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イスファンディヤール戦記  作者: 北の旅人
凋落編
37/55

ハループの降伏

「何、ハループが城門を開いただと?」


イスファーンは耳を疑った。自分の耳を信じきれないイスファーンは軍を進めたが、彼の目もまたハループの降伏を認識した。


「どうなっている?」


「はっ。城内に兵はほとんどおりません。少数の治安維持のための部隊がいるのみにございます」


「民に紛れている可能性はないのか?」


「その可能性もあります。一応、我が軍に所属するハマト人将兵も用いて確認作業を進めておりますが、兵員名簿なども残されておりませんので、完璧な把握は難しいかと…」


先に入城した将校からの報告に、イスファーンは呻いた。


ハループの中には、ナスリーン女王やシャープールをはじめ主だった者はいないという。将軍や将校もおらず、残っているのはせいぜいが警備隊の士官だ。彼らは口を揃えて「ハマトの主力軍は砂漠に逃れた」という。


「万を超える軍勢が砂漠に逃れたというのか?」


「補給がもたぬのではないか?」


「いや、奴らは砂漠の民。我々の知らぬ手があるのかもしれぬ」


「だが、こんな砂漠だ。食料はおいても、水が足りなくなるだろう」


「それも何か手があるのではないか?」


「どんな手だ?」


「わからぬ。俺は海の民カリア人だ。砂漠の民のことなどわからん。草原のパルティア人の方がわかるのではないか?」


「いいや、草原と砂漠は全く違う。我々パルティアの民にもわからん」


「シェルヴィーン将軍はいかがお考えか?」


全員の目がシェルヴィーン将軍に向けられた。シェルヴィーンは今は亡きハマトの先王にしてハカーマニシュ王国宰相シャーヤーンの軍監としてハカーマニシュ王国軍に加わる将軍である。今回のハマトとの戦いでは道案内や情報源、参謀としての役割が期待されていた。また、ここでシェルヴィーンに功績を挙げさせてハマトにおける立場を強め、イスファーンに忠実な彼を通じてハマトを掌握しようという目論見でもあった。


「砂漠とは言え、水が全くないわけではありません。所々にオアシスがあり、そこには都市もあります。また雨も稀にではありますが降ることもあります。ただしそれでも、万を超える軍勢が砂漠を長期間逃げ回れるとは思えません。恐らくは機動力の高い騎兵のみを連れ、歩兵はどこかに隠しているかと」


シェルヴィーンは見事な顎髭を触りながら自らの意見を述べた。


「隠している、か。兵を隠せるような場所などあるのか?」


「点在するオアシス都市に少数ずつ隠す、ハループ住民に変装させる、小都市に分散させる、などでしょうな。そもそもハループにこれほどの人口はおりません。シャープール殿下、いや失礼、シャープールが港を破壊したために多くの商船が足止めされ、それらの乗組員で溢れ返っているとのことですが、それにしても多すぎます。相当数、ハマト兵がいるかと」


「ふむ、そうか。武器や防具の摘発も急がねばならんな。それに、砂漠に乗り込むならばハループにも大規模な警備の兵を置く必要がありそうだ」


イスファーンはラルサを後方の拠点に、ハループを前線の拠点として用いようと考えていた。両都市の中間にあるいくつかの要所も固め、陸海ともに連絡線を確保した。ラルサにも南部方面軍の一部を割き、8000の兵を置いてハカーマニシュ人の将軍ザルトーシュトに委ねていた。ハループにはそれ以上の守備隊を置くこととなろう。


「よし」


イスファーンが一声発すると、全員が彼を見た。


「奴らがオアシスを利用して戦うと言うのなら、こちらにも考えがある」


ハカーマニシュ王国軍は進軍を開始した。まずは砂漠の民を中心とした騎兵部隊がオアシス都市を探しあて、続く歩兵部隊が一つ一つ確実に占拠していく。そこにハマト兵が隠れていれば捕らえて尋問した上で後方に送り、物資があれば押収した。抵抗をしない限り、住民には一切手出しをしなかった。これらのオアシスには都市の規模に応じた数の兵を置いて守らせた。ハマト軍が拠点として用いようとしたオアシス都市は、ハカーマニシュ軍の拠点となったのである。ハカーマニシュ軍の勢いを恐れているのか、シャープールらハマト軍は影も形も見せない。実戦部隊はもちろん、補給部隊への攻撃すらないのである。


ハカーマニシュ王国軍は破竹の勢いで進んだ。途中途中のオアシス都市や砦を押さえながらであるため、後方との連絡線も確保できていた。


「これは勝てるな」


傍らに控える親衛隊長フィルーズも頷いた。


時にイスファーン、30歳。早熟の彼にとって、この時が人生の絶頂であったのかもしれない。

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