↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜になれる令嬢ですが、王子様は人間の私にもおやつをくれます  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/10

第7話 屋根の持ち主

屋根を譲っていただくために、私は屋根の上から呼び出された。

もっとも、その時は人間で、はしごの二段目にいただけである。菜園のおばあさんが籠を下ろそうとしていたので、勝手に受け取りに行った。

下で待てば、降りてきたらしい。

彼女は籠を抱えたまま、私の頭より高いところで止まった。

「昨日、葉っぱの場所は言ったろ。足の場所は今日、言おうと思ったんだよ」

「先に足を出してしまいました」

「出せる足を全部出すと、空いてる場所が全部なくなるからね」

はしごを一段ずつ下りた。

地面で受け取った籠は、見た目よりずっと軽い。干した葉は、ひとかたまりのまま持てば簡単に移せる。でもばらばらに散れば、指先の用事が何倍にもなる。

そのことは、おばあさんの方がよく知っていた。


女王陛下は、椅子を運ばせず歩いて来た。

彼女の後ろに、キリさんと殿下。そのさらに後ろには、まだ見たことのない紺の上着の男性がいる。

胸に金の竜の印。

袖には折り目がきちんとつき、腰から真鍮の鍵が下がっていた。

キリさんが、新しく来た男性を私に示した。


「ニカ。こちらがセルヴォ隊長だ」

籠を抱えたまま、頭を下げる。

彼の視線は、横板へ広げた黒い皮へ向かう。

皮の片端には白い鱗。そこを見た彼は、キリさんへ短く何か告げた。距離があって聞き取れなかったが、彼女は裏返した皮を隊長へ見せている。

点検の方は任せる。

籠をおばあさんへ返し、屋根の端を見上げた。

白い石の平たい屋根。日が当たる中央に菜園、壁の近くに干し場所、その下に私たちの机がある。

竜には広いところが要る。

人間にも、干すところと食べるところが要る。

全部が同じ場所にあるのだと、今朝は上から見なくても分かった。


陛下が屋根を見て尋ねた。

「皮はどれだけ場所を使うのですか」

「干す時には、この大きさです。部屋の窓の外でも広げられました」

「では困っているのは、干す場所より、変わった時の場所ですね」

キリさんが横板を戻す。

隊長の指が、竜舎のもっと奥を指した。

高い柱の間に、白い皮が何枚も干されている。遠目にもよく風が抜ける場所だった。戸の前には同じ紺の袖の人が二人、立っている。

隊長は私へ顔を向けた。

「正式な棚を使うのは竜隊と、陛下が許可した試演だけです。皮を点検した順に飛ばす。身勝手に着て飛べば、空で順が衝突する」

風の中で私の声が聞こえなくなった朝を、思い出した。

順が必要なことは、分かる。

しかし彼の指は、皮を干すところから地面の戸へ戻らない。

鍵の場所にも触れない。

横板に残る黒い皮へ目をやった。

「こちらで干すだけなら、構いませんか」

「小さな窓辺に広げるだけで、点検の済んだ皮だと皆に分かるわけではない。竜祭の飛行には、隊の棚を通ってもらう」

彼の言葉は、私が部屋で干した二時間を、いつもの二時間ではなくしてしまいそうだった。

乾くことと、飛んでよいこと。

隊長の腰で、棚の鍵が鳴った。


女王陛下が、隊長の前へ半歩出た。

「試演の点検は続けなさい。今日は、屋根を誰がいつ使うかの話です」

隊長は頭を下げた。

それで話が終わるのかと思ったが、おばあさんは自分の籠を引き寄せたまま首を横へ振る。

「空くところがあるように見えるんでしょう。朝はここに並べて、昼にはあそこへ動かして、夕方には取りこむんですよ」

屋根へ、指が三度向く。

空いた場所が、時間によって移動していた。

私が飛んで見た朝の絵は、街の一日ぶんではなかったらしい。

殿下は足元の小さな椅子を動かし、日陰の線がどこまで伸びているかを見る。

「僕の机も、お昼になると動く。モロの鼻が来るから、昨日は外へ向けたんだ」

「竜は日陰をよく取るよ。日陰まで葉っぱに譲れって言ったら、鼻で桶を押されたね」

陛下が笑った。

持っていた皮を広げる。

ひとつの昼寝場所と、机と、葉菜の籠。

その間に私がどれだけ入るか、まず見てもらうことにした。


八時二十分。

地面の空いたところで銀かんを留め、竜になる。

おばあさんは二歩下がり、籠を抱え直した。

私は翼を畳んだまま、前足の爪だけを屋根の縁へ添える。体の重さは、後ろ足が乗る土へ残した。頭を日陰へ置いたら、爪のすぐ下に籠を通した時の擦り傷が見えた。毎朝この場所へ、いくつも小さな荷物が上がってくるのだろう。

