西の国へ
ギルドの受付で依頼の完了報告をする俺たちは、完全に悪目立ちしていた。魔境に向かったはずの4人が5人になって戻って来たとなれば気にもなる。周りが明らかに場慣れしているフードを深く被った子供と俺たちを交互に見ているのがわかる。
「…で、その子は?」
話題が自分に向いたと知るや否や颯爽と進み出ると、勢い良くカウンターに手をかけて跳び上がり、そのまま身を乗り出して受付と顔を合わせる。
「私の名前はシェルドと言います。南の魔境の近くでお父様とお母様が魔物に襲われてしまって…途方に暮れていたところを皆さんに助けていただいたのです。帰る家も無く―」
語り始めたシェルドの声は涙交じりだった。が、事情を知らなかったとしても素直に同情は出来なかっただろう。カウンターに腕を突っ張ったまま泣き落としが出来る子どもがいてたまるか。
「―なので、ギルド員として働かせて欲しいのです。」
一通りシェルド劇場を観覧した受付はこちらに視線を寄越す。
「…本人はギルド員になりたいそうです。」
「…ちょっと待って下さい。」
そう言って引っ込んでしまった。今更だが、こんな子どもを連れて来た俺たちの方がなんやかんや言われるのでは?気を揉みながら待つこと数十分、戻ってきた受付がシェルドに紙を差し出す。
「特に問題無いらしいので、この紙に名前とか書いて下さい。文字は、わかる?」
「わかります。すぐに書くので少々お待ちを。」
そう言って、今度は肘を突きながら器用にもカウンターで記入を始めた。
「…その、良いんですか?」
「年齢は問わないそうです。」
俺が言いたいのは身元が不明なところだったんだが。言い切ったところを見ると、諸々含めて上の判断に従うと決めたのかも知れない。こうしてシェルドが無事登録を終えてやっと、俺は人に紛れる魔物が身近にいてもおかしく無いと気付いた。
面倒な依頼を立て続けにこなしてきたことで、少しばかり金銭的に余裕がある。おかげで少し街を見て回りたいと言うシェルドの願いを穏やかな気持ちで引き受けることが出来た。
「結局、どこに住むことにしたんだ?」
「まだ調査中だが、図書館になると思う。」
「…図書館は住むとこじゃないぞ。」
「だが、大抵の大きな建物の屋根裏は空き部屋と同じだろう?」
「寝てる間につまみ出されても知らねーぞ。」
「それは心配ない。私にとっては毎日が眠れない夜だ。」
「…寝不足ってことか?」
「眠る必要が無い体質なのさ。」
「なにそれスゲー。」
受け入れるしかない魔物の神秘に直面していると、前からカイルが来るのに気づいた。距離が縮まるにつれ、いつもの笑顔が見えてくる。
「よう、2人とも!今暇だよな?今朝カイエルから手紙が来たんだよ。」
「どちら様だ?」
「カイルの弟だ。」
「ほう、兄弟がいるのか?」
「俺のベストブラザーだ!」
元々一人っ子なんだからベストも何もないだろう、と言おうかと思ったが、話が手紙の内容から遠ざかりそうなので今回は控える。
「で、何が書いてあったんだ?」
「西で上手くやってるってことと、今度のお祭りの日、遊びに来ないかってさ!今はちょっと余裕あるし、みんなで宝くじ引きに行こうぜ!」
「へー、面白そうだな。」
「私もついて行っていいのか?」
「もちろん!色々見て回りたいんだろ?一緒に西の国行こうぜ!」
「ありがとう。私はいつでも大丈夫だ。日程が決まったら教えてくれ。」
数日後、俺たちは西の国へ向けて出発した。




