表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/56

決裂

 「―以上のことから、我々はガイリを危険視しています。」

 「ありがとう。今語っていただいた出来事は聖女様の名が真実であると保証しています。共同声明を出していることから、東の国も保証していると言っても過言では無いでしょう。お聞きになった通り、ガイリには不審な点が数多くあります。これらを明確にしないままに協力体制を築くのは安全の確保にはならない、むしろ危険に晒す行為である可能性が高いです。現段階では僕は反対を表明します。」

 間を空けずに俺の話を引き取ったツァイドは流れるように意思を表明した。だが、すかさず協力派の意見も飛んで来る。

 「王子の意見は分かりました。ガイリに不審点があるというのも同意します。個人でありながら戦力的にも未知数ですし謎が多い。しかしだからこそ今回、向こうからの協力要請を受け、繋がりを持つ方が安全性が高いと思います。ギルド内における不正によって情報漏洩が起きたということは組織としての隙もあります。協力者という立場を取ることで魔法的知見についても我が国が一歩先を行く可能性は高まる。やはりここは協力するべきです。」

 「確かに要請に応えるという形は僕達にとって有利です。しかし、その協力の仕方には一定の倫理が守られているべきではないでしょうか。ガイリの要請内容は実験体として重罪人をギルドへ引き渡して欲しいという1点のみです。これだけでも奇妙な上に、先の共同声明の内容を鑑みると非人道的な実験に利用される可能性すらあります。」

 「倫理を守っても民は守れません。それに実験内容が非人道的であるという証拠も無いのです。ここは協力できる相手であるという事実を作るべきです。我が王よ、ご英断を。」

 全員の視線が水を向けられたエイゴールに注がれる。

 「…最も重要なのは、この国が永く続くことだ。罪人の命で安全が買えるなら迷うことは無い。」

 「しかし父上―」

 「王の心は既に決まっておられる!ならば協力者としての価値を大きく見せるべきです。数が用意できることを示す為に、対象を重罪人から拡大してはどうでしょうか。汚職に手を染めるものなども含めれば、国家運営の安定にも寄与できると考えられます。」

 「待って下さい!そのような過激なやり方は人材の流出を招き、国力を低下させるだけです!ガイリへの協力は民の信頼を失いかねないのです!父上、お考え直し下さい!」

 「考え直すのはお前だ、ツァイド。王は1人の罪人よりも100万の民を見る…ガイリへの協力は決定事項とする。対象の拡大については必要があれば検討する。これで本会議は解散だ。」

 「父上!」

 ツァイドの呼び止める声を気にする素振りもなく、エイゴール王はその場を去った。


 「証言は確かに意味のあることだった。それを活かせなかった僕の責任だ。せっかく来てもらったのに済まない。」

 実質、物別れに終わった会議の後、俺達はツァイドの私室へ移動した。

 「いえ、それは構わないのですが…俺達としてもガイリの影響が色濃いこの状況を放っておきたくはありません。何か出来ることは無いでしょうか?」

 「会議で出た話に関してはどちらの主張も決定打にかける部分がある。結局のところ、父上に考え直してもらう他に無いだろう。だがどうすれば良いのか、今は思いつかないんだ…」

 ツァイドの表情はこれまで見た中で一番暗いものだった。

 「けっこー頑固オヤジって感じだよなー。頭叩いたら治るんじゃね?」

 「冗談を言っている場合では無いぞ、カイル。…東の国から奇妙な魔物を連れて来るのはどうだ?非人道性を示す後押しになりそうだが。」

 「あはは、子どもとは思えない良い意見だ。でもそれじゃダメなんだ、シェルド。会議で説き伏せようとしても、父上の意見一つで風向きは決まってしまう。今や必要なのは味方を増やす方法ではなく、父上の考え方を揺さぶる方法なんだ…」

 ツァイドの弱気な声を最後に話が止まる。静まり返った空気を打ち破るように突然、扉が勢い良く開かれた。数人の兵士が俺達を取り囲んだ後に悠々と入って来たのは、先程の会議でガイリへの協力を叫んでいた男だった。

