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竜になれる令嬢ですが、王子様は人間の私にもおやつをくれます  作者: ヲワ・おわり


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9/11

第9話 登れない看板

「今度は、目だけこちらに置いてもらえるかな」

絵師のおじさんが、筆の柄で私の椅子を指した。

目だけ置く。

そんなことができるなら、足は別の用事へ出しておきたい。市場の朝はたいへん忙しそうで、隣では籠が積まれ、向こうでは日除けの端を結び直している。

私の座る椅子にも、曲がった脚が一つあった。

そこを確かめている間に、描いてもらっていた顔が別の方を向いたらしい。

木の板には、人間の私の頭が半分できている。

眉毛は一本。

ほっぺは四角。

何もしていない時の私は、こんな顔だっただろうか。

「すみません。あちらの籠が倒れそうに見えて」

「あれはいつもあの積み方。顔まで雇いなおすわけにはいかないから、もうしばらく座ってて」

絵師は布で私の顔の輪郭を消した。

半分なくなった私を見るのは、なかなか落ち着かないものだった。

背後のキリさんが、椅子の曲がった脚の下へ薄い板を差す。

「これで、足の用事は減ったか」

「かなり減りました」

「なら目の用事をしろ」


今日は、皮を使わない。

部屋で干し終えたものを持ってはいるが、描くのは人間の私の顔だ。昨日の下絵の空白を埋めるために、朝から城南門の杏子市場へ来た。

通りは店の角に合わせて曲がる。

干し杏子の浅い籠が、店先へ並ぶ。甘い匂いの隣には酸っぱい漬け物の桶。白い石段の下に赤い日除け。街は上から見た絵より、はるかにおしゃべりだった。

私の顔も、その中へ混じる予定。

絵師が口を少し開けてと言った。

開ける。

歯を全部見せるほどではない、とも言われる。

口を閉じ、また少し開けた。

竜の時なら、おじさんの指示はもっと難しかっただろう。牙を一本しか見せないように、と言われたら、今度は唇が足りない。

そう想像したら、口の端が勝手に上がった。

「あ、それ。その顔のまま」

今のは、何かに失敗した顔なのだが。

筆が板の上をすべる。

私の四角い頬が少し丸くなった。

筆が目の端へ戻り、細い皺を足した。笑っただけで、私の顔はそんなに変わるのだろうか。元の顔と比べたくなって、また筆先を見てしまう。


店先の看板は、もう一枚別にあった。

大きな墨竜の背中へ、小さな人が何人も並んでいる絵。よく見ると、竜の尾も屋根も、人が座れるように平たく描かれていた。

キリさんへ顔を向けた。

「そんなに乗れましたか」

「飛ぶ時は一人。人間の君なら、載せる重さが分かる前に怖いだろう」

絵の竜の顔を見た。

こちらの方も、少し四角い。

絵の中では、みんな座れるらしい。

実際の看板には、裏へ横木が二本ついていた。板を立てるための脚へ繋がっている。一人の子どもが、そこへ靴を乗せる。

私は椅子から立ちかけた。

絵師の筆が止まる。

「顔、逃げないで」

「すぐ戻ります。看板の顔は逃げませんので」

子どもは下の横木へ登り、上の横木へ両手をかけていた。

高いところへ行きたいのか、向こうの絵を見たいのか。

足が先に行き、次の足を乗せる場所がなくなった。

つま先だけが、看板の脚の角を探る。

危ない高さに行く前に、私はその子の横へ立った。


子どもは私を見る。

「これ、竜の背中じゃないの」

「背中の絵です。ここにいる私は、人間の方」

「小さいね」

「今は、小さいです」

大きくなる方の顔を期待していたらしい。

子どもは私の持っていた黒い布を指さした。その指が緑だった。どこかで絵の具を触ったのだろう。

見上げる私の頬にも、緑の指がちょんとつく。

視線をその子の足へ下げる。

右は下の横木。左は宙。今からもっと上へ置かせるより、さっき乗った右の場所へ両方を戻した方がよい。

「手を貸すので、一度こっちへ下りませんか。下からなら、竜の顔がちゃんと見えます」

子どもは顔を下へ向けた。

手を出し、私の肩へつかまる。

下から来た母親が、その腰を抱えた。私は足が横木から離れるまで待ち、それから手を放す。大きな体の方を呼ぶほどでもなかった。

