第四話 記憶の空白
朝。
神崎悠真は教室にいた。
いつも通りのはずの空間。
しかし、昨日から続く違和感はまだ消えていない。
むしろ形を変えて残っている。
教室を見渡す。
生徒たちはいつも通り話している。
黒板も机も変わらない。
だが悠真は気づく。
一つだけ、どうしても説明できない“空白”がある。
視界のどこかにあるべきものが、最初から存在していないような感覚。
昨日まで確かにいたはずの人物。
話した記憶もある。
会話の断片も残っている。
しかし――
名前が出てこない。
顔も曖昧になる。
思い出そうとすると、頭の中がノイズになる。
悠真は隣の生徒に聞く。
「昨日さ、ここにいたやつ……」
相手は即答する。
「ずっとこの人数だろ?」
笑いながら言う。
悪意はない。
むしろ本気でそう思っている。
この瞬間、悠真は理解する。
記憶の違いではない。
“認識そのものがズレている”
悠真は気づく。
消えた人物には共通点がある。
名簿にいない
写真に写っていない
誰も違和感を持たない
しかし自分だけが覚えている。
これは失踪ではない。
「記録の修正」
放課後。
結衣からメッセージ。
『今日、早く帰ってきて』
短い。
理由がない。
悠真は違和感を覚える。
結衣は必ず理由を付ける。
しかし今回は違う。
“説明が抜けている”。
帰宅後。
結衣は普通にいる。
夕飯を食べている。
「おかえり、兄貴」
その声は正常。
だが悠真は気づく。
言葉の途中に一瞬だけ“空白”がある。
まるで、そこだけ削除されたように。
夜。
悠真はクラス名簿を見る。
そこに違和感。
一人分の名前が読めない。
目を凝らすと消える。
視線を外すと存在している気がする。
これは単なる錯覚ではない。
「認識干渉」
その夜。
窓の外。
雨。
街灯。
そして――影。
人の形。
しかし顔がない。
悠真は息を止める。
瞬きをする。
消える。
スマホが震える。
通知。
送信者不明。
【記憶補正完了】
悠真は固まる。
意味が分からない。
だが、理解してしまう。
「今、何かが修正された」
夜。
結衣はすでに寝ている。
静寂。
雨音。
悠真は窓を見る。
何気なく。
そこに“影”がある。
顔のない存在。
今度は消えない。
ただ見ている。
スマホが鳴る。
玲司からのメッセージ。
「お前、今日“何か忘れてないか?”」
返信しようとした瞬間。
画面がノイズに変わる。
そして一瞬だけ表示される。
【観測対象:神崎悠真】
悠真は理解する。
これは偶然ではない。
記憶の問題でもない。
そして――
この世界はすでに「修正され続けている」。
読んでいただきありがとうございます。
感想・評価励みになります。




