問いかけることで
店を出た俺たちは、嫌でも目に付く巨大建造物である“シセーニの巨塔"の方へ向けて何となく歩き出した。人気のある場所で話したいことは無いのだが、ひとまずヴァルネアの店から離れたい足が、ランドマークへ吸い寄せられていく。
「シェルド…」
「すまなかった。情に流されずに動けるのは私だけだと思ったんだ。だが、足並みを乱してでも、という情に流されていては目的を果たす前に命が尽きると思い知ったよ。もうあんな真似はしないと誓う。」
「…次は無いぜ。下手に協力しようとするより、別行動の方が良くなるからな…」
本人も懲りているようだし、これ以上言うことは無さそうだ。
「これからどーすんだ、ブラザー?」
「んー…お前ら次第かなー。まだヴァルネアさんに手ー出す気なら一緒には行けねーし。」
「…説得出来ませんでしたー、でも良いと思うけど、どーするリオス?」
カイルの言う通り、このまま帰っても報告にはなるし戻っても良いのかも知れない。でも、このままヴァルネアを放置して良いのか?ガイリの影響が色濃く出ている以上、ろくな結末にならない。その確信が、俺を迷わせる。説得、出来なかったのに。
「俺から見ても説得は難しいと思うぞ。思い出話を聞いたこともあるけど、すげー嬉しそうに話すんだ。相当強い思いだって分かるぐらいに。」
「どんな話だったんだ?」
「俺が聞いたのは、最初の出会いみたいな話だったな。そもそもヴァルネアさんも貧民街の孤児だったらしい。当時の孤児は教会の世話になれる運の良い孤児とそうじゃない孤児がいたらしくて、ヴァルネアさんは運の悪い方だったんだって。教会も全部は相手に出来ねーからさ。ある時、迷子になってた教会の孤児を送り届けたら、その子が時々食べ物を分けてくれるようになったらしい。」
「それで仲良くなったってことか?」
「らしいぜ。ずっと食べ物くれるから何でかって聞いたら、死んだ商人の父親から“優しい心は買えないから見つけたら大事にするように"って教えられたかららしい。食べ物を分けてもらう関係がしばらく続いて、一緒に商売を始めて結局結ばれたってわけ。何かもらえると期待して送り届けただけだったけど大正解だったって笑ってたよ。」
「へー。それが金持ちの始まりって感じか。」
「いや、その時は全然上手くいってなかったらしい。嘘を吐かないからギリギリ成り立ってただけって言ってたし。」
「マジ?想像つかねーな。」
カイルに同感だ。こんな状況じゃ無かったら、カイエルの与太話かと疑いたくなるくらいだ。
「…優しさを大事に、嘘を吐かない、か。」
ヴァルネアの夫は素直で実直な人柄に思える。会ったことは無いが、少なくとも他人に犠牲を強いてまで何かをする人には思えない。
「そんな人が、誰かを犠牲にして蘇る、なんて望むもんかな?」
問いかけたが、答えが返って来なくてもいい。俺がこの問いを投げかける相手は、今ここにいないのだから。不思議と、かつてルシエがガーゴイルのドーウィンに問いかけた時のことを思い出す。今ならわかる。間違っている確信があって、それでもただ否定したくなくて。だから、問わずにはいられなかったんだ。
「俺は、その答えを聞かなきゃ納得出来ねー。」
「…よし!また乗り込むか?今度は命懸けだぜ。」
「…明後日、馬車で資金輸送が予定されてるはずだ。ギルドに直接行くんじゃなくて貧民街の医療所を経由するつもりだったから、前みたいにあの狭い道で張れるかもな。」
ヴァルネアの部屋で見た布らしき何かは明らかに罠だった。ああいうのを避けられる分、乗り込むよりはマシかも知れない。
「ノンベーダーは今16人いて、基本的には4人ずつ交代で回してる。その馬車の護衛も俺と誰か4人来る予定だったぜ。」
「あいつらってどんな魔法使うんだ?」
「俺にもわかんねー。あいつらが来てからは小競り合いしか無かったからな。ただ、ザルバトスは前衛で間違いないと思うぜ。」
「…どっちの味方もしないって言ってた割にペラペラ喋るのな。」
「お前らのせいで口止め料もらい損ねたんだよ。」
そう言ってカイエルはイタズラな笑みを見せる。出来ればヴァルネアを止めたいという見え見えの気持ちを隠すように。
「…俺もしばらく宿に泊まる。ケリがついたら必ず報告に来いよ、全員でな。」
「…夕飯奢りなら良いぜ。」
「なんで条件付き!?それでもいーけどさ!」
意味もなく巨塔の下まで来た俺たちは、宿を探し始めた。




