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辿り着くのは

 ノンベーダーの面々は、それぞれ自分の体や武器を掘り起こすのに四苦八苦している。その監視をカイルとシェルドに任せ、俺はようやく馬車の扉を開けた。

 「まさか、ここまで来るとはね…」

 「…やれば出来る子なもんで。」

 馬の重さの分なのか、ヴァルネアの座る後ろの席より前の方が若干深く沈んでいる。俺は席につき、僅かに見上げるように対面する。

 「それで、ここまで盛大に暴れてまで何しに来たのかな?」

 「もちろん、ガイリに金を渡すなと説得に来たんです。」

 「説得?腕ずくの間違いでしょ?」

 「今となってはそれも可能です。でも、まー聞こえていたかは分かりませんが、俺は最初から言っている通り、話しに来たんです。」

 ヴァルネアは俺の言葉を払うように手を振って足を組み替える。

 「話はあの場で終わったはずだよ。今更覆るものは何も無いって理解出来なかったのかな?」

 「ヴァルネアさんの家族への想いが強いのは理解しています。だからこそ、カイエルの話を聞いて間違ってると思ったんです。」

 「間違い?家族が蘇る。その可能性がある。それに協力することに間違いなんて無い。」

 「…カイエルから聞いたのは、出会った時の話です。ヴァルネアさんの夫は優しさを大事にする、誠実な人だったと。そんな人が、ガイリに協力するとは思えない。蘇っても、怒るだけです。」

 「…怒ってもらえるなら本望だ。」

 「本当にそうですか?怒られると気付いているなら何に怒るかも分かっているんじゃないんですか?多分それは悪事に加担することじゃない。ヴァルネアさんが誠実さを、大事にしていたものを失ってしまうことを怒るはずです。…あなたが本当に欲しいのは人が生き返る方法じゃない。築けるはずだった暮らしを送ることです。一緒に飯食って、遊んで、笑い合って…そういう暮らしを目指してるはずなんです。でも、この理想の暮らしの中に、ガイリに協力した先のヴァルネアさんの姿は無い。違いますか?」

 ヴァルネアは口を固く結び、何も返さない。

 「家族の蘇生が間違いだとは思いません。俺が間違っていると思ったのは、理想が遠のくのにガイリに協力することです。ヴァルネアさん、あなたは本当に理想を目指して進めていますか?」

 「だから、捨てろって?私は探してきた。何処にでも行き、何人も会った、何人も見た!情報を集め、組み合わせも考えた、それでも!何処にも無かった!断言できる!ガイリは最も理想に近い可能性なんだよ!それを、捨てる!?」

 「…それは本当に、理想に向かえる可能性ですか?」

 「考え出したらキリがないんだよ。怒られるさ、そんなことは分かってる。許されたとして、時間のズレはどうなる?何もかもがズレた私たちは、どうなる…?」

 「嫌でも、不安でも、考えないと決められないはずです。ガイリにどれほどの可能性があるのかは分かりません。蘇りも時間のズレさえも解決出来るのかも知れない。それでも、心まで変えさせるわけにはいかない。それを許したら、蘇った人も、それを喜ぶ人も、誰だか分からなくなる。そんなものは再会じゃない。」

 「…」

 「だから聞きたいんです。願っているのは家族が戻ってくることですか?それとも、家族と過ごすことですか?」

 「同じことだよ…やることは変わらない!魔法の可能性にしがみつくだけ!」

 「違う!戻ってくるだけならこのままでも良い!でも一緒に過ごすなら、心に寄り添って選ぶ必要があるんです!」

 「何が言いたいの!?魔法がなきゃ死んでた!可能性が無いなら意味が無い!そもそも魔法がなきゃ死ななかった!全部ぜんぶゼンブ魔法が邪魔だ!どれもこれもジャマをする!選んでも選ぼうとしても邪魔じゃまジャマ…!どうして鬱陶しく絡みつく!?こんなものをいつまで味わう!?そんな人生の為に…!捨てて足掻いて生き延びて!どうして!何の為にここまで…こんなところまで…違う…私は、そんなことの為に生きてきたわけじゃ…」

 手で顔を覆ったヴァルネアに、もう何を言うべきか分からない。

 「何が、なんなんだろうね。わたしはなにをしているんだろう…」

 長い沈黙だった。外から聞こえてくる何かを掘り起こした陽気な歓声とは対照的に、馬車の中は凍り付いたように静かだった。

 「ずっと、何も届かないままなのに、また遠のいていく…またダメだ…もう目隠しすることも出来ない…私はいつから見失って、いや、見る気も無かった…」

 それは独り言になっていた。問いかけも、返す言葉も、どちらも無い時間が横たわっていた。

 「結局、どうしろっていうの?私の願いはどうすれば叶うの…?」

 「それは、分かりません。」

 「分からない…?何も無いのに、今やってることだけはやめろって…?馬鹿げてる…」

 「俺に分かったのは、間違った場所に行こうとしていることだけです。」

 「どうすれば生きられる…?私は、私たちは、どこを辿れば生きていられる…?」

 俺には示せるものがない。何を聞かれても問いかけることしか出来ない。変える力が無くても、納得のいく何かを目指す為に。

 「…手を伸ばすと、一緒に生きる道が閉じる…そんなこと望んでいないのにね…」

 言葉を溢すヴァルネアの表情が、徐々に緩んでいく。

 「認めたくないよ…最も届きそうな方法が、最も遠のく方法だなんて。これで正しいと信じ切っていたかったのに…私の理想が歪んでいると言いたくて、こんな大騒動を起こしたの?」

 「…寝覚めが良くないと健康に悪いので。」

 「ふふっ…もう何をどうすれば良いのか分からない……時間が…かかる……ガイリへの協力は保留するよ。…代わりに、1つ条件がある。」

 「条件?」

 「正しいと思ったからといって迷いなく雇い主に意見するような優秀な護衛はそうはいない…カイエルに戻ってくるよう一緒に頼んで欲しい。」

 「…取引成立ですね。」

 引き締まった表情のまま握手を交わした俺は馬車を降りる。目配せで結果を聞く2人に、親指を立てて返した。


 「前から思ってたけど、魔法って人に寄り添いすぎじゃね?」

 「流石に紙鉄砲は謎だよなー。」

 結果として、カイエルは護衛に戻り、資金流入は一旦阻止。上々の成果を上げた俺たちは大聖堂への帰路についた。ガイリに関して目新しい情報は無かったが、大きな影響が無いならそれに越したことはない。

 状況は好転したと思ってる。でも、ヴァルネアを説得したことが本当に良かったのかは分からない。ヴァルネアは大事なものを捨てて何かに縋ろうとしていた。だから止めた。でも、願いまで間違いだとは思わなかった。あのまま進んでも、今描いてる理想とは違う、幸せな別の何かが手に入った可能性はある。叶わないと覚悟してでも理想に準じるべきなのか、理想を歪めてでも届きそうな何かに手を伸ばすべきなのか。どれを辿っても、希望を見失ったヴァルネアの未来を染めるのは―

 巨塔が遠ざかっていく。雲に終わりを隠したそれを俺は眺め続けた。

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