第99話 七日間の猶予
『推定残存猶予――七日未満』
《アルカディア》船内へ、静かな警告音が響く。
空気が凍った。
◇◇◇
「……七日?」
ヒオリが小さく呟く。
ノアは無表情のまま頷いた。
『天空群島崩壊進行確認』
『《天穹門アストラ・ゲート》侵食率増大中』
『現時点で浮遊島三二基崩落』
その数字に。
アステリアの顔が青くなる。
「そんな……もうそこまで……」
◇◇◇
「間に合うのか」
ペケが静かに聞く。
すると。
ノアは数秒沈黙した。
『不明』
即答だった。
『ただし』
少女型管理人格の瞳へ、淡い光が宿る。
『《アルカディア》なら到達可能』
◇◇◇
「つまり」
セオドアが整理する。
「この船で空へ行き、空門を閉じれば助かる可能性がある」
『肯定』
「閉じられなければ?」
静寂。
ノアが、静かに答える。
『空域崩壊開始』
『その後、世界重力均衡が崩壊します』
「……待て」
レートが眉を寄せる。
「それって」
『空が落ちます』
あまりにも淡々とした声だった。
◇◇◇
ヒオリの背筋へ寒気が走る。
深海とは違う。
今回は、“空そのもの”。
◇◇◇
「……行くしかないね」
ヒオリが小さく言う。
すると。
アステリアが慌てて顔を上げた。
「で、でも!」
「危険です!」
「空門は深海門よりずっと不安定で……!」
その時。
「だから行くんだろ」
レートが普通に言った。
「え?」
「危ないから助けるんだろ?」
あまりにも自然な言葉。
アステリアが固まる。
◇◇◇
「まぁ」
リツが苦笑する。
「ここまで来たら今更だしな」
「慣れって怖いね」
アイリスが遠い目をした。
深海災厄。
世界級封印。
空崩壊。
感覚がおかしくなってきている。
◇◇◇
その時だった。
ノアが、突然ペケを見る。
『灰銀マスター』
「違う」
即否定。
だが。
ノアは気にしない。
『戦闘能力測定開始』
その瞬間。
船内壁面へ、無数の魔法陣が展開された。
「っ!?」
「何だ!?」
すると。
白銀の人形達が現れる。
騎士型。
翼付き。
全長二メートルほど。
◇◇◇
『古代自律戦闘兵装起動』
静寂。
「……嫌な予感しかしない」
ヒオリが呟く。
◇◇◇
『戦闘適正試験開始』
「待て」
『拒否権はありません』
「あるだろ普通」
『ありません』
ノアが真顔で答える。
多分この子天然だった。
◇◇◇
次の瞬間。
セラフィム達が、一斉にペケへ襲い掛かった。
轟!!
「うおっ!?」
ヒオリが驚く。
だが。
ペケは動じなかった。
「……面倒だな」
灰銀閃。
一瞬。
それだけだった。
◇◇◇
次の瞬間。
セラフィム全機が、真っ二つになって停止した。
沈黙。
「……え?」
アステリアが固まる。
ノアも停止した。
『……想定外』
初めて感情っぽい声が出た。
◇◇◇
「兄上やりすぎ」
ガブが真顔で言う。
「加減した」
「どこが!?」
全員思った。
◇◇◇
すると。
ノアが再起動する。
『再評価』
『灰銀適正値・測定不能』
『危険』
「危険判定された」
アイリスが吹き出した。
◇◇◇
その時だった。
船全体が、大きく揺れる。
ゴォォォン――!!
「っ!?」
全員が振り返る。
ノアの瞳が赤く点滅する。
『上空高魔力反応』
『敵性存在接近』
静寂。
◇◇◇
そして。
《アルカディア》上部天窓へ、“巨大な影”が映った。
翼。
黄金眼。
空を覆うほど巨大な存在。
◇◇◇
アステリアの顔から血の気が引く。
「嘘……」
震える声。
「あれ、もう降りてきたの……?」
◇◇◇
その瞬間。
空全域へ、“鳴き声”が響いた。
それは鳥の声に似ていた。
だが。
もっと巨大で。
もっと不吉。
そして。
ヒオリの星痕が、激しく脈打つ。
『――見つけた』
今度の声は。
明確な敵意を含んでいた。




