第四十話 非観測体
「お前はもう、人間ではない」
“最深部”の声が響く。
悠真の右腕が脈打っていた。
黒いノイズが、呼吸するみたいに蠢いている。
結衣が震える声で呟く。
「……兄貴」
悠真は自分の腕を見る。
感覚はある。
動く。
なのに。
“存在の質”が違う。
観測者の一体が前へ出る。
白い外套。
顔のない存在。
「非観測体への変異を確認」
レンの顔が青ざめる。
「あり得ない……」
先行保持者が低く呟く。
「最深部と繋がったのか」
観測者が手をかざす。
「危険度上昇」
次の瞬間。
空間そのものが悠真へ落ちる。
“圧縮”。
世界が一点へ潰される。
ビルが。
道路が。
空気が。
全部、押し潰される。
結衣が叫ぶ。
「兄貴!!」
だが。
悠真の黒い右腕が動いた。
掴む。
“空間”を。
観測者たちが止まる。
悠真自身も止まった。
右腕が、潰された空間を握り潰していた。
バキッ。
世界が割れる音。
圧縮された空間が、“砕けた”。
レンが絶句する。
「空間干渉を……素手で……?」
観測者たちの目が揺れる。
「想定外」
「最深部侵食率 上昇」
悠真は荒い息を吐く。
頭の奥で、誰かの声がする。
「壊せ」
低い声。
“最深部”だった。
「観測を壊せ」
悠真の黒い腕が脈打つ。
その瞬間。
世界中の“音”が聞こえた。
泣き声。
悲鳴。
消える瞬間の叫び。
今まで観測によって消された、無数の存在たち。
全部が悠真の中へ流れ込む。
悠真が頭を押さえる。
「……っ、あぁ……!」
結衣が抱きつく。
「兄貴!!」
その温もりだけで、意識が少し戻る。
悠真の視界に映る結衣。
その瞬間だけ。
黒いノイズが静かになる。
先行保持者が目を細める。
「抑えてるのか……」
レンが息を呑む。
「結衣が、“杭”になってる……?」
観測者が再び手をかざす。
今度は空全体。
巨大な光輪が形成される。
「世界防衛機構 起動」
空が開く。
そこから、“槍”が現れた。
白い巨大槍。
世界より大きい。
レンが叫ぶ。
「逃げろ!!」
先行保持者も顔を歪める。
「あれは観測槍だ!!」
結衣が悠真を見る。
「兄貴……!」
槍が落ちる。
世界を貫きながら。
その瞬間。
悠真の黒い右腕が、“勝手に”動いた。
空へ向かって伸びる。
そして。
落下する世界槍を、“片手で止めた”。
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