホを見せてきた。
「これ、なんか変なんだけど」
画面には短い動画ファイル。
保存した覚えのないものだった。
タイトルもない。
ただ、ファイル名だけが妙に機械的だった。
last_yuuma
悠真は眉をひそめる。
「誰から送られてきた?」
「いや、それが分からないんだよ」
玲司は笑うが、少しだけ声が硬い。
動画を再生する。
ノイズ。
揺れる画面。
崩れた映像。
しかし内容ははっきりしない。
ただ一つだけ分かる。
そこには“何かが起きた後”の世界が映っている。
焦げたような空。
歪んだ地面。
そして、倒れている“誰か”。
顔は見えない。
見えてはいけないように、そこだけがぼやけている。
映像の中の“それ”が、ほんの一瞬だけ動いた気がした。
画面越しに、こちらを見たような感覚。
悠真は無意識にスマホから目を逸らす。
「……やめろ、それ」
玲司は首をかしげる。
「なんかまずいのか?」
「分からない。でも見ない方がいい気がする」
理由は説明できない。
ただの直感だった。
昼休みが終わる頃。
教室のあちこちで似たような話が出ていた。
「なんか変な動画見た」
「空が変だった」
「夢みたいなやつ」
しかし誰も発信源を知らない。
誰かが広めたわけでもない。
ただ“同じ話だけが自然に集まっている”。
悠真はその会話を聞きながら思う。
(まただ)
(同じ形の違和感だ)
放課後。
教室。
一人分の机が空いている。
昨日まで誰かがいたはずの場所。
だが誰も気にしていない。
悠真は隣の生徒に聞く。
「ここって昨日まで誰かいなかった?」
「いや、ずっと空いてるだろ」
当然のような返事。
悪意も迷いもない。
悠真だけが、引っかかる。
帰宅後。
結衣は夕飯を作っていた。
「おかえり、兄貴」
いつも通りの声。
だが悠真は気づく。
包丁の音が一定すぎる。
刻むリズムに“迷い”がない。
まるで手順をなぞっているだけのようだった。
「今日さ」
結衣が言う。
「学校どうだった?」
その問いは自然だ。
だが、少しだけ“間”がなかった。
悠真は答える。
「普通だった」
結衣は小さく笑う。
その笑顔が一瞬だけ固まる。
その夜。
スマホが勝手に震える。
通知はない。
履歴にも残らない。
ただ画面が一瞬だけ暗転する。
そして、消えかけの文字が浮かぶ。
last_yuuma
悠真は息を止める。
「またか……」
窓の外を見る。
雨は降っていない。
だが、外はどこか“重い”。
街灯の下に影がある。
しかし人ではない。
形だけがある。
悠真はすぐに視線を逸らす。
見てはいけない気がした。
スマホが再び震える。
今度は確実に“誰か”からの通知。
玲司ではない。
篠宮でもない。
登録されていない番号。
そこに一行だけ。
「見たな」
その直後、画面が真っ暗になる。
最後に残ったのは、理由の分からない“確信”だった。
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