第十六話 選別
空は、まだ割れている。
だがその割れ目は“開いている”というより、
決断を待っている形に変わっていた。
神崎悠真は、それを見上げたまま動けない。
篠宮は珍しく何も言わなかった。
ただ空を見ている。
その横顔に、わずかな焦りがある。
「なあ」
悠真が声を出す。
「結衣はどうなる」
篠宮はすぐには答えない。
数秒の沈黙のあと、ようやく言う。
「消える可能性がある」
悠真の呼吸が止まる。
空の奥から“圧”が降りてくる。
それは視線ではない。
もっと直接的なものだ。
「どちらを残すか」
悠真は理解する。
これは観測ではない。
“選択の強制”だ。
遠くの通学路。
結衣が立っている。
その横に、もう一つの影が重なる。
だが今度は分かりやすい分裂ではない。
一方は静か
一方は微かに揺れている
しかしどちらも“結衣”だ。
「やめろ」
悠真は思わず言う。
空に向かって。
すると一瞬、空の圧が弱まる。
篠宮が小さく呟く。
「……反応したな」
空の割れ目が揺れる。
そして“声”ではないものが返ってくる。
「干渉を検知」
世界の温度が変わる。
結衣がこちらを見る。
その目は二つの状態を同時に持っている。
「兄貴」
声が少しだけ割れる。
「私、どっちを選べばいいの?」
悠真は答えられない。
選ぶのは自分ではないと理解している。
篠宮が低く言う。
「お前が関与すると、“観測結果が変わる”」
悠真は振り返る。
「それの何が悪い」
篠宮は即答する。
「世界が壊れる」
空の割れ目が狭まる。
選択が“確定に向かって圧縮”されていく。
結衣の二つの影が近づく。
統合ではない。
“どちらかが消える前の収束”だ。
悠真は一歩踏み出す。
その瞬間、世界が止まる。
篠宮が叫ぶ。
「動くな!」
だが遅い。
悠真の視線が結衣に触れた瞬間――
空が再び割れる。
その声が降る。
「選別エラー」
結衣の二つの影が、どちらも消えない。
代わりに。
“第三の結衣”が現れる。
篠宮が目を細める。
「……最悪だな」
悠真は問う。
「何が起きた」
篠宮は答える。
「選べなかった結果、“増えた”」
空の割れ目が大きく開く。
そこから“観測者の圧”が流れ込む。
世界が一瞬だけ白くなる。
そしてスマホに一行。
【選別失敗】
【観測再構築:開始】
【対象:神崎結衣(多重化)】
結衣が静かに笑う。
三つの存在が、同じ顔で。
「ねぇ兄貴」
「これ、どうすればいいの?」
悠真は答えられない。
空の奥で、“何かが動き始めた”。
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