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イスファンディヤール戦記  作者: 北の旅人
凋落編
25/55

王の目、王の耳

イスファーンは久しぶりにパルティア王都ダーハを訪れていた。休養のためではない。むしろ、心楽しくない用のためにイスファーンは不機嫌だった。


留守を任せていた重臣たちの不正が発覚したのである。王国の公金横領だ。無論、全員ではなく数も多くはない。だが信頼していた重臣に裏切られたことは、イスファーンの心に影を落としていた。


(こんなつまらないことで俺の足を引っ張りおって!)


イスファーンは現在、ハカーマニシュ王国軍の総司令である。だが本来はパルティア国王であり、勢力基盤はもちろんパルティア王国だ。自身のお膝元で起きた不祥事をイスファーンは重く見、直々に解決に乗り出したのだ。


首謀者はすぐに発覚した。パルティア副宰相パズマーンと会計検査官チュービーンである。また、幾人かの文官や武将も不正に加わっていた。


調べたところによると、パズマーンもはじめは軽い気持ちで公金に手をつけたのだという。だが、次第に額が大きくなり、頻度も増えたため、副宰相の権力をもってしても隠蔽が難しくなった。そこで会計検査官のチュービーンを抱き込み、また幾人かの文官や武官を共犯とした。差額は増税や新たな税を課すことで補填し、さらには税の不正着服まで行っていたという。


イスファーンは彼らの不正を許さなかった。関係者は全員が官位剥奪の上、全財産を没収された。貴族は身分も奪われて庶民とされた。不正への関与が深かった者は投獄され、比較的浅かった者も文官は降格の上に左遷され、武官は下士官や一兵卒に落とされた。宰相サイードも無関係ではあったが、管理不行き届きとして罷免された。また首謀者たるパズマーンとチュービーンは斬首を言い渡された。民衆の払った税を横領して私腹を肥やした不届き者には相応しい罰だった。


ところがここで、思わぬ助命嘆願が入った。パルティアの若き勇将であり、現在はハカーマニシュ王国軍で将軍の地位にあるミラードが、パズマーンの罪を減じて欲しいと懇願してきたのだ。ミラードはイスファーンに心酔する青年武将であり、イスファーンもまた彼を信頼していた。パライタケネの戦いでは、別動隊の指揮を任せたほどである。そのミラードが、何故パズマーンの助命を乞うのか。その訳はミラードの妻にあった。ミラードの妻はパズマーンの末娘であり、彼は妻を深く愛していた。その妻にパズマーンを救って欲しいと泣きつかれたために、ミラードは助命を嘆願したのだ。


しかしイスファーンは嘆願を退けた。信頼する部下からの頼みではあったが、それによって法を曲げることをよしとはしなかったのだ。再発防止のために断固とした処置をとる必要があったこともある。パズマーンとチュービーンはダーハ市内を引き回しの上、群衆の前で首をはねられた。


こうして不正の断罪を終えたイスファーンは、処断した者たちの後任を選ぶとスーサに戻った。また監視役として、ハカーマニシュ人やカリア人の役人を数名置いた。癒着を防ぐため、定期的に交代させることとなろう。彼らは「王の目」と呼ばれた。また、密偵も数人送り込む予定だ。後にこの密偵は「王の耳」と呼ばれることとなる。


「王の目」、「王の耳」を配置したことからもわかるように、イスファーンの内には自身の国であるパルティアに対する猜疑心が生まれていた。パルティア内にも監視役を置かれたことを不満に思う者は少なからず存在した。互いの猜疑と不満は未だごくごく小さな芽ではあったが、絶対的な信頼は失われたのである。

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