第六話 名前のない接続
夜が明けても、昨日の違和感は消えていなかった。
むしろ、薄く広がっている。
神崎悠真は目を覚ました瞬間、自分の中にひとつだけ確信があった。
――“あの映像は、まだ終わっていない”。
リビング。
結衣はいつも通り朝食を作っていた。
味噌汁の湯気。
食器の音。
そのすべてが正常に見える。
だが悠真は気づく。
結衣の動きに“無駄がなさすぎる”。
昨日よりもさらに。
「おはよう、兄貴」
その声に問題はない。
しかし、感情の揺れが一切ない。
まるで“同じ状態を繰り返しているだけ”のように。
学校へ向かう途中。
悠真はスマホを確認する。
昨日の動画。
“last_yuuma”。
しかし、ファイルは消えていた。
履歴にもない。
ダウンロード記録もない。
「やっぱり……」
消えたのではなく、“最初から無かった形にされている”。
そういう感覚だけが残る。
教室。
玲司が声をかけてくる。
「昨日さ、変な動画見たよな?」
悠真は一瞬固まる。
しかし玲司の表情は軽い。
まるで雑談の延長だ。
「どんな?」
「なんか空が変でさ、あと倒れてるやつがいて」
その言葉に悠真は息を止める。
だが次の瞬間、玲司は首をかしげる。
「……いや、違うかも。夢か?」
言い直したわけではない。
“自分で上書きした”ような違和感。
昼休み。
同じ話題を出そうとするが、途中で言葉が止まる。
説明しようとすると、頭の中が白くなる。
思い出せないのではない。
“考えた瞬間に薄れる”。
悠真は理解する。
これは記憶ではない。
「固定されていない情報だ」
放課後。
教室。
昨日と同じ机が空いている。
だが今回は違う。
黒板に一瞬だけ“文字の跡”がある。
すぐに消える。
悠真だけが見ている。
誰も気づかない。
帰宅。
結衣は夕飯を作っていた。
包丁の音。
鍋の音。
すべてが正確すぎる。
悠真は声をかける。
「結衣」
「なに?」
振り返る動作が0.1秒だけ遅い。
その一瞬だけ、空気が“切れる”。
その夜。
スマホが震える。
画面は真っ暗のまま。
音も通知もない。
ただ一行だけ表示される。
「同期対象:未確定」
悠真は息を止める。
「……誰だ」
窓の外を見る。
影がいる。
昨日より明確に“形を持っている”。
しかし顔だけがない。
それは悠真ではなく、“部屋そのもの”を見ている。
スマホが再び起動する。
今度は明確な文字列。
【接続要求】
【観測対象:神崎悠真】
【応答待機】
悠真は反射的にスマホを落とす。
その瞬間。
頭の中に“声”が入る。
言葉ではない。
情報の塊。
「まだ、認識されていない」
結衣の声。
背後から。
「兄貴」
振り返る。
そこにいる結衣は、いつも通りの顔をしている。
しかし、その目だけが違う。
「今日、空見た?」
悠真は答えられない。
その瞬間、スマホに最後の通知。
【第1接触完了】
画面が暗転する。
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