写された意識
元々知り合いで同じ苦境に立たされた猪が嘘を吐く可能性は低い。この猫の話を信じるなら、この世にミナが2人いる。だとしたらガイリが持つ鏡というのは、覗き込んだものの意識をコピーして魔物に移せるのか?返事をしない俺の横からカイルの困惑した声が響く。
「なんかこんがらがってきたなー…鏡を見たら魔物になってた奴らが牢屋にいて…ん?でもミナ達は捕まったんだよな?」
「猪と話してる時に誰かが魔法で牢を破ったんだ。地上に出た私達は体の動きや魔法を試してた。それぞれ色んな姿だったし、全員の魔法が調整出来るものだったから…その時に騎士団が襲ってきて散り散りになったんだ。抵抗せず、話の出来る一部だけが捕まった、んだと思う。」
ミナはガリオンの様子を伺うように語尾を濁す。その後、他3体の魔物から似たような話を聞いた俺達は太陽が拝める場所まで戻ることにした。
「それで、どう思う?」
ガリオンの書斎へ案内された俺たちは所見を問われる。しかし、期待されているような新たな視座を提供できる気はしなかった。
「恐らくガリオンさんが予想していたことと同じだと思います。あの魔物達はガイリによる研究の成果でしょう。ミナ…あの猫の魔物が言っていた記憶は確かに俺達の記憶と合致していますから、供述内容は信頼出来ると考えています。なので、ガイリが鏡と呼ばれるもので記憶をコピーし、魔物に転写した可能性が高いです。」
さっきの話から、ミナは2人いることになる。コピーされていることは恐らく間違いないだろう。
「全員がギルド員を名乗っているのは真実だというのか?」
「下手な嘘とかではなく、本人達は本気でギルド員のつもりなんですよ。少なくとも、俺にはそう見えました。」
「そもそも、そのミナという奴は本当に本人なのか?」
「ミナがコピーされた後のタイミングで会った人はこの中にはいません。ですが、エピソードから考えて記憶は一致していますし、ダインに酷似している魔法を扱えるにも関わらずミナを名乗り続けていました。信じ込んでいるのは確かだと思います。」
「鏡を見ると意識がコピーされるというのもな…あり得るのか?」
「鏡やコピーする方法については断定出来ません。記憶が一致している以上、コピーの可能性が高いとしか言えないです。」
「…鏡の力が分身を作ることで、コピーされたギルド員が魔物に変化させられた可能性もあるんじゃないのか?」
「そういった可能性もありますが、どちらにせよ裏付けは取れませんし結果も同じです。」
ガリオンは一つため息を吐く。
「どの道、正気とは思えんな…保護すべき自分の組織を自ら食い潰すようなものだ。もし事実なら、許される話じゃない。とにかく戦場に送られた魔物はギルド員の意識がコピーされている、それは分かった。だが、何故魔法を制御出来る?」
「それは…はっきり言って分かりません。ですが、人の意識がコピーされていることと無関係とは思えません。ガイリの目的は魔法を意思で制御することのはずです。どういった研究をすれば行き着くのかは不明ですが、魔物に人の意識を持たせると魔法を制御出来ることに気付いたのでしょう。その事実から人が魔法を制御する方法を探る為に行っていたのかも知れません。人の意識をコピーする、という手間をかける理由の説明にもなります。」
「魔物であれば制御出来るというわけでは無いな?」
「シェルド、そんな魔物はいないよな?」
「いない。私は長らく南の魔境に出入りし多くの魔物と交流してきましたが、そのような魔物はいませんでした。」
俺に話を振られたシェルドはガリオンに説明するように断言した。
「何故、ギルド員を使ったと思う?」
「手っ取り早いというのもあるでしょうが…恐らく魔法の扱いに長けている必要があったのではないでしょうか?魔法を常用する人物が魔物になった結果どうなるのか…それを調べていたとしたら戦場にいる理由にもなります。」
「戦場であれば否応なしに魔法を使う…ギルド員なら尚更か。だが、データ収集が目的ならより安定した戦場に送るべきだ。わざわざ前線に投入したのは何故だ?」
「確かに…何か想定外の事態になっているのかも知れません。何かしら指示を受けている様子もありませんでしたし、引っ掻き回す為だけに反乱軍が使い潰している可能性の方が高いと思います。実際、抵抗した魔物は、相当厄介だったのでは無いですか?」
「…あぁ。かなり、な。」
短く重い一言が犠牲者の数を物語っている。間の空いた時間を埋めるように甲冑の急ぎ足が近付いて来るのが聞こえる。足音が部屋の前で止まるのと同時に声が響く。
「ガリオン隊長!急ぎの伝令です!」
「入れ!」
扉を開けた騎士は俺達を一瞥したが、気に留めた様子も無く続ける。
「ここから南方5km地点から反乱軍の部隊が押し寄せています!数は100以上です!」
「第2分隊へ連絡して迎撃させろ!俺は第1分隊と牢屋の護衛に回る!」
「はっ!」
命を受けた騎士は足早に出て行った。
「お前達はここにいろ。護衛は付ける。」
「待って下さい。どうせ牢屋を守るんですよね?だったら俺達も牢屋に行きます。」
「敵の狙いは牢の魔物か俺の首だ。それでも来る気か?」
どっちが安全かは分からない。でもバラける方が危険な気がする。それに、ミナをこのまま放ったらかしにするのは間違っている。
「行きます。良いよな?」
「あぁ。」
「構わない。」
「…ついて来い。」
慌ただしく甲冑の動く音が聞こえる中を俺達は牢屋に向かって進んだ。




