第二話 見えない違い
朝。
神崎悠真はいつも通り学校へ向かっていた。
昨日と同じ道。
同じ信号。
同じ時間。
なのに、どこかが微妙に違う。
理由は分からない。
ただ胸の奥に、小さな引っかかりが残っている。
教室に入る。
騒がしい声。
机の並び。
黒板の文字。
すべて正常に見える。
だが悠真はすぐに気づく。
何かが“足りない”。
視界のどこかにあるべきものが、抜け落ちている。
昨日まで普通に会話していたはずの人物。
その存在が思い出せない。
顔も。
声も。
名前も。
しかし確信だけが残っている。
「いたはずだ」
誰に聞いても答えは同じだった。
「そんな人いたっけ?」
笑い混じりの否定。
まるで最初から存在していなかったかのように。
授業中。
教科書を開く。
違和感。
昨日見た内容と違う。
黒板の式も、説明も、わずかに異なる。
同じ授業なのに、構造が違う。
悠真は息を呑む。
「……書き換わってる?」
しかし証拠はない。
ただの違和感でしかない。
昼休み。
スマホが震える。
結衣からのメッセージ。
『今日、早く帰ってきて』
短い。
理由はない。
悠真は少し違和感を覚える。
結衣はいつも理由を付ける。
“説明のない呼び出し”。
それ自体が珍しい。
返信を送る。
『何かあった?』
既読はつく。
だが返事は来ない。
放課後。
教室。
空席。
悠真はそこを見つめる。
昨日まで確かに誰かが座っていた場所。
しかし今は誰も気にしていない。
悠真だけが違和感を持っている。
隣の生徒に聞く。
「ここって昨日誰かいなかった?」
返事は即答だった。
「ずっと空いてるぞ」
その瞬間。
悠真の中で何かがずれる。
記憶と現実が噛み合わない。
帰宅後。
結衣は普通に夕飯を食べている。
「おかえり、兄貴」
その声はいつも通り。
しかし悠真は気づく。
結衣の言葉の間に、ほんの一瞬の“空白”がある。
まるで何かを避けたような。
言ってはいけない単語を飲み込んだような。
夜。
悠真はクラス名簿を見る。
そこに違和感がある。
一人分の名前が“読めない”。
目を凝らすと消える。
視線を外すと存在している気がする。
この現象には説明がつかない。
物理ではない。
記録でもない。
その夜。
窓の外。
雨。
街灯。
そして――影。
人の形。
しかし顔がない。
悠真は息を呑む。
瞬きをする。
消える。
スマホが震える。
通知。
送信者不明。
画面には一行だけ。
【記憶補正完了】
悠真は固まる。
意味が分からない。
だが一つだけ理解してしまう。
「何かが消されている」
夜。
結衣はすでに寝ている。
静かな部屋。
雨音だけが響く。
悠真は窓を見る。
何気なく。
そこに――“誰か”が立っている。
黒い影。
顔がない。
こちらを見ている。
一瞬で消える。
その直後。
スマホが鳴る。
玲司からのメッセージ。
「お前、今日“何か違和感なかったか?”」
悠真は返信しようとする。
その瞬間。
画面がノイズに変わる。
そして一瞬だけ表示される。
【観測対象:神崎悠真】
悠真は理解する。
これはただの気のせいではない。
そして――
この世界はすでに“誰かに見られている”。
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