表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/56

受け継がれる価値

 「全員無事で良かった!今の状況だと何が起きるか分からないからね…」

 再びツァイドの私室で合流した俺達はお互いを見て一安心する。何が起きるか分からない。それを聞いて、俺は気を引き締め直す。

 「王子、協力派が独断で囚人の移送をしようとしていると聞いたのですが。」

 「僕もさっき聞いたよ。既に首謀者は捕えられたようだし、今から謁見の間に向かえば丁度良いかも知れない。早速向かおう。」

 「丁度良いというのは?」

 「理由が何であれ、独断専行を父上が許すとは思えない。首謀者は断罪される。僕はその直後にもう一度説得を試みるつもりだ。君達も来てくれ。」

 断罪までが早い。脆弱では無いというエイゴールの言葉に偽りは無かったようだ。颯爽と先行するツァイドに続いて俺達も謁見の間を目指す。


 謁見の間には既にエイゴールが玉座に座っていた。ツァイドは言葉を交わすことも無く袖に控える。同じようにここへ集ったのは見知らぬ顔、というわけではなく、よく見ると会議に参加していた面々だった。

 「離せ、無礼者!私は罪人では無いのだぞ!」

 声と共に数人の兵士に囲まれた身なりの良い人物がエイゴールの正面まで歩んで来る。足を止めたところで、先程の会議で声高らかに移送対象者の拡大を進言した男だと気付く。

 「王よ!確かに私が移送を指示しました!しかし、それの何処に罪があると言うのですか!私は王の深慮に応える為、この国の安全を思い行動を起こしたのです!」

 まだ何も聞かれていないのに首謀者の男は一息に訴え出た。

 「お前の行動は私の意思では無い。移送者の選定も人数も、私の預かり知らぬことだ。その独断の全てに罪が無いと言うのか?」

 「重要なのは誰を何人送るかではありません!実際に送ったという事実を作ることが重要なのです!たった一度!その事実があるだけで我々の意思を示すことが出来るのです!王の心が定まっているのですから、私の行いに罪があるはずがありません!」

 確かにエイゴールは協力を築くこと自体は先の会議で示していた。やたら大胆だと思っていたらそれが根拠か。

 「私の言葉で、ここまでのことを起こしたと言うのか?」

 「その通りです!」

 「…私の意思を汲んだという理由で、独断の罪が消えることは無い。お前の謁見行為は目に余る。」

 「お待ち下さい!私は国の、民の安全を想って行動を起こしたのですよ!?」

 「想いの強さで罪は決まらん。どれほど忠義に厚くとも、勝手な解釈を許せば未来は潰えるのだ。貴様に禁固10年を言い渡す。連れて行け。」

 「お待ちを!私はただ―王よ!お考え直しを!」

 連れ去られるまでの間、その喚き声はしばらく部屋にこだましていた。

 「父上!今ここでガイリへの協力は打ち切ると宣言して下さい!」

 話題の切れ間を逃すまいとするかのようにツァイドが声を上げる。

 「彼の独断は彼の罪です。しかし、その独断が国の在り方を揺るがしかねない事態に直結したのは父上の意思表示が原因です。このままガイリという不透明な人物への協力を続けようとすれば道を踏み外してしまいます。」

 「危険はある。だがそれは、可能性を捨てる理由にはならん。」

 「…その可能性とは、不老不死のことですね?」

 周りがざわつく。エイゴールが協力を支持する最大の理由はまだ知れ渡っていなかったようだ。

 「確かに!ガイリには可能性があります!しかし確実では無い!それに父上、私が考え直して欲しいのは、永遠を求めることだけが生きる道では無いということです。」

 「考え直すことなど無い!永遠の命がもたらす価値は絶対的だ!死ねば全てが泡と消えるこの世で、私が生き、勝ち得た全てを保証する唯一の方法だ!」

 「全てが消える、それが間違いなのです。父上が守ったこの国はどうですか?消えたりしません。民が幸福な未来を描く基盤としてこれからも残り続けます。名声も消えません。父上が変異型の魔法使い達に示した希望は歴史に残り、語り継がれます。知恵も、技術も、その精神も!僕が必ず受け継ぎます!無意味なことなど何も無いのです!決して、永遠に続くことが全てでは無い!勝ち得たものを受け渡し、広げること、人生の価値とは、そういうものでは無いのですか!?」

