軍議
ハカーマニシュ王国軍部は2つに割れていた。
先年よりエリマイス王国に占領されているアレイヴァの地を取り戻すべしとする一派と、カナニアのレモラ人を一掃すべしとする一派とにである。
「トゥーラーン戦役」によりハカーマニシュ王国軍は多くの将兵を失い、弱体化した。だが戦後、イスファーンの主導で行われた改革により、新生ハカーマニシュ王国軍は数の上では減少したものの総司令の下に一体となって動く錬度の高い精鋭となり、質の点では大きく向上した。総司令の命令一下、その手足のごとく動く30万の精兵など、他国にとっては悪夢以外の何物でもない。
他国を圧するほどの力を持つ国が、周囲に手を伸ばすことは必然的であるとも言える。まして、そこに大義名分があればなおさらである。
アレイヴァ奪還には、もともとハカーマニシュ王国のものであった地を北方蛮族から取り戻すという名目がある。ハカーマニシュ王国の威信にかけてということもあるが、東方との貿易路の一部が通るアレイヴァを王家直轄領とすれば大きな利益が得られるという実際的な理由もあった。また純軍事的にも、敵地がハカーマニシュ本国と国境を接しているのは望ましくない。
カナニアについては、ハカーマニシュ王国が領していたのは千年近くも前のことであり、今さら旧領回復という話ではない。だがハカーマニシュ王国にとってカナニアの聖鍵軍国家は喉に刺さった魚の骨のような存在である。聖鍵軍国家の一つアエリア伯国がハカーマニシュの属国ダルダニアと領土争いを起こし、イスファーン自身が援軍として参戦したことも記憶に新しい。「トゥーラーン戦役」により一時中断された戦の決着を改めてつける、という名目で攻めこもうというのが、カナニア征服派の主張であった。
アレイヴァ遠征を主張するのは東部に基盤を持つ者が多く、聖鍵軍一掃を主張する者は西部に多い。軍監メフラングは前者の代表格であり、軍監ファルボドや代理将軍キールスが後者を代表していた。
「レモラ人どもを放置してアレイヴァに向かえば、後方を撹乱されますぞ」
「それを言うならば、レモラ人を攻撃している間にトゥーラーンの蛮族どもが侵略してくるかもしれないではないか!」
「トゥーラーンに比べればレモラ人など弱敵。弱いところから叩くのが常道ですぞ」
「しかしレモラ人を潰せば、ケメスと直接国境を接してしまいますぞ」
「ケメスなど恐れるに足らず!一捻りにしてしまえばよい」
「そう簡単にはいかぬだろう」
「かつてのハカーマニシュ王国軍ならばな。だが、今の我が軍は違う!」
「いや、だからと言って甘く見るのはいかがなものか」
「ならばトゥーラーンを先に潰せば良いではないですか」
「トゥーラーンこそ簡単にはいかんだろう」
諸将はめいめいの意見を声高に主張し、議論は白熱していた。
「総司令閣下はいかがお考えか?」
メフラングが問いかけると、部屋の全員がイスファーンに注目した。
「両方だ。無論、二正面作戦ではない。順番に潰すのだ」
「それでは…」
「そうだ。だが先に強い方を叩く。後顧の憂いを断ち、徹底的に叩き潰してやるのだ!そのためには全ての軍の協力が欠かせない。心して準備せよ!」
「おお!」
イスファーンの決定に諸将は勇んで声をあげた。
こうして、イスファーンが総司令になって以来初めての大規模な戦の準備が始められた。




