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1等の当て方

 西の国、シセーニは金持ちが集まる国だ。元々観光地として人気があり、水路が整備されたことで不動の地位を得たらしい。魔法が現れてからは魔道具と、それを狙う盗賊、そして身を守る為の護衛が入り乱れる土地としても名を馳せている。


 「…つまり、分かたれた半身ということか?」

 馬車の乗り換え待ちの為、街道沿いの喫茶店で時間を潰す俺たちの話題はカイエル爆誕になっていた。祭りに向けて往来が激しく、この喫茶店も人が多く出入りしているが、カイルはこのエピソードを特別、秘密にするつもりは無いらしい。その生い立ちは多様な魔物社会を経験したシェルドすらも驚かせた。

 「早速こんな話が聞けるとは…やはり、君たちについてきて正解だったよ。」

 「こんなことばっかりじゃないんだぜ?普通は。ていうか普通だと困る。」

 思えば、対策部門に来てから面倒事に巻き込まれ続けている気がする。そろそろ落ち着いた依頼を受けるようにしたいものだ。

 「そろそろ行くか。あの高過ぎる塔に向かって!」

 西の国の塔。魔法黎明期に現れた謎の巨大建造物。雲に覆われた頂上を拝んだものはおらず、神様が住んでいるとも、化け物が彷徨いているとも言われている。大抵の人は鳥が止まっているのを見たことがあるだけだが。

 「こんな遠くからでも迷わない国ってここだけだよな。」

 「確かに。俺もいつか、ああいうビッグな存在になりたいぜ…」

 「お前は何を目指してんだよ?」

 くだらない会話で旅路を埋めながら、俺たちは馬車の停留所へ向かった。


 関所らしきものは素通りだった。西の国の自治組織はあまり機能していないという噂は本当らしい。自分の身は自分で守るという原則が色濃く現れている。待ち合わせは塔の東側らへんの魔道具修理店とのことだった。今はその店の護衛として雇われているらしい。馬車を降り、道すがら散策していると、不意にシェルドが声を上げる。

 「ガイリ?おい!君はガイリじゃないか!?」

 振り向いたのは、俺たちよりも少し背の低い男だった。

 「あれ、シェルドか?久しぶりかな?」

 「随分だ!15年は経っているんじゃないか?」

 「そうかもな。何してるんだ、こんなところで?」

 「お祭りを楽しみに来たのさ。君もそうなんじゃ無いのか?」

 「まぁそんな感じ。野暮用もあってね。」

 言いながら、さりげなくこちらを見ていた。知り合いかどうか確かめたのだろうか。値踏みでは無いが、持ち物を確認されたような感じがする。だが、話の矛先がこちらに向くことは無かった。

 「そうなのか。良かったら後で会わないか?近況報告でもしようじゃないか。」

 「あー、悪いけど用事がいつ終わるかわからないんだ。祭りの途中で会えれば少し話せるかも知れないけど…」

 「そうか…なら、縁があることを期待しよう。」

 「悪いな、また会おう。」

 「ああ。」

 軽い調子でそう言って、ガイリは立ち去って行った。

 「古い知り合いなのか?」

 「前にコルマが旅人に会った話をしただろう?あの人だよ。」

 「あー、魔境に来てたって人?」

 話に聞いていた通り良い人そうではあるが、確かに何を考えているのかよく分からない感じもある。久しぶりに会ったはずのシェルドとの温度感の差がそう思わせるのだろうか。まー立ち話だし、そんなもんか。

 「あぁ…でも、そう言えばおかしいな。」

 「何が?」

 「私は長い間、輝く姿だった。魔境で変装は必要無いからな。何故私だと分かったのだろう?」

 シェルドの問いに対して、そういう魔法使いなのではないか?という決着がついてすぐに、目当ての魔道具修理店を発見した。


 「カイル!やっと来たな!」

 「来たぜ、カイエル!」

 ヴァルネア魔道具修理店に入ってすぐに、双子は鏡写しのようにハイタッチから始まる謎の手遊びを披露した。なんだその挨拶。

 「リオスも久しぶり!」

 「久しぶり感ねーけどな。」

 「何でだよ!俺は結構寂しかったんだぞ!」

 言いながら肩を組んでくるカイエルと感動が合わない。いつも会ってるしな、この顔。

 「で、その子が手紙にあった3人目?」

 「初めまして、シェルドだ。よろしくな。」

 「…なんか大人びてるなー。」

 「追々説明する。」

 「カイエル、来たの?」

 奥から出てきたのは、少し痩せすぎに見える女性だった。目の下のクマも相まって、妙齢は過ぎていると感じさせる。

 「…本当に双子だったんだ。」

 「疑ってたんですか?紹介します、双子の兄のカイル、リオス、この子はシェルドです。」

 「初めまして!弟がいつもお世話になっております!」

 声が弾んでいる。人生で一度は言ってみたかったのだろう。

 「私がここの店主のヴァルネア、よろしく。早速で悪いけど、君たちにちょっと頼みがある。」

 「頼み?」

 「奥に来てくれる?君はここで待っててね、すぐ済むから。」

 「…って言われちゃったけど。」

 「聞き耳は立てておくさ。」

 見た目通りの扱いを受けたシェルドを残し、俺たちは店の奥へ入った。


 建物が立ち並ぶ表通りから見た店構えはさほど大きさを感じなかったが、奥は様々な物品でごった返す、ちょっとした倉庫のようになっていた。大きさや種類で分かれているかと思えば、客の名前と思われる表示がされたエリアは雑然としている。お得意先の物置にされているのだろうか。