鼻先がその傷を隠す間、どれだけ尾が外へ出るか、自分でも見たかった。

出る。

とても出る。

私の鼻を机の向こうへ入れたら、尾は葉菜の籠の通り道へ入った。

前足を置き直し、頭を少し横へ。

尾を寄せる。

おばあさんの籠は通れた。

かわりに、殿下の椅子が動かなくなる。

「僕、今、君に椅子の脚を挟まれてる」

「座らないでください」

「まだ座ってない。椅子だけ先に困ってる」

私は頭を上げた。

頭と尾と椅子と籠を、全部同じ日陰へ入れることはできない。体が大きいから分かるはずと思ったのに、大きい分だけ、邪魔な場所が遠くにあった。

なら、私の方が使わない時を決める。

葉菜がここへ来る朝には、頭をこちらへ置かない。

机に人が座る昼には、人間で来る。

私が大きな体で練習する時だけ、空き地へ出る。

皮を干す横板は、その間も、小さいまま置いておける。

私は籠と椅子の間から、自分の前足を外した。


おばあさんが空いた通りへ立ち、籠を一度持ち上げる。

「これなら通れる。朝の葉っぱは、あんたの鼻の向こうへ回せそうだ」

「取りこむ時には、人間の手で持ちます」

「頼んだらね。今から全部持たなくていいよ」

その言葉に、ちょうど伸ばしかけていた私の爪が止まる。

女王陛下が、机の角を叩いた。

「私の屋根は、私が譲ります。けれど籠の道は、この人に決めてもらいましょう」

彼女は奥の棚を指ささなかった。

横板を指した。

「この板は仮の干し場所として使いなさい。広くしたい時には、ここに来る人に先に聞くこと」

礼をしようと、大きな頭を下げる。

とたんに、鼻が机へ近づいた。

頭を下げて礼をするにも、場所が要る。

殿下が机を少し動かし、おばあさんは籠を反対の手へ持ち替えた。私が人間に戻るまで、その二人の小さな動きが、ぶつからない隙間を残してくれる。

八時二十九分。

銀かんを外し、私は自分の膝で土へ座った。

おばあさんが、その膝の前へ空の籠を置く。

「人間に戻ってからの約束の方が、覚えやすいね。今日はこれを洗ってくれる?」

頼まれた。

私はようやく、その籠を受け取った。


横板へ皮を広げていると、隊長が戻ってきた。

キリさんへ時計を示し、午後の試演を十三時から開くという。私のことを見たい人が、城の外にも集まっているらしい。

喜ぶ前に、彼の指が皮の白い鱗へ置かれた。

「午前にもう一度、立ち方の点検をする。午後の飛行で距離を測り、竜祭へ出せるか決める」

「点検で一回使えば、残りは一回です」

「見せる時に使える一回を残せばよい」

私は、袋の口を握り直した。

さっき、自分の足がどこへ出るかを確かめるのに一回。点検でもう一回。見せるのに一回。

三回が、ぴったり全部になる。

今日は使えるという話だった。

今日使わなければならない、とは聞いていない。

でも人が集まるなら、空へ上がった方がよいのだろうか。殿下が持つ空の皿まで見られる気がして、私は洗い終えた籠の縁を指で押した。

まだ少し濡れている。


隊長が去ると、おばあさんが横板の片端を持ち上げた。

少し傾け、風の入る方へ向けてくれる。

「午後、派手に飛ぶのかい」

「距離を、測るそうです」

「遠いほどよいなら、帰る分も入れて数えるんだよ」

籠を逆さにして、残った水を切った。

殿下が白い傘を持って立つ。

「僕は屋根の下なら、大きくならない。飛んでいる間も、帰る場所の番はできるよ」

ありがとうと言いかけると、彼は洗った籠へ手を伸ばした。

私の指がその縁を、まだ押さえている。

今度は二人とも引かず、一緒に横板の下へ置いた。

私の残りの回数は、まだ二回。

帰る場所は、先に一つできた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。