子どもの靴が土へついた。

私も、頬についた緑を袖で拭こうとする。

キリさんの手が、布を渡してきた。

「袖まで緑にするな。絵師が泣く」

看板の向こうで、筆の先が上を向いている。

顔だけ置いていくのは、やはり無理だった。


母親が絵師へ、看板の脚を指す。

「これ、登れるように見えるからだよ。竜の背中に座るって絵なら、子が乗りたがる」

絵師は筆を水へ入れ、後ろの横木を見た。

目立つ場所へ高くしたかったのだという。隣の日除けより上へ出れば、通りの向こうからも見える。

下げれば、見えるところが減る。

私の顔を宣伝してもらうためなのだから、簡単に低くしてくれとは言いにくい。

でも竜の絵に登る子が出るなら、描かれる顔より先に、その脚を変えたい。

キリさんと絵師が片方ずつ持ち、看板を土の台へ乗せる。

私も裏の横木を持つ。

子どもはまた近づき、今度は下から絵の竜の牙を数えた。母親の袖へ、緑の指がもう一つ増える。

彼女はその指を見て、自分で布を出した。

描く方にも見る方にも、用事がある。

看板を持ち直す私の指も、少し緑になっていた。


椅子へ戻ると、私の顔のほっぺにも緑の丸がついている。

絵師は拭き取りかけ、こちらを見た。

「これ、残していい? 見た人が、ちゃんと人の子だったと分かると思う」

「竜の方も、顔は私の方です」

「じゃあ、竜の頬にもつけとこうか」

二つの絵が、同じ緑の丸を持つ。

私は鏡の小さな欠片を借り、自分の頬を見る。そこは拭いたばかりで、元の肌の色へ戻っている。でも笑うと、絵と同じところが丸くなった。

キリさんがその横で、皮の袋を持ち替えた。

「子を下ろす時、足を見ていたな。家でもああやって登ったのか」

「石切り場の、もう使っていない低い壁で。競争もしました。上へ行く前に、下りる道を見なさいと、よく言われました」

「聞いた方か」

「二度、泣いて下ろされてからです」

キリさんは私の椅子の脚を指す。

「体が変わっても、下ろす方は同じだったわけだ」

子どもが看板の牙を数え終えた。

次は爪を数え、途中で分からなくなって、私の指と比べに来る。十本を見せると、そちらも両手を広げた。

ほら。ここにも人間の手は十本ある。

私はその手の方へ、笑った。


しばらくすると、青い上着が市場へ入ってきた。

殿下は午前の王城の用事があったので、今来たらしい。店先で看板の置き方を見たあと、私を見つける前に、絵の顔を見つけた。

「それ、口を閉じてない方のニカだね」

「そう。座っている間に、ずいぶんよく動くお嬢さんで」

「この顔の方が、僕は知ってるな」

彼が絵の緑の丸を指す。

私は鏡の欠片を返し、椅子から立った。

「殿下には、こちらの顔も見ていただいています」

「うん。向こうの大きい顔もね。今日は緑の印がないんだ」

絵の私と、人間の私。

どちらにも同じ声を出したくなって、私は少し困った。どんな顔を描いてほしかったのか、朝には決めていなかった。花嫁候補の絵なら、たぶん閉じている口を求められただろう。

殿下は絵師へ一つ尋ねた。

「小さい札にも、その顔を描ける?」

上着へ入れられる、手に持てる札。

絵師は頷き、すぐ代金の話を始めた。

殿下が何枚と答える前に、私はまた椅子の方を見る。小さくても、顔なら私が座っていなければ描けないのだろうか。

絵師は筆を振った。

「もう動いていいよ。顔、覚えたから」


十時半が近づく頃には、看板が店の前に立った。

低いところへ置いた分、絵師は通り側へ向きを変え、竜の尾を日除けの色より明るく塗る。近づいた子が後ろへ回らなくても、正面から見られる場所だった。

竜の下に、私の名前がある。

ニカ。

モロの名前ではない。

その文字を見ていると、反対の通りからダフネが紙を振って走ってきた。紙には大きな四角と、いくつも小さな丸。看板の顔よりさらに簡単な絵だった。

「ニカ。顔の用事、もう終わった? 今度は客席の用事」

「客席を持つ方でしょうか」

「座る方を作りたいの。あたしが歌う時、誰がどこから見えるか。王子様も来る?」

殿下が手に持った小さな札を、上着の内側へ入れた。

「行く。地面にある席なら、だいたい得意だから」


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