第四十一話 世界槍
止まった。
世界を貫くはずだった“観測槍”が。
神崎悠真の黒い右腕一本に。
観測者たちが沈黙する。
レンの喉が引き攣る。
「……嘘だろ」
先行保持者も言葉を失っていた。
観測槍は、世界法則そのものだ。
“存在を固定する力”。
本来、人間が触れられるものじゃない。
だが悠真の右腕は。
黒いノイズを撒き散らしながら、“槍を侵食”していた。
バチバチ、と異音が鳴る。
白い槍が黒く染まっていく。
観測者が初めて後退した。
「侵食確認」
「危険」
悠真は自分の腕を見る。
感覚がない。
なのに。
“分かる”。
これはもう、人間の力じゃない。
頭の奥で、“最深部”の声が笑う。
「壊せ」
「観測を終わらせろ」
悠真の瞳に黒いノイズが混ざる。
結衣がその腕を掴んだ。
「兄貴!!」
その瞬間。
ノイズが止まる。
悠真の呼吸が戻る。
結衣が泣きそうな顔で見上げていた。
「戻ってきて」
その一言。
悠真の中の“何か”が揺れる。
だが次の瞬間。
空が裂けた。
無数の観測槍。
数え切れないほどの白い槍が、空を埋め尽くす。
レンが絶望した顔をする。
「世界そのものが殺しに来てる……!」
観測者たちが、一斉に手を下ろす。
「排除執行」
槍が落ちる。
雨みたいに。
世界を消し飛ばしながら。
悠真は結衣を抱き寄せる。
黒い右腕が脈打つ。
「全部壊せ」
最深部の声。
それに呼応するように。
黒い太陽が、空に現れた。
脈動。
次の瞬間。
落下していた観測槍が、“途中で崩壊”した。
白い槍が黒く侵食され、砂みたいに砕け散る。
観測者たちが揺れる。
「世界法則汚染」
「修復不能」
悠真の周囲だけ、世界法則が変わっていく。
“観測が効かない”。
レンが息を呑む。
「非観測領域……」
先行保持者が低く呟く。
「最深部が現実を書き換えてる」
悠真は空を睨む。
観測者たち。
ずっと。
結衣を消し続けた存在。
世界を“正しい形”へ戻そうとした存在。
悠真の中で、怒りが膨れ上がる。
その瞬間。
黒い右腕が、“巨大化”した。
空へ届くほどに。
観測者たちが一斉に後退する。
「危険」
「危険」
「危険」
同じ言葉が重なる。
悠真が、空へ手を伸ばす。
そして。
空そのものを、“掴んだ”。
読んでいただきありがとうございます。
感想・評価励みになります。




