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見慣れない男

 聞き取りの結果、直接的に依頼の現象に結びつく魔法を使える人はいなかった。だが、最近変わったことは無いかを聞くと、何人かはボレジーの件に触れていた。特に無いと答えた人たちも何やら含みがあった気がする。俺たちが訪れた理由は公然の秘密となっているのかも知れない。

 「僕の魔法はわからないんです。何も起きたことが無くて…」

 劇団の中では唯一、ボレジーだけが自身の魔法がわからなかった。女性人気の高そうな優男は、申し訳なさそうに弱々しく笑っている。

 「そうですか…では、最近何か変わったこととかはありますか?」

 「…最近、みんなが僕の噂をしているのはわかっています。その調査で来たんですよね?」

 「ただの調査ですよ。旅の方々を調べられる機会は少ないので。」

 否定はしておくが、恐らく信じていないだろう。この小さなコミュニティーの中で、他に結びつくような異変は無いに違いない。

 「確かに、僕が舞台に立つ時に妙な現象が起きているようですけど、別に悪いことじゃ無いですよね?害は無いわけですし…」

 「そうですね。調査の結果次第ですけど。」

 「劇団の活動停止、なんてことにはなりませんよね?」

 「今のところ、そういうことにはならないと思います。」

 ひとまず安心したのか、その後は挨拶をして話は終わった。

 「どー思う?」

 「やっぱ2択じゃね?最近になってわかったか、魔道具を手に入れたか。」

 「だよなー。」

 聞き取りを終えた俺たちは今日の調査を終了して帰ることにした。


 翌日、日が落ちた頃に始まった公演は中々に盛況のようだった。前列の一部は女性の一団で埋め尽くされており、口々にボレジーの話をしている。あれが追っかけというやつだろうか。全体を見回してみるが、男性客はまばらに見える。悲劇のラブロマンスというジャンルでは、このぐらいの偏りが普通なのかも知れない。

 公演が始まってしばらく、ボレジーが出るまで俺とカイルは後方で欠伸を移しあっていた。正直、退屈だ。仕事じゃ無ければ寝ていただろう。

 「来たぞ。」

 カイルに言われ、俺たちはボレジーが出ている間、左右に分かれ彷徨いてみる。だが、噂のような印象の変化は無い。そもそも退屈だと思っている俺には効かないのだろうか。その後も観る位置を変えながら過ごしたが、特に印象が変わることは無かった。ボレジー演じる主人公の青年が駆け落ちしたヒロインを金持ちのライバルに取られ、さらに駆け落ちされるところはとても可哀想だったが、その印象が変わることは無かった。

 「こっちはダメだ。そっちは?」

 「可哀想だった。」

 「そーじゃねーだろ。」

 「印象は変わって無いと思う。」

 カイルの方も異変は無かったようだ。俺たちがいることで魔法を発動しなかったのかも知れない。そう思った俺の耳に帰り行く観客の感想が流れ込んでくる。

 「やっぱりボレジー様の演技は別格だわ!舞台が輝いて見える!」

 「お祭りの時にも観たけど、やっぱすごかったよね!また泣いちゃったよ!」

 「私も最後のシーンは何度も観たはずなのに切なさで胸が苦しくなっちゃった!」

 どうやら、異変は起きていたようだ。だが、俺とカイルには影響が無かった。条件は観る位置だけでは無さそうだ。やはり、感動している人の印象を変える魔法なんだろうか。

 「リオス、今日は帰ろうぜ。俺はもう眠い。」

 「…まー出来ることも無いしな。」

 俺たちは2日目の公演で何かを掴めることを期待して帰ることにした。


 「ヴァルドレインは感動していたと思うか?」

 「んー…まーつまらねー話を公演しようとは思わねーんじゃねーの?」

 「それもそーか…」

 考えてみたが、感動した人にだけ影響するという仮説にはどうにも違和感がある。団長であるヴァルドレインも感動しているのだろうか。劇団員も含めて、作る側と観る側では思いが異なる気がする。

 「おっ、始まるぞ。」

 昨日と同じように、公演が進んで行く。…退屈だ。俺たちはまた後方で欠伸を移しあいながらボレジーの出番を待った。

 「…お出ましだ。」

 その一言を合図に俺たちはまた左右に分かれ、観客の端の方を彷徨く。

 (…あれ?)

 変わった。ボレジーとの距離は30mほどだろうか。退屈なことに変わりは無い。だが、明らかにボレジーに対する印象だけが違う。舞台の中で、1人だけくっきりと浮かび上がるような感覚。間違い無い。これが異変だ。俺が前後に移動すると印象はそれに合わせて変化した。本当に奇妙な感覚だ。だが何故だ?今日になって急にボレジーだけが異常に感じられるのは。公演が終わるまで彷徨きながら考えるが、良い答えは浮かばなかった。


 「変わったぞ!そっちもか!?」

 「ああ…一体何が起きてるんだ?」

 「全然わかんねー!でも面白いな、コレ!」

 妙にテンションが高いと思ったらそういうことか。この謎を解かなきゃいけないということがすっぽり抜け落ちているらしい。

 「でもマジでなんなんだろーな。舞台っていうよりボレジーだけって感じだったし。」

 頭を捻る俺たちの横を昨日と同じように観客の声が流れていく。

 「今日もボレジー様は最高だった…」

 「あいも変わらず素敵だったわ…」

 何か、引っかかる。あいも変わらず?もしかして、ボレジーだけが変わってないのか?そうだ。昨日は比較できていなかっただけだとしたら、辻褄が合う。

 「逆かも知れない。」

 「逆?」

 「ボレジーだけが、昨日と同じ、初めて見た印象なんだ。」

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