第四十二話 観測破壊
空を掴んだ瞬間。
世界が止まった。
風も。
音も。
時間も。
全部、静止する。
観測者たちだけが揺れていた。
「理解不能」
「観測不能」
悠真の黒い右腕が、空へ食い込んでいる。
いや。
“空の裏側”へ届いていた。
そこには。
無数の線。
世界へ繋がる観測線。
観測装置から伸びる、“世界を固定するための糸”。
悠真はそれを見ていた。
直感で分かる。
これを壊せば。
観測は終わる。
頭の奥で、“最深部”が囁く。
「壊せ」
「誰にも忘れられない世界にしろ」
悠真の指が動く。
結衣が叫んだ。
「駄目!!」
その声で、一瞬だけ悠真の動きが止まる。
結衣が涙を流していた。
「それ壊したら、本当に戻れなくなる……!」
悠真の呼吸が乱れる。
先行保持者も叫ぶ。
「悠真!!」
「今ならまだ世界を閉じられる!!」
レンも珍しく必死だった。
「観測線を切ったら、“全部の世界”が混ざるぞ!!」
だが。
悠真の中へ、無数の記憶が流れ込む。
消された人間。
忘れられた世界。
存在を修正された命。
全部、“観測”に消された。
悠真が歯を食いしばる。
「だったら……」
黒い腕がさらに空へ食い込む。
「こんな世界、いらないだろ」
その瞬間。
ブチッ。
一本の観測線が切れた。
静寂。
次の瞬間。
世界のどこかで、“空が落ちた”。
レンの顔が凍る。
「……始まった」
観測者たちが一斉に叫ぶ。
「境界崩壊」
「世界融合開始」
白い世界へ、別世界が流れ込む。
巨大な海。
逆さの都市。
空に沈む学校。
世界そのものが重なっていく。
悠真の頭へ、知らない記憶が流れ込む。
知らない家族。
知らない人生。
知らない自分。
“別世界の神崎悠真”。
結衣が悠真へ抱きつく。
「兄貴!!」
その温もりで、意識がギリギリ繋がる。
だが。
黒い右腕は止まらない。
観測線を、さらに掴む。
先行保持者が絶望した顔で呟く。
「最深部に飲まれてる……」
悠真の口が動く。
「違う」
声が重なっていた。
悠真の声。
そして。
“最深部”の声。
「これは救済だ」
その瞬間。
悠真が、二本目の観測線を引き千切った。
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