 「カイエルから私の仕事についてどのくらい聞いてる?」

 「護衛をしてるとしか聞いてませんね。」

 辺りを見回しながらカイルが答える。

 「そう…なら宝くじについては?」

 「今から聞こうかなーと。」

 「…なんか、行き当たりばったりだね。」

 「恐縮です!」

 若干、馬鹿にされてる気もするが、本人が気にしないだろうことが分かっているので引き続き見守る。

 「結論から言うと、君たちにも護衛をお願いしたい。」

 「え?…そう言えば、護衛がカイエル1人のわけ無いですよね?他の方はどちらに?」

 「全員やられた。」

 「やられた…?って…」

 「簡単にだけど、順を追って話すね。私の魔法は箱を出す召喚魔法。」

 そう言って両手の平を向けた先の地面に、光が集まるように2m四方の箱が形を成す。結ばれていないリボンが箱の下に十字に横たわっており、まるでプレゼントボックスのようだ。

 「この箱に魔道具を入れるとリボンが結ばれていく。物によって時間は違うけど、リボンの動きが止まったら、それを解いて箱を開ける。すると、中にあった魔道具は修理済みになっている。私はこれで財を成したの。」

 魔道具は召喚者にとっては再召喚すれば直る物だ。ここに集まるのは、そうでは無い魔道具なのだろう。確かに、これなら真似しづらいし、事情はどうあれ客が途切れる可能性も低い。財を成すには十分な魔法だ。

 「有名になるにつれて敵が増えた。護衛を雇うだけでは限界があると感じた私は医療支援と宝くじを始めた。」

 「え?じゃあ、噂で聞いた毎年1等を取る人って…」

 「私。」

 カイエルの雇い主はお祭りの主催者ということになる。なんかすごい人と知り合いになったようだ。

 「安全を思うなら、1等は自分で取らない方が良いのでは?」

 「1等を取った人が公表する可能性は低い。実際、2等以下でそれを公表する人はほとんどいない。そうなると、どのみち私に不正の疑いが向く。形式上は抽選だけど1等は最初から私が持っていて、その金は医療支援に使われてる、という状態が一番良いと私は考えてる。2等以下は公正だから、お祭りとして成り立ってるしね。」

 まさか、1人の商人の安全の為にみんなが熱に浮かされているとは知らなかった。金持ちはやることが派手だ。

 「しばらくはそれで上手くいってると思ったんだけど、最近、1等を直接狙いにくる盗賊が現れた。今までもいなかったわけじゃ無いけど、今回は異様に手強い。先週の襲撃で生き延びたのは私とカイエルだけ。」

 先週、ということは、俺たちがこちらに向かってすぐくらいだろうか。俺たちがのんびり来ている間に、カイエルは修羅場を1つ潜っていたわけだ。

 「お祭りは明日からの2日間。宝くじの当選発表は最終日で、翌日の8時から銀行で換金が出来る。それまで、私の護衛になってくれない?」

 上着の内ポケットから取り出されたそれは、宝くじに違い無かった。まさか、最初に見る宝くじが1等が確約された当たり券になるとは思わなかった。というか、この人もルール通りに宝くじを持っていなければならないのか?

 「…カイエルはなんでこの人の護衛を?」

 「治癒士が集められた医療所は貧民街にあって、タダでみんなを治してるんだ。格差の激しいこの国で、そういうことが出来る人は死ぬべきじゃ無いと思う。」

 わざわざ危険なことに首を突っ込んでいるのはそういうことか。カイエルが受けたがる依頼ということは、当然カイルも受けたがるわけで、既に2人の目は俺に訴えかけていた。

 「…報酬は?」

 「払うよ。」

 いくら払うのかを聞いているのだが。やはりと言うべきか、キッチリしている。

 「…換金するまでで良いんですよね?」

 「助かるよ。2階の部屋は好きに使って。」

 「いやー良かった良かった。どのみち宿とか取ってないから、2階に泊まるしか無かったんだよなー。」

 断っても巻き込む気だったなコイツ。カイエルの思惑に乗せられた俺たちは、そのままの勢いでシェルドを護衛に加えた。事情を知らない2人はイジメを疑う目をしていたが、とにかく戦力になることを力説して夜を迎えた。

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