第三十五話 境界消失
目を開けた。
消えたはずの人間たちが。
壊れた世界の中で。
忘れられていた存在たちが。
一斉に。
白い世界へ現れ始める。
誰もいなかった道路。
崩壊した駅。
空白だった街。
そこへ、“消えた人々”が戻ってくる。
泣いている女。
制服姿の少年。
子供を抱えた母親。
全員、輪郭が不安定だ。
ノイズ混じりに揺れている。
だが確かに存在している。
レンの顔色が変わる。
「境界が消える……!」
その瞬間。
白い世界へ、“別の世界”が流れ込んだ。
海。
街中に海水が溢れ出す。
次の瞬間。
砂漠。
さらに。
雪。
炎。
夜。
昼。
無数の世界が、同時に重なり始める。
悠真は黒い太陽を見上げる。
脈打っている。
それはまるで、“心臓”だった。
先行保持者が叫ぶ。
「悠真!!」
「止めろ!!」
だが悠真は止まれない。
「なんでだよ」
悠真の声が震える。
「消えた奴らが戻るだけだろ……!」
先行保持者が歯を食いしばる。
「違う!!」
「世界同士が混ざれば、“全部壊れる”!!」
その時。
戻ってきた少女の一人が、突然崩れた。
身体がノイズになって裂ける。
だが。
次の瞬間。
別の世界の“同じ少女”が重なる。
別人なのに。
同じ顔。
同じ名前。
違う人生。
二つの存在が衝突する。
少女が悲鳴を上げた。
身体が歪む。
存在が、混ざっていく。
悠真の目が揺れる。
レンが叫ぶ。
「これが境界崩壊だ!!」
「世界は混ざれない!」
黒い太陽がさらに膨張する。
【境界維持率:低下】
【多重世界接触】
【崩壊段階 移行】
その瞬間。
結衣が苦しそうに胸を押さえた。
「……っ」
悠真が振り返る。
「結衣!?」
結衣の身体に、別のノイズが混ざっている。
知らない制服。
知らない傷。
知らない記憶。
別世界の“結衣”が流れ込んでいた。
結衣が涙を流す。
「……違う」
「これ、私じゃない……」
次の瞬間。
結衣の瞳が一瞬だけ別人になる。
「兄貴、逃げて」
声も違う。
さらに切り替わる。
「……また会えたね」
違う結衣。
違う世界。
違う人生。
無数の“神崎結衣”が、一人の中へ流れ込んでいる。
悠真の呼吸が止まる。
先行保持者が低く言う。
「始まったな」
「結衣の統合が」
レンが青ざめる。
「嘘だろ……」
「存在しないはずの個体が、“全世界分”集まり始めてる……!」
その瞬間。
黒い太陽の中心で、“何か”が目を開ける。
巨大な瞳。
観測者の目ではない。
もっと古い。
もっと深い。
“最深部”の存在だった。
そして。
結衣たち全員が、同時に悠真を見た。
「兄貴」
無数の声が重なる。
「私を、誰にするの?」
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