 場は静まり返った。2人の様子を伺うように皆が視線を交互に動かす中、エイゴールは僅かに俯くような姿勢で目を閉じていた。その瞼の裏に何が映っているのかは分からない。それでも、笑い声が包む華やかな大通りや幼いツァイドとの他愛無い会話では無いかと思ってしまうのは、表情から徐々に力みが解けていくからだろうか。

 「ツァイド、お前は…私の生きた道は無意味では無く、既に価値を残し、受け継がれたと、そう言いたいのだな?」

 「その通りです、父上。」

 力無く玉座に背を預けるその姿は、まるで抜け殻だった。エイゴールにとって人生は死ねば全て失う無意味なものになっていた。ツァイドが受け継がれるという価値を示したことでガイリへの執着は失われ、協力は打ち切られる流れになるだろう。このまま見ているだけでも状況は好転する。しかし、意思を失ったかのように虚空を見つめるエイゴールの姿に、解決したと呼べない違和感が募る。そうだ。今のエイゴールには、生きていたい理由が無い。ツァイドは他人にとって価値があることを示せたが、エイゴールからすれば生きることは無意味なままだ。空虚な心に、何も灯っていない。

 「王様、俺は牢屋で、続くかどうかで価値は決まらないのでは無いかと言いました。」

 話出してから、でしゃばりすぎているという感覚が込み上げてくる。だが、もうやり切るしか無い。

 「王様が今まで積み上げてきたことは全て、永遠が保証されていないことだったと思います。しかし、そこには確かな価値があったのでは無いですか?何かを食べて美味しかったり、誰かと話して楽しかったり、そういったものに後悔は無かったはずです。」

 きっと、永遠以上の価値と天秤にかけるのは、1つだけじゃなくて良い。

 「たとえ永遠で無くても価値あることを集めていく、そうして生きていくことは出来ないのでしょうか?」

 「…そうか…道理だな……フ、フフフ、ハハハハハ!」

 エイゴールが笑い出す。響き渡る声を発するその姿は、もう抜け殻では無かった。

 「何故だか急に、次の祭りが楽しみになってきた!まるで、楽しみに向ける為の目を取り戻したような気分だ。…ガイリの件は明日、会議を開くこととする。この場は解散だ。」

 明確な回答は無い。だが、俺がその場を後にする時、不安は無かった。


 翌日、会議にてガイリへの協力を完全に打ち切ることが決定した。それだけでは無く、予定されていた実験の内容を開示するように要求してくれるらしい。これを見届けた段階で、俺達がこの国に留まる理由も無くなった。

 「国が二分されることもなく、再び安定した道を歩み始めた。君達の協力に感謝する。…説得の時、最後の一押しを取られたのは残念だったけどね。」

 「すいません、出過ぎた真似を…」

 「いいんだ。僕だけでは、今も父上は虚ろな目をしたままだったかも知れない…流石は教会のお抱えだよ。やはりルシエ様の教えが良いのかな?」

 「アハハ、どーでしょーねー。」

 ルシエから何かを学んだ覚えは無い。が、否定はしないでおこう。順に握手を交わした俺達は教会への帰路につく。北の国におけるガイリの影響はこれで排除出来た。実験の内容開示を求められたガイリがどう動くかは分からないが、度重なる不審の目はギルドにとっても大きな影響になるはずだ。着実に進んでいる。その感覚を胸に、変異型の兵士が飛び回る関所を抜けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