王位継承
第45話です!いよいよ当日!!作者は今、原稿用紙をぎゅっと持ってる気持ちです。なんかカエデが頼もしすぎて泣きそう。
王位継承の儀というのは、もっと厳かなものを想像していた。
招待状には「礼節ある服装でお越しください」と書いてあったから、カエデは侯爵家から借りた紺色のワンピース(袖に細かい刺繍が入っている・めちゃくちゃ趣味に合う)を着て、おとなしく当日を迎えた。ルーチェは「似合う!!」と言ってくれたので素直に受け取った。
「のんびりスローライフ……」
王城の正面玄関を前に、カエデは小声でつぶやいた。
「まだ言ってる」とルーチェ。
「最後にもう一回だけ言わせて」
「さっきも最後に一回って言ってたよ」
そのとおりだった。
懐の中で、しろが少しだけ動いた。確認するように、カエデの胸元に体を押しつける。昨夜縫い直したしろは、いつよりほんのわずか——本当にわずかだけど——温かかった。ぽぽはルーチェの肩の上で「ぽっ!!」と短く鳴いた。戦闘待機、というよりは待ちきれない、という顔だった。ホークは袖の内側でそっと羽を広げた。
「本日は晴天で何よりですわ。羽が映えます」
「そういう話じゃないけどね」
案内してくれたのはクロードで、彼はいつも通りまっすぐ前を向いて歩きながら、要所要所で「こちらです」とだけ言った。案内が的確で、緊張が伝わらなくて、でも指先が、いつもより少し固い。
「クロードさんって、緊張とかするんですか」
「……します」
「見えないすごいですね」
「見えては、いけませんので」
うーんさすがはプロだった。
式典の会場は王城の中央ホールで、吹き抜けの天井があった。四方に白い石柱が並んでいる。正面には祭壇のような台が設けられていて、その上に——宝剣が安置されていた。
遠目でも、それとわかった。なんというか、光が違う。周りの光を集めているというより、自分で光を持っているような剣だった。
しろが、懐の中でぴくりと動いた。
「しろ?」
「……気配がある」
小声だった。カエデは会場の中をさりげなく見回した。ゆっくりと入場する貴族たち。儀礼的な衣装をまとった衛兵。セレナはもう着席していて、こちらに気づいてわずかに目で会釈をした。リオネルは壇上近くにいて、現王と言葉を交わしている。落ち着いた佇まいだった。
何も、おかしいことはない。
でも、しろが「気配がある」と言った。
「どこ?」
「あちこちだ」
それだけ言って、しろはまた黙った。
カエデはルーチェに「ちょっと近くにいて」とだけ伝えた。ルーチェは何も聞かずに「うん」と返した。こういうとき、ルーチェは余計なことを言わない。それがありがたかった。
ぽぽが「ぽっ!!」と声をあげて、ルーチェの肩から飛び立とうとした。
「動くな」
しろが静かに言った。
ぽぽが止まった。それだけで、しろの声が本気だとわかった。
式典が始まった。
厳かだった。本当に。現王が宝剣を手に壇上へ進む姿は、老いてはいるが背筋が通っていて、それだけで場の空気が変わった。貴族たちが一斉に頭を下げる。静寂。足音だけが響く。
リオネルが膝をついた。
現王が宝剣を差し出す。
その瞬間——ホールの空気が、変わった。
物理的に変わった。温度でも圧力でもない。でも何かが「違う」と全身が言っている。柱の影から、黒い煙のようなものが滲んだ。ゆっくりと。最初は見間違いかと思うくらい静かに。でも確実に、会場の複数箇所から同時に。
術式だ、とカエデは思った。どこかに仕掛けてあった何かが、今、動き出している。
壇上で、ヴァルクが立ち上がった。整った顔が、今は青ざめている。口が震えている。それでも声は出た。
「これが——最後だ、リオネル」
カエデは逃げなかった。
逃げようとしたら、足が止まった。ルーチェがいる。セレナがいる。しろとぽぽがいる。ホークがいる。逃げて、それで全部終わるなら話は早い。でも、そうじゃない。
「しろ」
呼んだ。
しろは既に懐の外に出ていた。カエデの肩の上に乗って、真正面を向いていた。
「……ああ。始まるみたいだね」
それだけで十分だった。
ヴァルクの「これが最後だ」、書いてて切なかったです。悪役じゃないんだよなあこの人。次回もよろしくお願いします!!




