表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
てのひら無双 ~精霊に愛された人形師ときゃわわぬいぐるみ~  作者: 鮪野登呂介
王都アルヴェリア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/51

花屋の危機

カエデさんが怒りました。普段怒らない人が怒ると、こわい。書いていて、そう思いました。ぽぽが動いた理由は、第19話まで遡ります。あのとき認めたから、この話がある。

その日の午後、ルーチェは花の仕入れで街の外れまで出かけていた。


カエデは留守番だった。仕事の依頼が三件積まれていて、そのどれかを片付けようと思っていた。ぽぽはどこかに飛んでいった。理由を聞いたら「王都の空を見学をするのだ!」と言っていた。


やっぱりぽぽの行動はわからない。それが可愛いんだけどね!


しろは相変わらず懐の中にいて、ホークは窓際にいた。


三人と一体、それぞれが静かな午後だった。


その静けさが崩れたのは、ホークが羽を一枚、ぴんと立てた瞬間だった。


「……ぽぽの気配が、動いています」


「どういう意味?」


「急に、です。位置は——街の南側。ここからそう遠くないですわ」


カエデは針を置いた。


懐の中でしろが、既に顔を出していた。南の方角を向いている。目が、細い。


「……早く言ったほうがいいんじゃないか。いやなものが見える」


短い言葉だった。しろがそう言うのは初めてだった。カエデは既に立ち上がっていた。


---


着いた時、ルーチェは路地の壁際に立っていた。


男が二人、ルーチェの前に立っていた。体格がいい。商人の格好をしているが、商人の目ではない。カエデにはわかった。茶会の庭で見た目と、同じ種類だった。


カエデたちがついたとき、丁度ぽぽも現場に到着したようだ。


ルーチェは怪我をしていなかった。でも、壁と男たちの間に挟まれて、逃げ場がない状態だった。


「人形師の居場所を教えろ。私たちもそこまで暇なわけじゃない。君も頭がいいんだから断ったらどうなるか…わかるだろう?」


聞くのはおそらく三回目か四回目だろう、という口調だった。


ルーチェは壁を背にした肩が、少し強張っていた。


「あんたたち誰なのよ…!人様に迷惑をかけちゃならないのよ!」


「精一杯の強がりだとは思うがなかなか気が座っているな」


それを見たときカエデの中で何かが、胸の奥で音を立てた。


「怒り」という言葉が正確かどうかわからない。前の世界でも今の世界でも、怒りというものをカエデはあまり感じてこなかった。波風を立てるのが苦手で、理不尽には黙って頭を下げることが多かった。感情を燃やすより、やり過ごす方が得意だった。


でも、今。


ルーチェが壁を背に立っていて、声を揺らさずに「知りません」と言い続けている。その光景を見て、胸の中に何かが燃えた。


「その人から離れてください」


自分の声が、思ったより低かった。


男たちが振り返った。カエデを見て、一瞬だけ何かを判断するような目をした。小柄な人形師、精霊ぬいぐるみの持ち主——そういう計算が走ったのかもしれない。


その計算が終わる前に、ぽぽが男の腕から飛び上がり、炎を解き放った。


「これでもくらっとけぃ!!」


地面が弾けた。男の足元が爆ぜて、男が後ろに吹っ飛んだ。壁に背中をぶつけて崩れ落ちる。もう一人が身構えた瞬間、しろが懐から滑り出ていた。


音はなかった。


ただ、男は次の瞬間、石畳の上に横たわっていた。しろはカエデの腕の中にいた。何をしたのか、見えなかった。もういつものことだった。


ルーチェが、壁から離れた。


「……よかったぁ。来てくれて」


「ぽぽが教えてくれた」


「ぽぽちゃんが?」


ぽぽが「ぽっぽん!」と胸を張った。仕事をした顔だった。それはそうだ、とカエデは思った。あの日、ルーチェを認めると決めたのがぽぽだ。認めると決めたなら、守ると決めたということだ。言葉にしなくても、ぽぽにとってはたぶん、最初からそういうことだったんだろう。


---


侯爵邸に戻ってから、ルーチェが事の経緯を話した。


仕入れ先の帰り道、路地に引き込まれた。最初は財布目的かと思ったが、「人形師の居場所を教えろ」と言われた。知らないと言ったら、脅してきた。


話しながらルーチェは、特に震えていなかった。声も安定していた。ルーチェはそういう人間だ、とカエデは知っている。怖かったとしても、後で平然と話せてしまう。それがルーチェの強さであり、カエデには時々ずるいと思う部分でもある。


でも話し終えた後、ルーチェは「……怖かった、ちょっと」とだけ言った。声が、少しだけ低かった。


「当たり前じゃん」とカエデは返した。「怖くて当然だよ」


「カエデ、なんか顔が怖い」


「……怒ってる」


「私のために?」


「当たり前じゃん」


ルーチェが少し黙った。それから「ありがとう」と言った。ぶっきらぼうな声だったが、ちゃんと届いていた。


セレナがその場にいて、静かに一部始終を聞いていた。リオネルへの報告が必要だと判断したのだろう、クロードに何かを耳打ちして、クロードが頷いた。


カエデはぽぽを見た。


「ぽぽ、ありがとう」


「ぽっ!」


「ルーチェを守ってくれて」


ぽぽがルーチェの頭の上に乗った。ルーチェが「重い」と言いながら、でも払いのけなかった。その重さが、今日は少しだけありがたかったのかもしれない。


しろが懐の中で、短く言った。


「……当然だ」


ホークが「ぽぽ様も、なかなかやりますわ」と窓から言った。ぽぽが「なかなかじゃない、ばっちりだ!」と言い返した。いつもの二体だった。でもカエデには、ホークの声が今日は少し柔らかかった気がした。気のせいかもしれない。気のせいではないと、思った。

ぽぽが動いた理由は第19話からです。あの時認めたから、この話がある。カエデさんが怒るシーン、書いていてすっきりしました。怒っていい。当たり前じゃん。それだけです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