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イスファンディヤール戦記  作者: 北の旅人
凋落編
28/55

フェリドゥーン作戦

「何!?ハカーマニシュ王国軍が動き始めただと!」


アレイヴァ駐留軍司令官アーブティンからの報告に、カユーマルスは思わず叫び声をあげた。居並ぶ臣下の列からもざわめきが聞こえる。


「して、その数は?」


「はっ。詳細は未だ不明ではありますが、15万近くはいるかと思われます」


「15万…」


カユーマルスは呻いた。15万と言えば、エリマイス全軍の倍以上の数だ。


「だが、15万と言えばハカーマニシュ王国軍の半数だ。それほどの大軍を1ヶ所に集めれば、他の守りが疎かになるのではないか?傭兵でもかき集めたか?」


「いえ。新たに兵を集めるような動きはございません」


「ふむ…」


カユーマルスは引き続きハカーマニシュ王国軍の様子を探ること、本当に攻め込まれた時に備えて軍備を整えることを命じた。


数日後、カユーマルスの元に新たな情報が入った。ハカーマニシュがカリアに海軍を集めているというのだ。


「海軍か。では、狙いは我が国ではないな。レモラ人どもを海上から攻撃するつもりか?」


さらに数日後。


「カリアに集結した海軍は、ルジナ島の制圧を目的としているようです」


「ルジナ島か。たしか、レモラ人どもの王国がある島だったな?」


「はっ。左様にございます」


ルジナ島は「西海」に浮かぶ島である。元々はヘレーニア人が住んでいたが、数十年前、レモラ人の騎士たちにより征服され、ルジナ王国が建国された。以来、聖鍵軍の後背地として重要な位置を占めている。


「ハカーマニシュは、レモラ人の増援を阻止するつもりだろうか」


聖鍵軍を構成するレモラ人は西からやってくる。その際、聖鍵軍国家であるルジナ王国は中継地点となる。ここを押さえることは、対聖鍵軍戦において重要な一手となるだろう。


「すると、東部の15万は陽動だろうか」


カユーマルスは傍らの軍師アルザングに問いかけた。


「陽動にしては数が多すぎるのではないですかね。考えられるのは、まずは西方を討ち、返す刀でエリマイスに雪崩れ込むという策。逆にエリマイスを討った余勢を駆ってレモラ人どもを滅ぼすつもりかもしれませんよ。または、そもそも15万というのは見せかけかもしれない」


「見せかけだと?」


「はい。旗を多く立てる、民衆を武装させて兵に見せかける、炊ぎの煙を通常より増やすなど、数を誤魔化す手段はいくらでもあります」


「なるほどな」


「ただし、敵の数を過小評価するのは危険だ。ここは情報をさらに集め、万全の防衛体制を敷くのがよいでしょうね」


「ふむ、そうだな。ではアレイヴァ方面に援軍を派遣するとしよう」


カユーマルスは頷き、総司令を呼び軍の編成を命じた。




「ハカーマニシュ王国がルジナ島を狙っているだと!?」


「はっ。その数、輸送船100隻、ガレー船50隻でございます」


カナニア国王ギヨームは呻いた。


カナニア王国をはじめとする聖鍵軍国家は常備の海軍を持たない。エトルリア諸都市やボイアテス王国、ルシタニア王国などが必要に応じて海軍を派遣するのだ。だがこれらも必要な時に必要な数が必ず来るとは限らず、また指揮系統もばらばらだった。今、聖鍵軍が有する軍船はエトルリア諸都市の武装商船を合わせても20隻に満たない。指揮官にしても、航海経験豊富な船長は数多いが海戦の指揮を取れるような武将はいなかった。


「ルジナ王国に急ぎ伝令を!そして援軍の用意をせよ!」


ギヨームは内心の不安を押し隠し、力強く命じた。海戦では万に一つも勝ち目はない。狂信的な者ならば「神風」を期待するかもしれないが、ギヨームは現実的な男だった。海戦で勝てぬならば、ルジナ王国内での陸戦に賭けるしかない。ルジナ島には堅固な城塞がいくつもある。これらに立て籠り、相互に連携して防衛すれば、いかな大軍といえど撃退することは不可能ではない。


「陛下、どの部隊を差し向けますか?」


「うむ、そうだな。聖アンドレ騎士団、聖堂騎士団に兵を出してもらう。カナニア王国軍からも1000を割き、ティルス伯に指揮を委ねる。セレウキア公国にも援軍を出すように命じよ」


2週間の後、2000人の将兵がルジナ島を目指した。途中、ガレー船40隻から成るハカーマニシュ海軍に捕捉されたが、辛うじて全艦入港することができた。


だがハカーマニシュ海軍の狙いは全艦を入港させることにあった。出入口に老朽艦を沈めて港を封鎖したのだ。さらに常時数隻のガレー船が哨戒任務に当たった。


聖鍵軍は一戦も交えることなく、海上戦力の全てを無力化されたのである。

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