完遂
「…お前達は下がってろ。」
「しかし―」
「これは騎士団の仕事だ。」
そう言ってふわりと進み出るガリオンを止められる者はいなかった。
「ようやくだ…お前は最高の敵だよ、ガリオン…」
構えた2人が発する張り詰めた空気の中で、誰も動けずにいる。ヒダンが振り下ろせば、あの刀は全てを断つ。だが、ガリオンの剣速は尋常じゃない。ヒダンから動いたら間に合わないだろう。ヒダンが刀で受けるように大剣を切ったとしてもその破片が当たらない保証は無い。裏を返せば、ガリオンの一撃さえ防げれば、ヒダンが致命傷を与える。斬り合うと言っていたが、勝負は一瞬で決まる―
軽やかな動きで一足飛びに間合いを詰めるガリオンは幅広の大剣を上段に構える。叩き潰すという宣言に呼応するようにヒダンは一歩踏み込むと同時に刀の柄を押し出すように投げつけた。刃が上向きのまま、刀が足のついていないガリオンに迫る。右斜めに構えをずらしたガリオンの一閃が刀を叩き落とす。だが、刀は地面に触れる前に光の粒となって霧散し、ヒダンの手元に喚び戻される。その刃は大剣の軌道を塞ぐように置かれた。ガリオンは切り上げるしか無い。だが、今はヒダンの刀が邪魔になり、斬られた大剣の先があらぬ方へ飛んで行く。このままぶつかるように斬りつけて勝つのはヒダン―
ガリオンは構わず切り上げる。予想通り、斬られたその切先はヒダンの後ろに飛んで行く。だが次の瞬間、切断された大剣の柄側が伸びるように突き刺さり、ヒダンが吹き飛んだ。切り上げの勢いのまま、ガリオンが柄から手を離したんだ。単純だが、あの速度の中で剣を離し攻撃に利用することは、周りが重くなる普段のガリオンではありえないことだった。地面に転がるヒダンの周りが赤く染まっている。勝敗が決したのは明らかだった。
「…何か言い残すことはあるか。」
かろうじて呼吸をしているヒダンにガリオンが問う。
「ハ、ハハ…俺は、この命を、完遂した……」
こうして反乱軍リーダーの首は討ち取られた。錆びきった刀だけを遺して。
リーダーを失った反乱軍はすぐに鎮圧された。内乱自体もこのまま収束に向かうだろう。牢屋の魔物達は騎士団が保護することとなった。別の魔物が戦場に投入された場合の説得役という意味もあるが、ギルド員を利用した非道な実験を行うガイリを追求する有力な証拠になるというのが大きい。東の国は明確な被害を被っており、倫理的な観点から教会と合同でギルドマスターのガイリに抗議声明を出すことは出来ないか、という伝言と書状を持ち帰る為、俺達は帰路に着く。
ヒダンは笑って死んだ。望み通りの生き方だったのかも知れない。それでも、奪われたはずの命を思うと、その生き方も、ガイリも、否定すべきだと思えてならない。俺は迷い無く、砂に混じった石造りの街並みを後にした。




