第三十九話 世界の敵
“元の世界”が砕けた。
光の破片が、静かに落ちていく。
学校。
街。
空。
日常。
誰も苦しまなかった未来。
全部、崩れて消えた。
観測者たちの目が、一斉に悠真を向く。
「世界維持失敗」
「最終判断を実行」
空が黒く染まる。
先行保持者が顔を歪めた。
「来るぞ」
レンが後退する。
いつもの余裕はない。
「おいおい……」
「本当にやるのかよ」
黒い空の奥。
巨大な“門”が開く。
その向こうにいた。
観測者。
今まで空に浮かんでいた目とは違う。
人型。
白い外套。
顔のない存在。
一体じゃない。
何百。
何千。
無数の観測者が、空から降りてくる。
結衣が小さく息を呑む。
悠真は前へ出る。
観測者の一人が口を開く。
「神崎悠真」
「お前を“世界の敵”に認定する」
その瞬間。
スマホが砕けた。
【管理権限 剥奪】
【記録保持者 強制排除対象】
悠真の視界から、今までの表示が全部消える。
レンが低く呟く。
「管理側が完全介入してきた……」
先行保持者が悠真を見る。
「もう戻れない」
悠真は結衣の手を握る。
「最初から戻る気ない」
観測者たちが、一斉に手をかざす。
その瞬間。
世界の一部が“消えた”。
爆発じゃない。
崩壊でもない。
存在そのものが、切り取られた。
街が消える。
人が消える。
空間が消える。
悠真の背筋が凍る。
レンが叫ぶ。
「避けろ!!」
次の瞬間。
悠真の右腕が途中から消えた。
「っ……!」
痛みが遅れて来る。
切断じゃない。
“存在を削除”されている。
結衣が叫ぶ。
「兄貴!!」
悠真が膝をつく。
消えた腕の断面には、血すらない。
ただ、“空白”だけがあった。
観測者が静かに言う。
「異常因子を削除」
「世界修正を開始する」
その瞬間。
悠真の消えた右腕が、“黒く再生”した。
レンの顔が凍る。
「は……?」
先行保持者も目を見開く。
再生した腕は、人間のものじゃなかった。
黒いノイズ。
崩れ続ける影。
だが確かに、“存在している”。
観測者たちが初めて沈黙する。
悠真自身も、自分の腕を見る。
理解できない。
ただ。
結衣を守りたい。
その感情だけで、身体が動いていた。
“最深部”の声が響く。
「適合開始」
「神崎悠真」
「お前はもう、人間ではない」
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