 「何事だ!」

 「ツァイド王子。あなたには教会と共謀して王位簒奪を目論んだ疑いがかかっています。大人しくご同行願います。」

 「何!?何かの間違いだ!父上と話をさせろ!」

 「連れて行け!」

 訴えは取り付く島もなく、兵士はツァイドを連行しようとする。

 「貴様らもこのまま返すわけにはいかない。大人しく牢に入ってもらおう。」

 「リオス…」

 「…ダメだ。大人しく捕まろう。」

 ガイリの反対派である王子を失うわけにはいかない。だがここで暴れればルシエに迷惑が…まーそっちはヴェラがなんとかするだろうが、戦力不明の兵士の相手をしながらツァイドを逃がせるとは思えない。殺す気が無いなら、ここは従っておくべきだ。お互いどうなるか分からないまま、俺達はバラバラに連れて行かれることとなった。


 牢の中の俺の手足は、自由だった。確かに変異型の多い国で手錠の類いが現役なのも変な話だが、気休め程度の拘束も無いのは意外だった。殺風景な景色の中にも発見があることに奇妙な心持ちでいる俺に、足音が近付く。牢の前まで来た1人分の足音の主はエイゴール王だった。

 「何かご用でしょうか?」

 「ツァイドに王位簒奪の意思など無い。誤解によって捕らえてしまったことを謝罪しに来たのだ。申し訳ない。だが、牢を開ける前にお前の意見が聞きたい。」

 「意見、ですか?」

 「お前達はガイリの危険性を証言する為にここへ来た。協力を支持する私はさぞ愚か者に見えているのだろうな。」

 「…まぁ、そうですね。」

 「お前は、生きる価値はどこにあると思う?」

 「生きる価値?」

 「私は国を守る立場であると同時に、この国で最も幸福な生を謳歌したと自負している。命の危険も少なく、技術と知恵を身につける機会に恵まれた。愛のある家族を持ち、国の為に働き、多くの人の役に立って来た。私は幸福の全てを手にしたのだ。だが、死ねば終わりだ。技術も知恵も家族も地位も名誉も、何もかも失う。私が努力して得た全ては無価値になり、私に何も返してはくれない。それに気付いてからは大きな差を感じない。食事に何が出てこようと大した意味は無い。ただ命を繋ぐだけなのだ。この袋小路を抜け出す解決法はただ一つしかない。」

 「そこで、永遠の命の出番というわけですか。」

 「ツァイドから聞いていたようだな。死の訪れが無ければ、私が得た価値も全て永続する。不老不死だけが、生涯をかけて求めるべき絶対的な価値ある物事なのだ。それを否定するお前に、一体何の価値がある?」

 「俺の価値…?」

 まるで俺の技能について聞かれているようだが違う。エイゴールに聞かせなきゃいけないのは、ガイリの永遠の命という可能性を捨ててまで俺達の説得に応じた時、何を得られるかということだ。ガイリの示した希望、不老不死に釣り合う以上の価値あることは、この世にあるのだろうか。もしあるとすれば、少なくともそれは永遠に続くものじゃない―

 「物事の価値は、長続きするかどうかでしか計れないのでしょうか?」

 「何…?ならば永遠以上の価値あることとは何だ?」

 「それは…」

 言葉に詰まる。永遠以上の価値。一言で表せるようなことの中にそんなものがあるのか?そもそも価値というのは絶対的に表せるものじゃないはずだ。俺は今、何と答えるべきなんだ?

 「王様。」

 突然、第三者の声が飛び込んで来る。驚きで声も出せないまま動かした視線の先には黒いローブを纏った誰かがいた。いつの間に近付いたんだ?

 「…何だ?」

 「協力派が独断で囚人の移送を開始しました。南の関所まで数時間程度です。」

 「関所に連絡して足止めさせろ。」

 「はい。」

 返事と共に姿が消える。隠密行動に特化した魔法だろうが詳細は掴めない。それより今は移送の件だ。会話から察するに王命ではない。だが、足止めを受けた関所で協力派の暴走がどう転ぶか分からない。

 「移送を阻止したいんですよね?それなら我々が行きましょうか?今の情勢で国内の兵士同士でいざこざがあるのは困りそうですが。」

 足止めを反対派の妨害工作であると主張して移送を強行でもされたら完全に勢力が二分する事態になる。そんなことはツァイドも、誰も望んでいない。しがらみの無い俺達なら問題にはならない。ついでに俺はカイルやシェルドと確実に合流出来る。

 「必要無い。私の直属騎士団が追えば片はつく。この国は心配されるほど脆弱では無い。」

 牢の鍵が回され、扉が開かれる。

 「仲間も釈放とする。ひとまずツァイドと合流すると良い。」

 そう言って、俺が牢を出るより早くエイゴールは立ち去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