↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/8

第六話:監獄での生活③

現在時刻17時。

聖堂での祈りの時間だ。


囚人・看守は皆平等に神に祈りを捧げなくてはいけない。

聖堂の中にずらりと一斉に並び、手を合わせ、目をとじる。


ただし、カイリとシャムは例外だった。


シャムに接触する者は、必要最低限に留めなければならない。

そのため、この一時間に限り、二人には自由行動が許されている。


カイリ

(だから、朝から祈りを捧げていたのか……)


カイリは、手元のコーヒーに視線を落とした。


静かな時間だった。

誰にも邪魔されることなく、二人きりで言葉を交わす。

普段なら許されない、ささやかな自由。


カイリは一口コーヒーを飲んでから、向かいに座るシャムへと目を向けた。


カイリ

「一時間、自由に過ごしていいそうです」

「……何をしますか?」


シャム

「そうですね…」

「思考実験などどうでしょう?」


カイリ

「思考実験?」


シャム

「ええ、あなたはトロッコ問題を知っていますか?」


カイリ

「あ~、えっと…確か、どっちを犠牲にする?みたいな話でしたっけ」


シャム

「制御不能になったトロッコの先に、五人の人間が縛られている」

「進路を変えれば、その先にいる一人が死ぬ」

「さて、あなたならどうします?」


カイリ

「えぇ…難しいなぁ」

「う~ん…」

「こうやって悩んでいるうちに、きっとその5人を死なせてしまうのかもしれないな…」


シャム

「なるほど」

「ではもう一問」


「とある魔法があります」

「その魔法をかけると、あなたは幸せになれます」

「ただし、その代わりに自分以外の誰かが不幸になってしまいます」

「あなたはその魔法をかけますか?」


カイリ

「それは簡単だよ」

「魔法はかけない」


シャム

「おや、即答ですね」


カイリ

「誰かを犠牲にして、自分が幸せになろうとは思えないな」

「不幸な出来事っていうのは誰にだってあるだろうし」


シャム

「ふふ、キミならそう答えると思っていました」

「安心しました」


カイリ

「…僕のことを分かった気になっているようで悪いですけど」

「1日過ごした程度で、僕の何がわかるんですか」


シャム

「1日…そうでしたね」

「……、すみません」


カイリ

「……別に、怒ってないですから」

「こういうこと考えるの苦手ですけど、少し楽しかったですし」


シャム

「そう言っていただけて嬉しいです」


カイリ

(なんだか元気がないな…)

(僕からも何か話題を振ってみるか)


カイリ

「あー、朝のことなんですけど」

「聖堂を掃除するの、好きなんですか?」


シャム

「…ええ、好きといいますか」

「懐かしい感じがして、落ち着くんです」

「それに、何か大切なことを思い出せそうな気がして…」


カイリ

「そう、なんですね」

「思い出せたらいいですね…」


シャム

「ええ、でも…、同時に、思い出すことが私は恐ろしいのです」


カイリ

「恐ろしい?」


シャム

「私は一体どんな罪を犯したのか」

「数百年、数千年…、膨大な量の記憶を思い出してしまったら?」

「私は私でなくなってしまう、そんなような気がするのです」

「けれど、記憶をなくした私は、本当に私と呼べるのでしょうか?」

「どう思います?」


カイリ

「…また思考実験ですか?」


シャム

「バレました?」


カイリ

「…僕もだんだん、あなたのことを分かったような気になってきました」


シャム

「ふふ、その調子です」


祈りの時間終了のチャイムが鳴り響く。


シャム

「牢に戻りましょうか」

「また話しましょうね、カイリくん」


カイリ

「…はい」


彼と過ごす時間を、どこか懐かしいと感じてしまう僕は…変なのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。