温泉旅行~きょうだい編~
本編から少し経った冬の日の話。
光助が少し甘えん坊になっています。今まで辛かったと思うけど、これからはきょうだいと一緒に幸せになれよ、光助……。
ある秋の日、光助が義明と蓮を呼んだ。
「どうしたの?光助」
「愛良じゃなくていいのか?」
二人は首を傾げる。光助は「愛良じゃなくていいよ。むしろ姉さんじゃなきゃダメなんだ」と言った。
「ボクじゃないと……?」
「そう。実は……温泉に行きたいんだ!」
……あー、そういえば開原の現実に捕らわれていた時、そんなこと言っていたなー、と蓮は思い出す。
「それ、なおさらボクじゃない方がいいんじゃない?もしくは怪盗団の皆で行くか」
「きょうだいで行きたいんだよ。怪盗団で行くのはその後にしたいんだ」
まぁ、気持ちは分かるが……。
「……光助、それならここで話さない方がよかったぞ」
「え?なんで?」
なんでって、それは……ここはファートルの屋根裏部屋だ。つまり……。
階段を上がってくる足音が聞こえてくる。そちらを見ると、りゅうが立っていた。
「僕も温泉に行きたい!」
「ほらな」
……ここはりゅうが仕掛けた盗聴器がある。会話を聞こうと思えば聞けるのだ。つまり、ここでの出来事になるとりゅうには隠し事が出来ないのだ。
「先に言ってくれ……」
「悪い、もう知っているものと思って」
実際、言った気でいた。そういえば言っていたのは愛良と兄さんだけだった……と蓮は思い出す。
机に突っ伏した弟を見て、義明は「りゅう、今度連れて行くから今回は皆に黙っていてくれるかな?」と交渉していた。
「むー……。分かった、光助も帰ってきたばかりだもんね」
「今度、お前の行きたい場所につき合ってやるから機嫌を直してくれ」
「それじゃあ、我慢する」
「ほら、光助。交渉成立したから続き話して」
蓮は彼に笑いかけた。彼は嬉々として話し出す。
冬休み、用事があるから数日出かけると愛良達に伝え、三きょうだいは温泉宿に向かった。東北の方だったのでやはり雪が積もっていた。
「わー!すごい!雪だ!」
「光助、気を付けてね」
蓮は笑いながら、雪で騒ぐ弟を見ていた。……義父は今まで、こういった場所に連れて行かなかったのだろう。それなら思う存分、楽しんでほしいものだ。
宿のチェックインを済ませ、蓮は部屋に向かった。そして、身体を冷やしてくるだろうからと先に暖房をつける。
浴衣を着て、二人が来るのを待っていると扉が開いた。
「あ、姉さん。先に着替えたんだ」
「やっぱり何でも似合うね、蓮は」
予想通り、身体を雪で冷やした二人は暖房の聞いた部屋に入って「生き返る……」とほのぼのしていた。
「明日はスキーでもしような」
蓮がそう言うと、光助は「うん!」と幼い子供のようにキラキラ顔を輝かせて頷いた。
彼が、探偵王子だなんてな。
誰も思うまい。そしてそれを微笑ましく見ているこの少女も、まさかご令嬢様だとは思わないだろう。
そして、光助は義明と共に念願の露天風呂に入った。
「いいね、兄さん」
「ふふっ、そうだね」
「今度は、皆で来ようね」
「もちろん。蓮も許可してくれるよ」
二人は笑う。それは隣の女子風呂に入っている蓮にも聞こえていて。
――当たり前だろ?どこでだって連れて行ってやるさ。
今まで、姉として何もしてやれなかった分、何でもすると決めているのだから。
その後、皆にお土産を渡すと「なんで誘ってくれなかったんだー!」と言う声が上がり、近いうちに再び旅行に行くことになった。
その時の光助の笑顔は、作られたものではなく心の底から出ているものだった。




