軍師(3)
(ここは…どこだ?)
目を覚ました時、カユーマルスは見知らぬ部屋にいることに気づいた。王宮ではないことは確かだ。いやそれどころか、まともな屋敷ですらなかった。そこはあばら屋と言ってもいいような小屋だった。
「お目覚めですか?」
はっとカユーマルスは声のした方を見た。そこには、見覚えのある醜い顔があった。
「おまえは…!」
「おや、覚えていてくださったんですね。嬉しいですねえ。今グスタハムですよ」
今グスタハムことアルザングは気味悪く笑った。
「貴様、余に何をした!」
カユーマルスは起き上がり、油断なくアルザングを睨み付けた。
「何って、介抱して差し上げたんじゃないですか。王様が川から流れてきたもんでね」
アルザングはくっくっと笑った。
たしかに、カユーマルスは川に落ちた。遠乗りをしている時、何かに驚いた馬が突然走りだし、川に投げ出されたのだ。運悪くどこかに頭をぶつけたらしく、そのまま意識を失っていた。
「だが何故貴様がここにいる?」
「ここは私の家ですよ。王様を介抱して差し上げたって言ったじゃないですか」
「いやそうではなくてだな…。そもそも貴様は何者だ?」
「今グスタハムのアルザング」
「…ふざけているのか?」
カユーマルスは呆れたような表情を浮かべた。
「それで、貴様は今グスタハム今グスタハムと言うが、何故余につきまとうのだ?」
「それはですね」
アルザングがぐいと近づいてきた。
「貴方を史上最高の王にするためです」
時が止まった。空気は重くまとわりつき、ただ目だけがじっとアルザングを見つめている。
「そう、貴方は史上最高の王になる。ペルセウス大王がなんだ。フェリドゥーン大王がどうした。マウソロス王がどれほどのものだと言うのだ。エリマイス王カユーマルス、その人こそが地上を統べる王となるべきなのです。ハカーマニシュやトゥーラーンはもちろん、東のオドニスや南のケメス、西のレモラすらも治める、最大の帝国を作り上げるのです!」
アルザングの言葉は興奮に熱を帯びていた。呆れたような顔のまま、だが目だけは鋭くカユーマルスはアルザングを見つめた。
「だが余は一度失敗したぞ」
「そう、一度は失敗した。しかし二度目が同じ結果に終わるとは限らない。前回は未だ天の時ではなかったのです」
「では、今が天の時だとでも言うつもりか?」
「いえ、まだです。今しばらくの辛抱が必要です。しかしその時はすぐです。時至り、私の策を用いれば貴方は再びハカーマニシュを支配できるでしょう」
ハカーマニシュ王国を再び支配する。夢よもう一度。それはカユーマルスが心の底から願ってきたことだ。今のままでは、カユーマルスは無謀な戦争で国力を減退させいたずらに将兵を死なせた愚王として歴史に名を残すことになろう。だが、最終的にハカーマニシュ王国を支配下におけばどうか。カユーマルスの名は、偉大な征服王、統一王として人々に記憶されるだろう。有能であるとともに名誉欲や自己顕示欲の強いカユーマルスにとって、それは魅力的な話だった。
「貴様の策とやらを聞かせてもらおうか」
アルザングはにんまりと笑い、頷いた。
2人の話は深夜まで続いた。次の朝、小屋を発ったカユーマルスには1人の醜い小男が付き従っていた。




