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喧騒は寂しく響く

 ヴァルネアも疲れが溜まっていたようで、結局、俺たちが銀行を訪れたのは日が高くなってからだった。警備も多く、やたら物々しいが昨日の戦いを思うと当然だと思わされる。

 「ヴァルネア様?いかがなさいました?」

 話しかけて来たのは老紳士という表現が似合いそうな男だった。見た目だけで言うのもなんだが、それなりに立場が上の人に見える。

 「例年通りですよ。1等の換金をお願いします。」

 差し出された当たり券を見て、銀行員は固まる。

 「先ほど、代理の方にお渡ししましたが…」

 「え?」

 ヴァルネアの反応は、代理人などいないことを示していた。混乱が場を支配する中、銀行員は話し出す。

 「今朝8時になってすぐにヴァルネア様の代理人を名乗る方から換金のお申し出を受けました。当たり券と承諾書があり、魔法陣の割印も一致しておりましたので、現金をお渡ししたのです。」

 「…それは、どんな人でしたか?」

 「ガイリと名乗っておいででしたが…」

 ヴァルネアは考え込んでしまった。色々と理解が追いつかないので勝手に質問タイムにさせてもらう。

 「すみません。その割印って全部の宝くじについてるものなんですか?」

 「いえ、1等は特別ですから…」

 「当たり券と引き換えたんですよね?なら、我々も確認出来ますよね?」

 「ええ、すぐにお持ちします。」

 「…1等の賞金ってすごい額ですよね?現金ですぐ渡せるものなんですかね?」

 「毎年、ここで受け取った賞金をそのまま医療所へ持って行くんだ。用意があったのはその為だよ。」

 「なるほど…」

 しばらくして運ばれて来た当たり券はご丁寧に盆の上に乗せられていた。

 「こちらが当たり券と照合した割印です。合わせるとこのように光るようになっております。」

 ピタリと合った魔法陣は確かに光を放っている。試しにヴァルネアの当たり券を合わせてみると、こちらも光を放った。今、目の前に1等の当たり券が2枚あるということになる。偽造されたということだろうか?目を凝らしてなんとなく重なっていないかを確認したりしてみるが、違いを見つけられない。

 「…まさかとは思うが、幻の可能性は無いか?」

 「幻…?」

 「割印まで一致しているなら、偽物を用意したというより、どう見えるかを誤魔化されていると考える方が自然ではないか?」

 スカーフを弄っているシェルドを見て、その言葉の意味を理解する。銀行員が持って来た当たり券を振ると、違和感がある。当たり券がズレている?目を凝らすと、全く違う当選番号が見え隠れしていた。

 「やはり、その当たり券は幻だ。ハズレ券の上に被さるように魔法が施されているんだ。」

 「見せて。」

 ヴァルネア、銀行員の順に確かめ、全員が1等の賞金を盗まれたことを理解した。


 「まさか、出し抜かれるとは…魔法陣も万能じゃないんだね。」

 ひとまず考えたいと言ってその場を後にしたヴァルネアに続いて、俺たちは修理店へ引き返して来た。

 「どうします?ガイリを探しますか?」

 「いや、その必要は無いよ。賞金は大きな問題じゃない…」

 そう言うヴァルネアの表情は出し抜かれた怒りではなく脱帽したとでも言いたげな苦笑いを浮かべていた。

 「わざわざ名乗ってアピールしているんだ。待っていれば向こうから来る。…ひとまず命の危険は無くなったし、君たちの依頼は達成だね。」

 「良いんですか?カイエルだけになりますけど。」

 「目処はつけてある。心配無いよ。」

 全くスッキリしないが、護衛はこれで終了のようだ。俺たちは以前出会ったガイリの見た目について話してから金を受け取って部屋を出た。


 「なんかあったら呼べよ、ブラザー!」

 「そっちもな、兄者!」

 前にも似たような挨拶をしていた気がする。お別れはその呼び方にするお約束なのだろうか。

 「リオスも、なんかあったら呼べよ!ぜってー行くから!」

 「カイエルも、色々気をつけてな!また会おうぜ!」

 「シェルドも元気でな!また遊びに来いよ!」

 「ああ、また会おう!」

 俺たちが道を曲がるまで、カイエルは店先から手を振っていた。


 「しっかしヴァルネアさんも大変だよな。ずっと訳の分かんねー奴に狙われてさ。」

 「それなー。」

 お金持ちっていうのは、なんとなくもっと幸せだと思っていた。でも、ヴァルネアは俺たちとは違う種類の争いをし続けているように見えた。金を稼ぐことにそこまでの価値は無いのかも知れない。だとしたら、ギンゼたちは何を得られるはずだったんだろう。夢の為に命を賭ける。それは正しい生き方のはずだが、金の為に命を賭けるのは、どうしても間違っている気がする。ギンゼの期待に応えられるのは金じゃなくて、もっと温かみのある場所だったんじゃないのか。なら、ギンゼたちは戻りたいと思える場所を創る為に生きるべきだったのだろうか。あの立場だったとして、違う道を選べただろうか。…俺は、どうやって生きれば良いんだろう。祭りの後の街の喧騒が、妙に寂しく響いていた。

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